ソシャゲ世界のやり直し

加藤ゆたか

ソシャゲ世界のやり直し

 どっかーん! 俺は死んだ。


「あなたが死んでいる間に、悪者によって世界はソシャゲの広告に作り替えられてしまいました。あなたには救世主として世界を救ってほしいのです。」


 天の声にそう言われた俺は、気付くと王の間に召喚されていた。

 王様は俺に言った。


「勇者よ、この国は敵国から侵略を受けておる。お主の力を持ってして、王城の塀の増設と畑の開墾と兵士の育成と武器の製造と治水と貿易をせよ。」

「やなこった。」


 冗談じゃない。俺はそんなことのために生まれ変わったのではない。俺には復讐しなければならない相手がいるのだ。

 俺は城を飛び出して、森と山しかないフィールドに繰り出した。


「お願いします。誰か助けて!」


 突如、軍服が破れ下着も肌も露出させたあられもない姿の美少女から脳内に通信が入る。


「なんだ、お前は。今どこにいるんだ?」

「私の名前は鈴々りんりん。前線で敵国と戦っています。相手の戦車が強くて、私たちの服はボロボロになってしまって……。」


 通信の間、鈴々は肌を晒しているのが恥ずかしいのか頬を赤らめていた。うーむ、悪くない。ついつい目が向いてしまう。


「わかった。助けに行こう。どうすればいい?」

「このボタンをクリックしてください……。」


 なるほど、鈴々が表示された画面にはクリックと書かれた赤いボタンが表示されていた。俺は少し考えてボタンを押すのを保留にした。


「ボタン? 見えないな。もしかしたら俺のレベルがまだ低いのかもしれない。」

「え? そんなことは……。」


 さっきから俺は自分の頭の上に表示されたレベルの数字に気付いていた。とてもじゃないが強いとは言えない数字である。もしも、このボタンを押して、戦場の最前線にでも飛ばされたらとても生き残れないだろう。何度も言うが、俺には復讐しなければならない相手がいる。いくらエロエロ美少女の頼みであっても死ぬわけにはいかないのだ。


「まずは、この世界を見て回らないとな。」

「あの……ボタンは表示されているはずです。あの? 聞こえてます? おーい?」


 俺は鈴々の声を無視して、一本道を歩く。

 すると、道の真ん中に大きな塔のような建物が見えた。不審な点があるとすれば、その塔は縦に半分で中の構造が外から丸見えである点だ。一階には男性が囚われており、その隣には怪物がいたが男性とは何か棒のようなもので仕切られている。二階にはぐつぐつと煮えたぎる溶岩のようなもの。その上にはピカピカと光る財宝があり、それらも一階と同じように棒のようなもので区切られていた。


「そこの旅の人! どうか私をここから助け出してください。」


 男性は俺を見つけると叫んで助けを求めた。俺はその様子を見て思案する。俺には何故かこの塔に刺さる棒を動かせるという確信があった。正しい順番で棒を抜けば、男性を助けられるかもしれない。

 俺は小一時間かけて、棒を抜く順番を考えた。二階の棒を抜くと男性は焼け死ぬし、一階の棒を抜くと怪物に食べられてしまう。財宝も手に入れないといけないし……。


「これは不可能じゃないのか?」

「そっ……そんなこと言わないで助けてくださいよ。」

「お前、死にたいのか?」

「いやいや、棒を抜かなくてもいいのです。このボタンを押してくれれば。」


 男性が指差す先には今度は緑色のボタンがある……。

 俺はいっきに胡散臭いものを感じて、塔は放置して去ることにした。なんだ、ボタンって。そういえば城にいた王様の横にも黄色いボタンが置いてあった気がする。

 俺は天の声を思い出した。ソシャゲの広告に作り替えられた世界……。俺の脳内の片隅に映る画面では、鈴々が俺の気を引こうと先ほどよりも更に服を脱いでいた。


「この世界を救ったとして、どうなるんだ?」


 俺は知っている。この世界がソシャゲの広告だとしたら、広告と本来のゲームとでは内容が全く異なることを。それならば、この世界に置かれたボタンを押した先には本来のゲームの世界があると考えられる。

 勇者として国を救う。エロエロ美少女を助けて仲良くなる。難解なパズルゲームを解いて男性を救い財宝を手に入れる。それはすべてこの世界では幻想であり罠だ。本当の世界は、地味で夢も希望もない、退屈なことを繰り返す作業ゲー……。まさに俺が死ぬ前に生きていた世界そのものだ。


「そんな世界に戻ってたまるか。」


 俺はメニュー画面を開いてガチャを選択した。ガチャにはきらびやかな装備や美男美女の仲間たちが表示されている。ガチャに使う宝石を俺は既に何万個も持っていた。おそらく初回ログインボーナスだろう。俺はガチャを回した。


          *


「なんで助けに来てくれないんですか!?」


 ガチャで手に入れた装備を売り、ガチャで手に入れた美女に囲まれてこの世界で悠々自適な生活を送っていた俺の前に鈴々が現れた。


「お、どうした? 戦争は終わったのか?」

「そうじゃなくて! ボタンを押してくれる約束だったでしょ!?」

「あー……、いや、まだ見えなくて。」

「嘘つくな!」


 ほとんど下着だけになっている鈴々は俺に掴みかかろうとした。おっと、これはこれで悪くないが、俺は鈴々を華麗にかわす。


「悪いな、もう俺は以前の俺じゃない。レベルも上がって、この世界であいつも見つけて復讐も果たした。もう目的は遂げたんだよ。」

「なんで……。最初に言ったのに……。」

「そういうわけで、ボタンのことは諦めてくれ。」

「最初に……この世界を救ってって頼んだのに……。」

「ん?」


 鈴々が恨めしそうな顔で俺を見たかと思うと、急にその姿が膨れ上がった。巨人の姿になったそれは俺を捕まえようと手を伸ばしてくる。


「うおっ!?」


 俺は咄嗟に宙に線を引いて巨人の手を防ごうとしたが、勢いを押さえられず、線ごと俺の方に向かってくる。俺は自分のレベルを上げるボタンを押して最大レベルまで上げ、剣を持って巨人の手に斬りかかった。斬った巨人が空に溶けるようにすっと消える。


「お前も私の世界をクソゲーと言うのか! お前も私の世界よりも、こんなふざけたゲームを選ぶのか!」


 天の声が空に鳴り響く。これはやばい。空が黒い雲に覆われて、豪雨と落雷が俺を襲った。天の声は呪文を唱える。


「すべての神よ、すべての精霊よ、この者に天罰を与えよ。この者の身体を分子レベルまで分解し、二度と生き返れないほど滅せよ。」

「うぐぐぐぐ……。」


 大きな力がレベルマックスの俺の身体を引き裂こうとしている。こ、このままでは……。


「私だ。」


 耐えきれず、私は正体を明かした。


「……お前だったのか。まったく気付かなかったぞ。」

「今のは危なかったぞ。」


 神である私は、旧友である天の声と和解することにした。

 すべて、暇を持て余した神々の遊びである。



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ソシャゲ世界のやり直し 加藤ゆたか @yutaka_kato

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