第218話 英知持つ勇者アンドレイアの娘
その日、第四基地に獣人国「ロンドスピシディア」からの訪問団が近づいてくるのを見つけたのは、ラミア族のレミリア(銀髪碧眼白い蛇体。Fカップ)だった。
彼女がラミアの蛇身を活かして、見張りの塔の屋根より高い位置から森を観察しているときに、基地に向ってくる訪問団を発見したのだった。
報告を受けた南大尉は、周囲の警戒を連合王国の騎士たちに任せ、直ちにヴィルミアーシェ乗員を広場に集める。
「間もなくロンドスピシディアから大事な客人がいらっしゃる。この第四基地を安全かつ安定的に運用していくためには、彼らとの協力関係が必須となる。絶対に粗相のないように!」
「「「了!」」」
「特に、伊藤、初見! お前たちは獣人と接するのは今回が初めてだったな」
整備担当の伊藤と初見の顔に緊張が走る。
「自分は殆ど艦内から出ることはありませんでしたので……」
伊藤 一樹二等兵曹は護衛艦フワデラがこの世界に転移して以降、ほとんどの時間を艦内で過ごしていた。単純に忙しかったからというのがその理由で、グレイベア村の温泉休暇も取る暇がなかったほどである。
「私はグレイベア村を訪れた際に、コボルト族の皆さまを遠くからチラッと見ただけで、直接お話したことはありません」
初見 帆菜美上等水兵も、伊藤同様に多忙を極めていたのだが、彼女には伊藤が無理やり温泉休暇を取らせていた。
多忙な乗組員たちのなかでも、一段上の多忙さを極めていた二人が、今回この第四基地に招集されたのには理由がある。それは南大尉が二人を見込んでのことであった。
南は二人への期待を表すために、その理由を口にしかけたが、出てきた言葉は別のものであった。
「もう耳にタコができるほど聞いているかもしないが、改めて注意しておく。これから基地に訪れる訪問団は、全員が獣人族だ。決して間違えるな」
「「了!」」
伊藤と初見の額に緊張による汗が流れた。
護衛艦ヴィルミアーシェ内で行われた講習会で、獣人族と亜人族を呼び違えることは、いずれにおいても最大級の侮辱として捉えられる。こうした慣習は新大陸だけのことではなく、このゴンドワルナ大陸においても同じであった。
基地に配属されていた白狼族たちから、このことが原因で発生した血で血を洗うような抗争話を聞かされていた二人は、実際のところかなり怯えていた。
(すこし脅かし過ぎたか?)
二人の張りつめた表情を見た南大尉は、ニッコリと笑顔をつくると二人の肩を軽く叩く。
「そう緊張するな。もし何かトラブルがあったとしても、お前たち二人はきっと大丈夫だ。それだけは保証するから安心するといい。なっ?」
南から視線を向けられた坂上大尉がコクリと頷いた。
だが二人はまったく安心することができなかった。
プォオオオオ!
プォオオオオ!
突然、森の中から角笛の音が響く。
「どうやら到着したみたいだな」
プォオオオオ!
プォオオオオ!
それから間もなく――
ロンドスピシディア訪問団が到着した。
~ お出迎え ~
「帝国及びボルヤーグ連合王国 第四基地へようこそ、ロンドスピシディアの皆さま。皆様を心より歓迎いたします」
南大尉が歓迎の言葉を述べると。訪問団の中から黒猫族の獣人が進み出て歓迎を感謝する口上を返した。
口上を聞く間、南は後頭部に熱線が照射されているかのような視線を感じていた。その視線で後頭部に穴を開けられないよう、南は口上を述べる獣人に精神力のすべてを込めて意識を集中させていた。
「……と、第四基地の皆さまの歓迎を心より感謝申し上げる。今回の訪問にあたっては、我らの長の御息女が同行しておられる。どうしても人間の皆さまとお会いしたいというたってのご要望でな」
黒猫族の獣人が一歩下がって、訪問団の中央に静かに立っている女性を紹介する。
「こちらはスピシディアの英雄、英知持つ勇者アンドレイアの娘アステル様であらせられる」
青い毛の犬系の獣人女性がしずしずと前に進み出て、居並ぶ第四基地の面々にボルヤーグ連合王国の貴族式カーテシーを行ないました。
「アステルですわ。皆さま初めまして。わたくし、こうして人間の方々とお話するのが長年の夢でしたのよ」
「よ、ようこそアステル様。我々一同、精一杯の歓迎をさせていただきます」
そう答える南大尉の視線は、チラッとアステルの顔を見た後は、その足下に向けられたまま固定された。
視線を上げるのが怖かったのである。
南は後頭部がジリジリと焼け付くような感覚を覚えていた。
その視線は坂上大尉(妻)からのものであった。
妻から照射されるジリジリする視線、視線を上げられない理由、それは――
「えぇ、南大尉。暖かいお出迎えに感謝いたしますわ」
バルンッ! バルンッ!
青い毛並みの犬系獣人、アステル。
その乳は、平野艦長や不破寺真九郎をひとまわり上回る巨乳だったのである。
ジリジリジリジリッ……
(見てない! 胸なんて見てないから! 視線で俺の後頭部を焼くんじゃない! 禿げたらどうすんだよ! ハルカ!)
後頭部が焦げてるんじゃないかとヒヤヒヤしつつ、訪問団を基地に案内する南大尉であった。
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