戦場の英雄である私は、引き篭もりの俺を殺したい
立花和
第1話 世界ってこんなもんさ。 - ①
俺は眼前に映る文字の羅列を理解できずにいた。
作っておいたカップ麺は既に伸びきっており、携帯は先程から鳴り止まずにベッドで震えている。
「リアル・ウォーは米国の実験、ユーザーは騙されて実際の戦場をゲームだと勘違いし、本当の人を・・・・・・うっ!」
昨日から何も食べていない筈なのに、何かが腹から込み上げてくる。
階下の人間の迷惑など考えず、フローリングをバタバタと蹴りトイレへと駆け、酸っぱい胃酸を吐き出す。
やはりというか、吐き出したものには固形物らしきものは一切見当たらない。
なのに、腹から込み上げてくる謎の嫌悪感は俺を数分間襲い続けた。
「はは、はははは」
俺は便座に項垂れるように、もう何も入ってない胃から絶えず込み上げてくるナニカを抑えつつ、乾いた笑いだけを絞り出す。
「史上最悪のフェイクニュースだ」
そう思いたかった。
俺は吐き出したものを流すことも忘れ、文字通り藁にすがるかのようにキーボードを叩く。
「ここも、ここも、ここも、ここも、ここも・・・・・・」
ブツブツと何かを期待しながら、ニュースサイトを漁り続けた。日本のものだけではない、ヨーロッパ、中東、北欧、アジア、ありとあらゆる国のニュースを見ても、やはり書いてある内容は凡そ同じ。
「ゲーム内キャラの行動パターンと、衛星から観測された戦場の兵士の動きのシンクロ率が発端でバレたのか・・・・・・」
いつの間にか、人を殺していたという事実を俺は忘れられていた。というか思い出さないように、意識しないように、努めて繊細に蓋をすることに成功したと言うべきだろう。
俺の興味は何故こんなおぞましい計画がゲームリリースから3年も経って、今更露見したのか、それに尽きていた。
「それにしては、その手の噂はリリース当初から言われていたよな?」
俺はふと、国内最大手掲示板を開く。
案の定と言うべきか、掲示板の中はこの話題でもちきりのようだ。
『今回の計画が露見した件、妙じゃないか?』
そんなスレタイを見つけ、思わずクリックする。
『なんで3年もバレずに運営できていたんだ?』
『昔から妙だったよな、プロゲーマーは存在していたのに大会らしい大会は無かったし』
『リアルすぎるっていう理由でメディア露出も殆ど無かったしな』
『あんなに出来過ぎたゲームだったのに、なんのアワードも無かった』
『ほんとに好きな奴は好きだし、知ってるやつしか知らないって感じだったよな』
『俺がプレイしたのも口コミからだしな』
『そもそも無料ゲーのクオリティじゃ無かった、課金要素も申し訳程度だし、おまいら本当に一企業がやっていた事業だとおもっていたのか? 情弱乙って感じだな』
『てかこの件、事実だとしたら俺達全員人殺しって事か・・・・・・?』
そこまで読み進めて俺は反射的に閉じようとした、しかしその刹那。
書き込まれた内容に俺は釘付けになった。
『なぁ、バレてしまったんじゃなくて、バラしたんじゃないのか?』
「・・・・・・は?」
一瞬、思考が停止する。
しかし、よくよく考えてみればその考えは非常に恐ろしく、そして俺が思い浮かべる中で最も可能性が高いものだった。
弾かれたようにキーボードを叩く。
『知名度を上げる気は無かった、利益を優先している気配も無かった、大会に関してはそもそも実際の戦場を舞台にしている以上開催が困難だから。このタイミングで世間に情報が露見したのは』
そこまで打って指が止まる、しかし、抑えられなかった。この漠然とした不安、恐怖、不快感、それを誰かと共有したかった。
『計画が完了したからじゃないのか?』
俺は言ってやった! という謎の達成感と共に背中を駆ける悪寒に押されるように目を瞑る。
一瞬の事だった、目を瞑ったのは一瞬だけ。
すかさず目を開くと、掲示板は大混乱の渦中と成り果てていた。
流れ続ける文字の滝、俺はその中に一つ、何かを見た気がした。
「ちょ、まて! 今何か・・・・・・」
慌てて上の方へスクロールすると、先程『バラしたんじゃないのか?』と投稿したユーザーが俺の投稿に対して反応していた。
『面白い。興味があるならVRワールドで会おう、これは招待状のURLだ』
その投稿にはURLが添付されたいた。
「これは、VR用のURL?」
俺はそのURLをすかさずコピペし、VR用のPCフォルダに突っ込み、VRを被った。
「エデン、レディ」
音声認識で起動するVRの発熱を感じながら、一瞬途切れる意識を自覚しながら俺は電脳の海に沈んでいった。
戦場の英雄である私は、引き篭もりの俺を殺したい 立花和 @tatibanayamato
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