6.宇和海
「でも、マスター。この店の中に、俺の知ってる『宇和海』とは根本的に違ってることがあるよ」
「はい、なんでしょう」
「昔、俺が通ってた『宇和海』は、ママとちょっとかわいい女の子がやってたんだ。カウンターの向こうにいるのは女二人だったよ。マスターのような男ではなかったよ」
竜也は勝ち誇ったように言った。これはマスターが真似できないことだろう。竜也はマスターが頭をかいて参りましたというのを待った。これで俺の勝ちだ。
マスターは頭をかかなかった。
「お二人とも亡くなっています。ここへ呼ぶことはできません」
「亡くなっている? 本当かい。ママは確か・・・」
「ママの和代さんですね。お亡くなりになりました」
「では、あの若い・・・」
「ええ、真希ちゃんですね。真希ちゃんも亡くなりました」
そうだ。和代に真希だった。しかし、亡くなったのか!
「真希ちゃんも亡くなったのかい。いつ?」
「ええ。お二人とも30年前に亡くなりました」
「30年前?」
「ええ」
「それは、二人一緒に死んだということかい?」
「ええ、そうです」
「どうして、二人一緒に? まさか店が火事にでもなって、二人が焼け死んだっていうんじゃないだろうな?」
「そのとおりです。お二人一緒に火事で焼かれました」
「事故かい? それは不幸だったな」
「いいえ。事故ではありません。栗瀬竜也さん。あなたが二人を殺して店に火をつけたんですよ」
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