第15話 魚座満月と魚戸ホタル
「 ほ~た~」
9月10日 みか、ケイト、スモーニー、トモチカは 浜辺で海面を照らし出すまんまるお月様に見とれていました。
思わず心から感嘆の声が漏れます。綺麗すぎて故郷に帰ってきたかのようにほぐされる。もやもやした悩みが整っていく。
この場にいたほとんどが幸福感を味わっていました。そんな魚座満月の1日、是非ともお楽しみください
みかは朝6時に起きました。窓を開けるとお日様が顔を見せています。服を着てKibiTalkを首に提げてから太陽に向かって一言
「
太陽さん、ほた~。今日はうお座満月の日。見るまで待ち遠しくなる時間も楽しい。毎日ありがとー
」
触腕を振りながら、にっこりしていました。
"みか"という名前を出すのは久しぶりなのでちょっと振り返ってみましょう。
魚戸ホタル(みか)は"まどおーむ"と呼ばれる団体の発足者です。 まどおーむは"まどろみみっく"の文化を広げることが目的です。 まどろみみっくはニンゲンさんにとって未知の種族、知ることで彼らの在り方が伝わると思っています。まどおーむには他にもメンバーがいて、蔦凪衣文・色織まいは・トモチカ・トウリと個性豊かな面子が揃っています。 特に衣文さんは広報文を書いて僕たちのことを広めてくれたりトモチカのピンチの時の助けてくれたり(第8話参照)すごく 助けになっています。 ニンゲンには彼らに偏見を持っている方をちらほら見られます。衣文はそういった偏りを認めつつも違いから良いところを見つけてくれるので みか はすごく相談しやすいと思っています。 まどおーむには人間の協力も必要でした。 獲得した人間が衣文で正解だった、みかはそう判断しています。
みか は「さわくじら」と呼ばれるクジラ型のドームハウスに住んでいます。
同族のケイトさんとスモーニーちゃん、 クラゲ型まどろみみっくのトモチカさんがいます。 トモチカさんは みか が海から連れてきました。最初 人間と暮らすのに覚えてましたが、ポスターやパンフレットの色彩や余白の使い方がいいという特技を見つけてもらってから人間の話をする日も多くなりました。
お日様の下、ちょっと体を動かしたらもう7時、朝食の準備を始めなきゃ。大皿4つ、小皿4つ、コップ4つ、トモチカのスイーツ皿1つをテーブルの上に準備します。ふわふわスクランブルエッグにケチャップをかけ野菜ジュースを注ぎます。 好物の小エビを小皿に乗せるのを忘れずに。スイーツ皿にシュークリームを乗せました。
万事OK、準備完了。みんなを起こしましょう。
「ほ~た~ 朝ごはんですよー」
「みか、もうそんな時間か」
ケイトさんが まぶたを掻きながらつぶやきます。普段は家電量販店で働いており、溜まった疲れでぐったりしていました。
「ふわ~、もう7時なん。あ、みかさん おはようございます!!」
スモーニーちゃんが お目覚めのようです。魚戸ホタルの中でも幼体であり136cmとちっこい。声をかけないとお寝坊さん、10時間くらい寝ます。ただし幼体で陸上に上がってきているということは飛び級した優等生ということです。寝る子は育つ 人間の言葉があります。3月に地上に来て半年が経ちました、カタコトですが人間の言葉の発音に慣れてきています。
「 みかさん おはよう」
トモチカが水槽のベッドの中から出てきます。 クラゲなので身体から水分が抜けると一大事。なのでトモチカさんは水槽の中で寝ています。 今日は特別な日だからと 衣文に買ってもらった 青いリボンを付け 朝食の席に座ります。
「 それでは みんな いただきます」
みかの号令で朝食を食べ始めます。
「
"スモーニー":{ たまごふわふわ 美味しい }、
"ケイト" :{ いつも みか が出すエビは塩加減がちょうどいい感じだな }、
”トモチカ" :{ 今日のシュークリームはマロンクリームなのね。まったりとした甘み…美味しい}、
"みか" :{ 今日は一段といい卵使ったからね。喜ぶ顔が見れて嬉しいほた~。}
」
カリカリ エビの甲殻の割れる音と一緒に笑い声が聞こえます。さわくじらの平均的な朝食です。
朝8時 みんな 食べ終わりました。 今日の予定を発表します、といってももう決まってますけどね。今日は何と言っても 魚座満月。1年の中でお月様がとびっきり美しくデコレーションされます。人間さんは中秋の名月とも呼んでいます。夜に浜辺でさわくじらのみんなと見る予定です。その前に一緒にスーパーマーケットへ行って月見団子の買い出しをします。買い出しまで各自休憩タイム。みか とトモチカは並んで本を読んでいます。積んでいた本をお互いじっくり読んでいます。ケイトさんは二度寝しました。スモーニーちゃんは最近発売されたゲーム の攻略に取り掛かっています。
他のまどおーむのメンバーとは魚座満月を見ないんですか?
