第7話 ともして おかいもの(前編)

 トモチカさんは別れ際、触手を小刻みに振って「また会いましょう」と伝えました。衣文さんが買った青いリボンを付けています。どこか避けていたけど、みかに見せるような綻んだ顔を衣文さんに見せていました。

 そんな「まどおーむ」メンバーの距離が縮まったお話

 今回は衣文視点。そのため「みか」ではなく「ホタルさん」という表記になります。


 6月第3週日曜日 朝10時 駅の北口で待ち合わせ 私はトウリちゃんとホタルさん達が来るのを待っていました。

 トウリちゃんはキウイフルーツのような若い緑色の服が似合っており、ピンクの頭の毛にカールが効いていました。外行きのスタイル、可愛いですね。

「みんなと一緒におかいもの♪ もう決まった時からワクワクしてたよ。つたえもん にやけてる」

 トウリちゃんの言葉に「うんうん」と頷きました。


 今日は「まどおーむ」メンバーの親睦も兼ねて明け墨市最大のショッピングモール「ライマーシティー」に行きます。

 9時58分 まいはさん・ホタルさん・トモチカさんが到着しました。

 視線を合わせて「おはよー」と挨拶を交わしました。トモチカさんは車の音が混じり耳が遠く感じましたが、手を挙げて挨拶していました。

 全員日傘を差しており、ホタルさん・トモチカさんは一段とぬめっています。

 ホタルさん、まいはさん、トモチカさん おはようございます! 今日は目いっぱい楽しみましょう。ライマーシティーが待っています。

 」楽しみたいと伝わったかな。ホタルさんが返事します。

 ほたー 衣文さん トウリさん おはよー。そんなに気を張らずにゆっくり見ていこう! トウリちゃんのおめかし似合ってる ステキステキ。

 衣文さん 頼んでたこと言ってみて。

 」私が言葉を発する前にホタルさんはトモチカさんの手を繋ぎました。

 トモチカさんの近くにいること。普段はヒトの視線が怖がってて「ホタルさんと一緒じゃないと外に出ない」と言ってるんですよね。魚戸ホタル族は数も増えてきて不当な扱いをされることが少なくなったけど、他のまどろみみっくはまだ浸透してないと調査して感じています。まいはさんは妖力でヒトを怯ませることができるし、トウリちゃんは人間に近い形態になれるから大丈夫。でもトモチカさんは体が大きくて一つ目だから怖くなるヒトもいて、もし攻撃したら他の同族がどんな目で見られるかって不安になってる。

 」続けて

「だいじょうぶ。人間がキツイこと言ってきたら私が注意するから安心してね。一緒に楽しもう」衣文はトモチカさんの近くに寄りました。

 手を繋ぐことは許してくれませんでしたが耳を近づけると「近くにいてほしい」と青白いKibiTalkからひっそりと音が聞こえました。


 さてライマーシティーに入りました。ライマーシティーの構造を駅から近い順で箇条書きに書きます。駅はライマーシティーの北側にございます。

 ・1番街:地域などブランドの付いた食料品やファッションのお店、インテリア雑貨のお店が多めです。6Fには映画館がございます。

 ・2番街:1Fはイベントスペースやフードコート、2Fは書店、3・4Fは美術館があり芸術関連の施設になっています。

 ・3番街:食料品やファッション、衣服、ドラッグストア、文房具、家電量販店など生活に必要なモノが売られています。

 ・4番街:ホームセンターがございます。2番街の2Fにある連絡通路から行くことも可能です。

 ・5番街:スポーツ施設がございます。1Fにはトレーニングジムとプール、2Fには卓球台やクレーンゲームなどがあるゲームセンター、3Fにはカラオケ、4Fにはバッティングセンターがございます。3番街の2Fにある連絡通路から行くことも可能です。

