第33話 エンドロール
純一がいなくなって一週間。
兄に渡したペンダントは特殊なもの。
気づかれた様子はないが、それでも連絡がないのはそわそわしてしまう。
「伝令!」
隣の玉座に腰をかけているクラミーが顔を上げる。
「何事だ?」
「アージェント領からの小麦の買い付け、とのことで連絡が来ました」
「ほう。やってくれたな、ジュウイチ」
お兄ちゃんの功績だ!
これで冬ごもりがなんとかこなせるだろう。
そこまで考えて旅に出たのは妹としても鼻が高い。
▽▼▽
しかし、俺様は死んでいない。まだ再起の可能性があると思っている。
ランスロットはこの俺様の庭だ。
行く行くは奴隷に武装をさせて軍隊を作るつもりだ。
そして隣の領であるアージェントの領地を奪う。
近隣の領地を奪い、俺様のものにする。
俺様の計画は完璧だった。
しかしながら、俺様は一度死んだはず。
だが、こうして生きている。
否、
趣味の悪い紫色のローブを着ており、首回りには宝石のネックレスを付けている。
「我の名はディメル。お主を配下に加えよう」
かたかたと笑うランスロット。
「それもいいな。いずれ俺様がお前を支配下に置いてやる。それまでは一睡もできないと思え!」
「いひひ。これでもお主を信じている。それにそのときは勝ち目はない」
「うっ」
ランスロットは自分の実力を知っている。頭脳を使う戦いならいざ知らず、取っ組み合いには自信のないランスロットだった。
「これを見よ」
そう言ってディメルは後ろ手に隠した鎌をとりだす。
「!? それは……!?」
驚きの声を上げるランスロット。
「ああ。
この
これにより精神的に耐えられなくなった者は多い。
そして持ち手の精神すらも摩耗させていく。夢を見るときに多くの情報を整理するためか所持者の夢を悪夢へと変える。
それだけも協力な武器だが、背丈ほどもある鎌だ。扱うのが難しいのだ。
それにしても悪夢を見るのが欠点か――不眠不休のアンデットであるこのディメルには意味のない話だ。
寝ることがなくなったからな。
死にたくとも死ねないしな。
ならこの世界をもっと面白くしてやろうじゃないか。
悲劇のヒロイン。墜ちるヒーロー。内乱。
その想像をしただけでも、クツクツと嗤いが漏れてくる。
しかしながら、俺様はどうすればいいのだ。アンデットになった今、その本心を知りたい。
「なあ、なんで俺様を配下に加えようとする?」
「いいじゃない。仇討ちができるかもよ?」
「……ほうそれは面白い」
俺様は満足げに呟く。
「そうそう。君の三銃士。彼らもアンデットとして復活させたから」
「なに? それは面白くなりそうだぜ……!」
雷吼、オービス、ヘンリルの三人がディメルの陰から身体を浮き上がらせる。
「我ら三人衆」「ディメル様の言葉より」「復活せし者」
三人が顔を伏せて王にするそのポーズをとる。
ただし、ランスロット王ではなく、このディメルとかいう得体の知れない男に向けて。
それが我慢ならない。
「俺様が王だぞ!」
「残念ながらあなたはもう王ではないですよ」
ディメルが錫杖を振るうと、一瞬にして
オオサンショウウオみたいな陰が、紅い双眸をたたえ、わしゃわしゃと動き出す。
「くくく。これであなたの記憶はなくなった。壊れた魂だけの存在――それは肉体を求める死者と同じこと」
瘴気に満ちた
「さあ。今度は我の言うことを聴いてもらいますよ。三銃士さん、それにランスロット」
「
過去を知らねば分からぬ、常識人と思われがちな三銃士。
その中でも特に雷吼の生前は波乱だったと言えよう。
だが、そんなことは関係ない。
我の力で雷吼も、アンデット化したのだ。余計なことを思い出す必要はない。
それが戦闘兵器というもの。
我の軍の一部を任せられるというもの。
彼らの考えや技術は、とても魅力的だったのだ。
ランスロットが
この状況ではあのジュンイチを倒すのは難しいだろう。
あいつの類い希なる力の前に、我々は屈するしかなかった。
このアージ国最大の守人・三銃士ですら勝ち目がなかったのだ。
これはどうしたものか。
鎌を持ちながら、辺りをうろうろする。
と、足下が抜け、我は落とし穴にはまる。
「やった! 捕まえた!」
そう言って飛び出す少年。
「……あれ。人かよ……」
残念そうに呟くことから、イノシシやシカを想定していたのだろう。
「悪いな。人間で」
「す、すみません。ぼくはただ食糧が欲しくて」
ガリガリに痩せた子。血管や骨が浮き彫りになっており、見ていて痛々しい。
「お主、
「え。どういう――」
我はその痩せ男を捕まえると、魔方陣を起動させ、血を分け与える。
盤上の囮。支配の象徴。使役完了。
これで我の眷属がまた一人増えた。
クツクツと嗤うと、俺は大鎌を手にし、眷属を増やす度に出た。
▽▼▽
「しかしまたかのう」
「まただな」
アイラが気になった木の実をとりに行って小一時間。
まだ帰ってこない。
前回はお花畑で昼寝をしていた。
今回は?