答えは他のみんな用事があって断られています。衣文さんは友人とお食事の約束があります。 色織まいはさんは近所づきあいを兼ねて、近くの人と満月を見たいということです。トウリちゃんはスモーニーちゃんと同じゲームを攻略するため「埋め合わせするからゴメン」ということです。 ヒト型のイカがインクを地面にはじけさせるゲームです。チーム対抗戦が盛り上がっており、チームごとにインクの色は別々になります。バトルフィールドに塗りたくられたインクの量でチームの勝敗が決まります。 バンバン飛ばして爽快感があり楽しく、負けても戦い方を評価してくれるので続けやすいとのことです。待望のシリーズ新作が出るということでトウリちゃんは発売前からティザームービーを見てワクワクしていました。 前作発売されたときはまだ故郷の山の中で暮らしていました。スモーニーちゃん先ほど言ったように外の世界に来て半年、汚い言葉を覚えなきゃいいですけどね。 ちなみにトモチカさんは「オンライン対戦は怖い…」と話しており、聞いたトウリちゃんは「え~(`Д´) もったいない」と答えてました。 流行りのゲームですが自分に合わなければ手に取らなくていいと思います。
/* ちなみに書き手はこの手のゲームに手を出していません。 */
朝10時半、一緒にスーパーマーケットで買い出しをします。うお座満月には魚戸ホタルのテンションが上がってくる頃なので店頭で水まんじゅうを売っていました。気が利きますね。水まんじゅう3個1パック、かごの中に入れます。 トモチカさんは カステラを入れてました。スモーニーちゃんはキャラメルチョコサンド、 ケイトさんは月餅をかごを中に入れます。あと夜にみんなで食べるお月見団子を3箱。 みんなのお昼ごはんパープルスムージーも入れました。この日を待ちわびたのか、他の同族も人間もこぞって好きなお菓子を買い物かごに入れていました。
13時に買い出しからさわくじらに戻りました。三時のおやつを除いてフリータイムです。
みかは今週面白かったことと魚座満月を楽しみにしていることをブログを書きました。トモチカは小説の続きを読み、ケイトさんは動画配信サービスで江戸時代を題材にしたコメディ映画を見ていました。スモーニーちゃんはチーム対抗戦で楽しんでいました。相手チームはももももももそ と名乗る桃色のイカ含め4匹です。 3回戦い 3回負けて「惜しいところまでいったのに」と悔しがってました。
「
もそさん うちとウデマエが近いはずなのに何でこんなに 動き ちゃうんや よっしゃ 聞いたろ
」
といつの間にかスマートフォンと連動したアプリでボイスチャットを始めていました。イヤホンをつけ忘れていたので音が漏れます。
「
あたしも始めたばっかりで 負けることいっぱいあるよ。顔出しで配信してる上手い人の動きを真似てたらだんだん乗ってきた。スモーニーちゃんも始めたばっかなの!! 楽しいこといっぱいじゃん。これからもマッチしたらよろしく~。
」
と喋り声が みか たちにも聞こえ笑みがこぼれました。みか・トモチカにとっては馴染みのある声です。案外近いなあ、と みか は一瞬思いつつもブログ記事の執筆を再開します。
15時になりました。一旦作業を止めてみんなお茶会の時間です。
茶菓子をよそってからカップにティーを淹れました。そのタイミングで冷めないうちに遠慮なく大好きなお菓子を食べます。みかはダージリンティー、トモチカはカモミールティー、スモーニーちゃんはりんごの紅茶、ケイトさんはミルクを入れたコーヒーを飲んでました。みか がスモーニーちゃんに話しかけます。
「
ゲーム楽しい? 酷いこといわれてない?
