第11話 犯人

 の名前は田中幸一。


 医者だ。ここは廃ビル……正確にはかつて務めていた病院の跡地。


 俺はラッキーだった。こんなにも誘拐に適した場所を知っていた。


 いや、熟知していたと言ってもいいだろう。


 誘拐した少女、花牟礼は目を覚まさない。……少しだけ心配になる。


 彼女の意識を奪うのに使用した薬は適応のはず。


「さて……」と俺は考える。 


(彼女が目を覚ましたら、何を話すか?) 


憧れ、敬意、信仰……


(まずは彼女の絵を見た時の衝撃だ。問題は、それをうまく言語できるか?)


 思い出す。 彼女の絵は生きている。生きているなら――――殺せる。


(嗚呼……彼女は無から死を生み出せるのだ。なんという奇跡!なんという僥倖!なら……)


 だが、そこで俺の意識は別の方向に動く。


(人の気配? 気のせいではない……それも2人?)


「だれだ! 出てこい! ――――そこにいるだろ!」


 俺は手にしたナイフを投擲した。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「いきなり、攻撃してきた!? えっと……朋さんは、ここに隠れていて!」


「え? 文くん!?」


 禅野文は室内の影から姿を現し、犯人と対峙する。


「――――っ!?」と、文は、その姿に動揺した。


「人質のつもりか?」


「……」と無言の犯人。 犯人はの首にナイフを当てている。


 よく見れば、僅かな傷。 赤い――――鮮やかな鮮血が流れている。


「もう止めた方がいい。俺には仲間がいる。それに警察にも――――」


「黙れよ! 俺にはやるべき事があるんだよ!」


「……」と沈黙する文。


(なんだ、コイツ。なんて言うか……ツギハギ。中身と外見が一致してないような違和感)


 どうする? 文が考えた次の瞬間、犯人は新しいナイフを投擲した。


「ちっ! いくつナイフを持ってやがる!」


 横に飛び込むようにして回避。 しかし、次の次弾……それも文の回避運動を読んだような位置に――――


「当たってやらねぇよ!」と斬り払い。 文は、懐に隠していたナイフを振るった。


「……なんだ、お前は?」


 飛んで来るナイフ。


 自身に向かってくる刃に対して、ナイフを使って弾く。


 普通の人間の動体視力と反射神経ではない。


 そして、何より――――


「赤い目? 紅眼だと……」


「あぁ、興奮するとね。俺は目が赤くなるんだよ」


「――――一緒だ」


「なに?」


「あの男と同じだ!」


「俺と同じ目をした男を――――兄をしているのか?」


 文の言葉に犯人には、どう届いたのだろうか? 


 犯人は、笑った。笑いながら、こう続ける。


「あの男の弟か! 弟が俺の前に立ち塞ぐか! 俺を、俺を……私をこんな体にして!」




     


 

 

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