第219話 ロンドスピシディア訪問団
~ ロンドスピシディア ~
大スピシディアはゴンドワルナ大陸中央にある大森林地帯である。「無限の森」や「還らずの森」とも呼ばれるこの深い森は、長きに渡って人間の侵入を拒んできた。
長い大陸史の中では「ある国の軍団が、伝説の至宝を求めて森に入り、そのまま戻らなかった」という類の話が枚挙に暇がない。
ボルヤーグ連合王国には森のエルフたちが統べる森林地帯があり、それはこの大スピシディアと隣接しているのだが、エルフたちがこの境界を越えることは決してない。
野心に溢れる若いエルフの冒険者や、あるいは重い罪を負った咎人が、この「無限の森」に足を踏み入れていくことはあったものの、誰一人として戻ってくることはなかった。
そんな謎多き森の伝説に、度々登場するのが獣人たちの国。そのひとつがロンドスピシディアであった。これまで噂でしかなかったこの国の存在が明らかになったのは、獣人国に迷い込んだ一人の人間がきっかけであったという。
ロンドスピシディアの獣人たちは、大スピシディアの外が魔境であると信じており、そこに近づくことにずっと恐れを抱いてきた。それを人間の青年が打ち破ることができたのは、未だここ数年のことである。
それと時を同じくして、大森林の中で魔物の脅威が増していくことを感じていた大スピシディアの獣王は、人族との連携を少しずつ模索しつつあった。
~ 第四基地 会議室 ~
「……というわけで、今回、我らは第四基地の完成を機に、我ら大ロンドスピシディアと帝国及びボルヤーグ連合王国との同盟について話し合いたいと考えています」
訪問団長でもある最年長の黒猫族の獣人が、猫髭に指を添える。
彼は、ロンドスピシディア周辺で、これまで見たことのない種類の魔物が多く出没するようになったことを告げ、いくつかその詳細について語った。
その魔物に心当たりがある南大尉が、伊藤兵曹に命じて会議室のモニタに映像を表示させる。
「今、お話いただいのたは、おそらくこの怪物のことではないでしょうか」
映像には、フワーデ・フォーが黒い巨木のような化け物たちと戦っている場面が映しだされる。
その途端、訪問団から驚愕の声が上がった。
「確かにこやつです! 森の木に擬態して民を襲う凶悪な魔物です! 固い樹皮には我らの爪や牙も歯が立たず、多くの勇敢な戦士たちが犠牲に……って、えぇぇえ!?」
流れる映像を見た訪問団から再び驚愕の声が上がる。
『フワーデ・フォー! 天上界に変わって妖異をおしおきよ! タカツ、やっちゃって!』
『よっし、ヴィルミカーラ! 軽MATぶちかませ!』
『わ、わかった……01式軽対戦車誘導弾! う、撃つよ!』
ドドーン! ドドーン!
アラクネの左右に設置された01式軽対戦車誘導弾が発射され、黒い巨木に命中する。映像のカメラが巨木だったものをズームアップしたときには、わずかに足だけしか残されていなかった。
『艦長、今日も頑張りました! チャンネル登録よろしく!』
ビッと横ピースを決める幼女の顔が映されるのをみて、訪問団からまた驚愕の声があがる。
「な、なんとあのような幼子が、あのように凄まじい魔法を使うなど……し、信じられぬ」
ザワザワッ……。ザワザワッ……。ザワザワッ……。
訪問団のうち、おそらく護衛の任に就いているのであろう、屈強な狼獣人たちまで、今見た映像の衝撃に
そのなかで桃色の毛並みの兎獣人の少女が、ボソッと青犬獣人のアステルに耳打ちをする。
「た、たしかにそうですわ!?」
耳打ちされたアステルが声を上げると、会議室全員の視線が彼女に向けられた。
「まるで現実がそのまま閉じ込められたかのような、この動く絵は魔法ですの!?」
今さらながらアステルが大型モニタを指差して叫ぶと、他の面々もそれに追随して驚き始めた。
「そ、そういえば、これは魔法なのか!?」
「人間というのは、純潔を保ったままある年齢を超えると、魔法使いになると聞いたことがあります」
「私も彼から聞いたぞ! DTというのを維持するのがコツだそうだ」
「そう言えば彼も魔法使いだったか?」
「いや、彼も魔法を使うが彼自身は『ノーチェ様にDTを捧げたのでギリセーフ』と言っていた」
「どういうことですの!? ノーチェは彼からDTというのを貰ったの?」
「そんなこと知るかウサ!」
会議室がちょっとしたパニックに陥ってしまったのを見た南大尉が、
「コホンッ!」
と大袈裟な咳をして、訪問団の注目を集める。
「この魔法については、後々ゆっくりとご説明いたします。まずは怪物です。他の映像もありますので、ご確認いただきたい」
「そ、そうであったな。皆も一度、深呼吸でもすると良いだろう」
黒猫族の訪問団長の言葉に、獣人たちはすぐに落ち着きを取り戻した。
その後、映像に映し出される妖異のほとんどを、獣人たちが知っていることが判明する。
一通り映像を見せた後、南大尉は訪問団全員に目を配りながら、
「どうやら我々は、共通の敵を相手にしているということで、まず間違いなさそうですね」
「そのようですな」
こうしてロンドスピシディアと帝国及びボルヤーグ連合王国との同盟について、具体的な話し合いが詰められることとなった。
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