第12話 おわり

 その勝敗は一瞬だった。


 犯人の投げるナイフ。 1投……避ける文の動きを見てから2投目。


 それらの攻撃を避けた文。しかし、3投目が襲い来る。


 それよりも速く、文が間合いを詰める。


 攻防。


 ナイフの煌めきが交差する。


 倒れゆく体。 立っているのは――――


「殺したの?」と隠れて見守っていた朋が姿を見せる。


「いや、ナイフはフェイント。軽い打撃で失神させた」


「そう……」と少し、ホッとした感じの朋。倒れている犯人の様子を観察するように目を向ける。


「どうして、この人はこんな事を? まだ――――


――――中学生くらいの女の子なのに」


 倒れている犯人の正体は、普通に平凡に見える女の子だった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「あの子……自分の事を男性だって、田中幸一っていう名前だと思い込んでいるみたい」


 警察に保護され、病院から戻ってきた花牟礼。


 美術室で朋と2人きりのタイミングで話を始めた。


「そういう事あり得るの? 精神分裂病みたいな感じ?」と朋は答える


「うん、多重人格みたいな? 私もよくわからないけど……罪、軽くなっちゃうみたいなんだよね」


「礼は、大きな罰を受けて貰いたいの?」


「……」と礼は無言で考え込んだ。それから、


「こんな事を言うと不謹慎って怒られるかもしれないけど、最初は怖かったけど少し楽しかったんだよね」


「そうなの? 殺されるとか思わなかった?」


「あの子、殺さないって言ってたから……なんだか信じちったんだよね。この子、私が好き過ぎて、こんな事をしたんだ。そういうのが伝わったから」


「礼のファンだから? だから、そんなに怖くなくて、楽しかったの?」


「だからかな。大きな罰は受けてほしくはないのよね……ここだけの秘密だよ」


 そう言って礼は席を立った。


「ごめんね、暫くは早く家に帰る約束を家族としたから。もう帰るね」


「うん、また明日ね」


「また明日」と礼は教室から出て行った。


 教室には朋が1人残るっているように見える。


 だが、どこに隠れていたのか?


「もう話、終わった?」と文が姿を現す。


「うん、多重人格だって……文くんはどう思う?」


「あの瞬間、彼女の眼は赤く染まっていた」


「うん、文くんの瞳とそっくりだった」


「偶然とは思えない。それに……」


「それに?」


「俺の兄貴を知っていた」


「……文くんは、お兄さんが関与したから彼女は犯人になった。そう思っているんだね」


「うん」と文は頷いた。それから――――


「今まで、何もわからなかった兄貴の情報が得られるかもしれない。だから――――」


「うん、手伝ってあげる」


 なぜか悲しそうな文の表情に対して、朋は笑顔だった。



 


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紅眼の殺人鬼 チョーカー @0213oh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