その羽は何処へ行く
「それじゃ、今日はこれで終わりにします」
教壇に立っている教師がホームルームの終わりを告げる。それまで静かだった教室が一気に騒がしくなる。
近くの友達と話し始める人、急いで教室を飛び出していく人、プリントを取り出して何か書いている人。各々が動き始めるなかで、ケンジは溜息をつく。
「はぁ…」
ケンジはバドミントン部に所属している生徒だ。友達に誘われてなんとなく入ってみたものの、いまいちしっくり来ていない。もともと入る気は無かったのだが、友達に誘われた時の流れで入ってしまった。
「めんどくさいな」
正直、もう辞めたい。ケンジは何度もそう思った。だけど、なかなか言い出すことができない。他の部員との関係が気まずくなるし、引き止められるのもめんどくさい。あれこれと考えていたら、まあ辞めるほどでもないかと思ってしまう。
「行くか」
ケンジは椅子から腰を上げて、少し眠そうに欠伸をしながら教室を出る。部活が始まるのは帰りのホームルームが終わる15分後。着替えたり準備をしたりする必要があるから、あまりのんきにしてはいられない。
部室に向かうケンジに、1人の生徒が声をかける。
「ケンジ」
その声を聞いたケンジは返事をした。
「おう」
彼はケンジと同じバドミントン部に所属するショータ。ケンジをバドミントン部に誘った張本人である。ショータは文武両道で、とにかくいろんなことができる。あらゆることで活躍するショータを見て、ケンジも羨むことは多かった。
「なぁ」
ケンジはショータに声をかける。
「何?」
「今日って学内戦だっけ?」
「そうだよ」
「まじか、完全に忘れてたわ」
学内戦は部員の順位を決める練習試合。学内戦で決められた順位で大会の出場メンバーを決める。何日かに分けて行われるが、今日はそのうちの1日だ。
「それくらい覚えとけよ」
「いや、どうせそんなに勝てないから」
「そんなこと言うなって」
2人は話しながら部室に向かう。屋内で活動する運動部の部室は教室から少し離れたところにある。集合時間まであまり時間がないので、2人は少し早足だ。
しばらく歩いて部室の前に着く。ドアを開けると中には何人か部員がいた。
「こんちわ」
「んちわ」
2人が挨拶をする。
「おーっす」
「うっす」
「…っす」
いくつかの挨拶が返ってくる。ケンジとショータはそれぞれのロッカーに荷物を置いて着替え始める。
「はぁ…」
ケンジはまた溜息をついた。学内戦もめんどくさいが、それよりも部活を惰性で続けてしまっている自分に嫌気がさす。自分は何のために部活をしているんだろうか。家でスマホゲームをしている方が有意義なんじゃないか、とケンジは度々思う。
それでも、またウェアを着てラケットを持っている。
「早くいこうぜ」
ショータがケンジに声をかける。
「ああ」
ケンジは返事をした。他の部員も少し急ぎながら体育館に向かいはじめる。ケンジも、少しうつむきながら部室から出た。
産声の種 ニシダマサキ @NishidaMasaki
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