第7話 金髪王女と赤毛の女騎士

 土曜の十時頃、どの店も開店する時間帯にぶつぶつと呟きながら仁は歩く。


 「たまの休みくらいは一人でいたいからなぁ……」


 ルーシーと婚約関係を結んだことで同棲しており、新居で怠惰な生活を送ることができなかった。


 その不満を少しでも発散させるために外出している。


 「それにしても、土日ってのはバカみたいにカップルが多いなぁ……モテないオタク男子の俺への当てつけか?」


 カップルがイチャイチャ街中を歩いているのを見た仁は俯きながら自意識過剰になっていた。


 突如、叫び声が聞こえた。


 「その手を離しなさい!」


 しつこいナンパに絡まれていると思った仁はすぐさま顔を見上げ叫び声が聞こえる方へと駆けつける。


 そこにはルーシーのような綺麗な長い金髪の白人少女が黒服の男に手を引っ張られていた。


 「なんだ、どこぞのお嬢様だかお姫様がお屋敷抜け出して連れ戻されてるパターンか。帰ってクソでもして寝るか……」


 仁はすぐさま状況を把握し、唖然としながら踵を返す。


 「ひっ、姫様!」


 少女は黒服に掴まれた手を振り解き仁の方へと駆けつけ、腕に抱きつく。


 「お願い、この人から私を……」


 「冗談じゃあない!絶対俺冤罪かけられるパターンだろ?嫌だよ!離れろよ!」

 

 力づくでも離れようとしない少女を引き離そうとすると黒服の男は血相を変えながら近づく。


 「貴様、姫様から離れんか!」


 「いやっ、俺は何も……」


 仁は黒服の男に顔面を殴られる。


 サングラスが壊れてないか確認し、仁は歯を食いしばりトンファーを"召喚"した。


 「てっ、てめぇ!」


 頭に血がのぼった仁は"召喚"したトンファーで黒服の男を殴り返し、膝から崩れ落ちた隙にみぞおちを蹴る。


 蹲った男を踏みつけとどめに顔面をサッカーボールのように勢いよく蹴り上げ、男は鼻血を出しながら吹き飛んだ。


 「十年早ぇんだよ、おっさん!」


 捨て台詞を吐きながら立ち去ろうとすると少女はまた仁に近づく。


 「おいおい、あんたが余計なことをしなきゃこんなことには……」


 「ごめんなさい……でも、私……普段は学校以外でお外に出ることがあまりなかったから……その、お詫びいたしますので今日はこの街を案内してくれませんか?」


 少女は上目遣いで仁に懇願する。


 「うん、絶対嫌だ!」


 即答だ。


 早くこの場から立ち去り、ほとぼりが冷めるまで大人しくしておきたいからだ。


 「自己紹介を忘れていたわね。私はエミリア。エミリア・ヴィクトリア・ローズ・グィネヴィア・キャメロット・カートレット。ご覧の通りキャメロット国第十王女よ」


 「ジョルノ。ジョルノ・エンキドゥ・アントワネット。日本ではまた別の名で生活してるがこれが俺の本名だ。それにしてもエミリア王女、随分と日本語がお上手で……」


 「エミリアでいいわ、ジョルノ。王女とは言っても序列的に王位継承することはないから、それでも学校の日以外は退屈だわ……。外出するにも護衛が必要だし、どこに行くかまで細かく確認されるのよ!たまにこうやって抜け出したりはしてるんだけどいつもああやって連れ戻されるの。だからジョルノ、私が知らないこといっぱい教えて!」


 「そうか、エミリアは色々大変なのか……。だがお断りさせていただく!」


 エミリアの家庭の事情を理解しつつも協力する気にはなれなかった。


 全速力で走り、エミリアから距離を置く。


 エミリアも仁を追いかける、思った以上に足が速く、このままでは追いつかれそうになったため、自転車を"召喚"した。


 自転車に乗り、ペダルを目一杯漕いだ。


 ギア付きのママチャリではあるが最高速度を考えれば世界クラスの陸上選手でもない限り追いつくのは無理だろう。


 流石のエミリアも自転車には追いつけないのか距離は段々と離れていく。


 そのまま新居へと戻り鍵を閉める。


 「ハァっ、ハァ……あの女、確かエミリアって言ってたな?自転車を魔術で召喚できなければ今頃有る事無い事難癖つけられて護衛とかに捕まって冤罪かけられるとこだったぜ……」


