【短編998文字】魔女からの手紙 『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

『私は一〇〇〇年生きた魔女です。とうとう寿命を迎える時が来ました』



 ……という手紙が少年の元に届きました。



 もちろん彼に魔女の友人はいません。ましてや一〇〇〇年生きた魔女なんて。

 文字からは大人びているが何処か少女のようなあどけなさが伺えました。


『魔法も使えます。その対価として視力と聴力、そして感情を天に捧げました』


『そのおかげで目はありませんが景色を楽しめます。耳はないがクラシックが好きです』


『しかし、感情がないので恋は出来ません。だけど、最期に恋を味わってみたいのです』


『友人も、仲間も、家族もいません。一〇〇〇年間、自ら望んで独りでいました』


『他人が嫌いで、繋がりが嫌いで、何より自分が嫌いでした。だけど恋をしてみたい』


『今から心にもない事を言います。好きです。会った事も話した事もないあなたが』



 手紙はそこで終わっています。しかし、少年はそこでふと思いました――。

 きっと隣に住む悪戯好きな幼馴染の少女の仕業だと思った少年はペンを手に取ります。

 ならばこちらはこれまでずっと隠していた本心を書いてやろう、と少年は思いました。

 これまで散々悪戯された仕返しとばかりに。


『お手紙ありがとうございます。だけどあなたの思いには応えられません』


『僕には昔から心に決めた人がいます。その娘は幼馴染で悪戯の好きな女の子です』


『彼女は鈍感で全く僕の好意には気付いていませんが、それでも好きです。だけど――』


『彼女に出会う前にあなたと出会えていたら、きっとあなたに恋をしていたと思います』


『素敵な手紙をありがとう』


『素敵な言葉をありがとう』


『好きになってくれてありがとう』


『恋をしてくれてありがとう』


 少年は手紙を封筒に込めて、緊張した面持ちで彼女の家のポストまで歩いていきます。

 しかし、結局尻込みしてしまって手紙を投函できませんでした。


「こんなんだからいつまで経っても進展しないんだろうな…… ハハハ」


 少年はヤケクソとばかりに『一〇〇〇年生きた魔女さんへ』とだけ封筒に書き、

 宛先も差出人である自分の名と住所も書かずに郵便ポストに入れました。



 しかし、少年は知りません。



 その手紙が国境を越える事を。山を越え、海を越え、彼女の元に届く事を。


 返事を受け取った彼女が手紙を読み、笑いながら泣き、泣きながら笑う事を。


 感情を失くしたはずの彼女が心の底から少年に感謝していた事を。



 生命の灯火が消えるその瞬間―― 彼女が失恋を知った事を。

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【短編998文字】魔女からの手紙 『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

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