第16話「強欲の悪魔の封印」
何処に行っても煙は漂っている。そして男性たちは苦し気な顔を浮かべているが
女性たちは何ともない様子。意図的に、被害を被るのを男性に絞っているのだろう。
何が目的か分からないが黒幕を突き止めれば分かるだろう。
ビリヤード台付近の壁にスプレーで狐の絵が描かれていた。絵と共に矢印が。
それを辿っていく。あちこちに似たようなものが描かれている。
ようやくゴールに辿り着いた。
「待ちくたびれたぜ。…へぇ、今は混血もいねえのか。こりゃあ楽で良いぜ」
「そうか…男にだけ効果があったのは私が一人で来るしかない状況を作り出す
為。確かに、私一人なら貴方は余裕で倒せるものね」
狐の刺青を持つ男はの正体は本物の悪魔、強欲を司るマモンだった。悪魔としての
本性を現したマモンは静かに着地する。
「さぁ、渡してもらおうか。その魔導書。俺はそこに封印されるのは嫌なんでね。
さっさと渡せ」
アンジュは視線を落とした。渡したら、恐らく彼は本を破壊するだろう。そうすれば
悪魔たちが人間に害を為す。彼らは大きかれ小さかれ、人間に悪事を働く。
アンジュは本を抱きしめる。
「それは、できない。マモン、貴方を信頼することが出来ないから」
「残念だ。なら分かるだろ?俺はどんな手を使ってでも欲しいモンは奪う!強欲の悪魔
だからなぁ!!!」
マモンの力が発動する。強欲、奪う力。それに抗う事は出来ない。だが妨害する
者が現れた。
「女の子相手に、大人げないのね。流石、悪魔だわ」
「お前ッ!!?」
魔導書の代わりに奪ってしまったのは蛇数匹。蛇たちが牙を突き立てるも
マモンはそれを追い払う。焼き払った。
「その蛇は普通の蛇じゃないわ。研究したの、悪魔にも効果がある毒を」
噛まれた傷付近から蛇が這っているような紋様が全身に現れる。マモンは全身の
痺れを感じる。
「研究、だとぉ…?ンなこと出来る訳ねえだろ!」
「一人、いるじゃない。人間に自分から捕まることを選んで手を貸す悪魔が」
ふんわりと波打つ青い髪の女はアンジュに目を向ける。その悪魔は色欲を
司るアスモデウスだ。彼を本の中から外へ出す。
「アスモデウス、悪魔の分際で人間に捕まることを選んだってのかよ!!」
「君にとやかく言われる筋合いはないよ。僕がやりたいことをするだけ…
僕は別に人間を支配したくてたまらない訳じゃないし、ね。僕たちはいるべき場所で
生活する、過不足の無い世界でね」
アスモデウスは欲する物も無いため、人間に悪意を持たず彼らに悪事を働くつもりは
無いという。彼にとっては封印された世界でも最低限生きていけるのだから、
わざわざ外の世界を支配する必要性はないという。色欲と言えど彼はその辺り、
他の悪魔と違うのかもしれない。どちらかというと人間に対して友好的とも
取れる。対して強欲の悪魔マモンはその名の通り、欲を司る。強欲、欲張りだ。
少しでも欲しいと思った物は何でも手に入れようとする。七つの大罪、強欲の
名を冠するに相応しい性の持ち主。
「それと貴方にこれ、あげる」
女は盗まれたはずの指輪をアンジュの指に嵌めた。
「これ…じゃあ盗んだのって…」
「勘違いしないで。元々、オークションで公にされていたのは偽物よ。精巧に
作られた、本物はこっち。悪魔、天使、両者と繋がり、悪事を働いていた悪魔を
封印した魔術王ソロモン…その子孫でなければ本も指輪も本来の力を引き出せない」
「…遠回しに私がソロモンの子孫って伝えた?」
「鋭いじゃない。賢い子、大好きよ」
女の下半身を見ると足の代わりに蛇の下半身があった。蛇女。
「私はエキドナ」
「ギリシャ神話に出て来る、あの…!?」
「えぇ。あの、エキドナよ。グリフィスとは友人関係、よろしくね」
エキドナは人間の姿を取る。二つの下半身に変身できるというのだ。人間の前で
蛇の下半身を見せると周りから必要以上に騒がれてしまうからだ。
「さぁ、アンジュ」
捕まえたい、そう思いながらアンジュは指輪がある右手を前に突き出す。マモンの
体を白銀の鎖が何重にも拘束する。マモンの力も封印し、徐々に体が透けていく。
「クソッ、クソッ…!!!」
断末魔は小さく萎んで消えた。魔導書はひとりでにページを捲った。二柱目の
悪魔、強欲の悪魔の封印に成功した。オークション会場、カジノ全体に充満
していた煙が消えた。この被害はカジノ内だけで済んでいる。
「あれ?エキドナさん…?」
ふと隣を見るが彼女の姿が消えていた。彼女は突然現れて、突然消えた。
騒ぎが一段落してからアンジュたちは一カ所に集まった。
「それは良かったです」
悪魔の封印に成功した。指輪も取り返すことに成功した。カリスはその結果が
聞けてホッとしている。
「それで、この指輪…誰が最終的に競り落としたんですか?」
「私よ?」
「マダムノワールだったんですか!?」
彼女の購入が決定してからすぐに事件が起こったのだ。ならば、とアンジュは
指輪を彼女に返そうと思った。しかしマダムはそれを拒んだ。
「途中から聞いてたのよエキドナっていう女との会話。貴方が持つべきよ。
持っていて頂戴」
「でも…いや、なら全て悪魔を封印してからマダムに渡します」
「変わらないのね、先生。良いわ、そうしましょ」
七柱の悪魔の封印が完了したら、指輪をマダムに譲渡する。そう契約を結んだ。
事件は解決、二柱目の悪魔の封印も完了して順調に事が進んでいるように
感じる。
「―オイ、アンジュ」
「スバル?」
まだ仕事があるスバルは帰るアンジュを呼び止めて歩み寄った。彼は妙に目を
泳がせ、そして耳まで真っ赤だ。珍しく彼は照れている。
「どうしたの?」
「ほらよ。誕生日、おめでとう…」
小さく彼は呟いた。水色の箱をスバルはアンジュに手渡した。
「あら、中々気が利く子じゃない」
「わっ!?イヴ!」
「はぁい、見送りに来たわよアンジュ」
イヴたちもここに集まって来た。
「スバル、箱を開けても良い?」
スバルは頷いた。アンジュは箱を開いた。その中には水色のリボンがあった。
月を模したネックレスも一緒だ。
「髪留めと、ネックレス!」
「良かったら使ってくれ。いらないなら捨ててくれても構わない」
「捨てるなんて!勿論、使うよ!ありがとう、スバル」
アンジュはその場で今身に着けている髪留めを外して青いリボンに付け替えた。
そうしてから二人は分かれた。
【改】アンジュの魔導書 花道優曇華 @snow1comer
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