第11話 手作り大好きトリさんのお誕生日パーティー
7月30日 色織まいはさんのお誕生日パーティーがとり行われました。
/* 今回は衣文視点 */
本来のまいはさんの誕生日は7月18日です。ただし21日に真屋代(まやしろ)高校への発表を控えていました。そのため18日当日はチームコミュニケーションツールを使ってまどおーむメンバーと連絡を取り、段取りを整理していました。
21日の発表は無事最後まで話すことができ、事前にトウリちゃんが投稿した動画も再生回数が増え、SNSでの反響も予想以上でした。
まどおーむメンバーが高校の制服を着たときの想像図がイラストサイトに投稿されいたり、自分たちの創作ダンスを踊ってみた動画も投稿され、面白がられててフフフっと笑みを浮かべていました。
翌日行われた反省会では、いつもの会議室で発表を振り返った後、全員で定食屋に行って冷やし中華や盛りそば、釜玉うどんを堪能しました。疲れた体にすっと入ってくる麺、肩の荷が下りた心地になりました。
7月30日17時、私はまいはさんの家近くの駐車場に車を止めました。明け墨の北西の丘陵に白いドームハウスが建っていました。まいはさんは普段この家から職場やホタルぽーたるの会議室まで翼を広げてひとっ飛びします。滑空できるのでわざわざ街の中心部に住まずとも生活を営めるというわけです。ただ近くのバス停から徒歩8分かかり、バスよりも車で行った方が早いため車を飛ばしました。私は初めてまいはさんの家に呼ばれます、日差しの強さとカーブで目が遮られ冷や汗をかきながらも、注意深く運転しました。
さてまいはさんの家の門に到着しました。ピーンポーンとチャイムを鳴らすと「はい、色織まいはです。あら衣文さん。暑い中お疲れでしょ。すぐに門を開けますので待ってくださいませ。」と返答がきました。食器の音も聞こえパーティーの料理を運んでいると予想します。門はすぐ開き、中に入ると左手にはDIYセットとガーデンテーブル、右手にはバラやカリーナなどの花々が咲き誇る花壇や5mくらいの大きな木が見え、まいはさんらしさを感じました。舗装路を進んでいくとドアまで到着、ノックをしてから入りました。するとまいはさんとホタルさんが綺麗な30度の礼をして出迎えてくれました。早速リビングに案内され、席に座って冷たいお茶を飲みました、ありがたや~。部屋の中にはジャズ調の音楽が流れており、訪れるまでの疲れを癒しました。飲み終えるとまいはさんが
「
汗びっしょりね。もう最近暑さがひどくて外でモノ作りするのも億劫になるわ。着替えの服はあるかしら。お風呂の用意は済ませてるのよ。準備ができたら案内するわね。
」
私は着替えの服を取り出したところトウリちゃんとまいはさんが目を見開いて驚きました。まいはさんは首を傾げた後に指示を出しました。
「
確か165cmくらいの来客用の服があったはず。あ、センスがないと言ってるわけじゃないから安心して。もっと明るめの服の方が似合うと思っただけよ。トウリちゃんはリビングから右手の衣装置き場から衣文さんに似合う服を選んできてほしい。瀬藤さんはその服を衣文さんが着てサイズが合わなかったらお直ししてほしい。お願いします。あと滝ちゃん、衣文さんを風呂場に案内して、お願い。
」
トウリちゃん、瀬藤さん、滝ちゃんは「はい!!」と気合が入った返事をしました。瀬藤さんはこの家から徒歩10分のお洋服リフォーム屋さんの職人です。まいはさんが着る服を仕立てるときにお世話になっています。滝ちゃんは近所のおばあちゃんです。「ありがとうございます。」と一礼した後に案内され風呂場に入りました。
風呂は一面白色に輝いており、目立った湯垢も見当たらず、手の込んだ掃除が為されていることが分かりました。滝ちゃんと体を洗って風呂に入ってさっぱり。せっかくの機会、まいはさんのことを聞きたくなりました。
「
初めまして、蔦凪衣文です。まいはさんとは週2回一緒に「まどおーむ」で活動してまして、このようなパーティーに招いてもらってありがたいと思っています。滝ちゃんと呼ぶのは気恥ずかしいのでお名前を教えてもらえますか? あとまいはさんの人となりも聞きたいです。
」
滝ちゃんはほっこりほほ笑んで話しかけました。
「
