5.つまみ

 そうだ。何とかして『宇和海』に無いものを見つけてやろう。そして、マスターの鼻をへし折ってやろう。


 灰皿に灰を落としながら竜也は言った。


 「マスター。何かおつまみない?」


 マスターが黙って小皿を竜也の前に差し出した。レーズンバターの角切りと氷が乗っていた。竜也の好物だった。レーズンバターをつまみながら竜也は聞いた。


 「マスター。ほかにおつまみは何があるの?」


 「後はおつまみと言っても、乾き物しかありませんが」


 「ああ、それでいいよ」


 マスターがまた小皿を二つ差し出した。裂きイカと醤油だった。竜也は裂きイカをマヨネーズではなくて醤油につけて食べるのが好きだった。


 「マスター。出前でも取ってくれよ」


 「当店は出前は取りません。店が汚れますんで」


 思い出した。『宇和海』もそうだった。ママがきれい好きで、出前を取ると店が汚れるというのだ。つまみに乾き物しか出さないのも店を汚さないためだった。


 『宇和海』と同じだ。竜也はあせった・・・そうだ。一つだけマスターが『宇和海』を真似できないものがあった。竜也はそれを勇んで口にした。

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