【ロマン・エイジⅠまでの感想】
文章で世界観を構成するのがうまいと感じました。特に街並みの描写を人々の生活風景と結びつけて表現されているため、この作品の世界観・時代観が分かりやすかったです。
台詞まわしも個人的には好みで、キャラクターごとに、その人間性にあった台詞になっていると思います。たとえば、ユリカの二章の台詞、「私の目には映らない世界も、あなたの目なら見つけることができるかもしれない。眼鏡はいくつあっても困るものではないわ」。
キャラクターの観点からいうと、ユリカに振り回されるクラウスという構図が、どこか微笑ましく思えます。
ユリカは魅力的なキャラクターで、知的で言葉回しも巧み、それでいてそれを鼻にかけず、高い身分でありながら軽口まで飛ばす。楽しむべき時は楽しみ、しめるところはしめる。
一方で、ユリカに振り回されながらも彼女の目的やその行動に協力するクラウスは、非常に影が薄い。彼の主観で物語は進んでゆき、彼の家の情報や容姿などの設定は開示されるが、肝心の彼の価値観は見えてこない。
価値観という点でいうと、ユリカの場合は、能動的で目的意識がはっきりしているが故に、その価値観が多くは語られなくとも、その思考や何に重きを置いているのかを類推できます。
クラウスの場合はほとんどが受動的で、その言動から彼の人間性を類推することが四章までは困難でしたが、五章からは打って変わって貴族らしい毅然とした振る舞いから彼の心の内の僅かな観念が見えたような気がします。
作中で何度もクラウスが想う、祖国や父親のこと、そしていざ祖国を背負う際に見せる貴族としての振るまい。彼の価値観や情緒は、年相応にまだ未成熟。しかし、だからこそ、作中を通して、そしてユリカとの接触を通して、今まで受け身だった彼が能動的に、自らの立ち位置を自覚した行動を取ることができた。
そう考えると、この作品はボーイミーツガールでありつつ、クラウスの成長の物語ともいえるのかもしれません。
ストーリー展開の観点からでは、まず丁寧さが挙げられるでしょう。少し細かいですが、個人的に、三章の魚の串焼のシーンが好きです。屋台で魚が焼かれるおいしそうな描写に加えて、そこから設定を開示していきつつ、ユリカとの関係についても微細に触れていく過程が良く描かれています。
ただ、四章までは少々ローテンポで話が進んでいくため、もう少しストーリー展開を早めても良い、あるいは何か事件か騒動を絡める中で設定を開示していく展開を作るなど、もう少しストーリーに起伏があれば良いなと思いました。
五章からの展開はスピーディで、先に述べた描写の丁寧さも相まって、スラスラと読めました。特に、六章からエピローグまでの展開は思わずニヤついてしまうほど、甘酸っぱかったです。
二人の関係、そしてユリカの目的がどのような方向へ向かうのか。
実現が困難なテーマを主軸に据えているからこそ、先の展開が注目されます。
超絶お洒落! その一言に尽きます。
先に断っておくと、たしかに1話あたりの分量が多いです。しかし、それが気にならないほどに物語の中に引き込まれました。そこは、まるで19世紀中葉。頁を開けば、近代が香る「ロマン」溢れる時代に迷い込んだかのような感覚に襲われました。
そして何より、キャラクターが魅力的! 愛くるしくも小悪魔的なクールさをもつユリカと、大人な落ち着きがありつつも彼女に振り回されてしまうクラウスの二人の掛け合いには、クスッとさせられる反面、読んでいるこちらまで少し恥ずかしくなるようなドキドキさがあります。ボーイミーツガールの売り文句に偽りなしです!
胎動する帝国再興への願望と、交錯する名だたる列強の思惑。彼らは時代に翻弄されるのか、あるいは時代を編み上げる存在になるのか? 物語の展開も見どころです!