 /* 構造は確定ではありません。変更する可能性がございます。 */

 位置関係を数字で表すと次のようになっています。

    ①

 ←西 ②----④ 東→

    ③----➄


 1番街に入り、まいはさんがインテリア、ホタルさんは輸入された食料品に興味を示しているので12時に合流することに決めて別行動をとりました。

 トモチカさん・トウリちゃんとファッションのお店に入ります。トウリちゃんから「つたえもんにも合ってるんじゃない」と深緑色の上着とバーミリオンオレンジのズボンを手渡されました。普段着るような灰色の地味な服を着ていたので「んん_どうかな?」と思いつつ「せっかくだから」とサイズを確認した後に試着室に入りました。着て鏡で見るといつもより鮮やかになったような気がします。試着室から出るとトウリちゃんは「私の見立ては間違いなかった」と誇らしげな笑みを浮かべ、トモチカさんは私を見て「似合ってる」と言わんばかりに頷いていました。なんだか自信が付いたので一旦元の服に着替えた後に手渡された服を購入しました。「今日はこの色の方がいい」そう呟いて試着室で再度着替えました。タグは切っています。試着室から出てトウリちゃんにひと言「ありがとう、もう幸せ♡」一緒にハイタッチしました。

 ファッション店を回り、トウリちゃんも新しい服を買っていました。トモチカさんは人間用の服を買っても着られないので頷くだけです。衣文はストライプ柄の青いリボンが目に付きました。トモチカさんを呼んで「リボンなら着けられるんじゃない」と薦めました。トウリちゃんも「似合うよ、きっと」と薦めました。トモチカさんは「わたしはいい」と断ります。「たとえ受け取らなくても 買わずに後悔したくない」と心の中でつぶやき、リボンを購入しました。トモチカさんは首をかしげており、リボンを渡されても受け取りません。「う~ん」と悩みましたが合流する時間に迫っていたので呼びかけて合流場所へ歩きました。


 12時、ホタルさんたちと合流しました。着替えて気の変わり具合に驚いていました。お二方買った品物をバッグの中に入れていました。2番街に入り、フードコートで食事を取ることにしました。ライマーシティーにある定食屋は所詮ヒト向けであり、まどろみみっくを満たす食事ではありません。それぞれ好きなものを食べることにします。4人席と2人席を確保しました。ホタルさんが席を守っている間にトモチカさんの注文に付き添います。アイスクリーム屋に並んでいるときに横やりが入らないように見張り、無事チョコクッキーとストロベリーとキャラメルのフレーバーを注文しました。食事時ということもあり他の店よりは客足が少なかったため席に戻らずそのまま待ちました。フレーバーが届き目を輝かせていました。溶けないうちに食べないと。席に戻ると私の席に冷やしうどんが用意されていました。まいはさんに「冷やしうどんを注文してほしい。」とお願いしていたためです。

「まいはさん ありがとうございます。」

「いえいえ、トモチカさんが嬉しそうでよかったわ~。こちらこそありがとう。」

 トウリちゃんはチーズバーガーとナゲット、ホタルさんはソフトクリームが上に乗っかったマスカット味のシェイクを注文していました。

 さあ準備が整いました。「いただきます。」

 食べ始めて「昼食、一緒に食べると一段と美味しいね」って他愛のない話をしては笑い合っていました。冷やしうどん、麺のコシがあって噛み応えが良く喉元にすうっと行き渡りました。まいはさんも冷やしうどんを注文しており、すだちを掛けてだいこんおろしを混ぜて食べていました。この食べ物なら微笑む、忘れないようにメモ帳アプリに記録しました。トモチカさんは体内にフレーバーをゆっくりと取り込み溶かしていました。ボディが透過しているので溶ける様子が見えます。別の日にアイスが溶かされる様子を動画撮影したいものです。ストロベリーのフレーバーが溶けていくと青白いKibiTalkが震えて次の瞬間ポジティブな轟音が響きました。

