第24話・土塊
燃え盛る火の山に祈祷師様が祈りを捧げて氷のドームで鎮めている間、俺はパンタグラフにしがみついたパンタを降ろし、騎士団長はコンテナの扉を開けていく。
「サガ、凄い揺れだったね」
「パンタ、大丈夫か!? 怪我は……ないみたいだな。ずっと狭くて暗い場所で、怖かっただろう」
「双頭の赤龍で世界を救うんだよ? こんなの、へっちゃらだよ! それより兵隊さんたち、大丈夫かなぁ」
「騎士団長が見に行っているよ。心配だから、俺たちも行こうか」
パンタは優しくて勇敢で本当にいい子だ、これで強ければ勇者として名を馳せるだろう。電気を供給しているだけなのが惜しい気さえする。
はてさて、パンタと一緒に兵士が潜むコンテナへと向かってみたが──。
……やっぱり……。
兵士たちは地面を這ったときの激しい縦揺れに耐えきれず、腕と脚とがくんずほぐれつ絡まっている。鎧も兜もベコベコにして満身創痍で伸びていた。騎士団長がひとりひとり起こしているが、回る目をしばしばさせるばかりであった。
何て厳しい行軍なんだ、ここではまだ戦ってもいないのに……。
「この中には掴むものがないんだね。僕みたいにパンタグラフがあったらいいのに」
「それな。握り棒とか吊り革が無いと、さすがにキツいか」
課題の解決策が見えたところで、ロックフィアの住民にジャガイモを配っていく。彼らは、タダで食べ物を恵んでくれることに狂喜乱舞した。ヴァルツースめ、どれだけ暴利を貪っていたんだ。
「好きなだけ持っていってください。悪くなる前に食べないと、もったいないので。それと、芽が出たら毒になるので植えてください。あ……でもこんなに暑いと育たないかも知れないな」
「山が燃えるまでは、寒い土地じゃった。祈祷師の祈りが通じれば、元に戻るじゃろう。それより痩せた土地で育つじゃろうか」
「それは大丈夫だと思います。痩せた土地でも、よく育つと聞いているので」
目の前の建物から石炭っぽいものが次々と運び出された。なるほど、これは倉庫だったか。
「ジャガイモと同じだけ持っていってくだされ」
マジかよ、ジャガイモと石炭の等価交換かよ、まるで神の食糧じゃないか。
「あまり重いとドラゴンが走れなくなるので、箱ひとつ分でいいのですが……」
ふと、疑問が湧いた。屈強な男たちがいるとは言えど炭鉱で採掘し、重たい鉱石を運び出して、いくつもの建屋に仕舞うには、人の数が少なくないか?
それに炭鉱は、燃え盛る山の下にあるだろう。そうだとしたら、トンネル内部は人間に耐えられないほど熱い。掘った際に砕け散った石の欠片が高熱に晒されて、爆発する危険もある。
「ヴァルツース兵の姿が見えないのですが、坑道にいるんですか?」
「うんにゃ。わしらが恭順しておったから、ヴァルツースは兵を置かなかったのじゃ。そもそも、わしらに奴らを養う食糧などないからのう」
「それじゃあ、村人はもっとたくさんいるんですか?」
爺さんは重要なことを語るように
すると建屋の裏側、めらめらと燃える山裾からボコッ! ボコッ! と
ゴーレムだ!! 凄え数! デカッ! 怖ッ!
祈祷師様が両手を組み、騎士団長が剣を抜き、コンテナの兵士たちは弓を引こうとワタワタしていた。
ラトゥルス軍、弱いんだなぁ。今まで貨物列車を突っ込ませてヴァルツース兵を蹴散らしていただけ、だもの。強くはならないよね。
爺さんはヨタヨタしながら歩み寄り、オロオロしながら弁明をした。
「やめてくれ! こいつらは、燃える石を掘っているだけじゃ!」
「ゴーレムを操りながら石を掘るだけ、だと!? そんなはずがあるか!」
「騎士団長、落ち着けよ。危険な作業を人以外にやらせるのは、俺の世界だとよくあることだぜ」
炭鉱無人化のメリットを理解した俺に、爺さんはえらく感謝していた。
それとなだめるついでに、騎士団長にタメ語で喋ってやった。ざまあみろ。
「サガとやら。わしらを信じてくれた礼として、ゴーレムを1体授けよう。ヴァルツースとの戦いにおいて、きっと役に立つはずじゃ」
それは心強い、と喜んだのもつかの間。俺の顔が曇っていった。兵隊にも騎士団長にも、祈祷師様にも俺と同じ不安の霧が立ち込めている。
「ゴーレムだぞ? そうやすやすと信じると思うか?」
「謀反を起こすようなことは、ないのですか?」
「大丈夫じゃ。お主らも、わしらを信じてくれ。万が一暴れたら、こう唱えるのじゃ」
爺さんは祈祷師様に耳打ちをして呪文を伝えている。近い、凄い近い、近いって。鼻の下が伸びているぞ、この助平ジジイ。
「祈祷師よ、試しに唱えるがよい」
祈祷師様がコクンと頷き、両手を組んで小さな声で詠唱した。まったく聞こえないが、俺が期待していた滅びの呪文ではないようだ。
するとゴーレムのうち1体がドロドロになって土に
「まさか……貴方がゴーレムを錬成したというのですか?」
「そうじゃ、人手が足らんからのう」
実はこの爺さん、凄い魔法使いではと祈祷師様が目を見張る。それに反して騎士団長は、戦術家らしく疑念を抱いた。
「ヴァルツースにゴーレムを差し出してはおらぬだろうな」
「奴らは鉄にしか興味がないわい、売り買いするだけの間柄じゃ」
ただの商売相手だから、ヴァルツースの人間が見当たらないのか。今までのように力ではなく、金だけで支配するパターンもあるわけだ。
「これなら安心だ。サガ男爵、ゴーレムを仲間に加えようではないか」
祈祷師様も騎士団長も大喜びしているが、俺はどんよりと厚い雲に覆われたままだった。それに祈祷師様は、眉をひそめて首を傾げた。
「サガ、何か懸案があるのですか?」
「あんなにデカいゴーレム、コンテナに収まるのかと思いまして」
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