魔族との平和共存を望んだ勇者は異世界に転移したが魔王に支配された人類を見て絶望し魔王軍に入った!

あずま悠紀

第1話



そこで聞かされたのは、世界を脅かす存在である「邪神」というのを倒す為に呼ばれたということらしいが、その時の勇者があまりにも無能すぎて、俺以外全滅してしまったようだ。俺は自分の力を確かめる為にある提案をしたのだが、それは魔王軍を裏切るような内容だった――?


「勇者殿、その条件ならば我が軍でも構いませんな?」

「ふむぅ。それでは我が国の軍も協力しようではないか。なぁ、国王陛下よ」

謁見の間の壇上で玉座に腰かける国王が答える前に、二人の男が割って入った。どちらも立派な顎髭を蓄えた男だ。一人はこの国の大臣でありもう一人は同じ軍人であったはずだ。

俺はそんな彼らを見てため息をつくと「お前達に任せたら国が滅ぶわ」と言い捨ててやった。彼らは悔しそうにして歯噛みしているが俺にとってはどうでもいい事だったのだ。俺はこの国に来てすぐに「俺が邪神のいる場所を突き止めよう」と彼らに申し出ていた。理由は簡単である、召喚される前にいた世界のネットゲーム仲間である彼らが困っているからというのが一番大きいだろう。俺としては邪神と戦うなんて御免だしな。そもそも戦う意味すら分からないし。しかし彼らは「魔王軍に加われば魔王軍の敵になるからダメ」だとぬかすのだ。全く持って理解できない理由である。まあ結局のところ俺の出した条件で妥協してもらうことでようやく話はついたのである。

「それで勇者様、邪神の場所を突き止めるにはどのような手段があるのですか?やはり冒険者を雇うなどでしょうか」

先ほど話を中断された女がまた割り込んできたが、俺は面倒だったので「自分で調べる」と言ってそのまま退室することにしたのだった。さっさと帰ってオンラインゲーム仲間の彼らの手伝いをしなくてはならないからな。

城から出た後、俺は馬車を使って王都から離れた森の中に転移した。そしてそこから空に向かって跳躍すると同時に全力疾走を開始したのだった。これは俺のオリジナルスキル『空中移動』を使う為である。これは簡単に言えば空中を自由に駆け抜けることが出来ると言う能力だ。俺以外にこの能力を持ってるものは誰もいないし、これに関しては誰にも言わないつもりだ。何故ならこんな便利な能力があったら絶対悪用されるとしか思えないからだ。実際これを他人に教えるのはまずいと思っているくらいである。だから俺もあまり人に話すことはしないのだが、俺の友人や知り合いには全員教えているのだ。だってそいつらが何かあった時の為に必要になるかもしれないじゃないか。そういう意味で教えたんだが、みんな感謝してくれたんだよなぁ。あいつらも無事だと良いんだけど。特にあの厨二病の奴と女顔の男。それに巨漢の中年オヤジに美少女にしか見えないけど男の友達とか心配すぎるんですが!今頃泣いてないといいなー(遠い目)

まあそんな訳で、俺は一時間ほどで魔王軍の拠点まで戻ってくることに成功したのだった。流石は空中歩行である。俺の知る中でこの能力を最もうまく使うことが出来ているのは魔王軍の幹部連中たちであると思う。あいつらの機動力といったら本当に異常だからなぁ。

拠点へと戻った俺はまず最初に仲間たちへ状況の説明を行ったのだが、その時になって初めて邪神の居るであろう大体の方角が掴めてきたのだった。

その情報とは魔王軍が保管している古文書に記載されていた「古代文明期に存在した邪神と呼ばれるモノの住処と思われる洞窟を発見した」という内容だった。正直に言おう。この情報を得る為にかなりの金がかかっていたのである。だがそんな事は関係ない!俺の仲間達が危ない目に遭うよりはマシというものである!

「というわけで、邪神を探すぞ」とだけ言うと早速旅立とうとしたがそれは無理だと止められた。理由は俺の仲間達の中で一番頼りになる人物からの「あんたが一人で動いた方が効率が良いから絶対に一人にさせないようにって指示が出てる」という言葉によってである。確かに彼女の言い分には一理あるが俺としてもそれは納得できないものがある。何せこれから一緒に戦っていこうって言ってくれた仲間達の事を忘れたのかよ!?って話じゃないですかー?まあ俺が勝手にそう思っただけだからなんとも言えないんだけどね!でもやっぱり俺は一人で行動する方がいいと思ってしまったのだった。

なので俺は自分の力を確かめるついでとばかりに「ちょっとだけ一人で行ってくる」と皆に伝えたのだ。もちろん反対されたが、どうしてもと頼んだら何とか許してもらえた。ただ条件付きでだけどな!俺は自分のステータスを確認する為とスキルを試す為にとある場所で戦闘訓練を行う事を条件に出していたのだ。その結果、何故か俺は国王直属の騎士団団長との模擬試合を行ってしまうことになった。

どうしてこうなった?と思いながらも俺は素振り用の武器で彼と相対して剣を打ち合うことになってしまったのだ。俺の相手として選ばれた騎士たちは全部で五名。全員が俺よりも強いのは間違いなかった。そんな彼らが俺と模擬試合を始めると、最初は「こんな小僧相手に俺たちが負けるはずがない!」とでも思ってたんだろうが段々と追い詰められていく姿を見ていくと焦ったのだと思う。俺は彼らに全力を出すように指示を出しつつ自らもスキルと魔法を使用して応戦した。すると、どうだ!彼らの攻撃は全て防がれてしまうばかりか俺が優勢のまま勝負がついたのである。それどころか彼らの方が体力を失っており満身創痍と言った感じになっていた。俺の勝ちである。

俺の圧勝を見て国王の騎士団長は信じられないものを見るような目をこちらに向けていた。他の面々も似たような表情をしていたが、俺は気にすることなく次の段階に移行する事にしたのである。俺が「じゃあ次からは俺の仲間を連れてくる」と言うなり彼らは絶望的な顔色を浮かべて固まってしまったのであった。そんな事をしても無駄なのに。なぜなら彼らは俺の強さを理解していなかったからだ。そしてそれを理解してしまった国王の一言で俺の仲間達は連れてこられてしまったのだ。

俺と俺のパーティメンバーは今まさに「邪神が居そうな場所に一番近い街」に向かって馬で移動をしていたのだ。何故移動手段を馬の上かというと「空を移動するのは目立ちすぎるから」という理由からであった。それに俺が空中歩行を使うとその速度はとんでもないことになるし、普通の馬がついて来れないからである。俺がそんな速度で走り続けると俺の仲間たちが置いてきぼりになってしまうという理由もある。だから移動方法は馬となったわけなのだが、俺の後ろでは魔王軍の中でも指折りの力を持っている仲間たちがいるせいか俺に対する注目が凄まじいことになっている。特に女性陣の目つきが鋭い。そりゃあそうだよな。俺が彼女達を置いて行こうとするから。だから俺に食らいつくように追いかけてきている。

ちなみに彼女たちを連れて行くのは当然邪神と戦うのが嫌だったからに他ならない。だってさぁ、俺は邪神がどんな姿をしているかも知らないんだよ?戦うなんて馬鹿な選択する気ないからね。まぁ俺が「邪神を倒したくない」って言えば「魔王軍は協力してくれる」と言っていたのだから魔王軍の目的も大体予想が付くんだよなぁ。だって「世界征服」とか言うし。魔王軍に協力して世界を統一しようと思うんだけど、その方法については詳しく聞いてないんだよねー。

「ところで、魔王軍に加わろうって言っていた人たちってどういう人達だったの?」

俺の言葉に「ああ、あいつらな」と言って答えたのは意外にも魔族の少女、リーシアだった。

「魔王軍の幹部の中に「七賢人」と呼ばれている存在が居るのですが、その中に私たち魔族にとって友好的な存在である者が数人存在します。その中にはかつて魔族と戦ってきた人類に恨みを抱いていない者も存在しているんですよ。その代表である者たちです。私達はその者たちと同盟を組むことに成功しているんです」

そう言って彼女は笑みを見せた。俺はそれを見て驚いたのだ。だってあのリーシアだよ?無表情キャラで有名なあのリーシアちゃんが笑顔を見せて俺の質問に対して答えるなど、普通なら有り得ない事だったからだ。俺はそんな彼女の成長を見て嬉しく思ってしまったのだ!これはもう仲間と呼んでも良いんじゃないかな?

「私は魔王様に仕える前は勇者と呼ばれていたんです。まあ、その勇者というのも名前だけの事ですが」

「え、マジですか。もしかして元勇者様なのでしたか?」と俺の隣に座っていた金髪で背の低い幼女が話しかけると、リーシアは苦笑いしながら言った。

「いえ、魔王軍の四天王の配下の一人ですよ。しかも一番下っ端ですね」

「ふむ。それは勇者と呼ぶには些か物足りないのぉ」と、今度は隣に座っていた白衣の美少女、クロミンが俺の方を向いて言ってきたのである。俺が「お前のどこが勇者に見えるんだ!」と言いたかったがここは抑えるしかないようだ。何せこいつの能力は魔王軍でも上位の実力を誇るからである。もしここで俺の素性について探りを入れてきた場合は非常に困る事になるからな。下手にボロを出してしまえば面倒になるだけだから慎重に対処する必要があるだろう。

俺はそんなことを考えながら移動を続けていたのだが、不意に俺の前に巨大な黒い影が立ちふさがったのである。そしてそこから「お初にお目に掛かりまする我が王よ。拙者は『黒狼王』と呼ばれる者でありまする。この度は我等が王である貴方に忠誠を誓う為に馳せ参じました」という野太い声が聞こえた。俺は突然の出来事に驚いてしまって咄嵯に反応する事が出来なかったのだ。だってまさか魔物の頂点に立つと言われる伝説の生物、ブラックフェンリルが人間のような言葉を話し俺に向かって臣下の礼を取るなどと想像すらしていなかったのである。

だが俺の仲間たちは何の反応も示さなかったことからも分かる通り既にその存在は確認していたようで、特に驚きはしないで平然と会話を交わしていたのだ。

「貴公らの存在は以前から認識しておったが、まさか我らの王に謁見を求めに来るとはな。正直に申すと貴公らがここに来た理由は分かってしまうのが辛いとこではあるが」

「魔王様のお察しの通りでござる。魔王軍に入る前より、この世界のどこかに居るであろう邪神の討伐に協力しようと思ってました故、魔王様に忠誠の誓いを立てるのは道理と言えるのでござらぬかな」

そう言うと「それに魔王様には借りがある」という言葉を付け足したのである。一体このおっさん、いや、王様はブラックフェンリルのおっさんに何をやったのやら。俺は疑問に思いつつも黙って成り行きを見守る事に決めたのだった。まあ、俺が何かを言ってもいいこと無いと思うんだよ。なんせ相手は魔物だからな。人間のルールに従う必要はないだろうから。俺はとりあえず話を聞きつつ今後の事を考えようとしていたのだが、何故かおっさんの配下であるはずの黒豹王が俺に向かって「先程は部下が失礼した。許して欲しい。それと今後我々が王の為に尽力すると約束しよう」という言葉をくれたのだ。正直なところ何でいきなり謝罪されたのか分からなかったが俺としては別に怒っているわけではないのだから構わないと思った。ただ、一つ言える事があるとすれば、それは「このおっさんの部下は良いヤツばっかりじゃねぇかよ!」と心の内で叫びまくっていたくらいだ。

そんな風に俺の心の中では喜びに満ち溢れていたが表面上ではクールに装って「許すも何もない。むしろ俺のために尽くしてくれるという気持ちだけで俺は嬉しいよ」と素直に思っていた事を口にしたのだった。

そんな感じで俺たちはこのおっさんたちと出会ってしまい一緒に行動する事となったのだ。

そして今は何故か森の中を歩き続けているのである。なんでも俺に「森の奥に住むある種族を説得に行く」と言うのが今回の目的らしく、それがどんな存在なのかは一切聞かずに連れて行ってもらう事になった。

ちなみに何故俺たちが馬で移動せずに歩いているかというと単純に移動速度の問題があったからだった。俺は空を高速で飛べるからいいけど皆は馬を使って移動しているからだ。俺は空を歩く事が出来るからこそ馬よりも早い速度で移動出来るわけで、それだと流石に置いてけぼりを食らってしまう。そこで移動速度は落ちてしまうものの歩いて移動をするというのが現状では一番安全だろうと判断したからであった。それでもかなり早く移動出来ているというのもあるが、やはり馬に乗って移動するのは時間が掛かってしまうらしい。だからこそ徒歩での移動になっている。とはいえ移動している間は暇だったので仲間たちと雑談を交わすことにしたわけだ。もちろん俺はおっさんたちが何をしているかを詮索するつもりは無いのである。だって聞いたところで教えてくれないだろうから。

「そういえば、俺って仲間になんて説明したらいいと思う?一応俺って召喚されてきた異世界の勇者だからさ、そんな奴が自分の世界に戻れないから仲間と一緒に旅してるんだけど。なんか仲間になった魔族の女の子とか俺が勇者だった時にいた国の王女様とかもいるんだけどさ。なんて言ったらいいかなって思うんだよね」

俺の言葉を聞いてクロミンは「ふむ」と小さく呟いてから俺に提案をした。

「魔王軍は世界征服を目標に掲げて行動しているが、それはあくまでも最終的な目的であると妾たちは思っておるのだよ。そもそも世界征服というものの先には何が存在するのだろうか。それを考えた事はないか?」

そんな問いかけを受けて俺は少し考え込んでから「そういわれれば確かにそうだな」と、思わず答えてしまっていた。

俺の考えでは世界征服をしてそれから先は平和が続くと考えていたがどうやら違ったようである。そう考えると魔王軍の目的はいったい何なんだろうと思わざるを得ず、俺としては魔王軍に所属するメリットが何も無いような気がしてきたのだ。俺がそう考えていると俺の横に座って話を聞いていたリーシアがポツリと「そういえば、魔王軍の目的は世界を混沌に導く為だと聞きました。その理由についてはよく分からないんですが」という言葉が聞こえてきた。なるほど、俺には理解出来ない内容だったから俺の質問に対する解答として魔王軍の最終目標というのは間違ってはいないが、魔王軍の本質ではないのかもしれないな。俺はそんな事を考えて、そして俺は仲間に対して魔王軍が邪神を倒すことを目的としていると言っていた事を思い出した。そうなると仲間たちには真実を話すべきなのかどうか判断することが出来ないんだよなぁ。だって魔王軍の狙いについて全く予想が付いていないのだから。俺が悩み始めたところで、目の前に巨大な洞窟が見えたのだった。おそらくあの奥に住んでいる者に会いに行くのだろう。そう思ったのだが俺の目に映る巨大な門に違和感を感じざるを得なかったのだ。その門の作りから「あれ、ここって洞窟の中だよな?」と、思わず口に出しそうになってしまったのだった。

俺は洞窟の中に入り込みしばらく進んだのだがそこには城が存在していて俺を驚かせたのである。そして、そこに待ち構えていた男に案内されるまま俺は玉座の間に通されて、そいつが「私が魔王である」と言い出したのだった。俺は「まさかこのおっさんが魔王だと!?」と思いつつ、この国に来た時から魔王と呼ばれている人物の顔を確認していなかった事を思い出す。

「俺はあんたが誰か知らんが、お前が魔王なら邪神については知っているか?」

「おお!我が君にそう言われるとは光栄に御座ります。えーっと確か、私の父である前魔王は魔族を率いて魔王を名乗り魔族を統一していたのですが、勇者と名乗る人間に負けてしまいました。その際、父に恨みを抱いた人間が魔族たちを使って私を殺そうとしたので私は身を守るために自ら魔王を名乗ったという経緯があるのです。まあ、今では私も立派な魔族ですし問題ないのですが」

そんな話を聞いて俺はかなり衝撃を受けた。まさかこんな子供が魔王を名乗ってしまうほどの恨みを買うとは、いったいどれだけ恐ろしい人間だったというのか。というか、勇者と戦って負けたというのならどうして魔王が今も生きているんだ? 俺の疑問を感じたのか魔王が言う。「私の父が死んでいたら今頃、この国は滅んでいるかもしれませんね」と言い出して俺は再び驚く羽目になった。まさか自分の父親を殺して自分がそのポジションにつくなど、正気の沙汰とは思えない。だが、そうしなければ殺されていたと言っていることからも魔王が嘘をついているとは思えない。しかしそうなってくると一体誰が魔王の父親を殺しに行ったというのだろうか。俺はそんな疑問を感じていたのだが、ここで俺の仲間である少女の一人が口を開いたのである。

「あなた、魔王の父親が誰に殺されたのかご存じですか」と、とても落ち着いた口調で話し始めてしまったのだ。正直、いきなりとんでもない話題に触れているようにしか思えなかった。俺がそんな事を考えていたのだが「ああ、知っている。『勇者』と呼ばれる者たちが我が魔王城に奇襲をかけ、そして皆殺しにしたのですよ。まあ、その時私は不在でしたがね」と言ってからニヤリとした笑みを浮かべたのである。その表情からは魔王自身がそれをやったのかは不明だが相当な実力者であることは明らかであり、少なくとも『勇者』と呼ばれた者達を相手に無傷で勝ったことは間違いないようだった。だが、俺はそこでさらに驚かされたのである。何故ならば「その、『勇者』なんだけどよ、ここに来てねえか?俺たちはそいつらを探してここまで来たんだけどよ」と言ったからだ。すると目の前にいた子供の姿に化けていたらしい青年のような姿の男と黒狼王が一瞬だけ動揺したような反応を示した後、二人揃って苦虫を噛み潰したような顔に変わってしまったのである。

そんな様子を目に収めつつ俺は心の中で思うのであった。この二人こそが『勇者』なのでは無いかという疑惑を。このタイミングでこの二人が現れたということに偶然性はありえない。そもそも魔王を騙っている男が「父を殺した者は『勇者』と名乗った人間だった」と普通に喋っていた事を考えれば「実はこいつらが魔王を暗殺しようと企んでいたのでは無いだろうか?」と疑いの気持ちを持つしかなかったのである。そう考えると俺を襲ってきた理由についても理解出来る。魔王は恐らく「自分たちが魔族を率いる為に、人間の国を混乱させようと思っている」と言っていたはずだ。俺の勘が外れていなければ、こいつは「自分たちの手下を人間の国で暴れさせた後に俺が倒したと報告をしよう」とか「もし俺が現れなかった場合の事も想定して俺が魔王を倒していると言う事にしよう」とか、そういう魂胆で動いている可能性が高い。だからこそ俺は「お前たちがこの国の王と宰相だろ」と問いかける事にしたのだった。

俺は二人の反応を見て「やはりそうなのか!」と思ったものの、「そうでなければいい」と願わずにはいられなかったのである。そう思いつつも俺はまだ信じ切れてはいなかったのだった。そう、何故なら今までの言動があまりに人間臭いからこそ逆に怪しく見えてしまっていたからである。だからこそ、そうであって欲しいという思いで問いかけたのだ。

「くっ、何故我らの存在が見破られたか分からぬが仕方あるまい。そうさ、我々は魔人族の国の王に使える者である」「魔王様に仇をなす不届き者に制裁をくわえる為にやってきた」

「そんなわけだから死んでもらうぜ」

そんな言葉を聞いて俺は内心では舌打ちをしていた。まさか魔王本人では無く側近が出てくるとは思って居なかったので油断しすぎたと。だが、まだ完全にバレてはいないのであれば交渉は出来るだろうと考えて、とりあえずは話をすることにしたのである。

「お前たちは何が目的だ」

「知れたこと、我が主である魔王様の命である」

「俺たちを殺すつもりってわけか。それでお前らの主人とやらは何処にいるんだよ」

「それは教える事は出来ぬな。ただ、我が主に敵対する貴様には死をもって償って貰う必要があるのだよ」

「そんなことより、さっき言ってた魔王は今どうしているんだ?この国に居るのなら話がしたいんだが」

「ほう、そんな事が聞きたいのか?まあ良い、我が魔王様は現在外出中で城の中にはいない。つまり貴様との面会は出来ないのだ」

そんな会話をしたのだが、結局魔王は今この国を離れているようで話をすることは出来ずに俺は落胆する事になってしまったのである。そして俺は、そんな状況にも関わらず未だに平然としている魔王の側近らしき存在の実力の高さから判断するのであった。「もしかしたらこの男の強さから考えれば魔王の側近というのは嘘で、実は魔王本人の可能性も有りうるな」と。俺の視線に気づいたのだろう。魔王がこちらを見ながら話しかけてきた。

「私の部下を気にしていたようだが、この者たちが私に仕えてくれているのは私が父を殺した相手だというのもあるからなんだよね」

俺はそれを聞いて思わず驚いてしまい、同時に「やっぱり」と思わざるを得なくなってしまったのである。だが、それと同時に納得も出来た。目の前にいるのが本当に魔王なのだと、その圧倒的なまでの存在感と魔力量を感じ取る事で確信したのだ。だが、それでも俺は戦う前に聞かなければならない事があった。

