第217話 第四基地 大森林スピシディア境界①
竜子とハンスがお見合いカラオケ大会で優勝を飾り、平野艦長とロイド夫妻が、『美肌満腹温泉エステプラチナコース』を堪能していた頃――。
「ここが大森林の入り口か……」
「見渡す限り森が続いているわね。スピシディアっていったいどれくらい広いのかな」
南大尉と坂上大尉(新妻)が、第四基地に建てられた見張り塔の上で望遠鏡手に周囲を見渡していた。
二人が望遠鏡で見ているのは、北に広がる深い森。それが果てしなく地平線の先まで続いている様子は、壮大さと同時に恐ろしさも感じさせる。
「この中で迷子になったら二度と出てこれない気がする」
「そうだね。ちょっと怖いかも」
坂上大尉こと南春香は、そっと南大尉へ肩を寄せる。平野艦長と並ぶ二大クールビューティの一人として一部の
新妻のピンクオーラに当てられて、思わずその肩を抱き寄せる南大尉。
「もし迷子になっても俺なら絶対に春香を見つけてみせるよ」
ポッと頬を染めて南大尉を見上げる坂上大尉。
「義春……」
「春香……」
お互いの目を見つめ合っていた二人は、自然と顔を寄せ――
「おーい! 南大尉ぃぃ! ロンドスピシディア御一行様は確認できたかぁ!」
見張り塔の下から、松川先任伍長(44歳既婚)が大声を張り上げて来たので、ビクッと二人の身体に震えが走る。
二人は気まずい視線を交わした後、南大尉が身を乗り出して、松川先任伍長に答えた。
「ま、松川さん!? ま、まだ外交使節の皆さんは、見えないです!」
しどろもどろに応える南大尉に、松川が訝し気に顔をしかめる。
「なんだその反応は~! まさか塔の上で二人っきりだからって、エロいことしてたんじゃないだろうな~!」
松川としては、ちょっとした軽口のつもりだったのだが……。
「松川さん!」
坂上大尉(新妻)が上半身を乗り出して、キッと松川先任伍長を睨みつけた。その顔が真っ赤に染まっているのを見て、松川は思わず頭を掻く。
「あちゃ~! ビンゴだったか!? そりゃ悪いことしちまったな……」
その言葉を聞いてますます顔を赤らめる坂上大尉。彼女から逃げるように、松川はさっと回れ右すると、申し訳ないとばかりに平手を頭上で振りながら、隊舎に向ってそそくさと退散していった。
~ ロンドスピシディア ~
ボルヤーグ連合王国とスピシディア大森林の境界に設置された第四基地。
ここに配属された人員は、護衛艦ヴィルミアーシェのなかでも精鋭が集められている。
南大尉と坂上大尉は、帝国から来た乗組員のなかで、もっとも異世界で最も豊富な経験を重ねていた。
帝国水陸機動隊隊長である南大尉は、この異世界に来た当初、幼女化に巻き込まれている。彼は、同じく幼女となった高津艦長と共に随行していた。
元帝国陸軍第一空挺団出身で、その後、帝国特別警備隊に所属するという異色の経歴を持つ坂上大尉も、南大尉と行動を共にすることが多かった。
新大陸ことフィルモサーナでは、アシハブア王国に長く駐在し、ドルネア公爵領に赴いた際には、魔神ウドゥンキラーナとの親交を深めている。
さらに二人は、この異世界で結婚式を挙げており、しかもその新婚旅行としてシュモネー夫人によって、このボルヤーグ連合王国のあちこちを観光してさえいた。
松川先任伍長は、リーコス村で過ごすことが多かったが、村の建設にあたって白狼族やラミア族といった現地種族を、ずっと指揮監督し続けていた。
第四基地に配属された人員は以下の10名である。他の基地より3名多く配置されている。
帝国海軍より
松川先任伍長、南大尉、坂上大尉、野藤 桜季子少尉(飛行士)、
伊藤 一樹二等兵曹(整備士)、初見 帆菜美上等水兵(整備士)
白狼族より
ヴィルミラーサ、ヴィルフォガラン、ヴィルフォマッシュ
グレイベア村より
レミリア(ラミア族)
また水陸両用多脚型戦闘ドローン・アラクネが3機配置され、白狼族によって運用されていた。また他のドローンも他基地より多めに配置されている。
手厚い兵装が配置されているのは、この第四基地が、ある意味で最前線と言える場所に設置されているためである。
ボルヤーグ連合王国からの情報では、このスピシディア大森林の中に人は住んでいないと考えられているようだった。
この森の全容を王国は把握していないようだったが、亜人や獣人族の国がいくつかあることは知られていた。それは、彼らがときおり森の境にやってきて、王国の商人との交易を行なうことがあったからである。
そうした交易の中で、もっとも王国と接点を持っている国が、獣人族の国である「ロンドスピシディア」なのであった。
第四基地の設置に当たっては、ボルヤーグ連合王国は商人を通じてロンドスピシディアに通知している。
そしてロンドスピシディアからの返事が「第四基地に挨拶に行く」という短いものだった。
あまりにも短いこの返事では、時期も誰が来るのかもわからないことから、第四基地ではずっと交代で見張りを続けているのである。
そして、南と坂上が見張り塔の上でいちゃついていたこの日――
彼らはやってきた。
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