第2話 なんで俺が勇者に?!

武智にはこの状況を理解することはできなかった。勇者?目の前の女性は布一枚で変な王冠を被っているし、女神だって言うし、つか、ツッコミ勇者ってなんだ???


状況は飲み込めないものの、あまりにも堂々とした態度を取られている。確かに、この世のものではないような容姿をしている。俺は、恐る恐る女神を自称する者に質問した。


「えっと、俺は勇者に選ばれたのですか?」

「ええ。私が選びました。」

おお。これが俗に言う異世界転生というやつですか。


「厳選に厳選を重ねた上。見つけた。この世でツッコミ勇者を名乗るにふさわしい人材。そう!武智良太。あなたをね!君のツッコミ能力を生かして世界を救いなさい!」

女神は、そう言いながら腰に手を当て、俺の方へ指を指し決めポーズを取る。

少し、空気がシンとした後、俺は自分が思っているよりも大きな声で叫んだ。


「なんで俺やねえええええええん。」


仮面ライダーのベルトを親にねだる時以来、こんなに大きな声を出すことはなかった。


「他にも絶対おったやろ。俺は、人生この方一回もツッコんだことなんてないんだよ。関西人が誰でも彼でもツッコミできると思うなよ?こんなんお笑い芸人に任せたほうがよかったやないか。」


俺は、目を見開きながら女神に詰め寄った。そして、俺の言葉は止まらず、

「第一、俺にツッコミの適正なんかあるんか?」

女神フェナリスは、俺のあまりの豹変振りに驚きながらも

「だってあなた、自分の上司に突っ込んでいたじゃない。」

そう言いながら、俺を遠ざけようと突き放す。


「自分の上司を突っ込んだ?何の話だ?」

「あなたは死ぬ前に自分の上司の頬を平手打ちしながらちゃんと突っ込んでいたじゃない!あの鮮やかな平手打ち。そしてツッコミの瞬発力。間違いなく、100年に一度、いえ千年に一度の逸材だわ。」


目を輝かせ、俺の方を見つめるフェリナス。

何を言いてるんだこの女神は。

俺が千年に一度のツッコミの逸材だったとしたら、千年に一度のキャッチフレーズが安っぽくなっちまうよ。

橋〇〇奈も百人もいたら困るだろう?…いや困らないか。


「女神様さあ。」

「フェリナスでいいわよ?」

「じゃあ、フェリナス。お前バカだろ。」

「え、ば、馬鹿?」

フェリナスは、聴き慣れない言葉なせいか面食らっていた。


「だって馬鹿だろ。俺は、お笑い芸人でも、ましてや人とコミュニケーションを取るのが苦手な男だぞ?こんなやつをツッコミ勇者にしたって世界なんて救えるわけなんてないだろ。」


俺は俯きながら叫んだ。俺は、何もない人間なんだ。いきなり魔王を倒して、救ってくれなんて話が大きすぎて飲み込めなかった。俺なんて勇者になれば周りに迷惑をかけるに決まっている。


フェナリスは、そんな俺の手を取り、

「大丈夫です。私が見込んだ人だもの。武智良太。あなたは勇者の素質を持っている。私を信じてください。」


フェナリスは、まっすぐこちらを見る。俺はその真剣な眼差しに圧倒されてしまった。

これだけ他人に信用されるのは初めてだった。


しばらく沈黙した後、俺は口を開いた。

「わかったよ。そこまで言うなら勇者を引き受けるよ。まあ、世界を救えるかは保証できないけど。」

俺は、頬をかきながら返答した。


すると、フェナリスの表情は明るくなり、大人びた容姿からは想像できないような、子供みたいに喜んだ。

「よかった。これで世界を救えます。じゃあ早速、転送しましょう。」

そういうと、俺の方に手を向け、何やら呪文のようなモノを唱え始めた。


「待て、待て。」

俺は、フェナリスの呪文を遮った。


「勇者はいいんだけどさ。ツッコミ勇者ってなんだよ。」

勇者だったら、何か能力をもらって戦えばいいんだろうけど。ツッコミ勇者がどう戦っていくのか想像できなかった。


「大丈夫です。ただ、相手にツッコんでいれば、世界を救えるので。あと、何かわからなかった場合のため、相棒をつけときます。」

「え。」

「じゃあ、お気をつけて。」

フェナリスがそう言うと、俺の周りが光を纏い始めた。


「いや、ちゃんと説明してから転送してくれやぁぁぁあ。」


俺の悲痛な叫びはすぐ掻き消えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女神にもらったツッコミスキルを駆使して無双します。〜偏見で選ばれた勇者の苦悩〜 娥罪 多久 @kuga1209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