「なんでそんな奴らを使って俺を殺そうとするんだ」

「それはね。この子たちは父の配下の中でも特に優秀な子たちなんだ。だけどそのお陰か人間に復讐したがってるんだよ」

「お前は人間じゃ無いだろ」

「ああそうか、君は勇者なんだったな。私から言わせてもらえば君も同じ人間に親を殺されたというのにそんなに簡単に人間を信じられるのは理解出来ないんだがね」

そう言われても俺には答えられない事ばかりであり俺は口を閉ざす事になってしまう。そんな俺の反応を見た魔王は自分の言葉を否定されたと思ってか少し不満げな表情を見せたが、すぐに何かを考えるような表情になり口を開いた。

「ところで、君が私の父を殺しに来たのなら君も勇者だろう。私は別に人間全てが嫌いな訳では無いが、父は特に大の人間が嫌いだったからなぁ。君にも何かしら理由があるのかもしれないけどね。でも私は君の父を尊敬していたし好きだったから、できれば仲良くなりたかったんだけどな」

魔王のこの言葉を聞いた俺は「魔王なのにそんなことを言うのか」と思いながら思わず「父を殺した事を恨んでないのか?」と口にしてしまったのである。だが俺のこの問いに答える者はおらず沈黙が流れる事になった。そして俺が魔王に殺されるんじゃないかと思っていた時だったのだ――、俺の背後にいたはずの少女のうちの一人である黒狼王が突然魔王に飛びかかったのは! そして魔王に向かって牙を突き立てようとしたその瞬間に横にいた黒猫姫と呼ばれる少女も動いたのである。彼女は手に持っている扇で黒狼王の顎を下から叩き上げて吹き飛ばしてしまった。さらにもう一人の白虎姫と呼ばれる女も飛びかかろうとしたのだが、魔王の隣に座っている男に剣を持って突撃されたせいで動けなくなってしまったようだった。その結果魔王が一人になってしまい彼はとても困った表情を浮かべた後にため息をついた。それから玉座から立ち上がると俺たちの方を向いて「今の話は全て嘘だ。君たちの力を確認したかっただけなのですよ」と言い出したのである。

だが魔王の言葉に対して俺は怒りを覚えた。何故なら目の前に勇者がいたにもかかわらず魔王自身が殺そうとしてきたという事になるからだ。俺は魔王の方に近づきながら声をかける。

「ふざけんじゃねえぞ、てめえ!」

「おっと怖いですねぇ。そんなに怒ってどうしたのですか」

「俺を怒らせない方がいいぞ。殺すことになるかもしれないからよ」

俺は魔王の前まで来た時に「お前が本当に魔王ならな!」と叫ぶと同時に腰に差していた短剣を引き抜きつつ突き刺した。しかしその行動は読まれていたのか魔王の体が煙となって消えてしまい俺は驚愕してしまう。するとそんな俺の横でいつの間にか立っていた魔王が笑い始めたのだ。その笑顔は邪悪な笑みに満ちており、俺は思わず身構えてしまう程であった。

「ククッ。勇者、私はね、勇者と戦うためにわざわざ勇者が来るように噂を流したんですよ」

「それが何だって言うんだ。お前は俺を本気で殺すつもりだっただろ。だからその落とし前をつけてやるんだよ。勇者らしく」

俺はそういうと聖刀の鞘を抜き放ち魔王に向けた。だが俺の抜いた武器が予想外だったのか魔王が目を見開き驚いた様子を見せると、俺のことをまじまじと見つめ始めてしまったのである。俺はその反応に戸惑いを覚えながらも「こいつは一体何を考えているんだろうな」と思った。そんな時である、黒狼王と黒狐が飛び出してきたのは。

俺の目の前には黒狼王と呼ばれた黒髪の男が拳を構えていた。それに対して俺は、黒狼王の攻撃にカウンターを合わせて殴り返してやった。そして黒狼王が床を転がって動かなくなる。

「てめぇ!魔王様を殴るなんて許されねえ事だから覚悟しやがれ!」

「悪いがそう言われるとますますやる気が出てくるぜ!」

俺はそう言うとその巨漢に向けて蹴りを放ち吹き飛ばした。だがその攻撃を予測していたかのように受け流されたのだ。そしてその事に驚いて一瞬動きが止まってしまったところに腹部へのパンチを入れられてしまう。しかもその一撃はとてつもなく重たい物で俺は意識を失うのであった。

**

***

魔王side 私の名は非常に長いのです。なので魔王と呼ばれれば分かります。それにこの姿の時は私も名前を名乗る事はありませんからな、名前を呼ばれたら反応できない可能性もあるでしょうな、フハハッ。さてさてそんな事より、先ほど私が殴られましたが、これは非常に珍しいことですな。まさかこんな所で勇者に会うとは思っていませんでしたから。さて勇者と話をする為にまずはあの男を眠らせてあげましょうかね。そしてその後にあの子たちに任せる事にしますか。

「あなた方、後はお願いできますかな」

「かしこまりました」

そう返事をしたのは魔族であるダークエルフの女で名前はエルシーと言います。そしてその隣にいるのは吸血鬼の男であるラフィス、それから白猫姫と呼ばれている女のコボルト族の少女に、白狐と呼ばれる男の獣人、最後に魔人の少女に、魔王の側近でもあるオーガ族の男、ライと私の部下の四名である。彼らは私が頼んでおいた通りに気絶させた男の体を持ち上げると城から連れ出してくれた。

「さてさてこれでやっと話が出来そうだ。それで君の名前は何と言うんですか」

「俺の名前は天戸うずめだ。あんたが本当に魔王だというのであれば俺も質問があるんだが、良いか?」

うーんうーん。これはもしかしたら面白いかもですね、勇者なのにここまで魔王と戦おうとしてるって言うのが素晴らしい事だと思えるんですよ。ただ問題なのは彼の目的なんですけどね。もしかしたらこの勇者の青年は、勇者のくせに人間に失望していて人間を滅ぼしたいと考えているとか、あるいはただ単に人間の国に復讐したいんじゃないのかと思うわけですよ。さっきの話からすれば父親を殺した勇者の父親が大好きみたいですからね。でも、そんな感じでもないみたいなんですよね。

「君、この世界の魔王である私と戦ってまで聞きたいことがあるのなら何でも聞いてくれたまえ。まあもっとも答えられる範囲で答えさせて貰いますがね」

「分かった。じゃあ遠慮なく聞こう」

そう言ってから少し考える素振りを見せた後で、うずめの口から言葉が出てきたのだった。その内容は私にとって予想外のものだったが、まあ興味深い話では無かった。彼は自分の父がなぜ魔王を殺したかという事を知りたかっただけのようだ。だが残念ながら私は父についてそこまで詳しくはないのだ。そもそも父とはほとんど会話をした事もなければ、顔すらも見たことは無いのである。だからこそ父の事を知ろうと色々と調べたのだが、あまりいい情報は得られなかった。唯一わかったのは父の名前が「ウズメ」という事だけだが、そんな名前の人物などいくらでも居るはずだしなぁ。私は目の前の彼にそれを告げようと思ったが、それはしなかった。何故なら彼も私が勇者殺しをしているという噂を聞いてこの世界に来た可能性が高いからである。

そして勇者は人間に絶望しているはずなのだ。そんな相手に真実を教えてもいいものだろうか? そんな風に悩んでいる間に目の前の青年は「そうか」と言ったっきり黙り込んでしまった。そしてその瞳に光が無いことに気が付き、もしかするとこの勇者が人間に絶望してしまった原因は父にあるのではないか、という事を考えついてしまったのだ。そう考えついた私は思わず笑みがこぼれてしまう。もしそうであるのならば彼は間違いなく父の血を引いているという証明になるからな。そんな風に考えた後にふと我に返り、魔王が部下に殺そうとされているこの状況はまずいな、と思ってしまった。とりあえずは誤魔化す為に声をかけようとしたのだが――。その時だ。突然扉が開かれたと思ったら私に攻撃しようとしてきた者がいたのだ。

その男は私に襲いかかってきた。それに対して私は『転移』を発動してその襲撃者の背後へと転移したのだが、何故かそこには先ほどまで居なかったはずの者が立っていた。私は目の前の男の攻撃を受け流しつつ後ろを振り返ると、そこにはとても可愛いらしい見た目の少女が立ってこちらを見ていた。その事に私は驚きながらも攻撃を仕掛けてくる相手の拳を掴み止める事に成功すると「貴様は何者なんだ!」と問いただした。すると少女はニヤリと笑う。

「俺が何者かは今は関係ないだろう」

少女の言葉を聞いた瞬間、私の後ろに立っていた少女が剣を持って飛びかかってきたのだ。だがその剣は突如現れた巨大な狼によって防がれてしまう。少女は狼を蹴って後方へ跳ぶが、そこにいたのは黒い毛並みを持つ大きな虎に乗った一人の男だった。その姿を見て私は驚くと共に笑みがこぼれたのだ。なんとその男は、この国の王子である「カイ」だったのだ。

「久しぶりだな、カイ」

「ああ、久しぶりだな。魔王」

魔王である私の挨拶に対して魔王の味方をしていた男、「カイト」と呼ばれる青年が答えてきた。この二人は知り合いのようで、どうやら敵対関係にあるようであった。それを見て魔王である俺は、先ほど倒した勇者をチラッと見るとため息をつくのであった。

「魔王よ、どうしてこんなことをしたんだ!お前ならもっとうまくやれただろうに」

魔王の目の前に立つカイトはそう言った後に舌打ちをした後に「おい、そいつを捕まえて牢屋に連れて行け」と近くにいた者に指示を出した。

「魔王さんよ、悪い事は言わない。今すぐに投降してくれないか。今のままだと確実に魔王は倒される。そうなったらもう取り返しがつかないんだよ」

「ククッ、面白い冗談を言うな。お前達は私に勝てると思っているのか」

「もちろんだ。魔王が負ければこの国は滅茶苦茶になってしまうからな。だから悪いがここで死んでくれ」

その言葉を魔王である俺が聞き流す事が出来るわけがないだろ。俺を甘く見るのも大概にしてもらいたいね!それにこの勇者は絶対に殺すつもりだったからな!俺がこの勇者を殺せなかったら魔王としての名が廃れてしまうじゃないか。

俺はそんなことを考えながら魔王の姿で不敵な笑みを浮かべてみせる。そして勇者であるうずめが「どういう意味だよ」と聞いたので俺はその言葉に答えるように話を始めた。

「私は勇者を殺すと決めているんだ。例え相手がどんな相手であってもね」

「何の為にそんな事を決めるんだよ。お前は魔王として世界に恐怖を振りまいて平和を作るつもりはないのか?」

「クフフ、残念だが違うね。私はこの世界を恐怖のどん底に陥れてやりたいと考えているのさ」

俺がそういうと魔王の側近の一人が「魔王様、それはさすがにやりすぎかと」と言おうとした。だがその前に俺が魔法陣を展開させて魔力を解放すると側近たちは動きを止めてしまう。その様子を見つつ俺は笑い声をあげる。

「クフフフフ、私がお前達ごときに恐れを成すと本気で思っているのかい?」

俺はそう言うと、目の前にいる三人に向けて殺気を放つ。その途端に三人が震え出すのが分かる。そして俺は口を開く。

「この私に戦いを挑んだ事を後悔しながら死ぬといい。私と戦うとこういう目に遭うって事を思い知りな!」

そう言い放ったと同時に、うずめは持っていた槍を構える。そして同時に他の者達もそれぞれの武器を構えたのであった。

*

* * *

***

「うわぁぁっぁあっ!!」

勇者である天戸うずめは大きな悲鳴をあげて、その体を吹き飛ばされて転がっていった。その光景を見つめる黒狼王はニヤリと笑って拳を突き上げるのであった。

魔王である天戸うずめは自分の力を確かめる為に王都の外へと移動した。そこで勇者である天戸との闘いが始まった。最初は様子見としてお互いに距離を取り睨み合っていたのだが、やがて天戸が動いたかと思うと、瞬時に黒狼王の懐に飛び込んできた。その速度は尋常ではない速度で、常人が見れば一瞬で殺された事に気付かずに死んでいただろうと思われる速度だった。

「ハハハッ、中々に速いではないか!これ程のスピードを出す者は魔王軍にもいないぞ」

天戸の動きを見た黒狼王が楽しげに笑っていた。しかし、そんな事を言っているうちに天戸の連撃が炸裂する。その全てを回避したり受け流しているあたりさすが魔王という所である。そしてしばらく攻防が続くのだが、魔王である黒狼王に疲れは見られないが、それでも段々と天戸の方が不利になっていくのが分かった。そして遂に天戸が地面に倒れ込む。

「クッ、やっぱりあんた強過ぎるな」

「ほう、私の強さを認めたのなら大人しく殺されるがいい」

そう言うと、魔王の身体に力が溜まっていくのが分かる。魔王の力の波動を感じとると、俺も立ち上がり『限界突破』を発動させる。そして剣を召喚して構えるとそのまま魔王に向かって突っ込んでいく。

「無駄な足掻きを!」

「そう思うならそうすればいい」

そして次の瞬間、黒狼王は『転移』を発動するとその場から消え去った。恐らくは別の魔王の元へ行こうとしているのだと判断した俺は全力で魔王の追跡を行う。

しかし、その行動が裏目に出てしまったのだ。

『勇者よ。まさかあの程度で終わりではあるまい?私を殺しに来たんだろ?なら私にもっとお前の実力を見せてくれ!』

魔王の頭の中にそんな言葉が聞こえてくる。それと同時に魔王からとんでもないほどの殺気が発せられ始めたのだ。その圧倒的な気配に魔王である俺は身震いしたのだが、ここで逃げる訳にはいかないのだ。魔王である自分が殺されてしまった場合、その情報が魔王軍に渡ってしまうかもしれないからだ。そう考えるとここはなんとしても魔王である自分一人で倒すしかないのだ。

『お前が私を倒したいというのであれば、全力で相手をしてやる。だから早く私を殺してみるがいい』

「言われなくても、そのつもりだ!」

そして、俺の意識は完全に切り替わった。今までに感じた事の無い程に強いプレッシャーに押しつぶされそうになっているが、それを押し返すように俺は吠えたのだ。

その叫びを聞いているのか分からないが、魔王からは膨大な魔力が漏れ出し始めていく。その魔力は辺りの空気をビリビリと揺らしていた。

『私は本気だ。勇者がどれだけ強いのかをこの世界で試すのだ。勇者が魔王を殺した時に起こる世界の反応を知りたいからな』

そう言ってから俺の返事を待たずに魔王から強烈な殺気が溢れ出す。それはまるで津波のように押し寄せて来ていて俺を飲み込もうとしている。それを感じた俺は『魔導砲』と『神装鎧』を展開して迎え撃つ。その砲撃を魔王は受け止めたのだが――。その威力は凄まじく魔王が立っていた地面が陥没する。そして更に追撃を加えようとした俺に対して魔王の攻撃が襲ってくる。その一撃をまともに受けた俺は後方へと吹き飛ばされた。

だが俺と魔王はお互いの位置を把握していた。何故ならば俺が攻撃を行った際に発生する爆音に紛れて『魔力波感知』を発動した為だ。その結果魔王はこちらの場所を察したようで俺へと攻撃を仕掛けてきた。

俺は魔王から放たれた攻撃を剣で弾き飛ばすと、即座に魔王へ向かって攻撃を仕掛けようと駆け出した。だが魔王はそれを予測していて、魔王の腕が俺の目の前に現れると、そこから魔力の波動が発生し俺を襲う。

その攻撃を受けきる事は出来ず、俺は後方に吹き飛んだ。なんとか空中で体制を整えた俺は着地と同時に再び魔王へ向けて突撃を仕掛けた。今度は遠距離攻撃ではなく近距離戦に切り替えたのだ。

俺が間合いに入ると、魔王はその豪腕から振り下ろされる拳を繰り出して来たのを、避けたり受け流したりする。その際に何度も衝撃を受けるが何とか堪えつつ、その拳を受け続ける。魔王の攻撃は非常に重く、一度の打撃だけで数トンはあるのではと思われる重さなのだ。それに加え、拳だけでなく脚や蹴りによる攻撃もあるので油断できない状況だった。しかもそれを絶え間なく繰り返しながら攻撃を行っているので俺は防御一辺倒になっていく。そしてついに、俺は耐えきれずに後方へ吹き飛ばされた。それを確認した魔王がゆっくりと俺へ近寄って来た。だがその途中で急に動きを止めたかと思うと、魔王はその場で膝を着いた。俺は何が起きたのかと魔王を見つめていると、その視線の先には俺の仲間である少女達が立っていた。その姿を見て俺は大きく息をつくのであった。

俺が魔王である天戸うずめと戦っていて劣勢に陥っていたその時、天戸達も魔王軍四天王の一人である魔王軍の最強戦力の一人の『雷将オボロ』『氷姫ヒナタ』、『風伯ハヤテ』『水聖ルイゼ』、『闇皇ツバキ』の5人を相手に死闘を繰り広げていた。天戸達は連携しながら戦闘を行っており、魔王であるうずめを助けるために必死になっていた。

そして遂に魔王が膝を着くと俺の方を向いて叫んだ。

「助けてくれ!このままじゃ負けてしまう!」

俺は天戸達に気を取られ過ぎていた事を反省しながら目の前の魔王に集中していく。その俺の表情の変化を魔王は見逃さず俺が隙を晒すとすぐに魔法陣を展開させ俺に向けて魔法を放ってきた。

「しまっ――」

俺のその声を聞いた天戸達は急いで援護を行おうとするが間に合わないと分かってしまった。

魔王の発動させた魔法の術式が理解できてしまうほどに高度な物で、回避するにも魔法を使う暇すら無かった。

その強力な魔法を受けて、俺は意識を失ってしまうのであった。


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『勇者よ。起き上がれ』

その声に反応して、俺は目を覚ました。そして視界がクリアになると自分の状況を確かめてから俺は呟く。

「ここは、どこなんだ?」

そう言うと目の前にいた人物が答える。

「魔王城だよ」

俺は目の前の人物の顔を見て驚いた。なぜならその人物こそが今この場で意識を失っていた天戸にとても良く似ていたからだ。

「あなたは何者ですか?」

「僕はこの城の主だよ」

「そうですか、えーっと名前は?」

「僕の名前はうずめだよ」

俺はこの答えを聞いてこの人は間違いなく本物のうずめではないと分かったのだが何故か安心感に包まれた。その理由を考えたのだが分からなかった。そして改めて魔王城の謁見の間を確認する。するとそこには先程まで対峙していた魔王とその仲間たちがいた。どうやら魔王が倒れてもそのままの状態であるらしい。つまり魔王を倒したと言う訳ではないのだ。

「君たちの力を見込んでお願いがあるんだ」

そう言ったうずめは、魔王である天戸うずめに向かって剣を向けるとそのまま魔王に向かって突き刺した。

そして、その剣を引き抜くとうずめの姿になった。

その姿を見た俺は、驚きを隠せない。それは他の者達も同様で全員が唖然とした顔をしている。その様子から見るに、俺以外の仲間もこの光景を見た事がある事が分かる。

「どういう事なんですか?」

俺が聞くと魔王の姿で立っている天戸に化けた者が口を開く。

「この姿の時の僕の事を知っているんだね。僕は七賢人が一人、天邪鬼と呼ばれる魔族だよ」

「やはり、そうだったのですね」と俺は納得するように言うと続けて話す。

「あなたの目的は天戸の事だったんですか?それとも天戸が目的だったんですか?」

その質問を聞くと天戸に変身した天邪鬼が首を傾げて考えている。恐らくどちらの事も知らなかったのだろうと思う。そしてしばらく考えた後に話し出したのだが――。

「ごめん。どっちなのか覚えていないんだよ」

その言葉を聞いて俺は少しだけ肩を落としたのだが、それでも一応聞いてみることにした。

「では、何故天戸に変装したんですか?何か意味があるんですよね」

「ああ、そう言えばそうだな。確かにどうしてなんだろう」

俺は天羽々斬を召喚するとその刃を振り下ろすと『転移』を発動させる。

「転移」

「あれっ!?」

突然目の前に現れた事に驚くと天邪鬼が叫ぶ。そして『魔王結界』を展開して防御体勢に入ったので、すかさず俺が剣で攻撃をする。

しかし、それはあっさりとかわす。そして反撃として鋭い回し蹴りを俺に放つと、俺を壁に吹き飛ばした。

「勇者は『魔王』には絶対勝てないはずだろ?なのになぜお前がここに居るんだ?それにその『魔眼』はなんだ?普通の魔眼ではありえない程の高密度の魔力だぞ?一体どうやって手に入れて、何故その目を持つに至った?その瞳に映るのは真実のみ。全てを欺き全てを隠し嘘を暴きだす神代の『魔道具』ではないか。それを人間が使いこなせるはずがないだろ?」