」
みか は今後を担う逸材を預かっていると考えていたので、もし人間の汚い言葉を覚えたら困るためです。スモーニーちゃんは返します。
「
ほどほどに楽しんでれば大丈夫。予習で上手い人のプレイ見てたけど、ガチな人は目をギラギラさせてて、自分用のルールを敷いて、勝つためなら何をしてもいいと思ってる。ああいう人たちと組みたいと思いません。うちは流行ってるから調査してるだけです。実際にやってみて楽しいです、パンパン打ち合うの。もそさんもうちと同じ始めたてと聞いたけど楽しいって言ってた。
」
みか はホッとしました。人間の言葉を勉強するときは頬杖付いて暗い顔で止まるときもありました。楽しそうで何よりです。ケイトさんが間に入ってきます。
「
そうそう、そのゲームで昨日は開店前から長蛇の列が出来てて、俺はゲームコーナーの担当じゃないけど、隣の照明コーナーまで列が続いてた。親子連れ、女子高生、主婦からお年寄りもおった。テンバイヤー避け目的で親子連れでも一人一個で販売してた。森のゲーム以来や、あんな光景見たん。いやそれ以上やったかな。口コミでゲームがどんどん広まってく。数年前のゲームを配信してるストリーマー見て「在庫置いてませんか」って聞いた客もおった。固定ファンが付いてるゲームは新しいお客さん呼んできてええなあ。
」
ケイトさん 羨ましがってました。ケイトさんが贔屓にしている配信者は全体的に見ればマイナーな方ですが、過去のちょっとした一言を覚えてて動画内に入れることがあり、ファンを少しずつ増やしているそうです。おとなしいトモチカさんも参戦しました。
「
オンラインゲーム…スモーニーちゃんいつもより声が激しかった。聞いてほしいことがある。もしオフ会誘われても行かないでね。本物のイカだと分かったら人間さんに腕の一本一本引っ張られたり、墨を吐けと無茶ぶりされたり、最悪焼かれるかもしれない。信用のおける相手にだけ背伸びすること、いい?
」
みか もケイトさんもトモチカの心配に相槌を打ちます。
「
了解、約束 守ります。トモモンさんありがとうございます♪
」
スモーニーちゃんが守ってくれるようでホッとしました。トモモンさんという呼び方はどこで覚えたんだか。
体が温まりみんなで1時間ほどお昼寝。イカが3体クラゲが一体 空を見上げて 日向ぼっこ。ほっこりオーラが漂っています。
18時になりお月見の時間になりました。さわくじらには噴水孔のような天窓があり、みんなそこから外に出ました。海の方角を確認した後、ロケットのようにひとっ飛び。トモチカは みか が押していきます。頭を下半身の傘に突っ込んで、触腕を胴体に巻き付けて、横から見ると合体しているように見えました。18時15分、明の墨海岸近くにいた同族から通信が来ました。この近くなら綺麗な月が見えますよって。砂浜に降り立ち、水分補給します。深呼吸したあと空を見上げるとなんとまあ綺麗なまんまるお月様が昇ってるじゃないですか。体全体を広げて月光浴しました。気持ちよすぎて天にも昇る心地になりました。
「
"みか" : { ほ~た~ },
"ケイト" :{ すっげえ丸い、来てよかった },
"スモーニー":{ こんなの初めて♡ うち日本の素晴らしい景色また一つ覚えた },
"トモチカ" :{まんまるお月様 みんなと見れて幸せ }
」
思わず感嘆の声が漏れます。トモチカさんも感極まって体の水をシェイクさせ真面目増した。
月光 on the 砂浜ステージ、やることはひとつ レッツダンシング。友達と一緒のホタルもホタル連れの家族もお似合いのカップルも誰も彼も狼男のごとく月光のもとではしゃぎます。ほた☆ほた☆ほた☆ほた☆彡 みんなで音楽に合わせて触腕を振りながらダンス。天然のオタ芸を動画に配信する人間もいました。
