死にたくねぇ

@pa2note

第1話

『あなたは死神の手違いで魂を抜かれ死にました。間違いに気づいたときはもう肉体が火葬され、魂を戻すことができませんでした』


果てのない空間に漂う魂だという俺は呆然としてふわふわ浮いている状態だ。


『わたしは転生の神。もしあなたが死を受け入れるというのなら、地球で生まれ変わることができます』


そして声が頭の中に直接聞こえてくる。


『そして、こちらの間違いで魂を奪ってしまったその償いとして、まだ死ぬことのなかった人生の続きを望むこともできます。ただ、地球ではありません、別の世界です』


死んだのかぁ、自分。あぁでも苦しくも痛くもなくてよかった、のか、あ?


『病気で苦しい状態でもなく、事故で瀕死だったわけではありません。苦しくも、痛みもない体から魂を瞬時に抜いたのです。そして体から遊離した魂は体の感覚は感じないのです』


おお、考えたことが読まれてる。


『あなたは今、魂の存在。このままでは地球へ転生してしまいますが、私の力でここにとどめています』


転生、死んだら生まれ変わるんだ。輪廻転生ってやつだね。赤ちゃんからやり直しってことか。


『地球への転生は人間とは限りません。命ある生命体に生まれ変わるでしょう』


ヒト、サル、ゴリラ。犬、鳥、魚・・・毛虫、ありんこ、ゴ・・ゴ・・ゴ・・

脳裏に浮かぶ生き物が退化の過程を進んでいくが、最後にGがGがGがリピート。


『強い思念が生まれ変わりに影響することもありましょう』


Gが脳裏から離れない!

やばい、このままじゃ転生先は湿気た壁の裏のGだ。


『そろそろ、時間です』


先生、僕は元の体で人生の続きを送りたいです!


『せんせ…、いや、はい、わかりました。転生先は元のあなたと瓜二つ、そして魂が抜けた直後の身体が選ばれます』


自分の身体ではないのか。


『もうすぐですね、もう少しで魂が抜けるようです。どうやら重傷のようですが、転生したら私の力で全快させましょう』


なんか乗っ取るようで申し訳ないけど、ごめん、G転生はイヤだ。


『それから、間違えた死神にいくつかスキルを保証させます』


異世界転生によくあるスキル? ああ、次の世界は地球みたいに科学が発達していなかったり、日本みたいに安全ではないかもしれない。それこそ魔物を魔法でやっつけてレベルアップなんかして。


『それでは転生が始まります。次に意識が戻ったときはもう新しい世界です』






地面にべったり倒れこんでました。


ええ、死んだ直後の身体に無事、憑依できたようです。


そしてすぐ近くででっかい竜が暴れているのが見えます。ブレスをぶっ放してあたり一面がれきの山です。


このままでは再び死んでしまいそうです。


っておい!


身体は痛さも感じられず、自分の体のように動きそうだ。両手をぐっぱーぐっぱーさせてみた。


とりあえず竜から見えない場所に隠れよう。

あっちに向いててくれよ、そのまま。


息を殺してじりじりと物陰に隠れるように移動した。


おちつけ、おちつけ。


日本ではありえない状況に、かろうじてパニックにならないよう暗示をかけながら考える。


おちつけ。一回死んでるけど、殺されるって恐怖を感じて殺されるのは違う。死にたくない。死にたくなんかないんだ。早く逃げよう。安全なところへ、誰か助けてくれる人がいるところへ。


逃げるといってもどこに? 竜の視覚聴覚気配察知なんかはどうなんだろうか。まだ気づかれていないようだし、このままじっとしていれば大丈夫かもしれない。ただ、いつまで続くかわからないこの状態が恐ろしい。小さな音も立てられない。


レーダーとかないか? ゲームみたいにマップ上に敵味方が点で表示されるようなの。ソナーなんか使えたらいいのに。そうだ、スキルがもらえたんだった。


スキル!

スキル、スキル、スキル、スキル。

…ステータス?