 息を荒げながら玄関にブーツを脱ぎ散らかしそのまま部屋に戻ろうとした。


 「どうしたの?」


 「何でもないよルーシー、黒服に連れ戻されそうになった姫様と成り行きだがその黒服をぶちのめしちゃってよ……冤罪かけられて死にたくないから逃げてきたんだよ……」


 ルーシーは何かを察したかのように頭を抱えながらため息を吐く。


 「もしかして、そのお姫様って……エミリアのことじゃ……」


 「そうそう、ルーシーよく知ってるな。確かにエミリアって言ってたな。ルーシーを天真爛漫にした感じのめんどくさそうな女だ。あの黒服野郎、俺を誘拐犯か何かと勘違いして殴りやがったからボコボコにしてやった」


 「その話、詳しく聞かせて貰えませんか?」


 ルーシーとはまた別の声が聞こえてきた。


 「誰だ?」


 ルーシーの後ろから赤毛の高身長の女性が現れる。


 「自己紹介が忘れていましたね。私はブーディカ。エミリア様の近衛隊長を務めている者です。それで、私の部下があなたを誘拐犯と勘違いして殴られたからやり返したと?その部下の報告によれば『エミリア王女を返して欲しければ身代金を用意しろ!』とのことでしたが?」


 「それは嘘だ!そもそも俺は名前聞かれるまで彼女がエミリアって王女だってこと知らなかったし……それに、彼女といたら冤罪かけられる可能性もあったからね。今頃彼女はお屋敷か俺かあんたを探してるんじゃないのか?」