「うまーーーーーーーーーー」

 思わず漏れてしまった声、周囲がこちらに注目しました。こんな声も出せるんだ、と吐き出しそうになった唇を締めてヘコヘコ頭を下げていました。トモチカさんも気恥ずかしくなりKibiTalkをパワーオフしました。これで人間に声が聞こえなくなりました。大丈夫だよ、私が付いてるよ、と撫でました。3つ目のフレーバーを体内に放り込み立ち去ろうとします。気まずくなりまいはさんとトウリちゃんに片付けを任せ、ホタルさんと一緒に一旦外に出ます。全員食べ終わりました。

 責めてないよ、そう言って落ち着かせます。ホタルさんは次のように分析します。

 スイーツの甘さが好きなんだ。久しぶりに食べて歓喜のあまり出ちゃったんだろうな。衣文さん、次に調査レポート書く時は好物のことを書いてほしい。既にSNSでも上がってるけど、バケモノが叫んだと書かれててもその原因は誰も書いてないからね。

 」

 わかりました、と返しました。調査レポートはホタルぽーたるに提出し、一部内容が抜粋されて新聞記事の一つになり、公式サイトでは全文掲載されます。ホタルさんもこの世界では明け墨市民が詳しいだけで他の地域では知られていない、もしくはお土産品に書かれたマスコットと捉えられています。彼らは生き物であり、自分たちのように好物を食べると喜ぶということを伝えたいと決めました。


 再び中に入るとまいはさん、トウリちゃんが待っていました。落ち着いたら催してきました。一旦トイレに入って処理してから顔をパンパンすると落ち着きました。

「2Fの書店に行きたい」とホタルさんを通してトモチカさんが言ったので2Fに上がりました。トウリちゃんは左側のアニメ関連のグッズがある店に興味津々でしたが他が右側の書店に入るので付いてきました。

 13時、書店に入りました。書店には新書やTV番組で紹介された話題の書物が入ってすぐに見え、奥に進むと資格や生物関連の専門書がございます。まいはさんは新書の小説を2分くらいでざっと読んだ後に買い物かごに入れました。「内容覚えているんですか?」と聞いたところあらすじから中盤の急展開まで話してくれました。ネタバレになるので最終局面は話していませんがこの様子だと分かっていると感じました。「どうやったらそんな短い時間で覚えられるんですか?」と聞くと「私はすぐに覚えてはすぐに忘れてしまう。でも読んだ体験は覚えてるものなの。買って読み直すと同じ体験が再び味わえる。素敵なことじゃない。人間向きの記憶の使い方が書かれた本を紹介するから紙のメモを出して」

 メモを取り出すとまいはさんの妖気で印字されました。ありがとうございます、と返すとトモチカさんから目を離していたことに気づいて「様子を見てきます」と立ち去りました。


 トモチカさんは今ホタルさんといるはず、近くに来てみると男児が罵声を浴びせていました。ホタルさんと同じくらいの背丈、165cmくらいでしょうか。トモチカさんの目を嫌悪感漂わせながら睨みつけていました。

 バケモノ!!何でいるんだよ。睨みつけて気持ち悪いんだよ。ぶつかってきてごめんなさいも言えんの。人間とは違うもんね。消えてくれよ。

 」

 私が来てすぐに母親も来ました。

 ごめんなさいね。あなたがバケモノたちのお守りなの。若いのに大変ね~。頼みたいことがあるんだけど一緒にこの建物から出てくれないかしら。

 」

 衣文はトモチカさんの前に立ってターゲットに目を合わせこう言い放ちました。

 その頼みは聞けません。ライマーシティーはあらゆる種族や事情を持った方々に開放されています。魚戸ホタルたち「まどろみみっく」と呼ばれる生物もその一員です。そして私は彼らが大好きです。

 」続けて

 私は彼らの文化を広めるプロジェクト「まどおーむ」の一員、蔦凪衣文です。

 」












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