あ、出た。脳内に認識されるってことか。ゲームみたいに画面がでたりするわけではないようだ。それはそれで視界を遮らないのでよかった。


ダイゴ(1)

死神の鎌1 

身体強化1 

生命察知1   

性質把握1   

空間収納1   

転生神の教え子1


名前は前世の大悟がカタカナになっている。スキルは…この世界には漢字があるのか?いやそんなことはどうでもいい。スキルの内容だ。


身体強化1ってのがどれくらいだろう。身体強化1を使ってドラム缶ほどのがれきを片手で押してみる。ズズズ…、スキルレベル1じゃこんなものか。もちろん竜より強くなんかないだろう。あの竜は10人くらいでポコポコ殴ってもビクともしなさそうだ。


生命察知1を使ってみた。予想通り竜の位置が感覚でわかる。あれ、近くにもう一つ反応があるぞ、人だ、生きている。竜はその人を探しているようだな。まずい、隠れているようだが、だんだん距離がなくなっている。


性質把握1をすぐそばの視界に入った…動かない人に使った。ふぅ。おちつけ…。案の定、鑑定スキルだった。内容が知識として理解できる。そして竜を視界にいれ性質把握1を使ってみる。緑竜の幼生(322)狂乱状態とでた。数字はレベルだろうか? 俺、1だよ、年齢ではないね。となるとレベル322ってどんなだ?…そして、そばの人物はヒナタ(1)。助けなきゃ。


空間収納1を使ってみた。周りのがれきを詰め込んでみると、どんどん入り、その量が感覚的に把握できるようだ。それからそばの倒れている人が握る手斧を手に取り、念じるだけで瞬時に出し入れができた。ごめん、これ、もらうね。


死神の鎌1。たぶん、攻撃スキルだろう。生命察知1で竜の死角から近づいて、身体強化1のダッシュ、そしてジャンプ。竜の背中に飛びついたらそのまま手斧を使って死神の鎌1を発動させる。できるのか? 失敗したら、倒せなかったら、逃げれるのか? 死にたくない。


まずい、ヒナタの隠れているがれきが吹っ飛んだ。


ええい、イチかバチか。


竜がヒナタを見つけ狙いをつけたようだ、動きが止まる。いまだ。


がれきの山を利用してジャンプ、竜の背でももう一度ジャンプ、首のうしろから手斧を一閃。喰らえ、スキル死神の鎌1。


ガキン、と手斧が竜のうろこではじかれた。


振り返る竜の勢いに飛ばされ宙をさまよう俺と目があう竜。


身体強化1、身体強化1、身体強化1!


ぐわっっと竜の頭が目の前に迫るとその瞬間、噛みつかれた。


…左腕が持ってかれそうだ。かろうじて骨は折れてない。身体強化1のおかげが腕もちぎれていない。


ステータス1…重症か。


でも俺は死ぬつもりはない。死なないよ、これから生きるんだ。せっかくもらった命、体も貰い物だけど、もう俺のもんだ。邪魔すんな。


お前は運が悪い。


俺はお前の死神になるよ。


くたばれ、ドラゴン。





空間収納1からがれきを取り出す。竜の口はすぐに顎が外れるほどのがれきでいっぱいになり、自由になった俺はそのまま身体強化1をかけた体で竜の口の中にしがみつき、竜のノドにがれきを隙間なく詰め込む。竜の暴れ具合からその混乱がうかがわれる。そして口の中が光だした。ブレス! やばい、着地を考えず飛び出した。


次の瞬間、竜の頭が暴発。そのまま支えを失ったように地面に伏せ倒れ、そして動かなくなった。


やったのか? …勝った? はっ!


よかった。がれきで窒息させるか、咽頭の柔らかそうなところから脳脊髄へ向けてがれきを突き刺すか考えたんだけど、竜のやつが自滅してくれた。うん、竜のブレスで頭を吹きとばせる、覚えとこう。


俺は地面にたたきつけられたが、無事。かまれた左腕がちぎれそうだが興奮で痛さもない。壁のような竜の体を目の前にして腰が抜けて立てないだけだ。


危なった。死神の鎌1が発動できなかったけど、斧じゃダメだったの? 


くそっ。おりゃっ!死神の鎌1!


尻もちをついたまま、目の前の竜の体に斧を振るう。そして堅い竜のウロコにはじかれる斧。


次の瞬間、全身の鳥肌が立った。竜の体から俺の体になにかがどんどん入ってくる!


