この物語は、一つの童話から始まる。王様が一人ぼっちの少女を助けるという童話だ。そして、主人公はまさに、この童話のお姫様だった。
少女は今日も、荒廃して汚れた世界に出ていった恋人を待つ。防護服を着て帰って来る青年は、シェルターに少女を匿い、愛していた。そして少女も、青年を愛していた。崩壊した世界で迷子になっていた少女を、保護し、読み書きを教えてくれた青年は、少女にとってかけがえのない存在だった。
今日も少女は本の中の世界に浸る。そして、本の中に、一枚の銀杏の葉を見つける。誰かが残した栞だろうか。それとも崩れ行く世界の終わりに、誰かが最期に残したものだろうか。その銀杏の葉を見せた少女に、青年は——。
徐々に浮かび上がる真実と、童話のもう一つの顔。
そして、衝撃のラスト。
鮮やかに展開する物語。
是非、御一読下さい!
作者が何を描きたいのか、その焦点がハッキリと定まり、またそれが、目論見どおりに機能している稀有な作品です。
センシティブな表現や、社会通念的な危険(一義的な決め付けや誤解を呼びそう)を孕んだ内容であるため、万人に向けて声高に喧伝するのは躊躇われますが……。人間とは、社会とは、そんな単純に白黒付けられる分かり易いものじゃないよな、という成熟した精神をお持ちの方であれば、是非お薦めしたい作品です。
カクヨムはじめ、ネット小説界隈では、こういった狙い澄ました作者の意図が垣間見える作品に出合うことが稀に感じるのですが、本作は本物志向の読み手にも耐え得るものだと保証します。
こういう、しっかり創られた小説がもっと増えて欲しいものです。