アルプス・トロッコ列車 🌳

上月くるを

アルプス・トロッコ列車 🌳



 いい季節になりました。

 ひかりと風と花の香と。


 屋根に分厚い雪をのせて、街の駅と山の駅を3往復していた冬がうそのようです。

 狭い運転室に着ぶくれた身体を押しこめていた運転手さんは、毎日ルンルン気分。


 最後尾に乗車している車掌さんも車掌室の窓を開け、山国の春を満喫しています。

 学校帰りの子どもたちや、春耕の老人夫婦……ローカル線にはファンがいっぱい。



      🐺



 無人駅ごとに律義に停車した電車は、定刻どおりに、山の駅に着きました。

 ここを終着駅とし、しばらく休んでから街の駅へ折り返し運転するのです。


 運転手さんがカバンを持って立ち上がったところへ駆け寄って来たもの……。

 それは……うぷぷ、人間の運転手さんに顔も体型もそっくりのタヌキさんで。



 ――またまた遅くなっちまって、どうもスイマセン。

   坊主のやつがね、連れて行けと騒ぐもんだから。



 タヌキは耳と耳のあいだの帽子をとり、ピョコリひょうきんに頭を下げました。

 人間の運転手さんは「いやいや」と手を横に振って、ヒョイと敬礼を返します。



      🚊



 それから正確に1分30秒後、タヌキの運転手は「出発進行」の合図をしました。

 JRの終着駅からトロッコ列車が出ているのです(むろん山の動物専用ですが)。


 夜通しアルプス1万尺を突っ走ったトロッコ列車は、翌朝、始発駅にもどります。

 そんなふしぎな世界を知っているのはJRローカル線の歴代運転手さんたちだけ。


 山の駅でタヌキの同僚にバトンタッチした運転手さんは街の駅に折り返しながら、今夜はうちの坊主にタヌキの坊やの話をしてやろうとニコニコしています。( ^)o(^ )

 


 

 

   

 


 


 

 

 


 

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