もちろん みかたちさわくじらのメンバーも踊ってました。踊ったら疲れてきました、よし海入ろっと。服を脱ぎ捨てダイブ、上から見る傾向も乙なものです。月光に癒されてると トモチカさんが みか に抱きつきました。あったかい、海水とは違う粘っこい体液に包まれます。みかは同じ光景を体験したことがあります。地上に来て1年、「ニンゲン怖い、海に帰りたい。でも みか と一緒じゃなきゃイヤ」と抱きしめられたっけ。体液がブルブル震えてたので泣いてるんだろうかなと思ってました。トモチカの同族で地上にいるのは10体程度です。来て少し経つとホームシックになるのでまどろみのように静かに海へ戻っていく。大型で異形のため怖がられやすく、人間からお金を受け取っているのはトモチカさんくらいです。自覚はないようですが先駆者です。
いつもなら泣いてるところですけども、今回は笑ってました。体の中が青いリボンが見えます。衣文はいつの間にやらトモチカさんにとって大事な人ということ、みかは「良かったね」と語りかけます。触腕で「よしよし」と撫でました。
「
うん 大丈夫よ。今年は みか だけじゃなくて衣文さん・まいはさん・トウリちゃんもいる。まどおーむをもっともっと育てたい。
」
みかは撫でていた腕で「うんうん」と軽く突きました。
「
みんなも一緒に丸まらない?
」
ケイトさんとスモーニーちゃんに呼びかけます。トモチカの身体は大きいので、周りに集まって体を擦ります。
「
ありがとう。一生忘れない
」
トモチカさんがつぶやきました。水の中の出来事、体の水が覚えていることでしょう。
海から出て、早速お月見団子を食べました。丸い形、うお座満月と一緒。もちもち触感を味わい尽くしました。
20時になり家に戻ります。帰ってから みんなでお風呂に入り魚座満月の感想を言い合いました。総意は一つ、また来年もみんなでお月見したい。次はまどおーむのメンバーも一緒だったらいいなと みか とトモチカは言い合って、ケイトさんとスモーニーちゃんは笑っていました。
その頃、衣文は大学時代の友人と食事をしていました。
「
ホタルさんからお月様の写真送られてる。トモチカさんも笑ってる。楽しそう。
」
友人に写真を見せると「ホタルさんたち面白いね」と返事します。
「魚戸ホタルって体中ネバネバしてるって聞いたけど本当?」
「場所によるかな、大きい触腕の先端を掴むとビヨーンって粘る液体付くけど胴体は人間の皮膚とそんなに変わらないよ。」
まどろみみっくについての質問に自分事のように答える衣文、まだまだ勉強することは沢山あります。違いは神秘、生きてるって神秘、衣文はそう思います。
色織まいはさんは近所の人々と一緒にお月様を見ていました。まいはさんの家は開けた場所にあるので天体観測に絶好の場所です。「お月様、なんと神々しい、ありがたや~」と老夫婦の畏敬の声を耳にして嬉しくなりました。翼を広げ、黄色に発光すると「まいはさんも月から来たのかい?」と質問されます。
「
わたしたち いつの間にか産まれている種族なのでもしかしたらそうかもしれませんね。ふふっ。
」
笑って返します。
「神様、わしにお酒を注いでくれないか」と別の老人に声をかけられ仕入れた日本酒を注ぎます。
「
わたしが神様ならあなたも神様ですよ。一緒にいれて楽しいです。
」
近所の方と酌み交わし、朗らかな表情でお月様を見つめていました。
トウリちゃんは月光にもくれずゲームを楽しんでいました。
「
スモーニーちゃん良い子だったなぁ。変な大人や悪ガキに影響受けなきゃいいけど。ホタルさんの笑い声が聞こえたのは気のせいかな。
」
思い返して笑っていました。タヌキ型のまどろみみっくなので人間よりスタミナがあります。ウデマエがすくすく上がっていました。
「
ホタルさんからLINE来てる、トモチカさん楽しそう。こういうのって大事だよね。あたしもまどおーむの一員だし、月光でも見よっと。
」
窓を開けて月光を眺めると、ゲームとはまた違う幸せに包まれました。家の屋根に上ってお月様を撮影し、SNSに投稿しました。
「
お月様イカしてるぅ!!
」
[ 予告 ]
次回16話 衣文の性別を公開します。
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