 「しかし、私は君の言葉を信用するわけにはいかない」


 ブーディカは仁の証言をまるっきり信じていなかった。


 「エミリア様は今どこに?」


 「だから、彼女ならさっきも言ったようにお屋敷か俺かあんたを……」


 仁が再度その後どうなったかを説明すると話は途切れ、ブーディカは抜剣し、仁に斬りかかる。


 無意識に仁は刀を"召喚"する。


 「なっ……いつの間に……」


 「俺に刀を使わせるとは……魔術が使えなかったら今頃脳をやられているとこだったぜ……」


 苦笑しながらブーディカの斬撃を刀で受け止め、カーフキックを喰らわせる。


 隙を見て仁はルーシーの方へと近寄り、お姫様抱っこをして新居を飛び出す。


 バイクとヘルメットを"召喚"し、ルーシーにタンデムシートに跨るよう促す。


 「ルーシー、逃げるぞ!」


 「逃げるって何処へ……」


 「このままだと君も冤罪にかけられるぞ!あの女、絶対キ○ガイだ。人の話は聞く耳持たずな人間は何しでかすか分からん!とにかくジョージの家まで走らせる!」


 バイクのエンジンをスタートさせ、ルーシーが乗ったのを確認してすぐさまギアを踏み、アクセルを回しクラッチを外す。


 中型バイクで馬力こそ弱いが逃げ切るだけの加速力はあるはずだ。


 仁はミラーでブーディカとの距離を確認し、一先ず安堵の様子を見せる。


 「取り敢えず、友石邸に向かってジョージにこの件は無かったことにしてもらわないとな……」


 「仁、あの子はエミリアの護衛隊長なのよ!」


 「俺があの女に食らわせたのはカーフキック。並みの人間であれば動くことができなくなるはずだ」


 並みの人間と言うのは仁にとっては魔術を使えない人間という意味だ。


 身体強化を発動している状態でカーフキックを喰らわせていたため、ブーディカは仁を追いかけたくても追いかけられないだろう。


 通常の人間では鍔迫り合いになれば力が腕に集中するため、少しでもバランスが崩れれば敗北してしまう。


 仁の体は普通の人間とは体の仕組みが違うのだろう。


 だからこそ、鍔迫り合いになっても他の攻撃を繰り出すことが可能なのだ。


 「着いたぜ」


 バイクを停め、インターホンを鳴らす。


 ルーシーは豪邸を眺めていた。


 「ジョージ、俺だ。早く開けてくれない?」


 『オッケー』


 正門は自動で開き、仁とルーシーは門を潜る。


 庭園も広かった。


 まるでヨーロッパに旅行しているかのような気分だ。


 「まるで日本じゃないと言いたいところだがとにかくジョージに会ってエミリアの件をなかったことにしてもらわないと」


 扉まで小走りで駆け付け、着いた途端ノックしようとすると扉が開き、人が現れる。


 「仁、ここに来た理由はなんとなく分かっている。エミリア王女の件だね?それならば今さっきなかったことにしたよ」


 「おいおい、それじゃあ俺がここに来た意味がねぇだろ……」


 「先程エミリア王女が誘拐されたと電話が来てね、特徴からして君だと分かったんだがあの国の護衛達が君を捕まえて腕を切り落とすと言い出したから僕の方で脅しをかけておいたんだがね……」


 「おかげでブーディカとか言う外見は美人だけど中身は納金の女騎士に殺されそうになったよ」


 仁は煙草を吸いながらジョージにブーディカについて話す。


 「そうだ仁、まだ公表されていないんだがエミリア王女を助けに行ってほしい。さっき王女が誘拐された際に場所も親切に教えてくれたんだ。それに坂本仁という名前まで使いだしたもんだから君はこのまま日本で生きていくには難しくなる。下手すれば世界中に指名手配される可能性だってある」