はじめまして、蔦凪衣文さん。滝本やすこです。滝ちゃんでいいわよ。ここ3か月まいはちゃんから衣文さんの話を聞くことが多くなってね~私たちに理解しようとしてくれて、いざという時には勇気を出して助けてくれる人って褒めてたわよ。まいはちゃん、近所の人で知らない人は少ないんじゃないかしら。飛んでくるから頭に残りやすいし、してくれたことにちゃんとお礼を言ってくれるから手伝う甲斐があって頼もしいわ。8年前、孫が高校生になって明け墨を出て行って寂しくなったときに工事の音が鳴って、半年も経ったらドームハウスができてて、珍しくて見に行ったらまいはちゃんがいたのよ。最初話したきっかけは落ちてきた羽を拾ったこと。「綺麗ねぇ」とまいはちゃんに話したら嬉しそうに羽ペンを作って、いつの間にか話し相手になってたの。腰を悪くして倒れたときにもうダメかなと思った時に、ハーブを焚いてくれて直して生き返ったなぁ~。まいはちゃん知識もあって落ち着いてて、それでいて嫌味がないってのが本当すごい。でも来た当初はそういう感じじゃなかった。話の腰を折るように話してきて必要以上に人間と関わりたくないというか。地元の清掃活動に参加したり、瀬藤さんから仕立てのアドバイスをもらったり、買い物で最近起きた話題で笑い合ったら固かった表情もいつの間にか柔らかくなって、まいはちゃんの方から話すようになったのよ。衣文さん、頑張り時というのはわかるけど、もっとまあるく佇んでもいいの。私たちパーティーの準備してきたけど、まいはちゃん、周りのみんなが幸せな気分になるようにもてなそうとしてるの、それが本当のマナーって言って。可愛いタヌキのトウリちゃん、きっと動きやすい服装を選んでくるわね。まいはちゃんのお風呂、何回入っても良いわね。楽しみね~
」
私は一呼吸置いてから
「
滝ちゃん、ありがとうございます。まいはさん、初めからあんなに落ち着きがあったわけじゃなかったと知って安心しました。私にもトモチカさんというもっと話したい仲間がいます。トウリちゃんどんな服選んでくるのかな?パーティーが楽しみです。
」
と返しました。「ああ、クラゲちゃんよね。人見知りなようだけど一つきっかけあれば何とかなるんじゃない。」と滝ちゃんは返してきて、嬉しくなりました。トモチカさんも呼ばれており、既に顔見知りのようです。私は黒色のフォーマルな服を持ってきてしまい反省反省。まいはさんはまどおーむの中では一番年長者なのでちゃんとした服装を着ていかないと、と友人の結婚式で着ていった服をクリーニングに出して持っていたのですが…。どうやら普段通りでよさそうです。風呂から上がるとトウリちゃんが待っていました。空色のチェック柄の服でした。着てみると裾が3cmほど長かったのでお直ししてもらいました。準備完了、まいはさん誕生日パーティーの始まりです。
パーティー会場には食べ物がいっぱい。
・トマト、レタス、キュウリなど取れたて野菜のサラダ
・蒸し餃子、水餃子
・豆腐ハンバーグ、麻婆豆腐、おからサラダ
・枝豆のプラントボール 肉のような食感がする
・地元の農家が作った米で炊いた白ご飯
・8等分に切り分けられたホールチーズ
・アーモンド、カシューナッツ、くるみが敷き詰められたミックスナッツ
・赤と白のスパークリングワイン
・紅茶が入ったティーポット
・ブルーベリーが乗ったホットケーキ
・バナナが乗ったチョコホットケーキ
・まいはさんの好物、蒸しきんつば
など様々な植物由来のメニューが並んでいました。
まいはさんがパーティー開始の音頭を取ります。
「
お集りの皆様、色織まいはです。本日私の誕生日パーティーに参加していただき大変うれしく存じます。職場の方だけでなく現在掛け持ちしている「まどおーむ」のメンバー、近所の方々、先日はお世話になりました真屋代高校の校長。この場で祝ってもらい望外の喜びです。それではグラスを手に取ってください。
せーのっ!乾杯~
」
乾杯~とグラスを突き合わせてパーティの始まりです。早速ホタルさんが知らない人と話していたので近づきました。
「ホタルさん、びっくりするくらい変わらず伸び伸びとしてますね。」
「いやいや~色々変わってて触腕を伸ばしとかないとすぐ凝り固まっちゃいます。」「そういえばまいはさんも話してたけど「まどおーむ」という団体作ったんだって、調子はどう?」
「思ったよりメンバーが頼りになるほた~。いきなり高校訪問ってどうかな、と思ったけど苦手なところをフォローしあってて助かってる。特に衣文さん、僕たちを怖がらずに握手してくれて、ニンゲン向けの広報文も好評。トモちゃんはあんまり人に心開かないままだけど最近は衣文さんに買ってもらったリボンを付けてて少し苦手意識を克服できたかなと感じてる。」
と私の話題が出たので間に入りました。
「
初めまして、ホタルさんが話してた蔦凪衣文です。まどおーむでまどろみみっくたちの広報をしています。もしかしてまいはさんの職場の方でしょうか? お会いできてうれしいです。
」
するとその人が手を挙げて4人呼び寄せて話してきました。
「
初めまして、衣文さん。四島と申します。後ろの4人は高梨、植野、石本、平岡です。おっしゃる通り僕たちはまいはさんの職場の同僚です。まいはさんが休憩がてらにまどおーむの話をしてて衣文さんの活躍ぶりも聞いておりました。直接お会いできてうれしいです。せっかくなので名刺を交換しませんか?
