4.想い出

 竜也はマスターに聞いた。


 「マスター。記憶屋って何なの?」


 「お客様の想い出に合わせて内装を変えるんですよ」


 おもしろい。竜也はこのマスターのたわいない冗談に付き合おうと思った。どうせ今夜は特に当てもないのだ。


 「すると何かい。マスター。この店は俺の知ってる『宇和海』だというのかい?」


 「ええ。そうです」


 竜也は店内を見まわした。そういえば、『宇和海』もこんな感じだった。いつも客がいなかった。


 「マスター。カラオケは置いてないの?」


 「ええ。お客様の想い出のとおりです」


 思い出した。『宇和海』もカラオケがなかった。竜也はカラオケが苦手だった。『宇和海』に通い詰めた理由の一つが、カラオケがないことだった。


 たばこもカラオケも『宇和海』と同じだ。


 これはどうしたことだろう? マスターは、俺が『宇和海』に通っていたときの話を誰かに聞いて、いたずらを仕掛けているんだろうか? 竜也の頭に昨日一緒に飲んだ悪友の何人かの顔が思い浮かんだ。


 マスターは眼の前でにこやかに笑っている。

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