おわぁあああ、なんじゃこりゃぁ!


一瞬のことだったけど、体が熱い、みしみし軋む。でも攻撃されたわけではなさそうだ。そして左腕が少し動かせるようになっていた。ちょっと治った?


ステータス!


レベルアップしてる!


ダイゴ(111)軽傷

死神の鎌1     

身体強化1    

生命察知1    

性質把握1   

空間収納1      

転生神の教え子1





死神の鎌1を乗せた手斧、その最後の一撃で体力が0になったのだろう。ということはまだ死んでなかったの? そう考えてぞっとしてちびった。少しね、少し。


性質判定1…竜の状態は死体か。あ、レベル数字が無くなったぞ? まあいいか。ちゃんと竜を倒したから経験値が入ったのだろう。レベルが上がっているのだから。左腕の損傷具合は変わってないように思えるが重症が軽傷になった。これはラッキー。レベル1の重傷はレベル111なら軽傷だということか。左腕を犠牲にした甲斐がある。計画通りだ、うん。


「ダイゴ!」

気を抜いていたところに背後から名前を呼ばれてものすごく驚いた。

そうだ、生き残りが居たっけ? ビビらせんなよ、もう。

「ダイゴ、今なら逃げれるわ! 早くこっちに!」

教えてあげよう、ドラゴンキラーダイゴ様がとどめを刺したと。

「大丈夫だよ、やっつけた。この竜、もう動かないから」

「なに言ってるの!死んじゃう!早く逃げよう!」

「大丈夫だから。…ヒナタだっけ、お前こそ動けるか? ケガはない?」

すぐ後ろのがれきの陰から顔をのぞかせるヒナタ。赤毛の女の子だ。制服着せたら美少女女子高生といったところか。どストライクと言って過言ではない容姿をしている。少し緊張する、少しね。


立ち上がって手の届く竜のウロコを一枚剥ぎ取ってみせた。できなかったらみっともないので身体強化1を使ったからちゃんと剝がせた。虚勢スキルも使っておこう、持ってないけど。

「ほら、もうウロコを剝がしても動かないし、もう死んでるよ」

「ええっ!? ほんと?!」

ウロコをうちわのようにひらひらさせて見せた。やや腕が重くなった感じがしたけど、いい風を起こせた。全身のウロコをうちわにして夏祭りで配ろうか。パンチで穴を開けるだけのヤツ、ちょうどいい大きさだ。


そんなことを思っているとヒナタが恐る恐るそばに来た。

「…ダイゴ、大丈夫なの? 竜は死んだの?」

「ああ、死んでるのも確認できた。大丈夫だよ」

「でもまだ動くかもしれないわ。離れましょう」

まあ確かに、何があるかわからないので距離を置くのはもっともだ。

「わかった。そうだ、きれいな水が欲しい。ケガしたところを洗っておきたい」

「えっ、ケガ? どこ? 大丈夫? 血止めがいる? 骨は折れてない?」

こんな美少女にじろじろ見られてペタペタ触られていたたまれなくなる。あ、股間のシミはうちわで隠したよ。


そういえば俺の名前を呼んでいたけど、知り合いか? まずい、名前しかわからん。友達? 家族? こ、こいびと、こいびとだったりして。

「えっと、ヒナタはどこもケガをしてない?」

「…ええ、大丈夫みたい。ダイゴは左腕のケガね。ポーションがあれば問題ないわ、ウチに行きましょう」

と振り返ると、動きを止める。

そう、周りはがれきと化している。竜はそのしっぽが地を這うだけで家を吹っ飛ばす大きさがあり、ブレスは家をまるまる焦がすほどの威力だ。建物があっただろう跡、向こうは炭化している跡もある。そして生命察知1で人間以上の反応は無い。


「ヒナタ…」


「ダイゴ。村が」





それからヒナタは一軒一軒まわって生きている人を探した。もちろんみんな死んでいるのは知っていたけど、一緒にがれきをどかして回った。ひどい状態の死体を見て、はじめは二人とも息を飲んでいたが、それでも生きていたらと探し回った。そして家族と対面したときのヒナタはとても見ていられなかった。


