第8話 生活基盤

 まず第一に知らなければいけないのは物価だろうか。


「ナビ、一ヶ月の生活費ってどのくらいかかるのか分かる?」


『一ヶ月の平均的な一人あたりの生活費は食費二百ダルフ、光熱費を含めた雑費三百ダルフ、家賃五百ダルフ、計一千ダルフです。セトア・コオには生活費として一千ダルフが毎月支給されます。』


 ナビの返答にわたしは頭を抱えた。今の所持金は一千ダルフ、ギリギリだ。

 一ヶ月分としては十分かもしれないが、子供一人で家が借りられるのかも不安だし、服も一着しかない。下着類も同じ。家財道具など一つも無いのに生活基盤を整えるには到底足りない。


 それならば住み込みの仕事を探すべきだろうか。家事なら今までもやってきたから可能かもしれない。家賃や食費も節約できるだろう。問題は見るからに貧相なわたしを雇ってくれる場所があるのかだ。雇用となればそれなりの店や家庭になるだろうから。


「わたしを雇ってくれる家事手伝いの仕事ってありそう?」


『オルドでは原始的な家事仕事であるため炊事には薪を使い、掃除や洗濯も全て手作業となります。以上のことからセトア・コオの家事における就業は不可能と判断します』


 そうか、家事をやらされていたとはいえ、それは文明の利器たる家電に頼ってのことだ。薪で火を起こせと言われてもわたしにはできない。水道も無さそうだし井戸水だろう。同じ年頃の子に比べてもまず基本的な体力が違うのだ。これでは至極簡単な雑用仕事でも就くのは難しいかもしれない。


「ちなみに子供が働いた場合の給金ってどれくらいか分かる?」


『子供の場合、奉公に出されることが多く、その際の給金は月に50ダルフほどです。これは生活費を引かれた金額となります』


 食費の四分の一、……住み込みとしてその給金はどうなんだろう。貰えるだけ良いのか。いやでも毎月支給される一千ダルフを含めればかなり余裕は出るけれど。

 しかし、そもそも仕事に就けるのかさえ怪しいし……。


 そこでふと疑問が湧いて出た。


「ちょっと待って。それで考えるとスキルの対価って変じゃない? 棒術だって一ヶ月の食費より多いなんて……」


 そう、棒術で三百ダルフ、短剣で五百ダルフなのだ。晶術なんて二千ダルフ、現地に換算すれば二ヶ月暮らせる値段になってしまう。


『スキルの対価は日本円相当に設定されています』


「……は? つまりスキルを取るには日本円をダルフで稼がなきゃいけないって事……? 十倍のお金を? は? まじふっっざけんなあの似非天使!!」


  わたしはその日、何度目になるか分からない呪詛を叫びつつ、全身を貫く痛みに身悶えたのだった。

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