第7話 見知らぬ部屋

 次に目を覚ましたのは見知らぬ部屋だった。


 まず目に入ったのは荒い木の板を張り合わせた天井で、視線を横に移せば開け放たれた窓から澄み渡った青い空が見える。飯時なのだろうか、香ばしい匂いと賑やかなさざめきが心地よさを誘った。


 身体中を走る痛みを耐えなんとか体を起こす。

 少し目線を巡らせればそれほど広くない部屋は全容が把握できた。古びた土壁は所々剥がれレンガがむき出しになってるし、板床も浮き上がりギシギシと音が鳴るだろうことは容易に見て取れる。六畳ほどの中に粗末なベッドが二つとその間に小さなサイドテーブル、そして隅の方にワードローブが置かれているだけの簡素な部屋だ。わたしは窓際に置かれたベッドに寝かされていた。あの森で、あの人に助けてもらえたのだろうか、痛む頭に手をやると包帯らしきものが巻かれている。


 途端、恐怖が鮮明に蘇った。


 思わず身を掻き抱く。あそこで助けがなかったらわたしは確実に死んでいただろう。あんな奴の身勝手な都合でこんな場所に落とされて、すぐにご臨終だなんてたまったものじゃない。あの人には感謝してもしきれない。少女漫画みたいなんて思ってごめんなさい、と心中で頭を下げた。


 そしてそれは、夢落ちなんて淡い期待は儚く消えたという事でもある。やっぱりここはどことも知れない遠い異国で、お金も伝手もなく生きていかなければならないという事だ。当面の生活のためには仕事を探して、物の相場も知らなきゃいけない。子供でも働けるのか、住む場所は……。


 ふと、隣のベッドに目を移す。ベッドが二つあるという事は、あの人か、もしくは他の誰かが面倒を見てくれていたという事なんだろう。部屋を見た感じ病院というわけでもなさそうだし。つまり、お金を使わせてしまっているという事になる。しかも恩人に。それも返して、できればお礼もしたい。そして極力やりたくはないが任務の事もある。恩人さんが帰るまでに色々と確認しておいた方がいいだろうと恐る恐る呼びかけた。


「えっと、ナビ? 」


 勝手にナビと名付けていたが、もしかしたらあのナノマシンにも名前があるのかもしれない。


『はい。お呼びでしょうか』


 難なく返答があり胸をなでおろす。しかし、視界の端に文字が出るので正直邪魔臭い。なので試しに聞いてみた。


「あの、文字じゃなくて音声に変えられたりしない? 」


『了解しました。音声でのナビゲーションに切り替えます』


 設定変更可能なようで安心した。今後不都合があったら変えていこう。


『脳波の電気信号により会話が可能ですので、声に出さずお呼びかけください』


 なるほど、それは便利だ。脳波でロボットを動かすのをTVで見たことあるし、そんな感じなのだろうと納得する。改めてわたしは確認作業を始めていったのだった。

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