僕の意志と経緯。
振り返って思ったのは、諦めよう、だった。理解できない。理解できないことは逆に努めて理解しないことだ。
父上に渡された紙を読んで、別時空へ行けと言われ、魔具のツマミを回したらいきなり目の前が真っ白になったのだ。そして気付けばこの状態である。
理解しろという方に理解してほしい。
この混沌とした感情はどう処理したものか。しかも持っている荷物は渡された包み、つまり伝統服一着と今身につけているものだけだ。かろうじて礼装だったから腰に細剣は下げていたものの、儀礼用であるため戦闘になればほとんど意味をなさない。
いくら優秀な成績を収め学園を卒業した僕でも、この状況は如何ともし難かった。
結局10分ほどその場で立ちすくんでいると、眼前に広がっていた石畳の道を誰かが走ってくるのが見えた。なるほど、建物が如何せん大きいものだからかなり近くに建っているように見えたが、実際はそうではないらしい。人影が見えてからしばらくしてようやく近くに来た。
柔らかな茶髪に愛くるしい目鼻立ちをした男性が、すみません、と言いながら首から下げたプレートを見せて
「僕、トーリと申します!ヴィクトール・ゼラ・イル・ガーデリアでお間違いないですか?」
頷く。すれば安堵の息をついて、僕にも同じような紐付きのプレートを渡してくる。彼のものには名前と顔写真、【監査役】という文字が見え、自分のものにはやはり名前と写真、そして【GK】と書かれていた。Garderia Kingdomの略であろうか。
「あっ、そちらは【
???????
「さ、とりあえず時間がないので行きましょう!今期はそんなに人数がいないのでみっちり講義が取れますよ。早ければ1ヶ月でプログラムが終わりますから一緒に頑張りましょうね、ヴィクトール!」
???????
ゴミクズだかいう称号(称号なのか?)も、呼び捨てにされたことも訳がわからないまま僕は引きずられ矯正院(そもそも何を矯正するのだ?)に足を踏み込んでいった。
館に着くと、2階の一室に通された。学園の講義室のようなそこには4人ほどの男が席についており、1人の教員と思しき女性が彼らの前に立っていた。そして男のそばにはトーリのような人間が控えている。一瞥しただけでは、ただの主君と従者のように見えた。
トーリの案内で一番窓際の席につく。同時にミルエムと書かれた名札を下げた女性がさて、と手を叩いた。
「今期のバカどもが全員揃ったようですわね。ようこそ亜種攻略者矯正院へ。わたくしはミルエム・ハーパーと申しますわ。あなたたち5人の鑑別者としてこれから一ヶ月ほどみっちり指導させていただくので、どうぞお見知りおきくださいな」
端々から漂ってくる不穏な空気をよそに、ミルエム殿は十数枚の紙束をそれぞれに配った。
「いきなり連れてこられて訳がわからないと思うので、一から説明しますわ。まず、ここはあなた達のように一方的な価値観で婚約破棄を言い渡した何某かの後継者を矯正する施設ですの。つまり、視野激狭勘違い野郎どもをしっかり再教育して差し上げますわよ、ということですわ」
「不敬だぞ!なんだその言い方は!」
隣に座っていた褐色の男が立ち上がって叫んだ。しかしすぐに顔面を机に強打することとなる。側に控えていた金髪の男が頭を鷲掴みにし叩きつけたからだ。流石に痛そうである。
さらに隣の席の、いかにもお坊ちゃん育ちですよ、という風体の少年がおずおずと手を上げた。同じ年頃かと思うが、この程度で涙目というのはいかがと思う。平和ボケなのだろうか。
「ど、どういう施設なのかはわかったんですが…なんで時空を超えてまで集められたんでしょうか…わざわざそんなことをしなくても、矯正?はできるんじゃ?」
大きなため息が部屋を支配した。嘆かわしいと言わんばかりの表情で額を抑えると、冊子の二ページ目を見ろという。そこは歴史、と題された項目であり、
「まず、この世界は女神様が作ったのだけど、彼女、とっても日本の乙女ゲームが好きだったの。だから好きな乙女ゲームを現実の世界にも作ってしまえ、という感じで生まれたのがあなた達が生まれ育った第0106次元なんですわ。最初は良かったのよ!最初は!すっごく素敵な学園恋愛、砂漠のハーレム、吸血鬼との禁断の恋、とっても良かったの!」
少年の手を両手で包みながらミルエム殿は熱弁する。しかし話している内容は1文字も理解できなさそうだった。
「でも、あなた達があんまりにも阿呆な理由で悪役令嬢をフってしまうようになったことに、女神様は憂いを覚えられたわ…彼女達にも愛しい人に愛される資格はあるはずだって、何千ものストーリーをクリアされてきたからこその御慈愛だわ…そこで!女神様は思いつかれたの!バカな王子達を集めて矯正すれば、彼女達にもハッピーエンドが来るのではないかしら?とね」
「え、え、えっと、あの、それが本当だとして、め、メリットって…」
「ええ、あるわ!矯正され帰還したのち、悪役令嬢があなた達の謝罪などに納得しなければ世界ごと滅ぶように設定されたの。もし、納得したのならその後千年は女神様のご加護で争いのない、平和な世界になるよう御加護を授けてくださるわ」
つまり、それは
「あなた達がここでどのように過ごすかで、世界が滅亡するか否かが決まる、ということですわ」
…フった代償が重すぎる気がする
という考え自体がダメなのだろうか。
王子会議 朔 伊織 @touma0813
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。王子会議の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます