あの日のキミヘ

ロボットSF製作委員会

第1話 あの日

「今日も退屈だったわ。つまらないわね。」


それが彼女の口癖だった。通い慣れた教室で、机に肘を突きながら、指先で頬を等間隔で叩いている。本当に退屈しているらしい。


「でもほら、明日からは忙しくなるんじゃ…」


そこまで言いかけて気が付いたことだが、彼女は先ほどから、僕をまじまじと見つめていた。いや、睨みつけていたと言う方が正確だろうか。等間隔を刻む指の動きが、ワンテンポ早くなり、そして止まった。


「あなたはバカでいいわね。」


そう言ってカバンを手にして教室を後にする彼女を、僕は目で追うことしかしなかった。

「またね」

僕はそれが言えなかった。

それから、彼女は学校に来なくなった。

当時は転校するとしか聞かされてなかったが、15年後の情報公開制度で、我々は真実を知ることになる。僕と彼女は30歳になっていた。


「15年前、地球は異星人と接触、交戦した。当時創設された国連宇宙学校は、対異星人戦闘を専門とする事実上の士官学校であった。」

僕の知る彼女は、そこに所属していた。


学校を卒業してから、僕はそれとなく彼女の足跡を辿ろうとしていた。だが、家族はおろか、その後なにをしていたのか、全く知る者がいなかった。

学生時代に親しい友人はいなかったようだし、プライベートを開示する性格でもなかったので、あまり不思議には思わなかった。

そこで一度、彼女との思い出に蓋をしていて、今日まで思い出すことがなかった。


異星人に関する情報公開は、僕のその思い出を掘り起こした。そして、彼女の所属に関する情報が手に入った。本当に驚いたが、不思議と納得がいったのも事実だ。彼女の卒業後の足取りが掴めないのも無理のないことだと思った。


そして、決心がついてからというもの、僕は死に物狂いで彼女を調べた。もう32歳になっていたけど、仕事を辞めて、家族を蔑ろにして、調べ続けた。なぜなら、彼女に会いたかったんだ。すごく単純な理由だった。

さらに、15年前に交戦があったのなら、その後の戦争の推移はどうなったのか。彼女を始め、士官学校に入隊した人達はどこへ行ったのか。そして、そのような真実が、どうして我々に隠し通せたのか。興味は尽きなかった。


だけど、考えてみたらすごく単純な話だったんだよ。今は、彼女に会えるのがただただ嬉しい。彼女が僕の前からいなくなって20年、積もる話がたくさんある。

次は、そうだな。「またね」じゃなくて「久しぶり」とでも言ってみようか。彼女はきっとこう言う。「相変わらずバカね」と。


田上一郎 戦時特別大尉

「出撃前の手紙」より。(冥王星周辺宙域にて戦死。)

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