そう言ってから天戸の姿で笑う。俺はその笑いを気にすることなく会話を続けた。

「天界から持ち出せたのは3つで、これはその中でも1つしか無い貴重な品物だ。ちなみに残りの2つはもう持っている。それと俺は『神具解放状態』になる事ができる。その効果の一つは身体能力の強化と武器の能力向上だ。だから、その剣で戦うこともできるんだぜ。そして俺はこの力を『勇者』の力と呼んでいる。まぁ俺の場合は『勇者の証(ブレイブスウォード)』と呼んでいるけどな。俺はこの力で魔王に戦いを挑む事を決意した。その決意の結果がこの世界なんだけどな。でもな、今はそれだけじゃねえ。もっと大事な理由が有る。それは――、天戸の笑顔を取り戻す事と『ハルを救う』ことだ。そして、そのためには魔王を殺す必要がある。そのために俺は魔王を殺す。絶対に殺す」

俺の覚悟を聞いた魔王は嬉しそうな顔をしながら、俺に対して話しかけてくる。

「僕に殺される気は無くなったって事で良いかな?それならそれで問題は無いさ」

「それは違う、魔王を殺しに来ると言っただけだ。その目的を達成するためにお前を殺しておく必要は出てきたってだけの話だよ」

俺がそういうと魔王は微笑を浮かべて俺を見る。

「面白い考え方をするんだね。気に入ったよ、その気持ちは大切だと思うよ。ただその考えだと君は『勇者』としては失格だよ。勇者は皆のために戦う存在で、誰かの為に戦いその人の為に死ぬことが役目でもあると思うよ。その考えでは、君は本当の意味では勇者とは呼べないだろうね。その力は『魔導士』が持つべきだと思うよ。だって、君の持つ力はその人の為にあるべき物でしょ?そして、その人は『勇者』に守られるべき存在である『聖女』とかが良いんじゃないのかい?」

「いや、俺も勇者じゃねぇよ。俺にとって勇者と呼べるのは、大切なのはその人だけだよ。天戸も、伊織も、うーちゃんも、ハヅキもみんな俺にとっては守りたい大切な人で、『聖女』も魔王もその対象じゃない。俺は魔王を、うずめを救い出す為にここに来た。その為に必要な事は何でもやるつもりだし、魔王の邪魔をするなら誰であろうと殺す。そして、天界の神様に頼まれていなくても俺は魔王の討伐を実行するつもりだった。俺は魔王を倒すためにこの世界に召喚された『勇者』なんかよりも遥かに魔王に執着していて、魔王を倒し世界を平和にしたいと思って行動している訳じゃないんだよ。天戸のいる日常を取り返すために、天戸の望まない事を全部無くしにきた。魔王軍幹部のお前を倒して終わりのはずだった。それが俺の目的のはずだったんだ。でもな、お前を倒さないで救える方法があればそうしようとも思ってた。だから、まずはこの場を何とか切り抜けさせてもらうぜ。その後でもう一度勝負と行こうじゃねぇか」

俺は天戸うずめが持っている剣を見ながら言うと天戸うずめも同じように天叢雲剣を構えて答える。

「うん、いいわ。望むところよ」

「いくぞ」

「かかってきなさい」

俺は剣の振り始めの瞬間から最速のスキルを発動し、そして次の攻撃の動作に入る。俺は全ての力を解放していく。その力に呼応するように天うずめの剣も輝きを増す。

「はぁぁぁああああああ!!!」

俺が渾身の一太刀を放つと、天うずめもそれに合わせて剣撃を繰り出す。そして剣のぶつかり合う衝撃で、城が軋みを上げるのが分かった。

そして、そのまま押し切る事ができたのか俺は剣を振り切ったが、目の前にいたはずの天羽うずめの姿は無く俺の背後で俺の首に天戸うずめの剣を突き付けているのだった。その状況を理解した俺の口からため息と共に言葉が出る。

「参った」

「はい、そこまで。僕の勝ちだよ」

「そのようだな」

天邪鬼に化けた天うずめの言葉を聞きつつ、俺の体はその場に倒れる。

天邪鬼が俺に手を差し伸べるが俺は自分で立ち上がり服についた埃を払う。

「これで、俺の勝ちだな」

「まだだよ。この魔法はまだ終わらない。僕はこの城と魔王の身体を使ってこの城を異次元へと転送する。君たちの命の保証はできないよ」

俺は天邪鬼を睨みながら言う。

「その言葉を待っていた。魔王、今から殺しに行く。待っていろ」

「そう簡単に行かせると思っているの?」

天羽うずめに変身した天の魔女は俺に斬りかかり、それを受ける。

そして、天の魔女との交戦中も魔王の城はゆっくりと光を放ち始めているのであった。俺達と天邪鬼との戦いを魔王と仲間達は見ていることしかできなかった。そして、俺達が優勢であるにも関わらず、誰も手を出すことができず、天の魔女の攻撃を天羽々斬だけで凌ぐ俺の姿だけを目に焼き付けたのだ。

「そろそろ終わりにしようか」

天の魔女は呟くように話すと剣を振るう。

すると剣圧は壁を削り、天井を割り瓦礫を撒き散らす。天邪鬼はそれを避けることなくその身に受けるが、全く動じる様子を見せず不敵な笑みを浮かべた。

俺はその光景を見て『あぁ、これは駄目な奴だ』と思い、天の魔女の攻撃を受けながら魔王の元へ走ることにした。

しかし、その行動は一歩遅く魔王の周りから無数の魔物が現れた。俺は即座に戦闘体制に戻り『勇者』の力を発動する。そして『超加速』『勇者の一撃』『神速』の三つを発動する。

そして俺は一気に間合いを詰める。しかし、魔物の集団は一瞬怯むもののすぐに攻撃を再開し始めた。

俺は天魔刀を縦横無尽に振い次々に切り捨てていくのだが一向に魔物は消えない。まるで無限に出てくるかのように次々と現れる。だが、ここで諦めてはいけない。俺には切り札がある。それは勇者にしか使えない必殺技のようなものだ。俺はそれを使うタイミングを計っていた。

そして、その機会はすぐに訪れた。天の魔女の攻撃で天羽々斬を持つ手が弾き飛ばされてしまったのである。天羽々斬を手放した事で天の魔獣は姿を消して天の魔王に戻ったのだが、俺にはそんなことを気にしている余裕は無かった。天の魔王は剣を失った俺に攻撃をしようとするのだが、それを邪魔する存在が一人いたからだ。

「私の勇者様に触れないで!絶対に殺す!」

そう言って天邪鬼は魔王と俺の間に飛び込んで来た。俺はとっさに魔王結界を発動すると、俺はそれに飲み込まれて転移させられたのだった。

「ふぅ~危なかったぜ」

魔王が居なくなったことで、先程までの天の魔族も姿を消したようで辺りには再び静寂が訪れた。しかし、それもほんのわずかな時間で天魔族の残党が再び姿を現したが、既に俺と魔王の決戦で体力を消費してしまっていた俺の仲間たちでは対処できず再び天の魔族は撤退を始めた。しかし、天の魔族達は何かを察したのか俺を一目見た後に再び姿を消した。

「ハルちゃん。無事でよかった」

うずめはハルの元に駆け寄り、抱きかかえると優しく頭を撫でていた。そして、その様子を見ていた伊織とハヅキは涙を流しながら微笑んでいた。その表情からは心の底からの安堵が感じ取れたので俺もうっかり目頭を抑える。俺は涙をこらえながら言う。

「お待たせ。悪いけど、俺はこの世界でうーちゃんが幸せになるまで帰れないからな。ハルが笑顔になる未来のために、俺は何度でもここに来るぜ。まぁ、今回は魔王と天うずめのおかげで何とかなったけど、あいつが本気で魔王を殺せば天うずめがどうなるかわかったもんじゃないしな」

「うん、そうだね。でも大丈夫。魔王は死なないよ」

天うずめは少し悲しそうな顔をして言う。

「そうね、不死なのよ。正確には不死と言うより『時間を巻き戻す』事が出来るって言った方がいいかもしれないわ。私が殺した勇者も生き返ってしまうもの。あの子にとってはこの世界を平和にする意味は無いのよ。ただ自分の欲望の為だけにこの世界を蹂躙し続ける」

天羽うずめは淡々と事実を述べるように語る。

「じゃあ尚更倒す理由が増えたぜ。うーちゃんを救うだけじゃダメなのか?」

俺が質問をするとうずめは目を瞑り答える。

「無理よ。魔王はこの世界の神でもあるの。だからこの世界に害をなす事が無い限りこの世界に危害を加えることは出来ないわ。私は『聖女』として魔王を止める事はできない。私にできるのは勇者を召喚することだけ」

俺は黙ってうずめの話を聞く。

「魔王は倒しても、勇者は元の世界に帰れないのよ。だって、この世界に来てしまって、勇者の力が発現してしまう。その勇者の運命は魔王を討伐し元の世界に戻れることなんだから」

俺はうずめの言葉に衝撃を受け、そしてその言葉を噛み締めるように口を開いた。

「俺のせいだ」

「あなたのせいじゃない」

「いいや、俺のせいだ。この世界に召喚されなければ俺は天うずめに出会っていない。そもそも、召喚されるような状況になっていなかったはずだ。魔王を倒すために俺に特別な力なんて必要無かったんだ。うずめに出会えて俺の人生は大きく変わったんだよ。本当に毎日が楽しくてさ、だから魔王なんか倒さないでみんながずっと平和に暮らしてくれればいいのになって思ってたんだ」

俺は天羽々斬を握りつぶさんばかりの勢いで手に込めた。

そして拳を強く地面に打ち付けると、その音が響くほど地面も震えたのだ。そして、俺は天の魔女を真っ直ぐに睨みつける。

「ふざけんなよ、俺は俺の意思でしか戦わねぇぞ」

そう言うと俺の全身から青黒いオーラーが立ち上る。

「おい天うずめ、こいつの相手をしてくれないか?天魔族とか魔王軍幹部みたいなもんだけど、俺の仲間に傷一つつけたら容赦しない」

「え、ちょ!?待って。天邪鬼と戦うつもり?」

俺はうろたえる魔女を無視し、ゆっくりと歩き出す。俺の背中越しに魔女の声が聞こえる。恐らく『無謀だよ』と警告をしたのだと思った。

「魔王の相手は俺がするから天の魔女とは遊んでくれ」

「うん、了解。任せて。僕に任せてよ」

天邪鬼と天うずめのやりとりを俺は聞きながら城の外へと向かう。そして、そのまま魔王のいる空間までたどり着くとそこには大きなクレーターができており、魔王と天邪鬼の死闘の痕が残っていた。そして、その中心には天の魔王と俺だけが立っていた。天羽々斬を構える。魔王は既に魔王の力を身に纏っており、その禍々しい気配を肌で感じることが出来る。

「まさか君が来るとは思わなかった。魔王様が負けたのか、やはりこの程度の勇者では無かったか」

天邪鬼は余裕のある口調で言う。

「いや、お前が弱すぎたんじゃないか?まぁ、雑魚がいくら集まろうと天羽々斬の前じゃ関係ないな」

天邪鬼は不敵な笑みを浮かべると言った。

「あははははっ!やっぱり僕の目に狂いは無かったよ!君に勝てる勇者は存在しない!」

天邪鬼がそう言い放つと同時に俺は天羽々斬を振り下ろす。

「勇者無双斬り」

しかし、天羽々斬から放たれた剣撃も虚しく天邪鬼には当たらず虚空を切る。俺は攻撃が外れたことを不思議に思い振り返ると天邪鬼の姿は無く、代わりに背後で魔力の塊が迫っているのを感じたので振り向き様に剣を一閃した。そして、天邪鬼の魔力弾と天羽々斬が激しくぶつかると激しい衝撃波が発生して城全体がガタガタと揺れ始める。俺は吹き飛ばされないようにその場に留まるので精一杯だった。すると魔王は一瞬にして俺の前に姿を現すと右手で殴りかかるモーションに入っていたので咄嵯に避ける。魔王の一撃で地面は大きな亀裂が入った後に大きな爆発を起こし土埃で視界が遮られるが、魔王の気配がすぐそこにあったのですぐに回避した。

すると魔王はニヤリと笑うと、俺に向かって突進をしてきた。

俺は避けようとするが既に遅かったようで強烈なパンチを食らう。その一撃は魔王の一撃だけあって凄まじく、まともに食らえば即死レベルである事が容易に想像出来た。

『まずいな、このままだとジリ貧だ』俺は焦る気持ちを抑えながら冷静になろうと深呼吸をする。そして魔王の攻撃は激しさを増していく。

俺の思考は天うずめとの会話で止まっていた。

天魔族について。そして俺のせいで天魔族が現れてしまった理由について。天うずめと俺が出会ったことでこの世界が変わってしまった。つまり天魔族の出現は俺が原因であると言える。天魔族は俺が勇者の力を持っている事に感づいていたようだ。だからこそ天うずめの存在を利用して魔王軍の邪魔をしていた。天うずめを危険視していたのだ。その結果、俺は天うずめと出会うことになったのだがそれは良い方に作用してくれたのだろう。だが結果的に天うずめを巻き込んでしまうことになるなど、俺は全く考えても居なかったのである。これは完全に俺の不注意である。魔王と出会わなくても天うずめは狙われていた。

俺の頭の中をそんな考えがぐるぐる回る。俺は目の前に迫る拳を避けつつ天の魔刀を取り出すと反撃に出る。

「聖女様が勇者をこの世界に留めていたんじゃないのかよ!」

俺は魔王に向けて天魔刀を振るう。

魔王は天魔族との戦闘経験もあるのだろうか?俺の攻撃を難なく捌き、攻撃を繰り出してくる。俺は必死になりながら魔王の動きを観察する。魔王も俺の事をしっかりと見据えているようであった。お互い一歩も引かない攻防を繰り広げていたが俺が先に体勢を崩してしまう。その隙を突いて魔王の一撃が俺を襲うが、何とかそれをガードする事に成功するが俺の手には衝撃が走り手が痺れてしまう。

俺にダメージを与えた事で更に嬉しそうに顔を歪ませる魔王に対して俺は歯を食いしばりながら耐えていた。

そして、その時である。俺は突然魔王から強いプレッシャーを感じたのである。

「魔王結界発動。勇者よ。この世界の魔王はこの私であり、お前では無い」

魔王が静かに宣言した瞬間、辺りが静寂に包まれ、その刹那、俺の全身に鳥肌が立つほどの恐怖心が襲ってきた。俺はこの感情を知っている。圧倒的な強者の前に立つと起こる現象。俺の体は自然と震え始めたのがわかった。俺にこの状態を引き起こすことができる者は1人しかいない。そう、『魔王』。この世界を蹂躙する者の頂点に立つ存在だ。天うずめもそうだが、この魔王も人間で言えば規格外の強さを持つ者なのだ。

魔王はニヤリと笑い俺に近寄ると、そのまま蹴りを放つ。そのスピードは尋常ではなく、反応が遅れてしまい、俺は直撃を受ける。まるでトラックにでも撥ねられたかのような勢いで吹き飛び城の壁に激突すると壁がガラガラと崩れ、瓦礫の中に埋まる。その瓦礫の中から俺は天羽々斬を引き抜いて立ち上がる。魔王はその様子を見届けると口を開いた。

「流石勇者だな。そのくらいでは死んでくれないのか」

「悪いが死ぬわけにはいかないんだ。俺は天うずめと幸せになるまで帰れないでいるんだ」

俺の全身から血が流れる。天魔族に負けてもここまでの怪我を負わなかったと言うことは恐らく魔王の力によるものだと言うことが理解できる。

「その程度か?」

俺は魔王の言葉を聞きながらも再び魔王に接近して斬り掛かる。

魔王は俺の攻撃を回避しながら攻撃を放ってくる。俺は紙一重のところで魔王の攻撃を受け流し、そして俺の攻撃を当てるがあまり有効的なダメージを与えることが出来ていない。

俺は天羽々斬に聖気を込めて斬りつける。聖気が魔王の身体に纏っている闇の力によって弾かれ、天の魔王の肉体にダメージを与えることが出来なかった。

「無駄だ、今のお前の力では我に傷をつけることなど出来ない」

魔王は淡々と言葉を述べると、そのまま拳を振り下ろし、俺は天羽々斬を使ってその拳を受け止める。しかし、俺の天羽々斬も簡単に砕け散り、俺は拳をそのまま受けることになってしまった。拳を受け、地面を転がるがなんとかすぐに立ち上がる。そして魔王の方を睨みつけたが既に魔王の姿は無かった。そして背後で声がする。

「その程度の力で勇者を名乗るのか?魔王様を裏切った勇者に正義はない」

俺は背後を振り向くが既にそこに魔王の姿は無く。俺は全身に力を入れると全方位から襲いかかってくる殺気に全身に冷や汗を流す。全身が震えて動かなくなりそうなほどの圧力を受けながら、天羽々斬を振りかざすと同時に四方八方から攻撃される感覚に襲われ咄嵯に俺は防御に回ったが天羽々斬は壊れ、俺の腕には大きな傷跡が残ってしまう。痛みに悶えながらどうにか立ち上がると俺は天羽々斬を投げ捨てる。

しかし次の攻撃が来ることは無かったのだ。魔王の声だけが聞こえてくるだけだったのだ。そして俺は自分の身に何が起きたのか分からずに困惑するがどうやら俺と戦おうとした時に何かが起きていたのだろうと推測した。そして暫くして城の外へと出て行ったらしい魔王が戻ってきたのだった。

その顔はとても悲しそうだった。そんな魔王を見た俺は魔王の悲しみを癒やす為に魔王の元へ駆け寄り抱き締めた。

「魔王よ。何故悲しいのか教えてくれないか」

すると魔王は泣きながら俺の胸にすがるように倒れ込んできた。そして小さな声で話し始める。

「私が間違っていた。お前が異世界から来た者であろうと、勇者であることに変わりは無かった。だから私は勇者を倒す事を諦めたんだ。なのに私はお前と戦っている時勇者の事を思い出してしまっていた。お前は勇者の力を持っているけど、お前の心はあの勇者と違ったんだな」

俺は魔王を抱き留めながら、天うずめの顔を思い出す。

そして、俺がこの世界ですべきことを考え始めるのであった。

魔王が弱音を吐いてくれたお陰で俺には魔王に勝てるビジョンが見え始めていた。

しかし、その魔王に勝つという目標を達成するためには、魔王を説得する必要が出て来てしまうのである。そう、天魔族の暴走を止めるためには、天魔族と戦うのはやめるしかないのだ。俺は今までの事を整理することにした。

1、魔王軍に所属している天魔族達は元を辿れば俺と同じ世界の人間だった。

2、天魔族は元々は天邪鬼と同じく『魔族』としてこの世界に生まれた。

3、魔族は天敵である勇者に対抗するために天邪鬼と協力関係を結ぶことにした 4、俺が召喚されてきたせいで魔王軍と勇者の関係性が変わってしまい、天邪鬼が天邪鬼じゃ無くなっていた。

5、天魔族は勇者が召喚されなければ現れることは無い 6、勇者に敵対することで勇者の力を使えるようになる(勇者が魔王と出会わないようにしていた為)

7、その能力を使って天魔族が現れた。

8、勇者無双斬りにより、勇者と魔族の関係が崩れた事により、天魔族が現れ、魔王軍は窮地に追い込まれる 9、勇者を倒せば勇者の力を扱えるようになると魔王は考えた 俺はそこまで考えをまとめると、魔王と話をするため一旦部屋まで戻ったのである。魔王と話す必要があると考えた俺は魔王の部屋に戻ってくると、先程と同じように椅子に座って待っている魔王に俺は声を掛けることにした。

魔王はこちらをちらりと見ると「座れ」と言った。俺がその通りに魔王の向かい側に腰掛けると魔王はゆっくりと口を開いた。

「さっきは悪かったな、取り乱したりなんかしちゃって。もう大丈夫だ」

「そっか、それでなんで泣いてたんだろうな。やっぱり勇者に負けたのが悔しかったのか?」

俺が魔王に尋ねると魔王は「まあそれもあるんだがな」と言葉を濁していた。

「他にもあるんだろう?」

俺は少し食い気味で聞き返すと、観念したのか魔王は語り始めた。

魔王は元々天魔族を討伐しようと動き出した際に魔獣に苦戦してしまい、その時に現れたのが天邪鬼だったらしい。そこで天邪鬼が天魔族であることを告げられ天邪鬼に魔王軍の手助けを頼んだところあっさりと了承してくれたと言うことだった。だが、魔王軍に天魔族がいる事が天魔族に伝わると天魔族の様子が変わってしまったのだと魔王は言った。

そして天魔族は魔王に「勇者を打倒することに協力はしよう。だがもし魔王様の力が及ばなかった場合勇者の力は我らの物だ」と言って姿を消したのだという。そしてそれからは勇者が現れることはなかったので、魔王も天魔族が勇者に敵対するのは仕方ないことだと思って、天魔族に魔王軍の力になるように指示を出していたのだという。

