しょーと・しょーと

BUILD

タイムトラベル

 春も終わろうという時分、蒸し暑さが満ち始めた研究所に女はいた。

 机や棚に並ぶ奇天烈な形をした、一見するとガラクタにしか見えないそれらは全て一人の人間によってつくられたものだ。

 カツカツという足音が遠くから近づいてくることに気付いた彼女は、手にしていたガラクタ・・・・の一つを元あった場所へと戻し、何事もなかったかのように錆びたパイプ椅子へ腰を下ろして耳元の髪を掻き上げた。


「よく来たね」


 いやに上気した顔を覗かせた博士は普段より気分が良さげに見える。


「それで、一体全体どうしていきなり呼び出しなんてしてきたんです?」


 足早に部屋へと入り内部を見回した博士は、確認するように彼女へ誰も連れてきていないか、と確認をした。

 当然、彼女以外に連れてきた人間はいない。

 いや、はっきり言ってしまえばこんな研究所、好き好んで足を踏み入れる人間などいるはずもないだろう。


 するとずり落ちた眼鏡をぐい、と押し上げた博士は、つい一分前に女が弄繰り回していたガラクタを、まるで高級なおもちゃでも買ってもらった子供の様に慎重な手つきで持ち上げ、揚々と胸を突き上げ声を張った。


「私は革新的な発明をした!」

「へえ」

「これのハンドルを回すとだね、回した分だけ未来の自分に意識が移動できるんだ!」


 彼曰く一回して一日。

 回した回数分の日にち、自分の身体に今の自分の意識が移動するということらしい。

 世界各地を回ってシャーマンや占い師から学んだ知識を詰め込んだと、学者としてあるまじき言葉と共に自信ありげな顔を浮かべる博士。


「それで、時間遡ることは出来ないんですか?」

「無理だね」

「寿命より先に行くことも出来ないんですか?」

「当たり前じゃないか、その時間に体がないんだからね」

「ゴミじゃないですか」


 やれやれと首を振る女。

 しかし、ふと彼女は思い出し、博士をからかうように口を開いた。


「でも、それならさっき私も触ってみたんですけど、ピクリとも動きませんでしたよ」


 その言葉を聞いた瞬間、博士の顔が鬼のような形相へと変わった。


「今すぐここから飛び出せ!」

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