2013.11.8 - 帰り道⑤

 二人に再びLINEを送った時、既に夕陽が沈む寸前だった。 僕は彼女たちの帰り道とはひとつ違う公園に寄り、今日あったことをひとつずつ整理していた。特に何か意味があるわけでもないが、無心で考える時間が欲しかった。

 とっくに二人は帰っていると思い込んでいたが、喫茶店で話し込んでいたらしい。しかも、抹茶ラテまで注文して。

 「おい、明日夢」「どうだった?」

 ちょうど三人分のベンチに腰掛ける。僕は真ん中で、なんだか変な感じ。最初の言葉に詰まっていると、二人が興味津々といった様子で見つめてくる。できれば、恥ずかしいからやめてほしい。

 「違ったのか?」

 若干せっかちの気質がある松本が詰めてきた。伊藤も普段より顔が近い気がする。僕は再び脳内で整理した後、「話をしよう」と決意を固めた。

 「きっと、あの少女で間違いないよ。僕がずっと探していたのは、あの子だ」

 ゆっくりと、それでいて、強い口調で。僕は二人にすべてを話した。二人は喫茶店の時よりは腑に落ちていそうだった。

 「よかったな。せっかくのきっかけ、大事にしろよ」「明日夢の初恋、応援してるからね」

 僕は二人のエールに、ただ頷いた。


 ……その後は、いつも通りだった。二人の何でもない話に付き合わされる。

 「あの『美月』って子いるじゃん。彼女、小学校のクラスメイトだったんだけどさ」

 「へえ、そうなの」「めっちゃあざとくてさ、めっちゃ可愛くてさ、今度アタックしてみようと思ってるんだ」

 松本は知らない女子の話を顔を赤らめながら話をする。僕は全くわからないので、ひたすら愛想笑いをするしかなかった。

 「幹久くん。いつもの熱血で行くと折れるから、理性は保ったままで行けよ」「伊藤、それぐらいわかってるよ」

 確かに、松本が熱血で行くと女子はドン引きするだろう。半年の付き合いがある同性の僕ですら、時々登場する彼の熱血キャラについていけないことがわりとある。幼馴染ならともかく、いろいろと心配だ。

 「あんなに可愛い子が俺の恋人になるかもなんてな」「そんなのわかんないだろ?」

 「まあ、今は“きっかけ作り”ってところだけど」

 「おいおい、まだ友達ですらないのかよ」

 やっぱり、松本は早とちりだった。顔に汗が滴っている様子から、彼の焦りが伺える。

 「んでさ、明日夢の恋はどうなんだよ。さっきも話したけどさ」

 おい、今僕に振るのは違うだろ。伊藤に振った方が有意義な話が聞けると思うんだけどさ。

 「何年かかるかわかんないけど。もし誰かに告白されたとしても、断ろうと思ってる」

 「そっか」「本当に一途なんだな」

 そんな話をしているうちに、松本が恋愛そのものの話に話題を移した。

 「お前らさ、小学生ぐらいまでは『好きな人』っていたか?」

 「いなかった」「恋してます、恋してません。って感じ。可愛いものだよね」

 確かに、小学生の恋って、異様なまでに純粋だった気がする。純チョコレートよりも遥かに純粋で、濁った言葉が似合わないような。

 「今もクラスでカップルが出来てるけど、よくわかんないよね」

 「恋してます、してません」の下りといい、伊藤にしては珍しい等身大の本音。僕も素直に頷く。

 「お前はそう言うけどさ、小学生でも付き合ってたやつもいたじゃん?」

 「それはそれだけど、僕はわからなかった」

 食い気味の松本に対して、伊藤が冷静に宥めるといういつもの構図。

 僕らの恋バナは、あまりにも幼かった。中学生だからと諦めてしまうのは簡単だが、ちょっとした背伸びすら出来ない自身の幼稚さを、中身のない会話で埋め合わせする現実が悲しかった。

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