「私たちだけね。死ななかったの」

君の知っているダイゴはもういないけど。

「そうだ、ポーションは駄目だったけど、ケガの具合はどぉ?」

「ああ、平気だよ、きれいに洗えたから」

「…お腹空かない?…この辺に保存食があると思ったけど」

「ああ、大丈夫、そんなに空いてない」

「でも、竜を倒しちゃうなんてね。まだ理解できないよ」

がれきの下の棚へ向いて話すヒナタ。

「大丈夫かな、ほんとにもう動かないよね」

「あれからピクリともしてないよ」

「竜なんて初めて見たわ」

「ほんと大きくてびっくりだよね」

「なんでこんな何もない村に来たのかなぁ」

手を伸ばして引っ張るが棚の下敷きになった籠が出てこない。

「でもダイゴにやっつけられていい気味だわ」

出てこない籠をなんども引っ張る。

「なんだったのかしら、まったく」

ぺたりと座り込んで、力なく籠を引っ張り続ける。

「もう、母さんが作った保存食が入ってるはずなの。父さんがこっそり食べてなかったらね」

籠を引っ張る動きが止まった。

「…父さんがね、竜の気を引いてね、母さんと私はそのすきに逃げたの。母さんもそのあと私を逃がすために違う方に走って行ったわ。私はただもうじっとして動かないでいたの、いいえ、大きな音がして地面が揺れて怖くて怖くて動けなくて!」

うつむき話す言葉が震えている。

「どうしてよ、なにしたっていうの? みんな死んじゃうなんて! どうして竜なんてやってくるのよ!」

籠をつかむ手が大きく揺さぶられる。

「なんでよ!どうしてよ!返してよ!もとに戻してよ、みんなを」

かける言葉もなく、支えてあげる手もだせずにいると、

「ダイゴ」

名前を呼ばれヒナタの背中を見る。

「生きててよかった」

「…ああ」

ダイゴは死ななかった。ちゃんと生きている。それでいい。


翌日、二人して村人みんなを埋葬した。場所は転々としていたけど、ヒナタ曰く、俺たち二人以外全員いたそうだ。

「終わったね」

「ああ」

「これからどうしようか」

「…どうにかして生きていきたい」

「それはそうよ。でもここで二人だけじゃ暮らせないわ」

えっと、暮らせたら二人でもいいのということでしょうか…?

「ダイゴ」

「はい」

「自分の荷物を準備して。村を出ましょう。街に行くわよ」

そう言ってヒナタは自分のウチの方へ向かった。二人の生活を妄想したけど、いまだわからない距離感になにも言えない。


よし、言われた通り旅支度をしよう。


村人の埋葬の時に、ヒナタが一人ひとりの話をしたため、自分の家がどこだかわかっていた。そして自分の家だったのだろうが、記憶もないので火事場泥棒になった気分だ。隣家との壁もなくなっているのでお隣も物色し役に立ちそうな物を空間収納に入れた。スキルのことはとりあえず秘密にしようと思うから手ぶらだとあやしいのでリュックにも適当に物をつっこんでおいた。


