2013.4.11 - 入学式④
退屈な入学式の終焉を飾るのは校門前での写真撮影だ。新入生は百五十人くらいいるが、かなりの数の生徒がここで写真を撮る。今年は桜がかなり綺麗に咲いているようで、真新しい制服を着た生徒とその保護者が次々と写真を撮っていった。僕の両親も例に漏れず、写真撮影を希望した。「どうせ、スクラップブックにも入れないくせに」と悪態をつきたかったが、ここで何か言うと機嫌が悪くなるので控えておこう。
「撮ります。目を瞑らないようにしなさいよ」と母の声がして、カウントダウンが始まる。僕はなんとも言えない表情でカメラに収まった。早く終わってほしいし、家に帰りたかった。両親は離れた場所での記念撮影を希望していたが、さすがに拒否しようと思った。だが、がっちりと掴まれた腕は僕の力では離れず、不機嫌な表情が写真に残ることとなった。
僕は両親を置いて、家に帰ろうとした。
「おい、明日夢。待ちなさい」「そうよ。もう少しゆっくりしてもいいんじゃないかしら?」と両親の声がする。確かに、両親がいないと僕は家に帰れない。しかし、それすらも気にならないほど、苛立って仕方がなかった。結局、両親から目の届かない少し離れた場所で休むことにした。両親からの写真攻撃と慣れない環境に疲れてしまい、束の間の休息を心が欲していたのだ。どうにかして腰を下ろすため、良い塩梅の岩を見つけた。この時、「誰にも取られまい」とかなり慌てていた。その時、僕はある少女の足に躓いてしまった。
「あ、ごめんなさい」「こちらこそ、ごめんなさい」
お互いに謝罪する。少女は深々と頭を下げていた。これだけなら、ただの会話だ。しかし、いつもと違ったのは、就寝前に少女を思い返したこと。なんでもないやりとりのはずなのに、何故か頭に浮かんで離れなかった。少女の顔も、うっすらとしか覚えていないのに。
「まあ、いっか。きっと思い出すよね」
退屈な入学式を締めくくったのは、思いがけない出逢いだった。名前も知らない、表情も思い出せない、少女との出逢い。帰り道に両親にはこっぴどく叱られてしまったし、ただのすれ違いよりも遥かに印象に残る出来事もあったはずなのに、その他の出来事が無になるくらい、少女との出逢いが印象的だった。
僕はもやもやを胸に秘めたまま、中学生活を始めることになった。その後、何度か少女を探してみたが、結局見つけられなかった。
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