女神にもらったツッコミスキルを駆使して無双します。〜偏見で選ばれた勇者の苦悩〜

娥罪 多久

第1話 ツッコミ勇者?誕生!

世間は、偏見にまみれている。男女の話を例にすると、男は逞しくなければならないとか、女の子は可愛い服を着なければならないとか。また、東京の人は冷たい人が多いとか、秋田には美人が多いとか、関西人は面白い人が多いとか、大阪人はお笑いができるとかありふれている。俺は、大阪出身の人間だが、粉物はあまり好きじゃないし、漫才もほとんど見ない。この前、主任に

「君は、関西出身なんだってね。じゃあ、面白いことできる?」

なんて無茶振りをされた。お笑い芸人じゃないんだからできるわけねーだろと心の中で絶叫しながら、

「勘弁してくださいよ〜。ははは。」

と、躱しながら仕事していた。この偏見どうにかならないものか。

偏見とは、どこに行ってもそれは変わらないらしい。


上司も友達でも女神でさえも。


「武智良太くん。君をツッコミ勇者に任命します。」

「は?」


疑問が頭の中を駆け巡るが理解不能すぎてシャットアウトしてしまうのだった。





1時間前のこと。残業がやっと終わり、一息ついた。

週末の金曜日。社会人の金曜日といえば、みんな華金だと言って飲みに行くことが多い。だが俺は、生憎東京に引っ越してから一人も友人というものができなかった。

やっぱコミュニケーション能力が低いからなのか。

人当たりが良いって大事だからな。俺はそんなことを考えながら家路をトボトボ歩いていた。


コンビニでお弁当を買い、晩酌用の缶チューハイを持ち家に帰ろうとするその時。

「キャーーーーー。」

女性の甲高い声が聞こえてきた。

怖い感情とは裏腹に俺は、その声の方に走り始めた。

「横の公園か。」

コンビニの横に小さな公園がある。そこは、この時間人通りは少ない。

公園の入り口を抜けると男が女性に馬乗りになっていた。


「おい。喋るな。大人しくしてろ。」

男は、女性を怒鳴りつける。これはレ○プ現場に鉢合わせてしまったのか。

俺は、ゆっくり男に近づいて行った。

雲に隠れていた月に照らされて男のシルエットが見えてくる。


「は?」

俺は思わず声を出してしまった。

その男は、上下赤のジャージを纏っていたからだった。

え、なんで黒の服着ないの?普通そんな目立つ格好で罪を犯そうとするか?

脳内が?状態になりながらも男の襟を掴み思いっきり引っ張った。

「あんた何してんだ。もう警察呼んだからな。」

俺は素早く女の人の前に入る。俺に後ろに引っ張られた男は、体勢を崩して尻餅をついた。

その男を見ると俺は体が動き出していた。


「お前部長なんかいぃぃ。」

俺は、気付いたら男の頬を平手打ちで打っていた。部長は横に1.5メートルほど吹っ飛んだ。

今まで人生で人を殴ったことも突っ込んだこともない俺は自分自身の行動に驚く反面、

手に残る痛みと熱はそんなに悪いものではなかった。


「助けてくれてありがとうございます。」

後ろの女性が震えた声で話しかけてきた。


「当然のことをしたまでです。それよりお怪我はありませんか?」

「すぐに助けてくださったので怪我とか何もないです。本当にありがとうございます。失礼ですけど、お名前伺ってもいいですか?」

女性は顔を赤らめながら聞いてきた。女性の表情にドキッとしながらも

「俺は、武智良太っていいまっ…」

言い終わらないうちに後ろに痛みが走った。

「武智。お前、よくも思い切り殴ってくれたな。」

部長が俺の背中にナイフで刺したのがわかった。背中が熱い。俺は、その場に倒れ込んでしまう。

「お前が悪いのだからな。お前が俺の週末の楽しみを奪ったから。」

俺の背中に馬乗りになり、何度も背中にナイフを突き刺した。

俺は、意識が遠いていく。部長。お前最悪な上司だな。意識が深く吸い込まれていく感覚になりながら俺は眠りについた。



目を覚ますと俺は、異空間のようななんとも形容し難い部屋に座らされていた。

目の前には美しく妖艶な女性が座っていた。

「お、気がついた?」

風鈴の音のような軽やかな声の主が俺に気遣っているようだった。

「えっと、ここは?」

俺は恐る恐る聞く。

「んー。死後の世界的な?そんな感じ。」

軽いなノリが。容姿や声と異なりなんか悪く言えば馬鹿な空気をこの女性から感じるのは気のせいか。

「私は、女神フェナリス。美と智を司る女神です。武智良太。あなたは勇者に選ばれました。これからツッコミ勇者として魔王を倒しに行くのです。」

「はぁぁああ?」

武智の声が部屋全体に響き渡った。

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