 「冗談じゃねぇよ!向こうは何で俺が仁だって分かったんだ!」


 「さっきも言ったじゃないか。見た目の特徴から住所や学校から特定したと」


 「特徴の話しは聞いたがは聞いてねえぞ!」


 頭を抱え溜め息を吐く。


 気分が落ち込み、苛立ちが募っていく。


 「取り敢えず、王女が誘拐された場所を教えるからそこへ行ってくれないか?」


 ジョージはエミリアが誘拐された場所をメモに書き記し、仁に渡した。


 「分かったよ、エミリアを助けに行けばいいんだろ?めんどくせぇなぁ……」




 *****************************


 「これはどういうことです?」


 「姫様、悪く思わないで下さい。あなたが死ねば我々は今以上の地位を得ることができるんです」


 「それだけの為に、私を殺すと……」


 「その前に、姫様を食っちまおうぜ」


 黒服の男達は舌を出しながらよだれを垂らし、エミリアの服を脱がそうと手を伸ばす。


 必死にエミリアは抵抗するも、両手足を結束バンドで縛られている。


 ブラウスを引き裂かれ、淡いピンク色のブラジャーが露出した。


 「やっぱり姫様はいい乳してるなぁ。どれどれ、下の方はどうかな?」


 今度はスカートを引き裂く。


 「おいおい、姫様の股間見ろよ!濡らしてるぜ!俺達に侵されるのが分かって興奮してるんだぜ!」


 エミリアは抵抗できないまま、ただ涙ぐむことしかできない。


 「わっ……私、ヴァージンなのに……」


 「処女だってよ!俺、処女の女の子ってタイプなんだよ」


 「俺に先やらせろよ。童貞卒業したいし」


 「んじゃぁ、姫様の処女はお前にくれてやるよ」


 黒服の男達は下品なニヤつきを浮かべ、ズボン越しからでも分かる膨張した股間をエミリアの白磁の頬に擦り付ける。


 「姫様を思う存分犯した後は写真を送りつけて死体は海の中にでも捨てちまおうぜ」


 「そうだな、その間は俺達の玩具として楽しませて……」


 銃声が鳴り響き、黒服の男の一人は狙撃される。


 額に命中し、即死だ。


 「だっ、誰だ!」


 黒服の男達は懐に入れていた拳銃を取り出す。


 また銃声が鳴り響き、もう一人が狙撃される。


 「何処にいやがるんだ?」


 男は銃を乱射する。


 弾切れになるまで打ち尽くし、男はみぞおちを狙われる。


 「…………はっ!」


 膝から崩れ落ち、男はみぞおちを両手で押さえる。


 「てめぇか、俺の名前を使ってエミリアを誘拐したのは?」


 聞き覚えのある声だ。


 エミリアの曇った瞳に光が戻る。


 眼前にいたのはジョルノだ。


 ジョルノが自分の為に来てくれたと確信したエミリアは安堵していた。


 「だったら何だってんだよ?それを言ったらてめぇだって俺の仲間を殺したじゃねぇか!」


 男は立ち上がり、ジョルノに殴りかかる。


 ジョルノは男のパンチを躱し、ムエタイのバックスピンエルボーを頬に食らわせる。


 その次はテコンドーの花形、後ろ蹴りを再度みぞおちに入れる。


 「護衛っつーからもっと強いのかと思ったがどうしてそんなに弱いんだ?」


 黒服の男は決して弱いわけではない。


 ジョルノが強すぎるだけだ。


 「これではエミリアの護衛、失格だな…………」


 煙草を咥えながらジョルノは黒服の男をいたぶる。


 力の差を見せつけられた黒服の男は子供のように泣きじゃくり、床を叩く。


 「ちくしょうぅ~~~~~~!誰か、この男を殺してくれぇ~~~~!」


 「残念だが、お前の願いは叶いそうもないみたいだ。俺の名を騙ってエミリアを誘拐したこと、それだけで万死に値する」


 ジョルノは銃を黒服の男の額に突きつける。


 「ここで廃棄する…………」


 引き金に指を掛けようとした時だ。


 「やめろ!」


 ブーディカが現れたのだ。


 「坂本殿、こいつを殺してはいけない!」


 「何故だ?お前らの王女様を誘拐したんだぞ」


 「こいつらには犯行動機を聞く必要がある」


 「そうか、だったらこの男を殺すわけにはいかないな」


 ジョルノはそう言いながらジークンドーのワンインチパンチを食らわせ気絶させた。


 「どの道この男は返答次第では廃棄するんだろ?まあいい、好きにすればいい」


 ジョルノは自身の革ジャンをエミリアの肩にかけ、結束バンドをナイフで切る。


 「これに懲りたら、もう勝手に抜け出すんじゃねぇぞ」


 「彼の言う通りです!エミリア様、今回はたまたま運がよかっただけで……もし貴方の身に何かあれば……」


 ブーディカは泣き崩れ、エミリアは「ごめんなさい……」と俯く。


 「仁、君ならエミリアを助けてくれると信じていたよ」


 「そうかよ……つかジョージ、坂本仁の名前はもう使えねえな……」


 ジョルノはどこか悲し気な表情を浮かべているのが分かった。


 「そうだね、この際だからもう、本名を使うといい。勿論、僕の権力で明日にでも君を特別科クラスに編入させるよ」


 「んじゃ、俺はもう帰るよ」


 このままジョルノは立ち去ろうとする、エミリアは手を胸に当てながら立ち上がる。


 「あの!」


 ジョルノは振り向いた。


 「ジョルノ?でいいのよね……私、私と……その……結婚してください!」


 場にいた人たちはエミリアの発言に驚く。


 「エミリア様、その恰好でなんてことを!」


 「ありゃまぁ……人生どうなるか分からないねぇ」


 ブーディカは必死に止め、ジョージは苦笑する。


 「俺と結婚?」


 「はい!あなたがルーシーと婚約しているのは知ってるわ。それでも、私はあなたと結婚したい!」


 「そうか……」


 ジョルノは煙草を吸いながら間を空ける。


 「うん、絶対嫌だ」

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主役になれなかった少年は美少女に恋をする~STAY WITH ME~ JoJo @jojorock

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