短剣物語

八戸人生

あれも欲しいもっと欲しい

その男はヨシカズという男だった。ヨシカズは中小企業の社畜で、休みは一切なし。日曜日も、祝日は午後から仕事。朝8時から夜11時半まで働き詰め。いわばこの会社はブラック企業である。

今夜も11時半に仕事が終わり帰ってきたのは次の日の1時。

今の仕事を辞めたい―でもそう簡単に辞めれない。奥さんもほしい、贅沢したい…そのためには金がいる。でも時給はたったの20万…死にたくなってくる。そんなふうに思いながら今日もヨシカズは就寝した。


朝5時半。ヨシカズは起床した。すると枕に違和感を感じた。「なんか首の下にあるぞ‥」と言い見てそれを手に取ってみる。

それは何かのチケットみたいなものだったがコンタクトレンズをしてないのでよくわからない。コンタクトレンズをはめて見てみるとそのチケットには、


『あなたの欲を満たします』と書かれていた。裏を見ると『あなたの中の現実におこりうるような欲を頭に思い浮かべ、目を瞑り指でそのチケットを弾いてください。そうすればあなたのその欲が現実におこります』と小さい文字で書いてある。

「何これ、怖」と思わずヨシカズは口に出した。しかし今の彼は自らの欲のグラスに一滴も欲望が入ってない状態である。


ヨシカズは一度書いてある通りにやってみようと思った。とりあえずヨシカズは腹が減ったので「金ナシでデリバリーピザが届きますように」と頭にその言葉を浮かべた。現実におこりうることではないかとどこかで思いながらも期待している自分がいた。

すると2分もしないうちに「ピンポーン」とインターホンが鳴った。

まさか と思いドアを開けると「速達ピザでーす」と高い声の宅配員が立っていた。

「あの、金は…」

「お金はいらないですよ。では」とピザを手渡しバイクに乗って行ってしまった。

本当に起きた…!これはまさか…

ヨシカズは次の段階に移った。次は「仕事を3年休みにしてくれますように」と思うと会社から電話がかかり「3年間休んでおけ」と上司に言われた。その次は「宝くじ一等当たりますように」と願った。いざ宝くじを買いちょうど今日当選番号が発表だったので新聞を見てみると‥

信じられない。一等だった。その額7億!

ヨシカズは自分の頬をつねり叩いた。しかし夢じゃなく現実だった。

「このチケットさえあればどんなことでも…」

数ヶ月後ヨシカズは一億もする山奥にある豪邸を購入し、優雅な暮らしをしていた。2階からは絶景が広がり、庭には大きいプールがありそこで毎日複数人の美女とはしゃいで夜はその美女たちと乱行しあう。そんな日々を過ごしていた。

「すべてはこのチケットの力!私は神に選ばれしものだ!もう誰も俺を超えることはできない!」

この頃ヨシカズは周りの人たちから不満を買っていた。山中に豪邸があると言ったが周りの人は皆農業を営んでいる。そんななかヨシカズは無理やり豪邸を造り、一部の畑が潰されてしまった。周りの住人はみな反対した。しかし聞き入れてもらえなかった。

住人は市議会に訴えたが何もしてくれず次に府議会に訴えた。しかし「彼を止めることは簡単にはできない」と府議の偉い人は言った。なぜか。

「ヨシカズは国と繋がっている。」という噂が流れていた。そんな噂が流れたのでマスコミはこの件を連日報じた。そして国は「そんな事実は一切ございません。」と言わせる大事となった。しかしネットでは「国は嘘をついている!」などの声が上がった。こんなに大事になれば警察が動くはずだ。だがヨシカズという男は警察を黙らせた。彼に逆らうものは皆死ぬ。ということがわかった。

ヨシカズはついに禁断の手を使ったのである。実際彼を訴えにきたデモ隊がヨシカズの豪邸に入り込んできたことがあった。彼は カッ と指を鳴らした。すると目の前のデモ隊はみな屍に変わった。ヨシカズはあのチケットを使い、

『俺に逆らうものは指を鳴らすと死にますように』と願ったのである。本当に誰も彼を止めることは出来なかった。


ヨシカズは夢の中にいた。以前住んでいたボロアパートだった。「変な夢だな」と思っていた。すると「懐かしいでしょう。この家の心地が」と低い声がした。


後ろからその声がしたので振り返ると仏頂顔のスーツを着た中年の小太りの男性がいた。


「誰だあんたは」

「私はね。異星人とでも言っておきましょうか。あなたの使っているチケットの開発者です。」

「あんたが作ったのか。ありがとな!異星の技術はすげぇな。おかげで俺…」とヨシカズが感謝を述べていると、

「哀れですなぁ」と異星人は言った。

異星人は続けて「あなたを実験台にして観察していました。私は地球人の性格を調査するためにこのチケットを開発しました…やはり人間は欲を満たされれば満たされるほど変わっていくものですなぁ。」

「どういうことだ。」とヨシカズは返した。

「まだ気づいてないのですか?あなたは自分がどれだけ哀れなことを。いいでしょう今からあなたをここでこの銃で殺します。」

ヨシカズは焦った。

「なんでだよ!意味はわかんねぇよ!わかったなんでもするから許してくれ…頼む!」

「じゃああなたは来世でしっかり頑張ってやっていきなさい」

「来世は何になんだよ…」震えながらヨシカズは言う。

「それはあなたの心次第。あなたが本当によくなりたいという気持ちがあれば来世もまた幸せな人生を歩めるモノになります。ただ次はないですよ」

「わかった頼む来世でしっかりやる!」

「フフフ…わかりました。では行きますよ!ハッ!」

ヨシカズは溶けていくような感覚を持った。


(ここはどこだ…家か)

するとヨシカズは空を飛んだ。目の前には人間がいた。とても大きく見えた。

「あっ…蚊だ」そういうと人間はヨシカズの身体を叩き割り、ヨシカズの第二の人生はあっけなく終わった。


ヨシカズは気づいていなかった。自分自身の誤りを。これは、人間の性というものなのか。人は欲望を満たせば満たすほど自分自身を見失う。そして邪の道に辿り着く。ヨシカズは欲のグラスにそれを満たすワインを注ぎすぎて、やがて溢れ、注ぎ続けて止まらなくなったんだろう。



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