第32話 究極の人類
廊下の壁を打ち破って現れたのは、浜辺で僕らを惨殺したあの巨大なサル……いや、もはや化け物と呼ぶしかない生き物だった。
剥き出しの筋肉によって極度に肥大した四肢を持つその生物の大きさはおよそ3メートル。ゴリラみたいに片腕を床に突いた形で立っているんだけど、その姿勢で天井に頭が突きそうな程大きい。全身火で炙られたみたいに赤黒くって、毛は一本も生えていない。四肢の先にはそれぞれ黒光りする爪が生えている。爪はとても長くて、僕の頭なんか一突きで貫通しそう。そして何よりも恐ろしかったのは顔面だった。口は大きく耳元まで裂けていて、狼みたいな牙がむき出しになっている。目は夜のフクロウみたいに真っ赤で丸いのが二つあり、片側の目だけが僕を見ている。
その生物が……ゆっくりと僕の方を向いた。まっすぐに僕を見据えながら、片腕を使った三足歩行で歩いて、くる……!!?!?!?
うっひいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!
僕はその場に振り返ると無我夢中で走った。三秒で息が切れる。それでも腕を振り、膝を前に出し続けた。だってあんなのに掴まったら僕、間違いなく死んじゃうものおおおおおおお!!!!???
ブワッ……!!
そう思った次の瞬間。一瞬、僕の背中に熱い突風が吹きつけたと思った。同時に僕の体は前方に吹き飛ばされる。訳も解らないまま、僕は何回転も床を転がる。凄まじ過ぎる勢い。
何かが僕の背中にぶつかったんだ!? 痛みが数瞬遅れてやってきて、激痛うううううううううううううううううううううううっ!!!!?!? まっ!? まるで背中を直接バーナーで焼かれてるみたいいいいいい!!!!?!?!
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいぎゃふぃいいいいいいいいいいいいいいいっ?!?!?!?!!?」
僕が首が360度捻じ曲がらんばかりに悶えていると、視界にあの化け物が入った。
気付けば化け物が僕のすぐ前に立っており、あの真っ赤な両目で僕の事を見ている。その手の平の上に浮かんでいるのは、バチバチと火花を散らしながら飛ぶ球電群。まるで奉日本の能力みたいな。だけど大きさは彼女のとは比べ物にならない。一つ一つがバスケットボールくらいある!?
この化け物は、強靭な肉体と壁をぶち破る怪力の他に、奉日本の能力まで持っているようだった! きっとあの桃を何個も食らっているのだろう。だから原型が殆どないのか。或いはこいつこそさっきの研究室みたいな部屋にあった『究極の人間』なのか!?
そそそそんな事はともかく、ヤバイいいいいいいいいいいっ!!?!?!?
このままじゃ僕殺される!?!?!
逃げなきゃ!!!!??!
そう思って前を向いた時、僕は自分が開けた場所に居る事に気が付いた。
天井が高い。明らかに10メートルはある。広さは野球場ぐらい。奥行きも物凄く広くって、それに先の方から明るい光が差し込んで来ている。あれは多分太陽の光だろう。その下に広がっているのは、水、いや、海……? ちゃぷちゃぷと波の打ち寄せる水音が聞こえる。ここはどうやら港みたい。どうして研究所の更に地下にこんな港が……!?
僕が見つけたのは、港だけじゃなかった。視線の先に船らしきものがある。
それはクルーザーのような形で結構大きかった。たしかモーターヨットとかっていうんだったと思う。全長20メートルくらいあって、乗客20人くらいは余裕で乗れちゃう奴だ。喫水も高そうだし、あれなら外洋航海にも耐えられるんじゃないか。
ああああれに乗り込んで逃げればあああああああ!?!?!?
僕だけでもこの島から脱出するんだああああああああああ!!!!!!!
血と涙と鼻水で訳解らなくなりながらも、僕は立ち上がった。痛みで全身張り裂けそうになりながらも、船に向かって全力で走る。
だけど後ろからまたペタリ、という足音が聞こえてきた。足音は近い。
とてもじゃないけど船まで間に合いそうもない!!
ダメだっ!!
あいつに殺されるううううううううううう!!!!!
「タクちゃん!!!!!」
僕が余りの恐ろしさに絶望しかけていた、その時だった。不意に僕の耳を打ったのは、耳慣れた人間の声。
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