第48話
気絶した生徒とフライニー先生は、保健室へと運ばれた。俺とイヴとリコは、自分の部屋に帰ることを許された。そんなときイヴは、自分のドレスが切り裂かれていることに気が付いた。
「ああ……そう言えばギギがやったのよね。これ、どうやって言い訳しよう」
間違いなく、イヴはニアに怒られるだろう。
あまりにも可哀そうなので、俺はイヴの部屋に一緒に行くことにした。本来ならば女子の部屋に入るのは禁止されているのだが、こればかりは可哀そうだったのでついて行かなければと思ったのだ。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
イヴが帰るとニアは頭を下げた。次の瞬間に、ニアはドレスを見て烈火のごとく怒った。
「お嬢様!何ですか。このドレスは!これは、旦那様に持たせていただいたドレスのなかで一番高価だというのに……」
俺の顔は引きつった。高価なドレスのなかで、一際豪華なドレスとなればいくらなのだろうかと思ったのだ。
「修復できそう?」
イヴが、ニアに尋ねる。ニアは、ため息をついた。
「お嬢様、私は補修屋でないと知っていますよね」
「でも、手先は器用よね」
イヴの言葉を聞いたニアは、仕方がないと言いたげにリコが引き裂いたドレスを見せた。持ち主にボロボロにされたドレスは、見事に修復されていた。破られた箇所は刺繍が施されていて、修復前よりも美しくなっていた。俺もリコも言葉を失っているとイヴは満足気に微笑む。
「綺麗でしょう。彼女の腕を見込んで、連れてきたんだから」
イヴの言葉に、ニアは眼をむく。
「私が選ばれた理由って、それですか!?」
イヴは、ニアに向かってドレスの裾を持ち上げる。
「私のもお願いね」
メイドは「はぁ」と肩を下げて、ため息をつく。
イヴは、ニアから受け取ったドレスをリコに返した。
「あなたは、人とかかわることで自分が傷つき弱くなると言ったけど……人と触れ合うことでもっと強くなる可能性があるわ」
恐れないで、とイヴはいう。
「でも、万が一……私がまた傷ついたら魔王が出てきてしまうし」
リコは、情けなさそうにうつ向いた。
イヴは、そんなこと気にしないというふうにリコに近づく。そして、リコの両手をぎゅっと握った。
「そんな時は、私たちがまた倒してあげる」
イヴは、自信満々に微笑んでいた。
その言葉を聞いて俺はため息をつく。ギギもきっとため息をついているだろう。
だが、それもいいと思った。
しかし、また戦うとなると俺も腕を磨かないと俺は思うのであった。
俺の婚約者は変わり者の公爵令嬢で、ギギという第二人格を持っている。そんな彼女は好戦的だけど、とても優しい。こんな規格外の令嬢の側にいつまでもいられるように、俺も鍛錬しなければならない。
その先にイヴがいるならば、俺は頑張ることができる。なにせ、俺はイヴの婚約者なのだ。並び立たないと恰好悪いだろ。
男爵の婚約者は、二重人格の公爵令嬢。炎魔法を使う彼女に追いつけない 落花生 @rakkasei
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