薔薇色のスニーカー 🩰

上月くるを

薔薇色のスニーカー 🩰




 できれば、その道を歩きたくありませんでした。

 でも、激安スーパーに行くにはどうしても……。


 下を向いて通り抜けようとしましたが、いつもそこで上を見上げてしまうのです。

 オシャレなビルの2階にダンス教室があり、全面ガラスなので内部が丸見えです。


 同じクラスの女の子が何人か、派手なレオタードでヒップホップを踊っています。

 正面の鏡に動きが映るので、いっそうあざやかに見えるスニーカーの赤やピンク。


 アスカは思わず自分の足もとを見やりました。

 もとの白が褪せてグレーになりかけています。


 みじめな気持ちを無理に押しこめ、玉子と牛乳が特売のスーパーに向かいました。

 一刻も早く帰らないとかあさんが困るので、余分なことは考えないことにします。



      🏪



 この春、小学6年生になったアスカには双子の弟がいます。

 保育園年中組のやんちゃ坊主なので、かあさんは大変です。


 とうさんは双子が生まれて半年後に病気で倒れ、それからずっと入院しています。

 だから、かあさんは仕事も家事も育児もすべてひとりで負わなければなりません。


 で、しぜんにおねえちゃんのアスカが手伝うようになり。

 気づいたら、第二のかあさんになっており……。(*ノωノ)


 眠る時間もないかあさんを助けたくて、炊事もそうじも洗濯も、弟たちの世話も。

 自分のことはあとまわしにしているうちに、なにも言わない子になっていました。


 今日一日を、いまこのときを、なんとか無事にやり過ごす。

 それが小さいおかあさんの願いになって何年にもなります。



      🎁



 田舎のおばあちゃんから小荷物が届いたのは、アスカの誕生日の2日前でした。

 いつもの誕生祝い(大人用ご祝儀袋入りの(笑))と一緒に長方形の箱が……。


 ドキドキしながら開けてみたアスカは、「なにこれっ?!」歓声をあげました。

 白い箱から出て来たのは、目にもあざやかな薔薇色のスニーカーだったのです。


 ダンス教室の同級生たちが履いていた靴より、もっとずっと華やかで格好いい。

 でも、わたしの欲しかったものが、どうして分かったのかな? おばあちゃん。



      👵


 

 ――アスカちゃん、12歳のお誕生日おめでとう!!🎉🍓🎊🍒🍧💐

   いつも一所懸命に助けてくれること、かあさんから聞いていますよ。


   塾へ通っていなくても、成績は五教科ともクラスでトップなのよね。

   そのことでお友だちに悪口を言われたり靴を汚されたりしたのよね。


   でも、がまんして堪えて本当にえらい、アスカはおばあちゃんの宝。

   お店で可愛いスニーカーを見つけたから、よかったら履いてみてね。

   

   あ、そうそう、おかげさまでおじいちゃんの容体も安定して来たの。

   もっと快くなったらふたりで遊びに行かせてもらうわね。(*´▽`*)



      👴


 

 そんな手紙が同封されていたので、アスカの疑問はあっさり解けました。(笑)

 口数の少ないかあさんが、どんなにアスカを大事に思ってくれていたかも……。


 そして、おばあちゃんの手紙に「これだけはどうしても言っておかなければ……」というように色ペンで添えられていたひと言には、思わず噴き出してしまいました。



      👩‍🚀



 ――でも、アスカちゃん、宇宙飛行士になりたいなんていうことは言わないでね。

   あんな高い空のかなたにと思うと、おばあちゃん、生きた心地がしないから。



      ✨ 



 いやだ、おばあちゃん、そんなに簡単に宇宙飛行士になれるわけがないじゃない。

 手紙につぶやくと、かあさんが朗らかな笑顔でコロコロと笑ってくれました。💐

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