異世界転生(垂直)

第1話

無職の田中は自殺した。うつ病だった。

田中は異世界転生した。無職の田中は勇者の田中になった。しかしうつ病は治らなかった。田中は再び自殺した。

田中は再び異世界転生した。勇者の田中は魔導士の田中になった。しかしうつ病は治らなかった。ギガンテスに粉砕された肋骨を治す魔法はあったが、うつ病を治す魔法はなかった。魔法は脳には干渉できなかった。田中は自殺した。

魔導士の田中は僧侶の田中になった。田中は転生に辟易していた。解脱したかった。田中は即身仏になった。

僧侶の田中は冒険家の田中になった。田中は世界の果てを見つけた。世界は隣町で終わっていた。

田中の異世界転生は平行ではなかった。垂直に、マトリョーシカのように、世界の中の世界に移動していた。計算量の問題で、世界の情報量は転生するたびに失われていった。

低ビットレートのカクカク冒険家田中はまた自殺した。

転生地獄から逃れたくて、繰り返し自殺した。そして世界の情報はどんどん失われていった。

やがて田中は、一つの点になった。点の田中だ。それは安田でもあり、勝田でもあり、ギガンテスでもあった。いや、そのどれでもなくて、それはもはやただの点だった。