歩いていくと、そこには木の実をもしゃもしゃと食べるアイラがいた。
「これ。わしらの分も持ってくる約束じゃったじゃろ?」
「うん☆ ごめんなさい★ お腹空いちゃって☆」
「そんなことは――」
ぐぅううと鳴る俺の腹の虫。
「お腹空いているの? ☆」
そう言って木の実を出してくれるアイラ。
「あ、ありがとう」
実は昨日の夜に食糧が尽きた。
最短ルートで行っているため、一度よるべきだった街を無視した。それが痛手になった。
食糧はなんとかなるだろう、と。甘い考えだった。
でもお陰でおいしい木の実にありつけた。
殻が固く、中身は甘くて柔らかな果肉だった。
「それ、獣人以外には毒じゃぞ?」
アイシアが隣でじっと目を向けてくる。
「え。俺、どうなるの?」
「大丈夫じゃ。二日間の下痢と吐き気、そして疲労感を覚えるだけじゃ」
「それって十分恐ろしいんだけど!?」
腹を満たしてしまった俺はあと何分でそうなるんだ?
もう死ぬのは嫌だ。
いくら能力が増える能力があるからと言って、こんな終わりは嫌だ!
▽▼▽
俺は物心ついたときから人とは違うと感じてきた。
それがなんなのかは分からない。
でも人と違うんだと意識して生きてきた。
俺は他人とは違う。
一人だけ孤立しているかのような感覚。
そんな俺についてこられたのが波瑠だ。
そのあとも人とのコミュニケーションは苦労した。
齢二十六にしてようやく彼女ができた。
その子は可愛く、家事もできる――が、浮気し、俺の前から立ち去った。
俺は怒り狂った。
ちょうど、その頃、波瑠が性的暴行を受けた。帰ってきてみると、神妙な面持ちで、父と母が怒りを露わにしていた。警察官もタジタジになりながら、訪ねてくる。
俺はこの世界に神はいないのだと悟った。
受験のときの腹痛も、学園祭での火事も、運動会での竜巻も。
みんな俺の不幸体質に引き寄せられている気がした。
俺は不幸だ。
目を開けると俺はすぐに吐き気を感じ、戻す。
ここ二日。
下痢と吐き気がひどい。
アイシアの持ってきた水を飲み、脱水症状を防ぐ。
「死にはしないから安心なさい」
死なないと増えない能力か。
波瑠みたいに普通の能力を得るべきだったな。
しかし、魔王や勇者はどこにいるのだろうか?
この世界で、能力を増やせる能力を持っているのは俺だけだ。
勇者になりえる素質だ。
まあいい。俺はこの世界で成り上がってやる。
~Fin ?~
女神により異世界転移することになって、一つだけ能力がもらえるらしいから、《能力》を増やす《能力》をもらうことにした。 ~不運な俺を笑いやがって。ざまぁwww成り上がってやるぜ~ 夕日ゆうや @PT03wing
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