第28話

 一月五日。

 とある小学校で殺人事件が起きた。

 屋上で女性が死んでいた。

 刃物で胸を一突き。

 即死だった。


 被害者は、月乃 里子さん(62)。

 彼女は五〇年もまえに、同小学校で行方不明になった女性だった。

 今までどこでどのようにすごしてきたのか、どうして小学校にいたのか、一切不明。親族の類も、すでに他界しているか、あるいはみつからなかった。


 子供とおなじほどの身長しかなかったが、その顔には年齢が刻みこまれていた。だが、複数人いた鑑識たちがのべた彼女の顔の印象は、なぜか一致しなかった。

 とあるものは、ウサギのような顔といい、べつのものは、絵画のような女性といい、またべつのものは、どこにでもいるおばあちゃんといった。


 彼女は赤色のランドセルをだきしめて、死んでいた。

 とても古いランドセルで、劣化がひどく、ボロボロで、なぜ壊れていないのか、謎だという。




 容疑者は多田野 敦彦(23)。

 彼はこの学校の近所のマンションにすむ、ニートであった。

 親はタダノ不動産の重役であり、親の金をあてにして生活していたとおもわれる。

 部屋を調査したところ、昨年クリスマスにおきた、少女誘拐事件の容疑者であることも判明した。暴行をしたとおもわれる痕跡、さらには、少女を盗撮した写真が、部屋から大量にみつかった。

 彼は逮捕される時、奇妙なことをくちばしっていた。

「聖女様の罪滅ぼしの瞳を返せ、オマエがまたうばったんだ」

 動機について、ひきつづき事情聴取をおこなっているが、重度の精神錯乱がみられるため、捜査は難航している。


 行方不明になった少女は、一月一日になんの前触れもなく、自宅にかえってきた。

 その前日の大みそかの日、多田野はなぜか家を離れ、少女の通う小学校を訪れていたらしい。(理由をたずねても、彼はよくわからない文言をくりかえすだけで、要領を得ない)その間に少女は部屋から脱出したと警察は推測しているが、家を離れていた、一週間の記憶はなにもないという。


 少女にカウンセリングをうけさせつつ、ひきつづき事件解決のため、事情聴取を行う予定だ。

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