そしてしばらくすると服装を変えたヒナタが現れた。その格好は村娘らしからぬ冒険者といったところか。

「ヒナタ、髪、切ったんだ」

背中でまとめていた長い髪をバッサリ切っている。

「ん。どお? 似合う? 軽くなったわ」

「ああ、まるで冒険者だね」

「あらそう? 街にいったら冒険者ギルドに登録しようかしら」

「街で暮らすことになるのかな」

「…ほんというと、先のことはなにも考えてないわ。わからないもの」

「それもそうだ。…街でしばらく暮らせるかわからないけど、ウチにあったお金と、売ればお金になりそうな物を持ってきたよ」

「…そうね、私も。父さんと母さんが貯めていたのを、もらって、きたわ」

「これから出発するの?」

「…夜までに街道にでましょう。そこで野宿して。運がよければ通りかかった馬車に乗せてもらえるかもしれない」

「わかった、出発だね」

地理が分らないのでヒナタの後に続くしかない。そしてヒナタの歩きに合わせて並んで歩く。

「ちょっと、待ってて、すぐ戻ってくるから」

そして村が視界に入らないところまできた時にそう言って駆け足で村にもどる。

「え、あ、ちょっと、忘れ物?」


戻った先にあるもの。


竜の亡骸。





竜の背に手を触れながら歩く。


お前がダイゴを殺したから俺がココにいる。

そしてお前が死んで、ダイゴが生きている。


俺は今からこの世界で生きていく。

死にたくないんだ。

悪いけど、もっていくよ、その体。


空間収納1。





「ごめん、おまたせ」

「忘れ物? あった?」

「ああ、父さんの手斧を持ってきた。冒険者なら武器が必要だろう?」

竜のそばに忘れていた手斧を腰のベルトにかけている。


村からの道は二人が並んで歩ける幅しかない。もちろん馬車が通ることもないので轍もない。夜までこの道を進むと街道にでるんだとか。

「ダイゴも…冒険者をするの?」

おや? 二人で一緒にではなかったのですか? 

「そ、そうだな。新しい人生の始まりだし、広い世界を見てまわるのもいいかな」

街についたらお別れですか?

「新しい人生かぁ。今までの生活は終わったんだね」

「うん。これからは知らないことばかり、うまくいくかもわからない」

「竜に襲われて生き残ったのんだから、なんだってうまくいくわよ」

「あはは。竜より弱い奴に負けたら竜に申し訳ないな」

「…みんな負けたわ。ダイゴ以外ね」

「いや、そんなつもりは。冗談でも駄目だねこんなこといっちゃ。ごめん」

夕暮れが進み、もう影も闇に溶け込もうとしている。

「そろそろ街道にでるはずよ。真っ暗になる前に、さぁ急ごう」


しばらく街のことについてあれこれ話していると広い道と合流点に出た。馬車も通るのだろう、轍が作られている。そして地面のせりあがったところが共同の野営地なのだろうか、焚火の跡、腰かけやすそうな丸太があった。

「誰もいなかったわね。火だけおこそうか」

「ああ、寒くなってきたし、夜はもっと寒いのかな。薪になるの採ってくる」

荷物を置いて、手斧を手に近くの雑木林へと入った。そして枯れ木を選んで枝を落とす。小さくても斧があってよかった。抱えるだけ抱えて、空間収納1にも持てない分を入れておく。


「はい、干し肉、あぶっといたわ」

ありあわせで火をおこしたヒナタは干し肉を用意していてくれた。この世界ではどうやって火をつけるのだろう。

「ありがと」

二人は少し間を空けて座っている。

「…聞いてもいい?」

焚火がパチっと何回かはねたころヒナタが話し出した。

「ダイゴ、どうしたの?」

「え?」

「昨日からなんだが別人みたいなんだけど」

うわっ!正解!

「ええと、どうしてそう思うの?」

「そうね、わたしの呼び方も何となく違うけど、みんなを埋葬するとき、名前で呼ばないタッちんのことを名前で呼んでいたわ、ダイゴらしくない。」

性質判定1で分かった死んだ人の名前を声にだしたのを聞かれたのだろう。

「それにわたしが冒険者になるかもって、そしたらいつものダイゴなら一緒になるっていう人じゃない」

「竜のことで頭が混乱してて、落ち着かなくて」

ウソを吐いてない。

「竜を倒して、みんな死んじゃって、二人だけになって」

話していないだけ。

「ダイゴもなんだかよそよそしいし」

本当のことを言ってもいいだろうか?

「これから街に行って、冒険者になって」

ヒナタの知っているダイゴはもういません。

「わたし、やっていけるのかなぁ。自分の力で生きていけるのかなぁ」

今いるダイゴの中身はあなたの知らない人です。

「…ダイゴだけになっちゃった、私のことを知ってるのは」

ヒナタのことは何も知らない。

「もしかして、ダイゴもいなくなろうとしてるのかなぁって」

振りを続けるのはだましていることかもしれない。

「ダイゴは死なないでね」

死んでることを伝えないのはウソじゃない。

「助かった命だから、大事にするよ」

生きているダイゴでいるのは罪じゃない。

「私もダイゴに助けてもらった命、大切にするわ」

ヒナタと歩む人生もいいかもしれない。

「一緒に冒険者になろうか」

これが答えでいいよね。

「うん」



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