春風と教室

SAM-L

春風と教室

 始業式から一日空けた高校三年生の登校初日。黒板の上、中央に佇む時計の針は午前十時を指している。学校という枠組みで決められた区切りで言うと、二時間目に当たる。

 朝から二時間かけて決めるはずだった事は全て決め終えた。今は自習の時間だ。


 先生はどこかに行った。

 この少し広い教室に存在するのは二十九個の机と椅子と人間。ただそれだけの空間。

 皆、机上の紙に難しい顔をして向き合っている。その頭の中にはどれだけの世界が広がっているのだろう。


 不意に開け放たれた窓から風が吹いた。温くなった空気を冷ますような、ひんやりとした春の風。


 僕は顔を上げ、視線を外の方へと遣る。

 雄黄のカーテンが靡く。射し込む日光が木目の床を照らす。窓の外には桜が見える。小鳥の囀りが聞こえる。隣の寺で撞く鐘の音がする。


 周りを見回す。相変わらずそこに見えるのは黒い人の頭だけ。


 一年の始まり、春が終わる匂いがする。

 桜は既にその花弁を散らしている。あとは新緑に覆われるのを待つだけだ。


 僕は清々しい空気を深く吸い込み、机上の白に再び目を落とした。

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