」
衣文は四島さんと名刺交換しました。名刺から四島さんは服飾系の会社の部長をしていることが分かりました。まいはさんは経理をしていると聞いていましたが、職種は聞いていませんでした。明け墨近辺では知られている会社でユニセックスで着られるブランドです。私の名刺にはホタルぽーたるの象徴、魚戸ホタル形のロゴがあり、すぐにホタルぽーたるの人間だと気づいたようです。四島さんがもう一人、いやもう一匹呼んできました。
「
うちの魚戸ホタル。型入れを担当してる。型入れというのは服の生地を切るガイドラインを付けること。ちょうど衣文さんが整理した情報見てまどろみみっくたちを知り始めるようなものかな。ホタルぽーたるの人間だったらうちのホタルさんも知ってほしい。
」
四島さんの会社の魚戸ホタルが一礼した後に話し始めました。ヒレがハサミのように見えるのが特徴です。
「
ほた~。紹介されました魚戸ホタルです。衣文さんはじめまして、まどおーむのホタルさんお久しぶりです。まいはさんにはお世話になりっぱなしです。これからもよろしくほた~
」
私は「ほた~」と返しました。これが彼らへの友愛の言葉です。職場の方にあいさつを済ませた後にパーティーの主役、色織まいはさんの元へ向かいました。
まいはさんとサラダやチーズやナッツを食べながら和気あいあい。せっかくだから踊りましょうと高校訪問したときに披露した創作ダンスを再びメンバー全員で踊り、真屋代高校の校長含め皆さん一斉に拍手しました。
踊り疲れて一杯の紅茶、淹れた直後から鼻を満たす香ばしさ、穏やかなハーモニー。こうやってお茶会を過ごしているんだなぁとイメージが湧いてきました。
トモチカさんはホットケーキをナイフとフォーク使って丁寧に切り分けてムシャムシャしています。トウリちゃんはまいはさん主催のパーティー、お肉がないのは覚悟の上で来ていましたが枝豆のプラントボールを食べるとうっとり。「ご飯が進む」と盛り上がっていました。ホタルさんは5種類のお茶の飲み比べをしたり、水餃子を一口でパクリと食べていました。
まいはさんとお互いのグラスに赤色のスパークリングワインを注ぎ、乾杯。まいはさんに聞いてみました。
「
お風呂の湯加減が気持ちよかったです。お気遣いありがとうございます。服装も自分が持ってきたものよりトウリちゃんが用意した方がこの場には合っていると思いました。風呂場で滝ちゃんからまいはさんは最初人間と必要以上に関わろうとしない素振りを見せていたと聞きました。私から聞きたいんですが、今は人間のことをどうお思っていますか? 明け墨市だけじゃありません、他の世界の人々も含めて。お願いします。
」
するとまいはさんはワイングラスを置いて「少しだけ衣文さんと外に出るわ」とみんなに告げてから私を連れて外へ出ました。
すっかり太陽が沈み一面星空が広がっています。庭にあるベンチに並んで座ってからまいはさんが話し出しました。
「
さっきの質問の答え、難しいわね。確かに私たちは人間とは違う生き物。人間からは「まどろみみっく」ってまとめられてるけど、私は色織まいはという種族で考えてるわ。人間だけじゃなくてホタルさんとも別の種族だから、ビジネスライクに接しようと初めは種族単位で決めてたの。でも実際に住んで人間と接するうちに自分は全然何も知らなくて、周りの人に助けてもらってるって思った。自分で生活できるようになってからじゃないと周りの人の有難味って気づきにくいものよ。私ももう人間界に現れたまどろみみっくの中じゃ古株になったから周りから頼られること多いけれど、寄りかかって頼ってる私も確かにいる。衣文さん、4月からまどおーむが始まって、自分じゃできないことしてくれて頼りにしてるのよ。これからもよろしくお願いします。
」
私は感慨深くなり、返事をしました。
「
まいはさんありがとうございます。正直まいはさんの知恵を頼りにしています。でもまいはさんにも知らないことはあって、自分たちの知恵を貸せるなら当然貸します。今後ともよろしくお願いいたします。
」
まいはさんが空を指差し、星空を見上げます。
「
今日は星空が応援してくれているようだわ。いつもよりずっと。そうだ、来てくれたみんなで見ましょう。記念撮影しましょ。呼んでくるわね。
」
そうしてみんなが庭にやってきました。30度近い熱帯夜です。ただ風が吹いているので少し涼しさを感じます。みんなが並びまいはさんが中心になったあと、私を左隣に、ホタルさんを右隣に呼び寄せました。準備が整い、近所の方が持ってきた高精度の三脚付きカメラを使って撮影します。はいチーズ、ポーズ違い6枚撮影しました。
撮影が終わった後、私の耳元で「あなたのお陰よ、ありがとう」とささやきました。こちらこそありがとうございます。
パーティーは無事終わり片付け。みんなで一緒に皿洗い、あっという間に完了。お酒を飲んでしまったので、まいはさんの家にお泊り。ベッドのふかふか羽毛布団が気持ちよかったです。もちろんまいはさんの羽毛じゃないですよ。
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