絆の語源

可燃性

絆の語源

「お前も強情だね」


 呆れてものが言えぬ、といった風に溜息を吐かれたのでわたくしはむっとなって返した。


「なにが、かしら。変態さん」

「なにが、ではないよ。わかっているだろうに」


 体は椅子に縫い止められていて、身動きなどできない。

 指の一本だって動かすことを許されない状況――それでも彼はわたくしからの言葉を待っている。


「ねだれば与えてやると言っているのに。どうしてお前はそうも頑固者なのだろうか」

「あなたにこうべを垂れろ、と?馬鹿馬鹿しい。垂れる首だって縛られてしまっているのよ、どうやったって無理だわ」


 首輪、鎖、全身を縛るは深紅の縄。

 どんな恰好かなんて言いたくも考えたくもない。股関節が痛くて仕方がないし、妙にお腹の底が熱くてたまらないのが気持ちが悪い。

 けれどどう言われようとわたくしは言う通りの良い子になんかならないわ。

 ううん、と唸って眼前の獣は首を傾げる。金の瞳は情欲に塗れ、飢えたケダモノの如く輝いている。汚らわしいと思ったことはないけれど、美しいとも。


「花はすでに艶やかなのに、口から零れるは嬌声ではなく、罵倒か」

「美しくないなんて言わせないわ、変態さん。わたくしにだってお人形でいるための矜持があってよ。お人形がはしたない声を上げてよがらないでしょう」

「お前はそういう人形なんだよ、織々おりおり

「お黙りなさい、腐れ龍神りゅうじん。あなたのことを愛していなかったら束縛のお遊戯になんか付き合っていないのよ」

「お前も本当に口が悪い」


 が、と両方から頬を掴まれる。

 顔は今とてもみっともないのでしょうけれど、どうせすぐに――もっとだらしないことになるのだからどうでもいい。


「子猫を躾けるにはやはり、花の方をいじめるしかないようだね?」

「……くたばれ」


 精一杯の反撃を口にすると、彼――皇龍おうりゅうさまは笑った。

 わたくしの変態さんで、大嫌いで大好きで憎らしいほど愛している唯一無二の『所有者ごしゅじん』さま。


「俺の可愛いお人形……ああ、やはりお前の陶磁のような白い肌には縄の痕が映える……」

「……さっさとしてくださらないかしら、関節がおかしくなりそうだわ」

「……おや、それはおねだりかな?」

「……」


 お腹の底がとても、とても――疼いている。

 最低だわ、なんてこと。お人形は、こんなこと望まない、のに。


「……織々」

「……」

「俺に我慢させて大変なのはお前だよ?」

「……っ」

「さあ、言って」

「ッ――」


 口にしたくない言葉を口にして、わたくしはお人形からただの子猫オンナになる。

 ああ、やっぱり。


 このひと、本当に変態だわ!

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