ジョウさんに告ぐ

結騎 了

#365日ショートショート 096

「だからそんな人はいないって、何度言ったら分かるんだ」

 営業部の主任、佐崎は思わず怒鳴っていた。見かねた部長がデスクに近寄る。

「おいおい、大声を出すなよ。一体どうしたんだ」

「聞いてくださいよ、部長。ほら、例の。余所の部署の新入社員なんですけどね、訳の分からないことを言うんです」

 部長は手のひらでジェスチャーし、場をなだめようとする。

「まあまあ、相手は新卒の子じゃないか。大目に見てあげなさい。それで、どんな話なんだい」

「それがですね……」、佐崎は呆れたように口を曲げている。「ジョウさんを出せってしつこいんです」

「ジョウ?」

「営業部にそんな人はいないのに、とにかくジョウを出せの一点張りで。社員名簿と睨めっこでもしてろって話ですよ」

「ははあ、なるほど」

 デスクマットに挟んである内線番号一覧に指を添わせ、部長は電話をかけた。

「やあ、君かね。先ほどはすまない、うちの佐崎が失礼な態度を。それで、いつの日付だね」

 佐崎は目を丸くする。

「……うん、そうか。その日なら、どうせ料亭如月だろう。はっはっは。それならやっぱり佐崎だ。すまない、私からきつく言っておくよ」

 がちゃん。電話が切れる。

「さあ、佐崎くん、何が起こったか分かるかね」

「いや、さっぱり……」

 もしかして、自分に原因があるのだろうか。佐崎はズボンに手のひらを擦りつけ、冷や汗を拭いた。

「まず、君は今すぐ経理部に行って、例の新入社員くんに謝ってくること。申請書の字が汚すぎて読みにくいそうだ。修正してきなさい。それから、領収書の取り方が全くなっていない。もう分かるだろう、上様くん」

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