第193話 新年はダンジョンで 1


 五日間のバカンスなので、三人の荷物はかなりの量となったが、美沙には【アイテムボックス】スキルがある。


「足りなくなるくらいなら、たくさん持って行っちゃおう!」


 スキルレベルが上がったのか、収納容量にはかなりの余裕があるので、食料はもちろん娯楽品も片端から【アイテムボックス】に放り込んだ。


「ニワトリと畑のお世話はスライムくんたちに任せたわよ」


 天気予報では大雪の予報はなかったけれど、念のためにいつもより多めの十匹のスライムたちに留守を任せた。

 自動給餌器と水瓶は用意してあるが、不測の事態を想定して、予備の餌やポーション水をスライムたちには預けてある。

 暖を取るための火鉢の準備もバッチリだ。

 裏山から伐採した木材から作った炭も大量にあるので、ニワトリたちが凍えることもないだろう。


「あとは、これ! マジックポーチを預けておくわね」


 お留守番組の代表スライムくんに手渡したのは、収納の魔導具──マジックポーチだ。

 ブランが愛用している物と同じタイプの物である。

 これはダンジョンでドロップしたものではなく、こつこつと貯めていたポイントで購入した。

 『幸運のラビットフット』と交換するために貯めていたポイントだが、先に実用品を手に入れることにしたのだ。

 

