第13話 二人だけの時間 ~翔太~

ついにタイムカプセル企画の日がきた。

この企画が今年であることをすっかり忘れていた。この間高山さんと会ったときに、この企画に参加するかどうか聞けばよかった。


今日は仕事が入っていたのだが、またとないイベントだから無理矢理休みにした。休みとはいえ、電話対応はいつでもできるようにしているため、顧客に迷惑はかからない。俺はこの働き方が好きだ。


小学校以来の友達に会うのは、楽しみ半分緊張半分だ。仲が良かったやつともしばらくあっていないから、どんなことを話したらよいかわからないが、ここは営業マンの力の見せ所だな!


集合時間より1時間早く母校到着。企画委員すらいない。せっかくだから誰もいない小学校の周りをぶらつくことにした。昔は大きいと思っていた建物やグラウンドが小さく見えて、とても不思議な気持ちだ。

誰かに会いたいような、会いたくないような複雑なワクワク感に包まれながら母校を一周し終えたところで、確実に見覚えのある人がやってきた。数ヵ月前に会ったばかりだからすぐにわかった。

「おーい!高山さーん!この間ぶりだね!」

大声で叫んだ。俺の声が聞こえたのかどうか分からないが、高山さんはにこっと笑って小走りにこちらへ向かっている。

高山さんの笑顔にホッとして、緊張が解けた。


「早いね!もう着いてたんだ!」

小走りといいながらも結構な速さで走ってきた高山さんが、息を切らしながら言った。

「なんとなく早く着いちゃった!そういう高山さんも早いじゃん!」

「たしかにそうだね!(笑)こういう久しぶりの再開って緊張するじゃん?気休めに会場には慣れておきたくて早く来ちゃうんだ(笑)」

「わかるわかる!俺もなんか集合の適当な時間がわからなくて、とりあえず早く来た!(笑)」

実際俺も高山さんと同じような理由で早く来たのだった。

「俺暇すぎたから小学校の周り一周したんだけど、高山さん一周する?俺付き合うよ!」

「え!小学校一周眺めたい!!2周目で申し訳ないけど!」

「ぷっっ(笑)」

高山さんの反応が想像以上に予想通りで、小学生の頃から変わってなくて、嬉さと楽しさとおかしさが混ざった笑いが出てしまった。

「何で笑うの!(笑)ほんとすぐバカにするよね!(笑)」

「ごめんごめん!ばかにしてるわけじゃないよ!なんか懐かしくて!(笑)ほら、行こう行こう!」

実は小学生のころ、高山さんと二人でじっくり話したことはなかった。

話していたのは教室を移動するときや、掃除の時くらい。それだって、二人きりではないことが多かった。


二人だけゆっくり話すのはほぼ初めてだと気付いて、一瞬緊張した。でも、高山さんの無邪気さが小学生の頃と変わらなくて、懐かしさと楽しさに包まれた。


そんな幸せな時間も束の間、もうそろそろ小学校の周りを一周し終えてしまう。

そこそこ人も集まっているようだ。

このまま高山さんと話していたい気持ちを抑え、営業の顔に戻しつつ集合場所へと向かった。









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あの頃、僕たちは コタ知代 @kotachiyo

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