「収穫した野菜や果物を、この中に入れておいてね。そうしたら傷まないから」


 せっかくの収穫物がダメになるのは辛いので、ポイントで購入することを選んだ。

 ちなみに北条兄妹にも共用のマジックバッグを手に入れてある。

 これで、我が家には収納用の魔道具が四つになった。

 甲斐が帰省用に使っているリュック型のマジックバックはドロップアイテム。

 同じくドロップしたストレージバングルはブランが装着して、狩りの際に活用してもらっている。

 ポーチ型のマジックバックは晶が鹿革リュックに縫い付けて使うことにしたようだ。


「リュックの方が、外で使っても違和感がないかと思って」

「それはそう。ポーチより大きな物を取り出せなくなっちゃうものね」


 ショッピングの際にも活用するつもりの晶はリュックの出来上がりに満足そうに微笑んでいる。

 ポーチよりもリュック型の方が収納容量は大きいようだが、それでも納屋一軒分は収納ができるので問題ないようだ。


「私の荷物が多くなっちゃったわね」

「カナさんはお休み中も動画の撮影をするんですよね? 撮影機材や調理器具が必要だし、仕方ないですよ」


 どれも一瞬で収納できるので、たいして負担でもない。

 ノアさん用のキャットフードにおやつ、おもちゃなども持ち込んで、いざダンジョンへ。



◇◆◇



「十一階層にとうちゃーく!」


 転移扉のおかげで、一瞬で南国の島に到着する。

 夜のダンジョンは物騒だが、こちらには光属性の魔法使いがいる。

 ライトの魔法を使ってくれたおかげで、拠点予定の水上コテージまでは苦もなく辿り着けた。

 月明かりで薄ぼんやりと見えてはいたが、足元が明るいとホッとする。

 ちなみに、我が家の頼もしき守護神たち──ブランとノアさんは夜目がきくため、率先して襲いかかってくるビッグクラブを倒してくれた。

 明日はカニを食べよう。


 いつもの砂浜にバスハウスを置いて、今日はそのまま眠ることにした。

 バスハウス内で着替えて、水上コテージに向かう。

 ちなみにブランは拠点まで送ってくれた後、姿を消した。

 どうやら、他の階層へ狩りに出掛けたようだ。

 最近は九階層のブラックサーペントと十階層のオーク狩りにハマっているらしく、大量の蛇肉と豚肉(もどき)をお土産に持って帰ってくれる。

 同じく夜行性のはずのノアさんはお気に入りのハンギングチェアに横たわって、すでに夢の中の住人だ。

 寄せては返す波の音を子守唄にして、美沙も心地よい眠りに身を委ねた。



◇◆◇



 いつもより遅い時間に目が覚めた。

 休暇中のため、スマホのアラームはオフにしてある。

 畑の世話や朝食の準備があるため、毎朝遅くても六時には起きていたのに、すっかり熟睡してしまった。

 おかげで目覚めは爽やかだ。

 ベッドの上で伸びをして、ふと気付くと隣で眠っていた二人がいない。


「やばっ、寝過ごした……っ?」


 慌てて飛び起きて、人の気配がないのを良いことに急いで着替えた。

 パジャマがわりのTシャツとハーフパンツを脱ぎ捨てて、ワンピースを頭からかぶる。

 ちなみにこれも晶が作ってくれた、空色のワンピースだ。ふんわり優雅なドレープを描く、お気に入りの一着。


「あら、もう起きたの? ゆっくりしていて良かったのに」


 にこやかに出迎えてくれたのは、奏多だ。

 昨夜のうちに【アイテムボックス】から取り出しておいた調理器具を使って、朝食を作ってくれている。


「おはようございます、カナさん。すみません、すぐに手伝います!」

「いいわよ。もう完成したし。ほら、座って」

「ううう……朝食の担当は私だったのに」


 テーブルにはホットサンドが並んでいる。

 鶏ハムと玉子、レタスとトマトを挟んだシンプルだけど美味しそうなサンドイッチだ。

 

「ふふっ。バカンスの間はそんなの気にしなくていいわ。今朝は目覚めがすごく良かったから、久しぶりに朝食を作ってみたのよ。材料が少なくてこれだけしか用意ができなかったんだけど……」


 謙遜する奏多に、美沙は慌てて首を振った。


「そんなことないです! 美味しそうですっ。……というか、食材は私が収納していましたよね?」 

「ああ。マジックバックに念のために収納しておいた食材を使ったのよ」


 兄妹共用のマジックバックをさっそく使いこなしていたようだ。


「もう少し食材や調味料は入れておいた方がいいわね。もしもの時のために」

「もしもの時って? ダンジョンで遭難ですか」

「んーそうねぇ。異世界に転移したりとか?」

「なんですかそれ」

「あら、だって、我が家にはダンジョンがあるのよ? もう充分ファンタジーな世界じゃない?」


 くすくすと笑いながら、奏多がインスタントコーヒーを入れてくれる。

 心得た美沙は【アイテムボックス】から取り出した氷をたっぷりと投入して、アイスコーヒーにした。

 ついでに冷えたジュースも取り出して、テーブルに置いた。


「そういえば、アキラさんは……」

「ああ、アキラちゃんは……いま、帰ってきたわ。おかえりなさい」

「ただいま、カナ兄。ミサさんもおはようございます。フルーツを採ってきました」


 朝からジャングルに踏み入って、マンゴーとバナナをもいできてくれたようだ。

 海を眺めながら、三人でのんびりと美味しい朝食を堪能する。


「今日がお正月って、忘れちゃいそうな光景だなー」

「……やだわ、そういえばお正月じゃない。お雑煮を作るのをすっかり忘れていたわ」


 奏多にしては珍しいウッカリだ。

 落ち着いて見えたが、お正月バカンスに彼も浮かれていたのだろう。


「お昼にお雑煮を食べましょうよ。お二人のところは、どんなお雑煮なんですか?」


 話題に困ったら、雑煮をネタにすればいいと誰かが言っていたことをふいに思い出す。

 それだけ雑煮はそれぞれの出身地によってバラエティに富んでいるのだ。


「うちは白味噌仕立てね。お餅は丸餅」

「白味噌! 食べてみたいです」

「ミサさんのところは違うんですか?」

「うちはおばあちゃんの好みで、白だしのお雑煮だったよ。鶏肉と野菜がごろっと入っているやつ」

「それも美味しいわよね。いっそ、二種類作りましょうか?」

「え、嬉しい! いいんです?」


 二種類のお雑煮を食べ比べできるなんて、贅沢なお正月だ。


「いいわよ。というか、これ動画にできそうね?」

「東西のお雑煮ネタいいと思います!」


 お節料理作りの動画は予約してあるので、バカンス中にアップされる。

 見応えのある内容なので、楽しみだ。



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【書籍化】ダンジョン付き古民家シェアハウス 猫野美羽 @itsuki1010

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