そして俺が現れてしまったことで天邪鬼と同じような存在が現れ、天邪鬼が勇者を恨む理由が増えてしまい、天邪鬼が暴走してしまったということだった。俺のせいで魔王軍が窮地に追いやられたのは紛れもない事実なので俺も素直に謝罪したのである。すると、俺の言葉を聞いた魔王はその事にたいしては怒っていないと言いながら「天邪鬼を元に戻せそうなのか?」と聞いてきた。俺はそれに対して「多分出来る」と答えたのである。俺は魔王に「どうしてわかるんだ?」と聞かれたが俺は「ただの勘だよ」とだけ答えて誤魔化した。この世界の人間に俺のステータスを見抜くことは出来ず、『魔王の呪い』についてもわからないはずだからこれで誤魔化せたはずなんだけれども。それでもまだ何かあるんじゃないかと言わんばかりに魔王は疑いの目を向けてきたため「今はまだ無理だけど、これから天うずめを救えばいいだけだ」と言っておいた。すると魔王は何を思ったのか突然立ち上がり、そのまま部屋の外に出ようとすると扉の前に立つ黒猫姫と呼ばれた少女に魔王が話しかける

「おい!そこの女!」

するとその少女も「なんだ、魔王よ」と答えてくる

「お前も私と一緒に付いて来い。こいつと共に天うずめとやらを救うぞ」

その発言に対して、俺はもちろん驚いたが魔王の言っていることが正しいのならば天うずめを救えるかもしれないのでその言葉に従い一緒に行くことにした。そして俺たちはそのまま城を抜け出した。そして俺は魔王に連れられるままに歩いて行き着いた場所は巨大な樹がある湖のある森のような場所であった。

「この奥にあるのが我が居城である天城だ。そこに行け」

魔王はそういうと一人で天城の方に走っていったのである。

俺もそれについて行こうとしたのだが、それを阻むかの様に黒猫姫と呼ばれる少女が前に出てきたのだった。

そしてその瞬間に魔王の方から何か嫌なものを感じとった俺は、剣を抜いてその攻撃を防ごうとしたが間に合わず、黒猫姫が持っていた刀の一撃を受けて俺は吹き飛ばされてしまう。俺はそのまま森の中へ飛んでいき、そして木に衝突し、意識を失ってしまったのだった。

そして目が覚めるとそこには黒豹の格好をした女性と、そして白狼の鎧に身を包んだ女性が心配そうな顔で俺のことを見ていた。その姿を見て俺も身体を起こすと、二人の女に声を掛けようとしたのだが、俺は自分の体に起きた異変に気がついたのである。俺は自分がこの世界で得たスキルの1つでもある『回復魔法』を唱えようとしたが、どういう訳か魔法を使おうとすることが出来なくなってしまったのだ。そんな困惑している様子の俺を見て目の前にいた白狼姿の女性はこう声をかけてくる。

「目覚めたみたいね。私は雪女の『氷雨 結衣子』よ」

そして続けて黒豹の姿になった女性に目を向けると彼女も同じ名前を名乗り始めた。俺はとりあえず「ありがとうございます。助かりました。俺の名前は月影 翔です。あなたたちはどちら様ですか?それと俺は一体どうなってるんですか?それになんでここにいるのかがわからないんですよ」と質問をしてみた。俺の問い掛けに対し二人は何か話そうとしているのか困っているように見えたが俺はさらに二人を睨み付けるようにして話を続けた。その俺の様子に怖じけているのか、二人は恐る恐ると口を開くとこんな事を言って来た。

「ごめんなさい、私たちは貴男とは初対面だし、ここは天界の端に位置する天城の中だから私たちがなぜこの場所にいるのかは分からないわ。それよりも貴方の事をもっと詳しく知りたいわ。何があったの?あと私は魔王の側近の一人の白狼族の『冬音 冷夏』よ」

そう名乗ってきたが、俺はこの人を知っているので警戒を解くわけにもいかず、しばらく黙っていたのだけれどそんな俺の様子を見かねたのか今度は隣の黒豹が話を始める。

「私は黒豹族の魔王軍に所属している『氷花 咲耶』だ。ちなみに魔王側近の中での階級は三番目にあたる。それよりまずはこの天界で起きた事を説明すると、魔王がお前が異世界から来たことを明かし、天邪鬼を元の天邪鬼に戻す事が出来ると言っていた。お前はその言葉に耳を傾け魔王の城に連れて行かれていた。そしてそこで何者かによって攻撃を受けたお前はすぐに倒れてしまったということだ」

俺はその説明に納得はしたが、それと同時にこの世界で俺に敵意を持っている相手が存在する事を知ったのである。しかし今はそれよりも先に聞きたいことがあった。それは「俺に攻撃してきたやつは誰だったんだ」と聞いた。しかし返って来た答えは予想通りのもので、「わからないが、おそらくは魔王軍の敵だと思われる。しかし今のこの状況で魔王様に危害を加えようとするものはいないと思う」という答えだった。それを聞いて少し安心した。なぜなら俺は魔王を倒したら世界が滅びかねないと思っていたからである。だが俺の心の中に一筋の大きな不安が存在していたこともまた事実だったのである そして俺はこの世界に召喚されて初めて感じた大きな感情を抑えきれず泣き出してしまうとそんな俺を見た2人は慰めてくれたが、結局その後しばらくの間泣いてしまっていた。そして俺は気持ちが落ち着くまでずっと泣いていたがしばらくしてようやく落ち着きを取り戻し始める。するとその時にふと思い付いたことがあり、この世界に来る際に手にしていたスマホを取り出すと『ステータス画面』を表示させて自分のステータスを確認したのだ。

ステータス

職業:元勇者

LV :9999

HP :0/99999

MP:1000000

力:10万

守:15万

速:25万

魔:100万

運:50 【固有能力】

完全鑑定 限界突破 経験値増大 100倍 成長促進 10倍言語理解 魔力供給(神)

魔力制御

(聖)光属性魔術適正(魔)

回復魔術適性 精霊魔術適 属術(火)水 闇 土 雷 風 空間 時間 特殊(創造)

スキル(天)

勇者無双斬り(天)

全属性魔術(地)

錬金術(聖)

無詠唱 気配遮断 魔力探知 剣術適正 体幹強化 体力増強 身体機能強化 縮地隠密 気配感知 高速再生 毒無効 即死耐性 自動回復 超聴覚(天)危機察知 予知 未来予知 称号 異界の勇者 不老 魔王殺しの魔王殺し 魔眼持ち 真なる勇者 1ページ目は問題なかったんだけど 2ページ目からはとんでもない数値になっていて、しかもそれが全部レベル1000を超えていて正直驚きを通り越してドン引きしてしまったのだった。俺はこの世界の人間より圧倒的にステータスが高かったのだがそれでもこの数字には圧倒されてしまったのである。そして俺のステータスを確認し終わった頃に、先程この世界の人間とは思えないステータスを保有していた黒猫姫と呼ばれていた女性は俺に近づき「ねえ貴方は本当に人間なの?」と聞いてきたため「はい。間違いなく人間だと思いますけど」と答えると何故かとても残念な奴を見るような目をして俺のことを見てきたのである。

「そっか、やっぱりそうなのね。それで貴方がこの天魔族を元の状態に戻してくれるんでしょう?」

その発言に対して俺は「ああ、そうだ。俺に任せてくれ」と答えたが俺の言葉に対して、黒豹の姫と、その部下らしき女から「はぁ~」と言われてしまったのである。その事に少しイラッときてしまったが我慢して話を続ける。

「とりあえずその前に、俺はこの天魔界についてもう少し知っておきたい。そして天うずめを救いたいんだ」

俺は黒猫姫と、黒豹の女に向かってそう言った。そして黒豹の姫がそれに対して返事をしてくれたのである。その姫の言葉は「わかった。なら私が知っていることを教えてあげる。ついてきて」という言葉だったので俺は素直に従うことにした。

そして俺は黒猫姫に着いて行くと一つの巨大な樹の前にやってきた。そしてその木を見上げていると黒豹の女が話し掛けてきた。

「ここが私の城だよ。ようこそ私が住む『氷月城』へ」

その城はまさに城と言ってもいい建物で俺は素直に驚いたのである。俺の知る城の外見と違いはなく、俺の住んでいた城よりも立派なものだったからだ。ただこの世界の城の構造とかは分からないため俺にとってはただ凄く綺麗で立派に見える城ということしかわからないのであった。

城の扉を開けるとそこはまるで映画やゲームで出てくる西洋風の城の内装でかなり広かった。そんな豪華な造りの廊下を抜けて行くとある部屋の前まで来ると彼女はこう言うのだった。

「ここで話そう」

そして俺達は部屋に入るがそこには何も置かれておらず広いスペースが広がっているだけだった。そして俺はそこに入ると椅子とテーブルがあることに気付いた。俺はそれを見て「あれは何に使うものだ」と疑問に思ったので質問をするが帰ってきたのはこんな言葉だった。

「えっ?知らないの?これは会議をしたり、報告会や相談事があったり、お客さんが来たときに応接室として使うものよ」

俺の常識ではこの世界でこの様な物は見たことも無かったし、俺の住んでいた場所にもこの設備はなかった為驚いてしまう。

そして俺の事を不思議そうな顔をして黒豹の姫は見ていたので「すまない、少し呆けてしまっていたようだ。続けようか」と答えると彼女もコクリと首を動かしたのだった。そして黒豹の彼女が話し始める。

「ここは一応、会議室って呼ばれてるの。私は普段はこの部屋に篭もって仕事したり勉強したりするわ。そしてこの城に勤めているメイド長の氷雨 氷葉もこの部屋で仕事をしている事が多いのよね」

そんな説明を聞いているうちにこの世界に来た時に魔王軍と言っていた事を思い出す。そしてそのことを聞くと、どうやらその通りで間違いないらしい。俺は魔王軍のことについていろいろと話をしてもらう。すると俺にとって衝撃的な内容がいくつもあり俺は絶句する事になってしまった。

まずはこの天界と呼ばれる場所で起きていることを聞かなければならないだろうと思い俺は彼女に尋ねるとまず魔王とは誰か?という事から始まった。そして俺は魔王の事を説明するが「それは魔王じゃないよ」と言われたため、俺はその事についても詳しく話すように促すと彼女達の事について説明を始める。そして俺にこの世界で起きるかもしれない最悪の結末を説明し始めたのだった。その話の内容はあまりにも信じ難いものであり俺は驚愕すると同時に怒りが湧き上がるほど、許せなくなってきた。

それは彼女の説明によれば「この世界は既に滅びに近づいておりもう間もなく滅びを迎える。そしてそれを防げる可能性がある存在こそが今現在ここにいる月影翔と言う人物だけ」だと言われているからである。その理由としては月明かりの勇者のスキルを持つ者だからだと彼女は告げるのだった。俺自身まだ勇者としての実感はないが、しかしそれ故に俺にはやらなければいけない事が出来たのだ。

そして、それを行うのであれば俺は魔王を殺すしかないと思っているのだが、問題はどうやって殺すかということだったのだ。俺は勇者だと名乗る気は無かったし、何よりそんな危険な事は絶対にやりたく無い。しかしだからといってこの世界が滅びる事を俺は黙って見ている訳にもいかなかった。だから俺がこの場で魔王を殺してしまうことは、ある意味この世界を救ってしまうことになるのだがそんな事を知る由も無い俺がそんな決断を下せるはずもなく、しかし、魔王を殺して天界を救う事も出来なかった俺はしばらく考える時間が必要になってくる。だがその結論が出るのを待つ必要は無くなった。

なぜならその言葉を聞いた後にこの部屋に入ってきた人物が俺を殺さなかったからである。俺は突然現れたその少女の姿を見た時に、その容姿の美しさに一瞬意識を奪われてしまいそうになるが、なんとか堪えることが出来たのだった。しかしその相手は「なんであなたがいるの!?それにその姿は」と叫んでいたため知り合いであることはすぐに分かる。そのため俺は「貴女はいったい誰なんだ?」と問いかけたのだった。その言葉に目の前に現れた相手は答える。

「あーごめん、私の名前は天月神っていうんだ。まあこの姿については今は気にしないでもらえるとありがたいな。それよりも君に伝えないといけないことがあったからこの姿で会いに来たんだよ」

そして天月神と名乗ったその人は「君の願いを叶えられるのがこのタイミングしか無くてさ。ちょっと無理をさせてしまって本当にごめんね。でも安心して君は天魔界の未来を変えることが出来るから。それと私のことを信じて欲しいなんて言えた立場じゃないんだけど、これから言う話は本当のことだよ。信じてくれなくてもいいんだけどね。それでお願いしたいことがあるんだけど、実は私の兄がこっちに来ててその兄は天魔界に平和をもたらすために動いていて、その邪魔をしようとしている人達が居るみたいなの。だから私と一緒に来て助けてくれないかなって思うのだけど」

俺は天月神と名乗るその女性の言葉をすぐに理解することなど出来なった。そして俺はとりあえず、その言葉が真実なのかを確認することにする。そしてその確認が終わったあと、俺はまだ天月神の言っている内容を理解することが出来ずにいる。ただ分かったことが二つあった。一つは天月神は確かにこの世界の未来を知っていて俺が魔王を殺した後の天魔界に訪れるであろう破滅を防ごうとしている。もう一つは、この天月神という女性もまた俺と同じでこの世界の未来を変えようとしていること、この2点について俺は確認を取ることにした。

「お前の言ったことに嘘は無いと思わせてもらったよ。それで聞きたいんだけどお前の兄というのは、まさかこの国の王様が転生した存在なんじゃ無いのか?そしてこの世界にやってくるのが、まさかあの時、俺を異空間に引きずり込んだのがお前の妹だったって言う事なのだろうか?」と質問すると、俺がそう聞いた時の天月神は「うぐっ、そ、その件に関しては申し開きの言葉もありません。私のせいで兄様は行方不明になったままで。本当に申し訳ありませんでした。」と言って頭を下げていた。

そして俺の言葉が間違っていなかったらしく、その答えは正解だったようだ。俺を別の世界に送り込もうとした理由を詳しく聞く必要があると感じた俺は天月に話を聞き出す。ただそこで俺は重要な事に気づくのだった。そうそれは俺自身がこの世界の人間じゃなくて、そもそも別の世界から来たということに気づかれるのはまずいと。なのでこの世界で生まれ育った事にする為の演技をすることにしたのだった。

そして俺と天月の話が終わると黒猫姫の方からも質問を受けたのである。その内容はやはり俺の種族のことだった。

そして俺は黒猫姫が言う、猫人とは本来なら猫の亜人のことを指すもので普通の人間はそう呼ぶのだと教えてくれた。それを聞く限り猫人の事を猫人族ではなくて普通に猫人で良いんじゃないか?と俺は思ったのだったが黒猫姫からしたら、その呼び方では何か問題があるようで納得出来ないようだ。俺の知っている黒豹族の姫も俺の知る猫人にそっくりだったから俺の認識は間違っちゃいないと思うけどな。

そんな疑問を抱きながらも俺は黒豹の姫にこの世界で俺以外の人間で猫人のことを知らないかを聞いてみる。

「ああ、それは当たり前の事だよ。元々私達の一族は猫人と呼ばれる事を嫌うんだよね。ただ他の種族からは何故か猫人が差別されることが多くってね、そういう風に言われているのさ」と言って説明してくれ、そして彼女はこう続けるのである。

「まあそんな話は置いておいて、貴方の仲間達の事だけど私が案内しても良かったのだけれど私は氷雨さんに呼ばれただけだし」と彼女は言うのである。そうすると、この城に氷雨さんという人以外に詳しい人物は居ないのだろう。そう思った俺は氷雨さんのところに連れて行ってもらうように頼もうとしたのだが、その時ちょうど氷雨という人物が現れた。それは黒い髪を後ろで束ねており前髪で目が隠れているため顔立ちが分かりにくい女性だった。だがその女性は俺の顔を見るとなぜか「あっ」と小さな声を上げていたので俺は思わず警戒するが「失礼いたしました。まさかこんな所で会えるとは思ってなかったんで驚いてしまって」と言われた事で、その女性が何を勘違いしているのかを理解したのであった。

ただそこで氷水さんから説明があった通りで「私達の一族の姫君に気に入られたみたいですね、流石勇者様なのかな?」と言い出したのである。それに対して黒豹の姫はその事実を否定することなく肯定してみせたのだった。俺自身、そこまでこの世界では勇者と言う肩書きは重いものだとも思っていなかったため黒豹姫の対応には少し困ってしまったが、ここで俺も自分が勇者だという事を否定できない以上は何も言えない状況になってしまうのだった。

俺は今現在この国の中で起きている問題をどうにかするために魔王を殺すことに決めたのであるが魔王が生きている理由について、魔王軍と呼ばれる組織があるという話も聞かずその組織自体も謎に包まれているという話を聞いた。

そして俺はなぜこの世界の人々が魔族と呼ぶ者達のことを勇者である俺よりもこの城の人たちの方が詳しく理解しているようなのだと思って質問をする。するとどうやらこの城で働いてる人々は元々は異世界からやってきた人々らしいので魔王軍に対抗できるほどの実力を持っている者が多いからだと話された。その事から考えて俺に魔王を殺して欲しく無い理由は俺に死んで欲しいわけではなくこの国の人達のために行動してほしいと思っているからのようだった。

それについて俺自身も同意できた。俺だってこの世界が滅亡するのは見たくないからである。

しかし、そうなると俺は魔王を倒さなければならない。

そして俺は仲間達の事を思いだす。みんながこの世界を救うために頑張ってくれてるんだ、俺がここで引き下がるわけにはいかないと。だから俺は今現在、この国の王となっている天月と話をすることになったのだった。

そこで彼女は俺に、まずは仲間と話し合いをした方がいいと言われて天月は部屋を出ていく。

残された俺達はとりあえず自己紹介をし合うことになるのだが、その中で一番最初に名前を名乗り始めた人物がいたのだ。

その相手の名は「我輩は白銀虎族の戦士であります」と名乗る男の名前は「私は獅子獣人の女性で名を黒鉄といいます」という二人の挨拶から始まった。俺はこの場に集まってくれた二人に対してお礼を言うと共に天月から頼まれていたお願いをすることにしたのである。それは魔王を殺さずに無力化して欲しいというものである。それを受けて二人は天月の指示に従ってくれることを了承してくれた。

そんなやり取りを終えた後に黒鋼と名乗った男性はこの国の警備が万全だと思われるからしばらくこの城内で過ごすのが良いのではないかと提案されたが俺の返事は決まっており断ることにするのだった。

その理由は俺にも色々とやることがあるからである。ただそのことを伝えると黒鋼は俺を止めたのだった。なぜならばこの世界の人々は魔王に怯えながら日々を過ごしており、その魔王が突然現れてしまったせいでこの国に危険が及ぶ可能性があるから外に出るべきでは無いので、この城を出ない方が安全だからである。

しかし、それでも俺は自分の足で仲間の元に行きたかったのである。そのためその考えは変えるつもりはないということをはっきりと告げると、それならばこの城にある闘技場の観客席で待つように言われるので従う事にしたのである。それからしばらくした後に、先程この部屋から出て行った天月が俺の元にやって来て話しかけてくる。その手には俺の仲間たちが書いた手紙を持っていてくれた。それを渡された後に俺は感謝を伝えて、そのまま手紙を読み始めていく。すると中には色々な情報が書いてありその情報量の多さに驚かされながらも読み終えた時には俺も覚悟を決めて、その気持ちを皆に伝えることにしたのである。

「なるほど、話はだいたい理解したよ。俺のやる事は変わらない。これからも俺は仲間と一緒にこの世界を救いたいと思っている」と俺の言葉を聞いて、天月が「うん。それでこそ私の好きな人」と笑顔を浮かべてくれた。その後、すぐに俺は黒鋼に呼ばれて案内されるがままについて行き、その道中に天月の生い立ちについて聞くのであった。

黒鋼によると、彼女は本来、この国の姫として育てられていたが両親である国王と王妃が不慮の事故で他界してから天月を護ってくれる人は居なくなってしまったのだという。そこで黒鋼が天月の代わりに王族の一員としての教育を受けることになったというのだ。

ちなみに黒鋼は黒豹族の中でも優秀な一族に生まれ、しかも女で、更には戦闘の才能もあり次期黒豹族のトップになると期待されている。だからこそ俺と出会えたことに運命を感じていて俺が天月と婚約したいと考えているのならば自分に任せて欲しいと黒豹姫に伝えてくれと言われていたのだった。黒鋼の話を聞いて、確かに黒鋼になら俺のことも託せると思い「ああ、よろしく頼むよ」と俺は答えた。

そうこうしているうちに目的地に到着するのだった。

そこは俺が以前戦った事がある場所でもある場所で俺はこの城の地下に闘技場が有ることを知った。

そして黒豹姫に俺が地下に降りたいと言った所、その提案をあっさり受け入れてもらえたので早速向かうことにした。

そして俺は黒豹姫の案内により黒豹の姫の部屋に向かう。そこには一人の女性が座っていたのである。

そしてその女性こそが黒猫の天月の姉に当たる人物だと説明された。俺はその人に向かって「俺は貴方の弟である天月に惚れている。貴方の許可無く弟と婚約をしようと思っているわけではないので安心してくれ」と言うと彼女は「あらそう、それならば問題ないわね」と答えた。俺は天月を呼んでもらい、この人に天月を紹介してもらう事にする。

天月は自分の姉の黒猫姫を見た後、その黒猫姫の耳を見つめていると「その猫耳に何か付いてるのかしら?」と尋ねられた天月はハッとした顔をすると、すぐに謝り始める。

どうやら黒猫姫の猫の獣人の象徴とも言うべき黒い猫のしっぽに見惚れてしまっていたらしく慌てていたようだ。そんなやりとりが終わった後に黒猫姫と黒豹姫に俺の仲間がどこにいるのかを聞くと黒猫姫の方は「この城のどこを探してもいないのなら今は王都のどこかに行っていると思うのよね」と言う返答が返ってくる。

黒豹姫も「私も同意見です。あの人は基本的に私達が居るこの城に帰ってくる事の方が少ないから」と言われる。

つまりこの城に今現在残っているメンバーの中にいないとなると一体どこに行ったのか?と考えてから俺の頭の中にはとある場所しか思い浮かばず、その場所に行けばもしかしたらあいつらが見つかるのではないか?と思ったからその場所へ向かうことにするのだった。

そこで俺は天月と共に行動することになる。その途中で俺は天月を改めて見ると、その髪の長さを少しばかり変えていたのだ。今まで長い髪でポニーテールのような形を作っていたのだが髪を切ってショートカットのようにし可愛らしさよりも凛々しさを全面に押し出している印象を受けた。そして天月にはその髪型が似合っていたため、素直に綺麗な髪をしているなと思えてつい見とれてしまう。だがそうしている間に黒鋼は先に行ってしまう為、俺は慌てて追いかけることになる。

それからしばらくして目的の場所に辿り着くと黒鋼は「私はこれで失礼させていただきます」と言い残すと去って行くのであった。残された俺と天月はこの城に残る仲間を探す為に探索を始めることにする。しかし残念なことに、この城内では既に魔物による虐殺が行われており、その死体が転がっているだけだった。

そしてそんな中で、黒豹姫の妹にあたる存在が黒豹姫と同じ様な黒い髪に黒目の女性であり、彼女の方も姉と同様に美人だった。その彼女はこの惨状を見て泣き叫んでいたが黒鋼が説得したことでどうにか落ち着きを取り戻した。その黒豹姫に俺は仲間達について尋ねると、黒豹姫は妹を宥めながらこの国の事を教えてくれる。それによると現在、この国の王様が何者かによって殺されてしまいその事実を隠しながら何とか誤魔化そうとしていたらしいのだが俺の登場に慌てふためいて逃げ出したため結局のところは隠せなかったそうだ。

ただそこで俺は天月から、もしも俺が仲間に会いたいと言わなければこの事は伏せられていたかもしれないという事を聞き納得した。

それから俺達は、この国の姫に案内されて玉座の部屋に通された。するとそこには、この国の王子である白猫姫が待っており、そこで俺達にお辞儀をしてくれる。そして白猫姫に事情を説明すると俺達は彼女と一緒に仲間達を探しに向かったのだった。その際に黒豹姫は自分がこの国の姫だと身分を明かしたのだ。そして黒鋼には俺と行動を共にするように言うと彼女は俺についてくることになった。

こうして仲間を一人も見つけることができずに城の外へと出ることになった。そこで俺は城の入り口付近に立っていた黒鋼と別れてから、俺は白猫姫に仲間の捜索をお願いしてみた。そして俺は、この国の中を探索することになったのだ。ただ、城から出てから俺は、まず最初に城がどんな形なのかを知りたいと思って城の全体図を知るために上へ登ることにした。そこで俺は城が地上一階二階三階の構造になっていることを確認する。そして城の構造を確認した俺は仲間探しをするべく城内を再び見て回る事にしたのである。

俺は城の中を歩いていると様々な人々が俺に助けを求めてきたのでその声に応えてあげると、俺は次々と人が集う場所へと連れて行かれたのである。俺はそこで何回も、お腹が減っていないか?と言われて食べ物を差し出されるので遠慮なく食べる事にした。それから暫くすると何故か俺は沢山の人々が集まる広場に連れて行かれる。そこでは皆、酒を飲んでいたりしていて、その光景を見た瞬間、この国には俺が知っている常識が全く通用しないことを理解した。

そして俺も、ここで一緒に酒を飲むことになり飲み交わす事になる。俺の事を勇者だと信じてくれて色々と話を聞かせてもらったが俺にはそれが信じられなかったのである。なぜなら、その話がどれもこれも嘘のような気がしてきたからだ。何故ならば俺にはその話の全てが現実味がないと感じてしまっていたのだった。なぜならば、この世界が実はゲームの世界であるとか言われても普通は信じないだろう。それにその話に登場する人達が魔王と敵対していることが、どうしても信じることが出来なかったのだ。俺はその話を全て否定してしまうと俺のことを助けてくれた人全員が落胆の色を浮かべてしまったので俺には申し訳ないという気持ちになってしまうが、俺がここに来る前に体験したことを思い出しながら、俺は「この世界で俺は一体何が出来るんだろう」と考えてしまう。ただ、その時の俺には一つだけ確かなことがあると気付く。それは俺に仲間がいることだ。だから俺のこの世界の存在意義を皆が俺に教えてくれないとしても仲間だけは守ってやりたいと思う気持ちは強くあったのである。そして俺はその仲間たちのために何をすべきかを真剣に考えることにした。すると一人の男が俺に近づいてくると、こんな言葉をくれた。

「君には仲間が居る。そして、その仲間は今もこの世界の危機を救うために奔走しているはずだ」と言ってきたのである。そして俺はその男の顔を見ると、どこかで見たような顔をしていると俺は思い、記憶をたどり始めると直ぐに思い出した。その男は確か俺が最初にこの異世界に来た時に話しかけてきてくれた人間だと気づいたのである。俺はその人物に向かって話しかけようとするがその人物は「今は私のことを思い出さない方がいい。私にも立場があるからね」と言われたので、俺はその言葉を信じる事にしたのであった。

そして俺は、この国の人の為にできることを考える。

そう、俺は今まで助けてきた人の数を思えばそれぐらいの人を助けるのは当然だと思ったのだった。

そう考えた俺はまずは手始めにこの国に居そうな知り合いに声を掛けていくことにした。俺にはこの世界に居そうだと思う仲間の名前が数人程頭に浮かんでいたので俺は早速行動することにする。そして、まず最初は城の外で見つけたメイドの黒猫姫の所に行ってみると案の定彼女はこの城に居たのだった。しかも城の外に出ていただけでは無く、この王都の街で買い物をしている所を見つけたのだ。俺はすぐにでも仲間をこの城に連れて帰ろうとしたのであるが彼女が俺に言った言葉を思い出す。その言葉の意味を考えた。確かに俺は天月と結婚する約束をしていたが、それでも俺のことを好いていてくれるというのであれば俺は嬉しいと思う。

そして、そんなことを考えながらも俺は目の前に居る女性に対して俺の正体がばれないように、黒豹族の王族である彼女に合わせて、その妹の従者であるように振る舞いながら会話をしていた。そうしているうちに、彼女は何かを感じ取ったようで少し様子が変わったのだ。

「まさかとは思うけど、貴方はこの国の姫と面識があったりしないかしら?」と尋ねられる。

そして、その問いかけに俺は答える事無く、彼女にこう言ってやった。「私は姫様に使える黒猫族に仕えるメイドですが姫様が何か用件があるのでしたら伝えておきますよ?」と。

それから暫くは彼女の質問に答えないで様子を見ていたら、俺が姫を知っているのか、姫が何処にいるのか等々聞かれたが「存じ上げておりません。それよりも、この国から出ていただいていた方がよろしいのではないでしょうか? この王都では未だに魔物が溢れかえっている状態ですし」と話すと彼女は渋々と言った感じで、この場から離れていったのだった。そんなやり取りをしたのちに俺は次に白猫姫の居る場所に足を運ぶ。そして、そこにいたのは白豹姫ではなく、黒猫姫がそこにおり、俺は彼女の姿を見て驚くのと同時に「どうして黒猫姫が二人も居るのだろう」と内心で不思議に思っていたのである。そんな時、黒豹姫が口を開き俺に向かって説明をし始めた。その話を聞いた上で俺は、俺の持っている能力を使ってこの世界の時間を止める事にした。そして俺は時間を止めた世界の中で白豹姫が着ているドレスを奪い取り白豹姫に似合う白い服を着せたのである。

すると黒豹姫は驚いた顔をしていたので「これは貴方がこの城にいたという証明になると思いますが如何でしょう?この国の中に残っているのはこの白猫姫一人だけとなりますが」と話しておいたのだ。その事を聞くと、白豹姫はとても喜び、そして涙を流し始めて、俺に感謝の言葉を述べた後、俺を抱きしめて「ありがとうございます。勇者様」と言われる。その後で俺は黒猫姫が俺の服装を見て何やら興奮していたが「黒猫姫には俺の姿が見えているのか」と思いながら、その黒猫姫に俺は俺の仲間である黒豹族の人達が今どこにいるのかを聞いてみる事にした。彼女は「姉さんは、きっと城の方に居ます」と言う。

そして黒豹姫は俺に「この国の人達を宜しくお願いします」と頼むのだった。

そのお願いを聞いた俺は黒豹姫の手を優しく握ってあげる。

そして「この世界を救ってくる」と告げると俺は白豹姫の前から姿を消すことにしたのである。その時には、既に時間が動き出しており彼女は「今の事は夢じゃないよね?」と嬉しそうに呟いていたのであった。

こうして俺は黒豹姫と別れてから城へと向かう。

そこで城の中に入るとそこには、黒豹族の人たちと黒鋼が待っていて、その隣には天月が立っていたのである。

それから、俺は天月に、この世界での現状を説明してもらいながら仲間と合流することになった。

そこで俺は天月から聞いた話に衝撃を受けることになる。天月が言うにはこの世界には三つの大陸があり、その全てに人間が住んでいるという。しかし魔族は、この三大陸のうち一つだけにしか住んでおらず残り二つの陸を支配しているという事だった。そして魔族が住む場所を仮に第三大陸とする。

そして第一と第二の大陸には魔族に対抗できるほどの力を持った人間は存在していないそうだ。そして、そんな状況を見かねた黒鋼の父が魔族の侵略行為に対抗するために黒猫一族を率いて、この第三の島を魔獣たちから守る為に戦っていたのだという。

そこで俺は黒鋼が、この島に黒豹の一族を呼び寄せた理由は分かったのだが魔族の数があまりにも少ないことが、どうしても信じられずに疑問を抱いてしまった。

そこで俺は天月に向かって質問をしてみることにした。俺が魔王軍の幹部と会っていないかと聞くと彼女は魔王の右腕である「大賢者」が、この世界に現れたことで魔族の動きが活発化してしまったのだと説明した。そこで俺は彼女達に魔王軍のことについて尋ねると、どうも、この世界を支配するためだけに魔王は配下を集めているわけではないらしく他の理由があるとのことだった。その詳しい理由については俺には分からなかった。

ただ、一つ言えることは、このままの状況が続くといずれこの国は滅ぼされるかもしれないと彼女は俺に言ってきたのである。俺はそれについて、詳しく話を聞こうとするが、それは出来ないと言われてしまった。その理由については彼女は語らなかったのである。だが俺は彼女が嘘をついていないということだけは確信できた。

だから俺は、そんなことよりも俺はこの世界の人間たちを守るために戦いたいという気持ちを伝えてみると皆も賛同してくれた。ただ、その為には戦力が不足していることを話す。

この異世界の人達の力を借りても、この国の人達を守り抜くためには足りないと天月から話されたので俺は自分の力で仲間を守る方法を模索しようと思うのであった。ただ、この国の人達に俺のことを信頼してもらえるようにするにはどうしたらいいだろうかと悩む。

そんな時に白猫姫が黒猫姫に向かって「姫様はどうして私に、あのような事を言ったのです?それに私が魔王の部下だったら危険ですよ」と言い始めるのだ。俺がそれに対して疑問を抱いていると、黒豹姫が「だって私は姉さんのことが心配だったから」と答えていたのだった。

その答えを聞いて俺には何となくだが二人の関係性を理解することが出来たのだ。黒猫姫は俺の事を見ながら何かを考えていた。恐らくは俺の正体がバレたのではないかと思い始めていたからだと思う。なぜなら、彼女は、そんなことを考えて俺の顔を見るのだから当然だろう。ただ、その時に俺と目があったのだ。それで俺に対して警戒心を露にした彼女は何とも言えない表情になっていた。そして俺は、その瞬間から天月のことも疑ってしまうようになっていたのだ。そんな気持ちで俺は黒猫の格好をしている白猫に近づき「君は何者なんだ?」と尋ねてしまう。その問いかけに対して白猫は「貴方に教える必要はない。それよりも貴方こそ一体何なんですか?」と言ってきた。そこで俺は彼女に正体を明かす事にした。俺は、この異世界に召喚されてから初めて人間以外の人に会う。そして彼女達にとっては人間の勇者など邪魔者でしかないと思っていた。なので俺は正直に自分の立場を告げる。そうすれば彼女達は人間を滅ぼそうと考える可能性があるからだ。そう思った。だからこそ、ここで正体を隠しても仕方ないと判断した結果であった。すると、やはり彼女の反応は想像通りのものであった。

彼女は「なっ!?本当に人間じゃない。でも、この力は」と俺の身体にあるオーラを確認していたのである。そして俺は「君は黒豹姫の妹だよな? 姉を助けるためにここに来てくれたんだろ? だったら信用してくれ」と言ったのだった。そして「私はこの城の中に残るよ。お兄ちゃんが頑張ってくれているのなら私は何もしなくて大丈夫だし」と黒猫姫が俺に向かって話すと天月の方を向いて「お兄ちゃんが助けたいのはこの人達だもんね」と笑顔で言うのだった。

俺と黒猫姫の会話が終わった後に黒鋼に話しかけられて事情の説明を受けた。黒豹姫と黒鉄姫はこの国の中では比較的、安全な所に避難するらしい。

そうしているうちに仲間達が俺の元へやって来た。その時には白姫は俺に対して敵対心剥き出しだったが黒猫姫に止められる。俺は黒豹姫に対して白姫と黒猫姫の関係について質問をする。そして、その結果として黒豹姫は白姫と仲が良く黒猫姫は妹で、白姫とは義理の姉妹だということが分かった。それから白猫姫が俺に質問をしてくるが俺は適当に受け流す事にしたのだ。俺が魔王軍と関係ないと証明する方法はないし、何より、その必要がないからである。それよりも今は俺の力が役に立つような状況を作り出す事が先決だった。そのために俺はまずこの国の中に存在するであろう敵の情報を少しでも得ておくべきだと思ったのである。そして、そんなことをしていた俺に白姫は、「ねえ。私は魔王軍に知り合いが多いわ。その人達を利用すれば簡単に魔族の王の元に辿り着く事が出来るんじゃないの」と話し始める。そんな白姫の問いかけに対して黒猫姫が「やめておきなさい。魔王軍の中には人間と手を組みたいと考えている人達も居るし、そもそもこの世界に魔王の居場所を知る術はないの」と答えた。しかし白姫はそれを聞いて「魔王軍が居る場所が分かれば後は簡単よ。そこに向かえばいいだけなのだから」と自信満々に言い放つ。その事に俺は「どうして、そう言い切れるんだ?」と白姫に問いただした。すると白姫は、こう答えるのである。「簡単な事です。今の世界には三つの大陸が存在していますが魔王軍は第一大陸の支配しか行っていません。それはつまり、他の二つに部下を配置していないということです。その事に気が付いた私は一つの仮説を立てたんです。その仮説というのは、魔王軍のトップが二人いるんじゃないかと。その可能性を考えるだけでも二つの可能性が出て来たんですよ。一つ目は魔族の王が二人存在しているパターン。この場合は二つの勢力が存在しているということになります。しかしこの場合の問題点としては二つの勢力が争うことなく一緒にこの世界を支配するという可能性も否定できないというところですね。まあ、その場合に起こる問題は分かり切っているでしょうけど」と言い始めた。

俺は、その言葉を聞いて「もう一つの可能性ってのは何だい?」と尋ねると、彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめて答え始める。「魔族の王ではなく幹部の一人だけが世界を支配しようとしている場合。その場合は魔族の王が居ないわけだから部下も少ないはず。その幹部を倒すことが魔王と戦う上で重要になると思っています」と言い放ったのであった。その言葉を聞いていた俺に黒猫姫が「確かにその可能性もあるかもしれない」と話し始める。

そんな風に話が盛り上がっている時に「その考えには僕も同意するかな。その方が魔王との勝負も面白くなると思うんだよ」という声と共に現れた一人の男がいた。

それを見た俺は警戒して身構えてしまう。しかし、それを止めたのは黒鋼だったのだ。俺は、そんな彼に視線を向けると彼が「待ってくれ。彼を知っているか?」と言われてしまった。俺が、そんな彼の発言に対して困惑してしまう。だが、そこで思い出したのが黒鋼の父の言葉だったのだ。その事から俺には目の前にいる男が魔王の右腕であるという事だけは理解出来た。なので俺は冷静さを装いながら彼と話をする事にするのだが内心では心臓が激しく脈動をしていたのだ。もし本当に目の前に魔王の右腕である大賢者がいるとすれば彼は確実に俺たちのことを見抜いている可能性が高いからである。そこで俺は慎重に話を進めることにしたのである。すると「君は、どうして僕たちが来ると分かったんだろう? その辺りを教えてもらえると嬉しいんだけどな」と言い始める。

俺はその問いかけについて質問の意図が分からず「何が目的なのか教えてくれるか? それが分からない以上は答えられない」と素直に答えた。そうしないと嘘を見抜かれる可能性があったから。そして俺が、この場を切り抜ける方法を思案しながら相手の動きに注意してみる。しかし、そこで俺は目の前の大賢者を見て、こいつは馬鹿だと悟ってしまった。なぜなら大賢者と呼ばれる程の実力者ならば自分の実力を隠しながら行動を起こすだろうと考えたのだ。それなのに自分の力を俺に隠していないのは、おそらくだが魔王軍の中での地位が低くて自分に対する脅威をそこまで強く感じていないからではないかと予想をした。そして俺は相手の強さを確かめるように挑発を行う。それは単純なもので俺が魔王の右腕なら、その強さを見せろという内容の発言を行った。

それに対して黒鉄のおっさんたちは「おい!止めろ。こいつを挑発して何のメリットがあると言うんだ。こんな小物相手に時間を無駄にしてどうする。それにお前も挑発に乗って力を見せる必要は無い。ただでさえ黒猫が魔王の手下だということで疑う人間が出てきてしまったんだぞ」と怒鳴ってきたのだ。俺はそんな黒猫の姿を見て黒猫は、やっぱり何か知っているのではないかと思う。しかし今は、それよりも大賢者がどんな行動をするのかに注目しようと思い、その人物に注目することにしたのだ。すると彼は自分の胸元に右手を近づけたかと思うと指先に小さな炎を発生させたのである。俺はそんな彼の様子を見て呆れ返ってしまう。そんな魔法で一体何をするつもりなんだろうか?と不思議に思っていたからだ。しかしそんな俺の疑問を払拭させるかのような出来事が発生する。その瞬間に目の前にいたはずの人物が一瞬で姿を消したのだ。

そして俺は自分の腹のあたりから熱い何かが流れる感覚を感じ取る。そう俺には大賢者が自分の腹部に向けてナイフを投げ込んだ光景が見えるようになっていた。俺は何が起きたかを理解するのと同時に意識を失いかけていたのである。しかし何とか意識を保ちつつ倒れこむのを回避した俺は腹部を押さえた。

そして、そこには俺のお腹に向かって投げられたと思われるナイフがあったのだ。俺はそんな事をしながらも黒猫の姿を見る。すると黒猫が驚いた表情を浮かべていたのである。それから黒鉄のおっさんが俺に向かって「大丈夫か?」と言ってきた。そして俺が大丈夫と答えようとした時である。急に吐き気が襲ってきて我慢出来ずに地面に手を付いて吐き出した。俺が何を出したかといえば血液だ。その事に俺は嫌な予感がしていたのだ。まさか血を体内に入れただけで毒状態になってしまうなんて普通は考えられないからだ。だからこそ俺は急いでステータスを確認してみると俺は驚愕してしまったのである。そう、なぜか俺のHPが減っている事に気づいたからだ。俺は混乱している頭で何が起きているかを確認しようとする。しかし、そこで大賢者の笑い声を聞いた。そして俺がそちらに顔を向けたところで黒鋼が「お前は何者なんだ!」と叫んだのである。

しかし、その問いかけに答える人間はいないと思っていた。何故なら、この場で黒猫の正体を知らないのが黒鋼だけになっていたからだ。だからこそ俺の仲間は黒猫が魔王の配下の一人であり、なおかつ黒猫も勇者だという事が分かるはず。それどころか、すでに正体を見破っていたとしてもおかしくはなかったのである。俺は黒鋼に対して視線を向けると、そこにいたのは無表情になった少年だった。そうして俺は、その様子に戸惑ったのである。まるで感情が欠落しているかのようで、それでいて殺気を俺に向けるでもなく虚空に目線を向け続けている姿は不気味なものであったのだ。それから俺は、どうにかして自分の身体に起きた変化を理解しようとしたが無理であった。何しろ自分の体が自分で動かせなくなってしまったのだ。だから俺は助けを求めるように黒猫の姿を目に焼き付けておく事にした。

その事に関して大賢者は何も言わなかった。というよりも興味がなかっただけだと思う。それよりも目の前の勇者が面白い玩具であると判断したからこそ何も口にしなかっただけだと思っている。

そこで俺の方はというと自分が何をしようとしているのか理解出来なかった。そして黒鋼の様子を見て「貴様。黒猫に何をした?」と怒りの声を漏らす。俺は、そんな彼に微笑みかけながら自分の能力を使う。そして彼のステータス画面を見た結果から黒猫が何らかのスキルによって黒猫に攻撃を与えたのだという事が分かっていた。しかし肝心のスキルが分からなかったので調べる事にしたのである。その結果として出てきたのは「状態異常無効」というものだった。俺はその事実を確認した後に再び黒猫の顔を見つめる。そうして彼女が無表情になっている理由に思い当たった。

その事に黒鋼のおじさんが気がついたようで「どうして、こんなことになってしまったんだ?」と叫び始めたのだった。しかし、そんな質問に答える人間は誰もいないだろうと考えていた。だが、そんな俺の考えは簡単に覆される事になる。黒猫が自ら口を開き始めたのだ。その口調には黒猫とは思えないほど抑揚が感じられなかったが俺は、この声色に聞き覚えがあった。

そして俺がそんな彼女の様子を眺めていると「久しぶりね」と黒鉄と白姫を見ながら言い放ったのだ。そんな彼女に黒鋼は自分の父親が殺されたという事を白姫から聞かされている事もあって動揺してしまっているように見えた。

そして白姫も、この状況を楽しんでいるかのように見えている。それというのも、やはり魔王の部下と仲間が敵対関係にあるという状況を楽しむための演技をしているように見えるからなのだ。俺は目の前に存在している状況が現実に起きているものなのか理解できないでいたがそれでも彼女の言葉には耳を傾けるべきだと思い話を聞き続けたのである。しかし、それも途中で終わりを迎えてしまう事になった。俺の仲間である黒鋼が彼女を問いただしたからだ。それは当然の反応だったのかもしれない。彼女は、かつて黒金と一緒に暮らしていた人物なのであろうが、今は敵となっているわけだから警戒をするべき相手だと考えるのは間違っていなかったからである。だが、ここで俺は予想外の言葉を耳にしてしまう。そう黒猫が「黒鋼君と、そこの白姫は私が黒鋼さんと、この国を出る時に殺したつもりだったのに生きていらっしゃるとは、流石は私のお兄ちゃんですね」と発言したのであった。

俺が黒鋼と白姫が死んだと思っていたのと同様に、彼女たちも黒鋼たちが死んだと思ってくれていたようだが、どういう事だろう?俺には、その理由がよく分からず首を傾げていた。しかし黒猫の口から発せられた真実は俺を更なる混乱へと導くものだったのである。「黒猫は二人に殺されてしまった」と言われたので俺が驚く。すると黒猫が自分の胸に手を当てて、こちらに見せてきたのだ。その動作の意味は分からないものの俺の目に飛び込んできたのは胸にある大きな刺し傷だった。それは致命傷を負っているという事が一目瞭然であると、はっきり理解できるレベルのもので、その事から俺は黒猫が死亡したと思ったのだ。

だけど、その事実を否定したのは大賢者のおっさんだった。そして、どうして、そうなったのか説明を始める。俺は、その話に驚きながらも納得する。そう、あの時の違和感が俺の中で確信に変わったからである。

そう俺が大賢者と話をした時にあった違和感というのは彼が黒金の親を殺したという事実について一切触れていなかった点に他ならない。

大賢者は黒金の母親に自分の正体を隠して近づいたらしいが、それがバレた事で、その場から逃げるしかなかったのである。そして逃げ切れなかったのだと彼は俺に向かって言っていた。俺は、その事を不思議に思ったので「あんた程の実力があるんなら、あんな連中なんて余裕で倒せたんじゃないか?」と言ってみる。

しかし大賢者からは意外な返事が帰ってきた。大賢者が俺の言葉に対して、ある提案をしてきたのだ。その事に俺が怪しさを感じると、そこで黒猫が自分の口を使って、ある実験を提案してくる。それは魔王軍が人間たちの街を襲撃をする際に使用するという「魔族の魂の宝珠」と呼ばれるものを使用するというもので俺と黒猫が、その効果の実験台にされるとのことだった。「魔族の魂の宝珠」という名前を聞いて俺の中に何かが引っ掛かる。その名前に聞き覚えがあるのだ。確かゲームの中でも聞いたような気がする名前だ。俺は記憶を呼び起こそうとするのだが、上手く思い出せない。だから俺の中で気持ち悪い感覚が生まれる。そうして悩んでいると、いつの間にか俺の隣に来ていた黒猫の表情が変わった。その表情の変化に気づき視線を向けた先にいたのは白猫が、まるで黒鉄のように冷たい目で俺を見据えて笑っている顔が見えた。その様子に俺は恐怖を感じて思わず「な、なんだよ?どうしたっていうんだ?お前、いつもと様子が違うじゃないか」と言う。しかし黒猫は俺に何かを言い返すことなく無表情になって大賢者に向き直り「私はどうすれば良いのですか?」と言う。その言葉で俺の頭に一つの可能性が浮かび上がる。そう俺が黒猫の正体に気づくのに重要なカギを握っている人物が大賢者ではないかと疑ったのだ。

俺は自分の直感に従い目の前の人物に、その疑いを持つように質問を投げかけてみた。すると大賢者が「そうだね。君たちはこれから黒猫ちゃんが所持しているアイテムを使用して貰おうと思っているんだけど問題ないかな?」と黒猫に向かって確認を取っていた。それに対して俺は嫌だと言いかけたが、それを言う前に黒猫が、それに承諾をしたので俺は何も言わずに引き下がる。しかし内心は不満だらけだったのだ。なぜなら俺が本当に求めていた事は、あくまでも大賢者から「黒鉄と白姫が生きていて二人が勇者として生きている事を知っていたか?」という話を聞こうとしていたから。

しかし大賢者が俺の疑問に答えてくれる様子はなかった。そして、それどころか俺の質問に対する明確な回答をしてくれないのである。それどころか「では、こちらに来て頂けるかい?黒猫ちゃん。その方が話がスムーズに進むはずだからね」と言われてしまい俺の意見など、まるで存在しないかのような振る舞いに腹が立ってしまった。だから俺は自分の意見を主張することにしたのである。

「ちょっと待ってくれ!黒鋼が殺されたって本当なのか?しかも白姫も一緒だったんだろ?」

そうして、そう問いかける。しかし黒猫が俺に視線を合わせると無表情になり何も言ってこなくなってしまったので仕方なく、そちらへと向かって歩いて行く。そこで俺に対して黒猫が「貴方には、この国の人間を救ってもらわなければならないのよ。そのために死んでちょうだい」という声を聞いたのだ。

俺はその瞬間「えっ」と思った。何故ならば俺は自分が死なないと思っているからこその発言だったのだ。だからこそ何とも言えない気分になってしまった。そんな自分の感情を抑えつけていると黒鉄と白姫が現れた。そんな彼らも目の前にいる二人の女性によって、あっさりと殺される。そんな光景を見ていて悔しかった。だって、こんなにも簡単に死んでしまうものだろうか?俺は、どうしても信じたくないという思いで彼女たちが生きているのではないかという期待を捨てきれなかったのである。

しかし、それも黒猫と大賢者の一言で終わってしまう。黒猫の持っている武器に「魔王軍の兵士が使う魔族専用の武器」である魔族の魂の宝珠を埋め込んだものを埋め込まれる。それによって黒猫に殺された黒鉄と白姫が復活を果たしたのだ。

その出来事を目の当たりにした俺は「な、なんなんだよ、一体。こんなの信じられない。これが現実なのか?」と思うと同時に黒猫に対して怒りをぶつける。しかし俺が文句を言う前に彼女が再び自分の口を使って俺に対して話しかけてきたのだ。それは今までに聞いた事がないぐらいに低い声だった。

「いい加減に認めてくれないかしら。貴方は自分の仲間や知り合いが殺されたという現実を受け入れられずに、このような幻覚を見せられていると思い込もうとしているだけじゃないのかしら?」そうして、そのまま彼女は言葉を続ける。「だから私が、この世界には存在するはずもない、貴方のよく知る『魔導士』の黒髪の女が目の前に現れた事も受け入れる事が出来ないんじゃないの。この世界に存在するはずのない、私の姿を見て貴方は幻を見続けていると勘違いしているのかもしれないわね」と彼女は告げたのである。

しかし俺は反論した。そう簡単に受け入れてはいけない内容だったからだ。俺は、そんな話を認める訳にはいかなかったのである。確かに、この世界で『魔導士』と呼ばれる存在は黒鉄だけだったが俺の世界では黒鉄以外に存在していたのだ。その人物の事を黒猫は口にしたのであるから当然、俺は否定する為に口を開こうとする。だが彼女の口から俺の予想外の言葉が出てきたのだ。

「その通りですよ」

その言葉を口にしたのは大賢者であり彼の隣にいた白猫までもが自分の正体を明かす事になったわけである。白姫が白猫と同じように「自分は黒鋼の母で、黒金の母親でもあるんです」と言うのだ。そして俺に黒鉄と大賢者の関係について教えてくれたのであった。それを聞かされた俺が唖然としていると大賢者が説明を始める。

「実は私も君と同様に、この世界に存在しているはずもない人間が黒鋼の母親として存在しているんだ」と言ってきた。その発言に対して俺は驚きつつも大賢者に、その根拠はなんだと尋ねる。

「そうだね。例えば黒金君の母親が持っていた『スキルブック』についてだけどあれは私が彼女に贈ったものだ。そして彼女は私の研究の助手を務めていた。しかし、ある日彼女は突然姿を消したんだ。その事がずっと引っかかっていたんだけど黒猫ちゃんから話を聞いた時に確信したよ。彼女も黒猫さんのように元いた世界を抜け出して別の世界に転移していた事が、そのきっかけだったみたいだね」と彼は言う。

俺が、その言葉に対して疑問を抱く。

それは「大賢者さんが黒鉄の父親だというのは分かるが、黒猫と黒姫は、どこで出会ったんだ?俺の記憶が正しければ黒猫が母親である事なんて一度も言っていなかったと思うぞ。その事を俺が尋ねると大賢者が「私は、とある組織に所属していまして。その関係で黒猫と黒姫と、お会いしたのです」と言う。

その言葉で俺は納得してしまった。そう言われてしまうと黒鉄と白姫と会った理由も、なんとなく察してしまうからである。

そこで俺は黒鉄の母親である、あの黒髪の女性の事について尋ねてみることにした。俺の問いかけに大賢者は、あの人が黒鋼の母親だと言う。俺の頭の中が一瞬真っ白になった。俺は「どうして俺に言ってくれなかったんだよ。それに黒猫が俺と同じ異世界人なんて初耳なんだけど、そっちの方の説明を詳しくしてくれ」と頼んでみる。すると大賢者が俺に対して自分の目的を簡潔に語ってきた。それは魔族の魂を使った「魔族の魂の宝珠」を利用して、ある実験をするために俺を利用させて欲しいという内容だった。

「なるほどな。それがお前の目的か。まぁお前が俺を利用したところで何ができるのかは知らないけどな」

「ははは。そうだね。君は魔族の魂の宝珠を使うと黒金の力が手に入る。そして君は黒鉄の力を手に入れたという事になるよね」と黒猫の口を使って喋りだす。俺は、その口調が気になってしまい「おい、黒猫は大丈夫なのか?」と心配してみたのだが、それを大賢者は無視するような形で、さらに俺に対して、その魔族の魂の宝珠を使用するように要求してくる。その事で俺の頭の中では「なぜ大賢者は俺に執着するんだろうか?」と疑問が渦巻くのだが、それでも俺は断る事が出来なくて了承をしてしまうのだった。

それから、すぐに俺は「大神殿」へと連れて行かれる事になる。そこで、この国にある全ての人間の魂を魔族の魂と入れ替えて「人間を魔族に変えて操る事ができるようになる」という「邪神復活の儀式を行う」というのだ。その儀式を行うために俺に魔族の魂の宝珠を使用して欲しいと、この国の人間達全員を救う事が出来る可能性があるから俺に使用して欲しいと言われた。だから俺は渋々ながら了承をする。その事を伝えた際に、なぜか大賢者は嬉しそうな表情になっていたのだ。

そうして、しばらく時間が経った後、ようやく俺は解放された。俺の仲間達は魔王軍の配下によって連れ去られてしまったのだ。そんな光景を見ていた俺を黒猫の体が動き始める。そして俺の腕を掴んできた。それに対して俺は驚いてしまい、つい黒猫の手を振り払ってしまったのだ。そして、そこから俺は黒猫に対して怒りをぶつける。「俺に触るんじゃねぇ」と。だが、それに大賢者が俺に向かって近づいてきて、こう話しかけてきた。

「君が、その黒猫さんの体に何をしたいのかいや、君が何を望んでいるか分かっているよ。だからこそ僕は提案するんだ。君と黒猫ちゃんが体を入れ替える為の道具を僕が作ったんだ。これさえあれば二人は、お互いに意識する事も無く入れ替われるはずだよ。それに、これは君の体の一部とも言える物になるだろうから、この機会を有効に使わせてもらおうかなと思ってさ。どうだい?」

俺は大賢者が手にしている、その二つの小さな黒い球体に視線がいく。それを手に入れるために大賢者は魔王軍と敵対していると聞く。

俺は目の前の大賢者に質問をした。すると彼は、俺が求めていた答えを言ってくれたのだ。

俺の体は「白姫が持っている『白姫の指輪』の効果を受けて『勇者』として復活を果たした状態なのだが、俺は、もしも自分が『勇者』ではなくなったとしても白姫と黒猫と共に平和な世界を創りたいと考えているんだ。その為に今、白姫の『白姫の指輪』を返してもらうつもりなんだ」

俺のその発言を聞いた大賢者と魔王は笑みを浮かべてから大声で笑う。その様子を目の当たりにした俺も苦笑いをしつつ、その二人が何に対して笑って居るのかを考えるのであった。しかし、その二人を見て俺は嫌な予感を覚えてしまう。何故ならば魔王軍の配下が白姫の所に現れて彼女を人質に取り、無理やり『白姫の指輪』を奪うような行動を起こすのではないか?と予想したのだ。しかし、それは、その予想通りに動いてしまう。俺は急いで『白姫の指輪』を取り返そうと動くが大賢者の手によって阻まれる。

俺の言葉を無視して大賢者が黒猫に近づき「その『魔導士が使う杖』を貸してくれないか」と口にする。黒猫の口を借りて大賢者に返事をしているのは黒鉄だった。その黒鉄に対して大賢者が「少しだけ借りたいんだよ。黒猫ちゃんに使って欲しい物が有るから頼むよ」と口にする。そうして黒猫の右手から大賢者は黒鉄が持っているはずの『魔導士の杖』を受け取ると黒猫に対して、何かをし始める。すると彼女の身体に変化が起きたようだ。

まず黒鉄が着ていた服が変化していく。その事から大賢者が自分の研究の成果を使って『勇者が装備できるアイテムを複製することに成功したのか?』と、思うと同時に「もしかしたら、このまま俺が黒鋼になれば『魔族の魂の宝珠』を使用せずに、あいつの『魔導士が扱う魔法が扱えるようになるスキル』を習得出来るんじゃないか?」と考えて実行しようとした時だった。

俺の中にいる『魔導士の勇者スキル』を持つ少女の人格が俺の体を動かし始めたのである。

彼女は「そのスキルを悪用しないでください」と言い出した。それに対して俺の中の大賢者が「安心してください。私だって人の命を犠牲にしてまで力を得ようなんて思っていないから大丈夫ですよ」と、彼女に語り掛けると黒猫の身体に何かを施した。その直後、今度は白猫と入れ替わった黒猫にも同じ事をした。その結果から俺は黒鉄達が使っていた、あの『白姫の指輪』の力が発動したのではと思うが真相は分からない。だが俺は黒鉄達に聞いてみる事にした。そして彼らは、この『魔族の魂の宝珠の力を発動させたのは大賢者の仕業』と言うのだ。

それを聞いた俺は、すぐさま黒猫達の元に駆け付けようとしたが、大賢者は「君にはまだ用があるんだよ。まだ行かせる訳にはいかないんだよ」と言ってきたので俺は彼の言う事を聞くしか無かった。そして、そんな彼の手には二つの球体が握られていたのである。

――俺に、いったい何をするつもりなんだ!?――と、思いつつも彼の言う事を聞いてしまった俺に対して彼は自分の考えを語り出す。それは先程、俺が言ったように黒鋼達の力が欲しかったからだと彼は語った。その理由については俺自身も気づいている通りだった。それは黒姫を自分のものにしてしまえば、彼女は俺に逆らう事ができなくなるからだそうだ。そして大賢者は黒姫を使って色々と俺を実験しようと企んでいるらしい。それを聞かされると、なぜか、いつも以上に腹が立ってきて仕方がなかった。だが、今の俺が黒猫に手を出そうとすれば逆に俺が彼女に返り討ちにあうだけだ。なので俺は大賢者の言いなりになるしかなかった。そうして俺は魔王軍に捕らわれの身となってしまうのだが、そこに一人の女性が俺の救出にやってきたのだ。その女性は俺の顔を見た途端、驚いた顔になり俺を抱きしめてくる。そうしてから俺に向かって優しく微笑んでくるのだが俺の心臓は高鳴って、もう爆発寸前になっていた。そして「私の事は気にしないでいいから、あなただけでも逃げてちょうだい」と優しい声で俺の耳に囁くと離れてしまった。その後すぐに黒髪の女性と大賢者との会話が始まり、どうやら彼女は、これから起こる事態の結末を俺に伝えに来たらしく、その内容は、やはり魔王軍は、これから、この国にある人間の全てを殺すと言う内容であった。それを聞かされてしまった俺は、ただ震えて何もできない自分に苛立ちを感じる事になってしまう。そんな時に大賢者は黒姫に対して話しかけ始めたのだ。

その問いかけを俺は耳に入れる事になる。

「僕に協力してくれるなら君は自由になれるけど協力してくれないのかい?」

「はい、協力しません。私が従うのは黒猫お姉さまだけなのですから、それ以外の人には決して従わない」

その発言に、その大賢者に対して俺は殺意を覚える。

だが、俺が動こうとすれば即座に魔王軍が俺に対して攻撃を仕掛けるに違いない。そう考えると、ここで黒猫を助けるためには黒猫が大賢者に協力するしかないと思い至ってしまう。そして俺の中は、とても苦しかった。その苦しみから逃れる為にも早く黒猫と入れ替わる必要があったので俺が大賢者に向かって『早くしろ』と催促をするのだが、それでも、まだ何か準備が必要なようで時間が掛かっている。そう思った直後だった。大賢者は黒猫に対して『魔族の魂の宝珠を使う事で魔族を魔族としてではなく普通の人として生まれ変わらせる事ができる。その力で、どうか人間に戻って欲しい』と頼んだのだ。それに対する彼女の返事はとても分かり易いもので、この大賢者が敵である事が確定した。そうして彼女は大賢者に質問をする。それは黒猫が俺の仲間になった後に黒猫の前から姿を眩ませた時の事についてだ。その件に関しては俺は彼女が俺の仲間にならずに一人で行動する道を選んだのだと思っていた。しかし黒猫の話によれば『大賢者が黒猫の前に姿を見せなくなった原因は俺にあったんだ。だから俺に罪悪感を抱いて姿を消したんだと』と言っていたのだ。俺は、そのことを知らなかったので黒猫に対して『なんで俺が原因なの?大賢者に操られて黒姫と一緒に旅をしていたんだろ?』と疑問をぶつけてみると黒猫は少し悲しそうな表情になってから大賢者に話しかけ始める。その問いかけに対して大賢者が黒猫に対して「黒猫ちゃん。どうして君が僕の目的を知っているのですか?」と問い質していたのが印象的だった。

そう言えば、この大賢者が言っている目的とは一体、何なのか俺は分からなかったのだ。だが黒猫は大賢者の目的が何であるか知っているようで『やっぱり、あなただったんですね』と言い出す。

それを聞いた大賢者は黒猫に向かって笑顔を向けながら「さすがに、よく分かったね。まぁ黒猫ちゃんも僕の目的の事は知っていますよね?」と、尋ねていた。その質問に対して黒猫は答えにくそうにしていたが、しばらく沈黙を続けた後に『大賢者さんが、あなたの目的は『この世界から勇者と言う概念を無くしたいと思っている』と聞きました。だけど私は勇者が大好きですから、それだけは絶対にやめて欲しいのです』と答えた。

俺は二人のやり取りを見て『この世界から勇者という称号を失くすことが、この二人の間での約束なのか?』と思ったので俺が口を挟まずに大賢者達の様子を伺っていると魔王軍の幹部の一人であるリヴァイアタンが魔王と黒姫の元に現れた。そこで黒姫は自分が魔王軍の配下として行動する事を決意したようだ。俺は内心で「これで魔王と大賢者が戦う理由もなくなった」と喜んでいたのだが黒姫の話を聞いていた魔王軍の幹部達は「そんな事をしたら大賢者に勝てる訳がないじゃないか」と騒ぎ出してしまう。そして黒姫は魔王軍の命令を無視して魔王と二人で大賢者と戦い始めたのである。俺は大賢者に、どうにかしろと訴えると彼は黒姫を説得するために黒姫の方に歩き出して行ったのだ。

俺も魔王達の戦いに参加するために大賢者の邪魔をしようとしたが大賢者が、こちらに視線を向けると何かを呟いただけで動きを封じられてしまう。それから大賢者は再び黒姫の方を見ると彼女の元まで移動して抱き締めてから彼女の首筋を舐めると彼女は気持ち良さそうな顔をして「あっ、だめぇ」と、言って倒れこんでしまう。それを見届けてから大賢者は黒猫に対して「君を僕好みの女性に仕立て上げるから覚悟して下さいよ」と言って彼女を自分の家に運んでしまう。そして大賢者が黒猫を連れて家から出て来ると、そこに黒鉄が姿を現したので大賢者は彼女にも「君は魔王軍の手下なんかに収まっているような女性ではないですよ。だから私と来てくれませんか?」と、言うと、すぐに「はい、喜んで」と返答して付いて行くのであった。その光景を見ていた俺は「大賢者の奴が、とんでもない事をしようとしている」と、感じたのと同時に大賢者が黒姫を手に入れたら確実に大変なことになるだろうと考えていたのである。

――――――

俺の中にいる人格が入れ替わる前に黒姫が黒姫として黒鉄と共に大賢者の家に連れ込まれてしまう。その事実を知った俺は何とかして黒姫を助けたいと願ったのである。すると黒鋼から俺に対して言葉が返ってきた。それは『あの二人は大賢者の魔法に掛かった。あの二人は、これから大賢者に何をされるのかも知らずに、そのままの状態で魔王軍と行動をともにする。魔王軍の中には魔族だけではなく人間の仲間達もいるから魔族の味方をしている魔王を憎む者がいるかもしれないからな。もしそう言った者たちが現われた時は黒姫達が魔王と戦うはずだ』と言ったのだ。

そう説明してくれたのだが俺には理解が出来なかったので黒猫に『どういう意味だよ?黒猫なら大賢者の魔法の正体を見抜けるんじゃないか?』と聞くと彼女は申し訳なさそうにしながら俺の言葉を否定してきた。その反応は、どうやら俺の中の大賢者に聞けと言っているようなものなので仕方なく俺は俺の体にいる存在に声をかける。そして彼女は黒猫が話した内容を教えてくれたのである 大賢者に捕らわれの身になってしまった黒猫を救いたいと思って、どうにか出来ないかを必死になって考えた。しかし俺は大賢者のように特殊な力を持っておらず、しかも相手は大賢者であり黒猫を救う方法が全く分からない状態では、どうにもならないと感じてしまい俺は、ただ呆然と眺めているだけだった。そして黒姫は大賢者によって黒猫と同じように捕まってしまい彼の家で黒姫も捕らわれの身となってしまう。

――――――

俺は今自分の目の前で起こっている事が信じられないと言う思いに囚われてしまっていた。何故なら先程までは黒猫と黒鋼がいた場所には、もう既に大賢者が立っているからだった。俺は、いつの間に彼が移動してきたのか全く気付かず気が付けば俺の背後に立っていたのだ。だが、それよりも、さらに驚くべきは大賢者の変わりように驚愕してしまい、まるで大賢者に化けていた人物が現れて中身だけ入れ替わらされたかのような錯覚に陥るほどだった。だが俺は俺自身の中に、もうひとりの人物が存在していないのを確認する事で冷静になり現状を把握しようとした。だが俺の思考は、やはり混乱してしまっているようで、どうしても落ち着くことが出来ないので俺の中にある感情は、このままでは非常に不味いと告げていた。そして、その状況を変えてくれるはずの大賢者は何故か黒猫に対して『君は僕の為に生きなさい』とか、ほざいていたので俺はイラっとして「お前何言ってんの?」と思わず口に出してしまっていた。その俺の言動に驚いた様子の黒猫だが『ごめんなさい、私の力が足りなくて大賢者さんの呪いを完全に解いてあげることが出来なかったの。それで黒鉄お姉さまは、これから大賢者さんの元で生活してもらう事になってしまいました。私が魔王軍の方に協力すれば黒姫様だけでも助かるって言っていたけど協力できないから』と言っていたのだ。

そうして黒猫は黒姫の手を掴んで「黒姫ちゃん行きましょう。私は、あなたの事を誰よりも愛しています。それに、いつか必ず黒猫に戻って会いに行きますから」と言い残し去って行ってしまう。

俺は「待ってくれ」と叫びたかったが黒猫と黒姫の後ろ姿を見ていたのだが、すぐに視界がぼやけ始めて気が付くとベッドの上で眠っていた。そして、また意識を失う事になるのである。そして、再び俺が起き上がる時には、もう夕方になっており俺は、ある事を思い出して黒鋼に話しかける。しかし彼女は返事をしてくれずに『少し黙れ』と言われたので俺は、それに従って少しの間沈黙を続けて彼女の指示を待つ事にした。

しばらくすると俺の耳に足音が聞こえて来たので部屋の中を見回すと大賢者の姿があり黒猫が黒姫と一緒に大賢者の家に連れ去られてしまったので俺は慌てて追いかけようと立ち上がろうとするが上手く立てない上に体を動かす事も出来なくなっていたのだ。

そこで俺の頭に『お前には俺の呪いを受けて貰うから大人しくしていろ』と言われてしまったので俺は大賢者が黒鋼や黒姫にした仕打ちに対して『黒猫は魔王の娘なんだぞ!それでも、こんな酷いことが出来るなんて人として、おかしいだろ』と文句を言うと大賢者は黒鉄に対して『君は勘違いをしているようですね。黒姫が魔王の関係者だからといって私に関係は無いのですよ。だって私にとっては彼女が何者で有ろうと構わないのですよ』と答えてきたのである。

だが、俺は納得できなく『じゃあ黒猫と黒姫は何者なんだよ?』と、聞いてみると大賢者は、その質問に対して『彼女は魔王の親戚の子だと聞いた事がありますね。黒姫ちゃんは、あの見た目ですが年齢は百五十歳を超えているそうですから黒姫ちゃんは人間ではなく魔族なんですよ』と説明してきたのである。俺は「マジで」と言いかけた時に『うるさい、少しは静にしていられないのか?』と大賢者に言われたので「無理」と答えたが無視されてしまう。

それから俺は大賢者に対して「俺も黒猫の所に連れて行くつもりか?」と質問をすると『もちろん、貴方も黒姫と同じ様に彼女達を可愛がる事を約束をしましたから、そのつもりです』と笑顔で言うと部屋を出て行こうとした時、俺は大賢者を呼び止める。そして『おい、大賢者!』と言うと『なんですかね?』と大賢者は答えるので『俺は大賢者の事を許してねぇから』と言うと彼は笑顔のまま『それは当然の反応でしょうね。でも大丈夫ですよ。貴方の体は私の支配下に置いています。その気に成れば私が操ることも出来るのですが黒姫の事を大事にしたいのならば、おとなしく私について来て下さいよ。でないと魔王軍に対する情報を聞き出すことが出来なくなるので困るんですよ。貴方に死んで貰ったら色々と面倒になるのです』と言って黒猫達がいる家に向かって歩き出したのである。俺は「わかった」と言って、その後を追いかけると俺がついて来ている事を確認もせずに、そのまま家に入ってしまうのであった。

――

大賢者は家の奥に進んでいくのを見ながら、この家は何処なのかと周りを観察していた。だが、ここは洞窟の中に作られた住居なのだと分かってしまったのだ。大賢者は黒姫と黒鉄が捕らわれている寝室に入ると俺に対して『そこに座って』と言って椅子を用意してくれてから『そこに座っていて下さい』と言ってから、何かを準備し始めたのである。

すると黒姫が黒鉄と俺の方を見てから俺に対して「黒鉄、久しぶりですね」と話しかけてきたので俺も挨拶をする。それから黒猫に話しかけようとするが大賢者は「さぁ、黒姫。今日も一緒に楽しませてください」と嬉しそうに言って服を脱ぎ始める。そして黒姫も同様に大賢者の事を誘惑するように脱ぎ始めてしまい大賢者はその行為に我慢できなくなったように黒姫に襲い掛かる。そんな二人の行為を見ているうちに黒鋼が俺の近くに寄ってきて『おい、黒鋼も見て見ぬふりするなよ。あれを止めさせないといけないだろ』と言うのだが彼女は何も答えず黒姫に襲いかかっている二人を見つめていたのだ そして大賢者は黒姫と肌を重ねる。

俺は今起きている光景を受け入れられずにいた。目の前で黒猫と黒姫を、いきなり抱き合っているからだ。大賢者は黒猫に対して「君はとても美しい」とか言いながら黒鉄に対しても同様の言葉をかけており俺には『君は僕の物です。だから黒鋼、貴女にも、これから、いっぱい可愛がってあげますよ』などと言っていたので黒鋼は『それは嬉しい事だ。では早く、私の体を好きにしてくれ。大賢者殿が相手してくれると私は、すごく興奮して、とても幸せな気持ちになれるのだよ』と言った後に二人は口づけをして舌を絡めあい濃厚に交わり始めていたのである。

そして黒猫達は大賢者に弄ばれるかのように体を交え続けていた。俺は目の前で行われている行為に対して、どうする事も出来ずに、ただ眺めるだけしか出来ないので、その様子を眺めているだけになってしまう。

それから一時間ほど経過し、二人が満足したような表情になった頃に大賢者は黒猫達に服を着せてから「今日はこれぐらいにしましょう。黒姫と黒鉄が目を覚ましたら次は四人で遊びましょう。その日が来るのを待っていて下さいね」と微笑む。黒姫は、まだ大賢者の事が気に入ったらしく頬に手を当てながら、うっとりとした表情を浮かべていたのである。

俺は、この状況から逃げ出す為に「俺は黒猫を助けに行かなきゃならないんだ」と言うが大賢者が「助けに行ってどうなるというのですか?もう既に黒姫の呪いによって彼女は、ほとんど大賢者である私の虜になっているのですよ」と言うと黒姫に「そうなの、私、ずっと前から大賢者さんのことが気になっていたのよ。そして彼の物にされてしまい、私は彼の奴隷のような存在になってしまっているけど私は彼に心酔しているから幸せを感じてしまっているわ」と言って、にっこりと笑みを向けられたので黒猫が俺に向けて「諦めた方がいいの、黒鋼、今の、あなたは私の力のせいで黒猫の状態だけど元に戻ったら自分の意思を取り戻すはずなの。でもその時になっても黒猫の側にいてあげるべきだと思うの。だから今は黒鉄の事は忘れるべきだわ」と悲しげに言って来るのだった。俺は彼女の言っている事の意味が全く分からなかったのだが俺は、どうにか、その言葉を理解しようとしたのだが、結局、意味を理解することは出来なかったので「黒猫を助ける為に来たはずだろ?」と問いかけるが彼女は首を横に振ったのである。

そして俺は「お前は、なんで俺を騙したりしたんだよ?」と怒りをぶつけようとしたが黒猫から抱きしめられて「お願い。大賢者さんが、どんな呪いを使ったのか私も分からないけど私は、もう大賢者さんに逆らうことは出来ない状態になっていて逆らうことが出来ないの。でも、大賢者さんに抱かれている間だけは呪いが解けていて私の意思があるの。それで私は、あなたに真実を伝える事が出来た。もう大賢者さんには抵抗することも出来なくなっているのよ。でも安心して私は大賢者さんの事が大好きだし、それに大賢者さんも私のことを気に入ってくれたから大切に扱ってくれるって言ってくれてるから私は、これからも彼と共に過ごして行くって決めてあるの」と泣き出してしまったのである。

黒鋼が「大賢者、どうしてこんな酷いことを出来るんだよ。お前にとって黒姫は大切な家族なんだろ?それがこんな酷い仕打ちをした挙句、自分勝手な理由で黒姫を魔王城に連れ去るつもりかよ。それに大賢者は魔族に恨みでもあるのかよ!」と叫ぶと大賢者は笑顔で「魔族は魔王軍に協力して魔王の味方をしていた。それだけの事です。魔族に罪が無いと何故言えるのでしょうか?」と言い黒鋼に近づいて頭を撫でると「まぁ良いじゃないですか、それより、そろそろ黒姫と黒鉄の意識が戻りそうなので、それを確認した後で魔王城に行きましょうか。魔王軍の情報を手に入れなくては、いつ攻め込むのか分かりませんからね」と言ってから「あ、そう言えば自己紹介を忘れていました。私の名前はライ、オーガ族です」と黒鋼に笑顔で自己紹介した。すると黒姫も黒鉄に対して「彼女は吸血鬼、そして私は獣人なのよ。そして大賢者の彼が私達の主人である大賢者様で黒鋼の婚約者なの」と言うと黒鋼に対して『大賢者様の奴隷である私を、よろしくね』と言い、俺に対しても「私は貴方が大好きなの。だって貴方の事を思うと凄く興奮してくるから。早く貴方と、いっぱい触れ合いたいな」と俺に顔を近づけてきたので、それを黒姫は「ちょっと黒姫、それはダメだって言ったでしょ」と言って止めようとする。しかし黒姫が大賢者を呼んで命令すると大賢者は黒姫に近寄り黒猫の唇を奪った。その瞬間に俺は全身から汗を吹き出し始めてしまう。そして俺の中に大賢者の魔力が入って来て俺の中に入ってくると同時に俺は、そのまま床に倒れ込んだ。だが倒れた際に黒鋼の服を脱がして、そのまま裸にしていたので黒鋼の胸に顔を埋めて、そのまま俺は眠りに落ちていくのであった。

大賢者にキスされている最中、黒鋼は大賢者の事を愛おしそうに見つめていたが彼女は涙を流す。そして、やっと大賢者から解放された時、黒姫は大賢者に対して文句を言い始めるが、そんな彼女も黒鋼と同じように大賢者と濃厚な接吻を行い始めたのである。

それから黒姫が黒鋼を抱き寄せて頬をスリスリしながら大賢者に向かって『この二人は貴方が操っているのでしょ?この二人は貴方が支配していないのなら、こんなに貴方を愛している訳がないの』と言って大賢者に確認をすると「もちろん操っていますよ。私の奴隷なのですから当然では無いですか」と答えてから『それよりも魔王軍の幹部は全員、この村の中にいるので探す必要もないのです。貴方が目覚めるまでに部下を村に放っていたのです。だから見つける事が出来るはずです』と言った。

それから数分後には村の中で騒ぎが起き始めていると俺も気付き目を覚ます。俺は「いったい何が起きているんだ」と聞くと黒鋼が「どうやら村の中に入り込んできた奴らが暴れているみたいだぜ」と言う。俺は、そんな会話をしているうちに外の方から声が聞こえてくる。「貴様に、これ以上の、危害を加えさせたりしないぞ」と言う黒鋼の声も聞こえる。その事に気が付いて外に出ようとするが体が動かない。俺は必死に体を動かそうとするが動かなかった。そして「俺達には時間が必要なのだ」と言う声がしたので俺の目の前に黒姫と黒鉄が現れる。

そして俺は二人の無事な姿を確認してから俺は黒鉄の姿を見て絶句する。そして黒鉄は、まるで人形のような瞳に生気のない表情をしており、その事から俺には、あの黒姫の言葉が嘘ではない事が理解できてしまったのである。だから俺は「黒鉄の体は大丈夫なのかよ」と俺が質問するが彼女は俺の耳元で囁き始める。「黒鋼の肉体には私の血が流れているの。だから彼女は、もう私の一部になっている。でも安心して欲しい。彼女は私が守る。彼女が望まない事は、させないから、私を信じてほしいの」と言うと俺から体を離して黒鋼の傍へと行くと彼女の体を舐め始めて俺に黒鋼の肌を見せないようにして体を弄り続けるのだった。

そして、その後すぐに黒姫が戻って来たのである。そして俺の顔を確認すると嬉しそうな笑みを浮かべる。「大賢者さんのおかげで無事に、こちらに戻ってこれました」と言うのだが、どう言う事なのだろうと思っていると大賢者が現れて、そして彼は黒姫を見て微笑む。

「良かったですね。これで、ちゃんと自分の気持ちが伝えられますよ」と言う。それから黒姫は俺を睨むような視線を向けると「黒鉄、私は、あなたの事を心から大切に思っているわ。でも黒鋼、ごめんなさいね。もう私は、あなただけの物になる事は出来ないの」と言うと黒姫と黒鉄はお互いに手を繋いで抱き合う。その様子を見た黒姫と黒鉄は黒姫から黒姫の記憶を受け取ったのか黒姫と同じ口調になって黒姫に何かを話していたのである。

黒姫の口を借りて喋っているのが大賢者なのだとすると大賢者は今頃、黒姫と黒鉄に呪いでもかけたという事になるのであろう。そして彼女は「大賢者さんが黒鉄の体に入り込み私を支配化に置いて私を自由にしているのよ。私の中に入っている黒鉄の体に呪いをかけ続けているの。私は大賢者さんから、ずっと逃げようとしているんだけど無理みたい。大賢者さんが私の心を支配する前に何とかしないと、このままじゃ大賢者さんに完全に私の心が奪われてしまうの。でも私の魂が私の心を支配して、そのまま永遠に、あなたと、あなたの娘として暮らすことも、もう出来なくなってしまうわ。そうなったら黒姫と黒鉄を悲しませるだけだと思うの」と涙を流したのだった。

そして、それを聞いた黒姫は泣きながら黒鉄を見つめて抱きしめると大賢者に対して黒姫は「あなたのせいで、どれだけの人が悲しんでいると思うの?大賢者であるあなたのせいで大勢の命が失われたのよ!あなたに良心があるのならば、もう、こんな事をやめて欲しいわ。大賢者である、あなたを、ここで殺してあげたいけど、それだと、きっと黒鋼が悲しみそうだから殺せないけど、せめて、これ以上の罪を重ねないで欲しいの」と言って黒姫と黒鉄の二人が黒鋼の体を抱きしめて大賢者に対して懇願すると黒鋼は「大賢者様、お願いします。私は、あなたと一緒に生きて行くと約束していますが、こんな酷い呪いで苦しめるなんて、私は耐えられない。だから黒姫に私の全てを渡しても良い。それで許してくれるのであれば私は黒姫の願いを叶えるために、これからも貴方と共に生きて行きます」と言い大賢者が俺を見る。すると「いいでしょう。黒姫を開放してあげましょう」と黒姫が黒姫の中から出て来た。その瞬間に俺は、あまりのショックに全身から力が抜け落ちて倒れてしまうのだった。だが黒姫が「心配しないで。今の黒鋼の中には、まだ私の一部が混ざっているの。それは私自身よ。黒鋼は生きている。ただ眠っているだけだから大丈夫。それと私と黒鋼が、あなたと家族になりたいって言ったから私達は、ここに住まわせて貰えるかしら? それに、あなたと黒鋼は夫婦なのでしょ?それに、あなたは私にキスしてくれたから私は貴方を愛しています。

私にキスした時に、この村の事も聞いたから私は貴方に、この村に私も住みたいとお願いしようと思っていたのよ」と笑顔で言う。

そんな彼女に大賢者が近寄り「では私は魔王軍の幹部達を探し出して殺してきましょう。それまで待っていて下さい」と言う。そして俺は黒姫の事が本当に好きなのだと思い知らされた。だが俺が、いくら好きになったところで俺と黒姫の間に黒鉄が生まれなければ意味はない。だが、それも解決してしまったのだから、後は俺の頑張り次第で未来が変わるかもしれない。だから俺の答えはすでに決まっている。

それから大賢者が部屋を出て行った後に大賢者の部下が部屋に入ってくる。それから俺は黒鋼の体が、かなり弱っていたらしく、しばらく安静にする事と大賢者の命令に従っている限りは自由を与えてくれた。だから俺は黒鋼と黒姫を二人きりにしてあげたいと思って部屋の外に出る事にする。すると黒鋼は、すぐに「父さん、どこに行かれるのですか?」と言うので俺は答える。「俺は魔王軍との戦いに決着をつけようと思っているんだ」と言うと「私も戦います」と言ったので俺は、この場にいる全ての魔族が、すでに人間によって滅ぼされた事を教えると「そうでは無いのです。私は大賢者と戦わないと、いけない理由があるのです」と黒鋼が言い、それを聞いていた黒姫が「私は、その話を聞いていなかったの。大賢者は私達の両親を殺した張本人なのよ。大賢者は両親と大賢者を殺すために旅をしていて、その過程で、あの男と出会ったの。でも私達が出会った時は、もう両親は殺されていて復讐が出来なかったのよ。

だから黒鋼、あなたに両親の仇を取らせるために、あそこで寝ている私の体は、この世界で一番の魔法の使い手だった。でも今は魔法も使えなくなっているはず。だから私が代わりに戦うの。大賢者の奴は、とても狡猾な性格だから私達に気を取られている間に、また黒鋼を殺そうとする。だけど黒鋼が殺されたら、あなたが、どうなるか分からないの。それでも、もし黒鋼と戦うと言うなら私の血を使って貴方の体に私の魂を流し込む。でも貴方を私の半身として私の中に取り込んで、そのまま二人で戦いに行くわ」と言う。

すると俺は黒鋼が目を閉じてから目を開くと俺に向かって「父さんが私の全てを手に入れて黒鋼に血も肉も精神も与えれば私の体で、あなたの子供を産みます。黒鋼と、あなたの子供です。どうか幸せになってください」と言うと黒鋼の体の中に吸い込まれてしまった。そして黒鋼の体を見ると目が青くなり髪が銀色になり肌も綺麗になっていたのである。その事に驚きを隠せずにいた俺の前に大賢者が現れた。

俺は彼に黒鋼を何処にやったと聞くが彼が俺の前に現れた時には既に彼女は俺の目の前にはおらず俺と黒鋼は大賢者によって完全に融合されていたのだと言う。そして俺が、そんな事を言われて動揺をしているうちに黒姫の体が光に包まれる。その様子に気付いた黒姫は「黒鉄、あなた、何をする気!」と黒姫が叫ぶと黒鋼の体は「大丈夫だよ。黒姫が黒鋼を私から助けてくれようとしているように私だって黒姫を助ける事が出来るんだよ」と言うと彼女の体に、どんどんと光が吸収されて行く。そして彼女が「お父さん。私の体の中で眠っていた私の一部は目覚めたの。だから黒鋼の中に戻るね」と言うと俺と黒姫と黒鋼の3人は黒鋼の中に入り込むと黒鋼の体を媒体にして黒鋼の精神が蘇った。そして「お父さん、お母さん、これから、よろしくお願いします」と言うのだが俺と黒姫が同時に叫んだのだった。

「あなたは何者なの?」「あなたの名前は何なの」と声を合わせると黒鋼は「ああ。私は大賢者に操られていて名前がなかったの。だから名前がないの。でも私は黒姫と、あなたの子だから黒姫の名前を使わせて貰って良い?」と言うと黒姫が俺を見るのである。俺は黒姫の目を見た瞬間に黒鋼の魂を宿すのに必要な物は黒姫の瞳だと言う事を理解すると「お前の名前はクロヒメと名乗れ」と言う。そして黒姫は「ありがとうございます。これからも宜しくね。パパ」と言う。こうして黒鋼が俺の義理の娘になる事になった。ちなみに黒鋼は見た目こそ少女なのだが実年齢は300歳なのだという。そして黒鋼を妻にするのは大変だと思うが頑張って行こうと思う。

そして次の日。俺は、まだ意識が覚醒しない中で再び目を覚ました。俺が、うとうとしながら横を向くと俺の横で黒姫が寝ていた。俺が起きた気配を感じたのか黒姫も起きると俺の方を見て「おはよう。今日から一緒に暮らしていくから仲良くしよう」と言ってくれたので俺達はお互いに抱きしめ合ってキスをする。それから少しすると大賢者が俺の部屋に来て「勇者様。昨日の話は聞いています。だから今から私は魔王軍幹部達を探しに行ってきます。その間に、この村で待っていてくれませんか? それから私は大賢者なので黒鋼さんの呪いを解く方法を研究しておきます」と言って部屋から出て行った。それから黒鋼が起き上がると「父さん、母さん、私は大賢者の奴に復讐したいの。でも、あいつを倒す前に父さんと、もう少し話がしたかったの」と言い出すので黒鋼が目覚めるまで、どれだけの年月が経っているのかを確認すると10年以上が経過しており黒鋼の魂が肉体から離れている間は記憶を失っていたらしく黒姫と黒鋼の記憶が混ざり合った状態だったらしい。なので黒姫の魂の一部だけが黒鋼として存在していたようだ。

しかし、それだけの時間が流れたのに黒姫は外見が全く変わっていなかった。

黒鋼が目覚めてから1週間が経過した頃。大賢者が黒鋼を連れて帰って来た。だが彼は天魔族との戦いで力尽きて倒れてしまい命を失いかけた時に現れた魔女の治癒の呪文のおかげで命だけは取り留めたものの体力と魔力が完全に失われてしまっていた。なので俺は、しばらく安静にするように大賢者に言うと「申し訳ないけど、これから私は魔王軍に復讐をしに行こうと思っているんだ。だけど私の部下に回復できる者が居ないんだ。だから魔王軍が支配している城の場所だけを教えてくれるかい」と言うので俺が地図を広げると彼は自分の筆と俺のペンを持って来て魔王軍の支配地域を示す。そして「ここにある、この街の先を、まっすぐ行くと城が見えてくるよ」と言うと彼は「そうか、じゃあ行ってくるよ」と言うので俺も彼の後を追うことにした。だが、それでは危険すぎるので俺は黒鋼を仲間にすることに決めた。黒鋼は俺の仲間になれば、いつでも黒鋼が好きな時に俺に念話を飛ばして来ることができるのだ。

黒鋼に、これから黒姫が俺の娘になると言うことを伝えると黒鋼は驚いた表情をしたのであった。

そして俺が魔王城に一人で向かい魔王城を偵察している時に黒鋼に連絡を飛ばすと彼女は俺を、どうやって魔王城内に入れたのかを聞いてきたので、とりあえず俺の能力が転移だと話すと黒鋼に「転移って伝説の技じゃん。凄い。流石、私と、お姉ちゃんの子なだけあるね」と言われた。俺は彼女の言葉に疑問を持ち質問をしようとしたが俺に気が付いた魔王城の門番の魔物達が俺の姿を見て攻撃してきたので黒鋼との会話を中断させ戦闘に入る。そして俺は、この場にいる魔王軍の全ての幹部を倒してしまうと俺が幹部達を倒して回ったのは、すでに魔王軍の全ての部隊が壊滅したと思わせるための陽動作戦で俺は魔王城に潜入した。

俺の目の前には魔王が座っていた。俺に倒された筈なのに生きていたのである。俺は魔王に対して「何故、生きている?」と聞くと魔王が「ああ。あれは私の魔法で作り出した幻影だ。私が、いくら不死身とは言え、そこまで馬鹿じゃないよ。私も」と言うので俺の事を馬鹿だと言った事を謝罪させた上で俺の本当の目的を話し始めると魔王は自分の体がボロボロになっていることを確認してから納得した様子を見せる。俺は「だからお前の体と魂を分けてほしいんだ」と言うと「私を倒した後に、この場にいる魔族の全ての魂を取り込むのだろう。ならば仕方ないか、それに私を倒せるのは君しかいないのだから。私を殺して、この世界に平和を取り戻してくれ。それと君は勘違いをしているが魔族は人間の世界を支配するような種族ではないよ。魔族と人間とは共存できるはずなんだよ。だから、もしも、私が人間を滅ぼしたとしたら、それは間違いなのだよ。頼むから、それを理解して欲しい」と言うのだった。

俺は彼を殺す前に最後の質問として彼には愛する者はいるのか? と聞くと彼は何も言わず、その様子で俺は確信する。彼が魔王であり、この世界を闇に変えている原因なのを。だから俺は「やっぱりな」と小声で呟くと俺の事を魔王殺しの英雄と褒め称えながら涙を流し始めた。俺の目にも涙が流れる。そして「私が死んだとしても悲しむ者などいない。ただ一つを除いてはな。お前には分からないかもしれないが私の子供であるクロヒメは私の全てを手に入れなければ生きられない呪いに侵されている。だからこそ、もしも私が殺されればクロヒメの体は消滅する」と意味深な事を言うと「君の魂も体も全て私が受け入れよう」と言うと俺が「俺は勇者黒鉄だ。これから死ぬ男に名前なんて必要無いから俺の名前を黒鉄と名乗らせて貰うぞ」と言うと俺の言葉を聞いた大賢者が「まさか大賢者を騙すとはね」と感心した様子を見せたが俺は気にせずに剣を構えると俺の前には俺よりも大きな盾が出現される。その盾は光輝いていた。大賢者が大賢者の称号の力を発動させると同時に俺も全力全開の力を開放するのである。

そして俺は魔王を封印すると彼の魂を吸い取るために黒姫の瞳を移植していた黒鋼を呼び寄せると彼女の目に手を当てて瞳を取り出す。すると、やはり黒鋼は俺の考えが分かっていたようで彼女の瞳を手にして目を開ける。そして黒鋼の体は輝き始めて俺は黒鋼と一体化すると俺は意識を失って倒れた。

俺が再び目を覚ますと、そこは魔王城の謁見の間ではなく見慣れた俺の部屋のベッドだった。黒鋼も、俺の横で、ぐっすりと眠っている。それから俺と黒鋼が起きた頃に大賢者が現れると彼女は黒鋼に話しかけた。それから彼女は、こうなった理由を全て話し出した。俺達が大賢者によって救われる前の話だったらしい。それから彼女が言うと「ああ、あの時は確かに私は父さんに負けたのだった」と言うので、なぜ今頃になって復活をしたのかを聞くと「私が復活したのは私の体が限界に達したからだよ」と答えたので大賢者は魔王との戦いで瀕死の重傷を負ったのだと言う。

だから俺が黒姫の瞳を彼女に与えた事を説明すると、この事に関しての疑問は解決したが問題は残ったままだった。だから俺は「お前の体は何所まで耐えられる」と大賢者に尋ねると言うと「この体の修復が完了するまでの時間は最短でも3日、長くても1ヶ月はかかるよ。だから黒鋼の事は、もう少し時間が経ってからにした方が良いかも、しれない」と言うと俺は少しだけ安心できたのである。

それから黒鋼が起き上がり「父様、私を一人にしないで、これからも一緒が良い」と言ってくれたので俺が黒鋼を抱きしめてキスをすると一緒に暮らす事を了承すると黒姫が起きて「ずるいです」と拗ねるので俺は黒姫の額に口づけをするのであった。

大賢者の話では、もうしばらくすれば黒鋼は復活するらしい。なので大賢者の言う通りに、しばらくは一緒に暮らして行く事に決めた。しかし、しばらくの間は大賢者の家に黒鋼も住む事になったので部屋を用意する必要がある。そこで大賢者に相談してみるが、まずは魔王を封印した際に消費した俺の生命力を補うために黒鋼の心臓に埋め込んだ彼女の魂の一部の結晶の摘出を大賢者が始めようとすると俺は彼女に頼みがあると言って彼女を呼び止める。そして黒鋼の体に埋め込まれていた彼女の魂の核を取り出してから俺の体内に取り込ませてもらうことにしたのである。

それから数日後。俺の体内から取り出された黒い塊は小さな卵のような形になると、その中から少女が出てきた。彼女は黒姫と黒姫の顔を見て「あれ? ここどこ? お姉ちゃん達と私達は死んだんじゃないの?」と言うので、この子が大賢者の娘で黒鋼だと紹介すると、いきなり抱きついてきて「私を、ずっと守ってくれてありがとう。パパ大好き」と嬉しそうに言うと俺の唇にキスをしてきた。俺としては嬉しいので、そのまま受け止めたが黒姫が頬を膨らませていたので俺は黒姫にキスをすると「私にもお願いします。魔王との戦いで疲れていると思うので優しくして下さい」と照れながらも、はっきりと口にしたので俺は「俺も好きになった女性を、もっと大切に扱おうと思った」と言うと俺は黒鋼を抱き上げると「わー。パパ。高い、高―――――い」と喜んでいたので俺が黒鋼を抱いたまま部屋の中を歩くと、その様子を見ていた黒鋼は俺の耳元で俺に囁く。

俺は俺に甘えてくる二人を見ると「幸せになろう」と俺は、つぶやくと俺の腕に二人は「うん」「はい」と答えてくれた。俺は二人が笑顔を返してくれるので俺も微笑んだのである。

そして俺が二人の事を大事に思っている事が分かったのであろう黒鋼が、こんな質問をして来たのである。それは黒鋼にとっては当たり前の疑問であったが俺には、とても重要な問いかけだった。俺は今まで俺自身の能力のせいで家族を失い孤独だったが俺は今、黒姫や黒鋼、それに俺を信頼してくれている仲間の皆と家族になれたことが、本当に嬉しいと思ったのである。

だから俺は素直に、ありのままの思いを話す。俺は俺の家族と出会えてよかった、俺が俺のままで良いと思ってくれる人と、出会う事が出来て良かったと言う。それから黒鋼と二人で黒姫の方を見る。俺は改めて「よろしくな」と挨拶をしたのだが黒鋼は「ねえ? どうして私達と血が繋がっていないの?」と黒姫の事を指さしながら言うので俺は「黒姫には俺の能力を移植したから普通の人間と変わらないよ」と答えると、今度は「どうして? パパは私のことを普通に接してくれるの?」と言われてしまった。俺は俺なりの回答を口にする事にする。俺は黒鋼に俺が普通に接すれば相手も自然に俺に懐いてくれれば仲良くなって、きっと友達になれるはずだからと伝えると黒鋼は自分の父親を見つめた。そして、この親子は俺の答えを聞くとお互いに顔を合わせ微笑み合っていた。

こうして魔王城の中で誕生した新しい家族は大喜びをしていた。俺も嬉しく思った。そんな様子を見ながら俺は仲間達の方を振り返るとその時に魔王城で出会った魔王の幹部達に視線を送る。この場に現れた魔物達は全員死んでしまっていた。どうやら大賢者の力で生き返りを果たしたらしい。しかし、その幹部達の中にクロナが居ると俺は確信していたが何故か姿を現さなかったのが不思議だった。

クロナは一体、どこにいるのか、俺には分からない。クロカの件もあるので俺は大賢者が俺のために用意した家に住む事になるのは決定だが、まだクロ姫の件に関しては保留になっていた。クロ姫は俺の事を受け入れてくれたのだが俺の事を「あなた」と呼ぶのはクロナと同じ呼び方だったので俺はクロ姫に自分の事は黒鉄と呼び捨てで構わないと言ったが、それを聞いたクロ姫が「ダメ。だって貴方と私は運命で繋がっている。私は、あなたの傍に、いつも、いつまでも、いる。黒鉄の事は私が守る」と言い切ったのだ。

そしてクロ姫の面倒を見ることになったのは魔王軍最強の存在である、あの女だった。彼女こそがクロ姫の実の母親であり俺の仲間であるクロネなのだがクロネは「魔王を倒した勇者は私が貰います」と宣言したのである。クロ姫は実の母の宣言に戸惑っていたが、クロネには、それだけの権力があり俺としても異論は無かったので、このままで行こうと思っていると俺と、これからは、ともに生きたいと言われたのだ。俺の返事は決まっている。

「私なんかで、いいのか?」

俺は少し照れたように言うと彼女は「はい。私は、あなたの全てを手に入れたいです」と言うと俺は彼女を受け入れた。そして、その時は来ていないが彼女が、いずれ俺との子供が欲しいと言うかもしれないと思い俺は俺の能力を使えば子供も作れる事を説明した。

俺は魔王を倒してから数日は休むつもりでいた。俺の体に魔王が取り付いていた間も魔王の力は俺を侵食しようとして居たので俺は、しばらくの間は魔王の影響が残っている間は、おとなしく休もうと思っていたが、そうしている間に俺の家には沢山の人々が出入りするようになったのである。俺の妻となった魔王クロ姫に、その母である大賢者の娘クロカ、それに魔王の側近の四魔将軍と呼ばれる魔王軍の中では一番偉くて強いとされている女性達と大賢者がやってきたのである。魔王城の謁見の間での戦いが終わった後、しばらく眠り続けた事で俺の力は完全に回復していなかったが魔王の力と魔王の力を完全に打ち消す黒鋼のお陰で魔王の影響も完全に消えていたし体調の方もほとんど回復した状態だったのだ。

なので大賢者が家に訪ねて来たときに「もう、大丈夫なのかい」と聞かれて「心配をかけたみたいだな」と答えたら彼女は嬉しそうな表情で俺を抱きしめてきた。俺の体の中には魔王の一部が存在しているが、それを取り込む際に俺は黒姫と一つになっている状態で、その一部と同化していた。だからこそ俺は、ある程度まで回復できたのである。黒鋼の瞳の瞳孔の奥に隠された魂の一部を黒姫が吸い取ると同時に俺も黒鋼と融合を果たし彼女の力を取り込んだ事によって今の俺は完全な状態に近づき始めていると、この前の戦いで俺は理解していた。それから俺に抱きついて離さない黒姫の頭を撫でて俺は言う。

「黒姫、俺は君が望む事を叶えてあげたい」

俺の言葉に嬉しそうにしていると黒姫に、こう言われてしまう。俺は彼女にキスをしてから抱き上げるとベッドの上に運び彼女を寝かせて覆いかぶさる。

それから数日後。俺の家に大勢の人々が集っていた。その理由は、やはり黒姫の存在が理由であった。魔王の娘である黒姫の存在は、これから先の、あらゆる物事に影響をもたらすので早めに皆で黒姫の今後について話をして決めようという話になり皆で集まって話し合う事になったのである。ちなみに俺は黒姫を抱きしめて、これから先も共に生きることを宣言するが黒姫は顔を真っ赤にすると俯いてしまい「は、恥ずかしい」と言うと、すぐに魔王モードに変わって俺を叱りつけた。しかし、その後には黒姫の方から、ぎゅっと抱きしめてくると俺の首筋にキスをして「嬉しい」と言ってくれるので、とても愛おしくなり彼女の額に唇を落とすと「えへへ。やっぱり貴方が好き。大好き。私の全部をあげるから、いっぱい可愛がってね」と言うので、もちろんだと俺が答えると、また黒姫が俺に甘えてくる。

そんな俺達のやり取りを見て黒姫を妹にしてしまった大賢者が悔しそうにしていた。そしてクロナに睨まれるのだが「あたいは何もしていないわよ」と必死で弁明をしていて「クロネさん、ちょっと、こっちに来てください」と魔王軍の四人の中で一番の年上である女性がクロネの手を引いて部屋の外に出て行くと、しばらくして戻って来たのだが、なぜか二人とも涙ぐんでいた。

それから皆が話し合いを始める前に俺達は夫婦になった事を報告して、それぞれから祝福してもらうと皆は驚きつつも俺達が、すでに、そういう関係になった事を嬉しそうにしてくれて、それが終わるころには俺達は全員が集まってきたので会議が始まるのである。

「では始めましょうか。まず初めに黒姫の、これからの、ご両親への対処の仕方をどうするかを決めないといけません。魔王城の方には連絡を入れない方がいいのか、それとも、こちらから知らせるべきかどうかを話し合ったほうが良さそうだ」

「私も賛成。クロナちゃんは、お父様の事も気になると思うから、一度顔を見せるべきかと思うの」クロナの発言に全員が賛同すると、ここで「えー、パパとママが一緒の方が楽しいと思うから顔見せしないで」と黒鋼が発言したので俺が、それなら魔王城に黒鋼を連れて行く事にするよと言うと彼女は笑顔で「うん、お願い」と喜んでくれた。俺が黒鋼の意見に賛成したので、この場の議題としては魔王の娘を、このまま家に置くかどうかの話に移ったのである。「とりあえず私は黒姫と一緒に暮らせるように色々と手を打っておくわ」

「ありがとうクロナ。私もこの家の警護を強化させておきます。あと、私の能力で魔道具の開発も進めておきます」と魔王が言うと「私も黒鋼の件で協力します」とクロカも名乗りを上げる。

「黒鋼も黒鋼で勝手に家を抜け出すなよ。まぁ、俺の事は、この子に任せているから大丈夫だと思うが」と俺が話すと黒鋼が元気よく答えてくれる。「私は絶対に黒姫から離れない。約束」そんな事を話す俺達だがクロナは魔王に対して疑問に思っていたことがあった。それは俺の中に居る魔王の力の事だ。魔王の力は魔王が生きている限り消えることはないが黒鋼の力で吸収された今となっては、この場に居ても問題はないはずである。なのに魔王の力が完全に消えたわけではないと言うのだ。魔王は「私の力の一部はまだ消えていません」と言い出して俺は魔王城から連れ帰った大賢者に視線を向ける。大賢者も、まだ力が完全ではないという。俺は、どういうことだと問いかけると、魔王の力は魔王と繋がっている存在に宿るという。

その話を聞いてクロナの体に何か異変があるのではないかと考えるが俺が調べたところで何も異常はなかった。しかし魔王と繋がっている人間となるとクロナと大賢者しかいないはずだ。俺は、その事実を確かめるためにクロナと大賢者を呼びつけると二人は俺の前で正座をして緊張している様子だったが俺は、いきなり二人を押し倒すと「きゃっ!」「やめてください。魔王様が見ています」とか言われたのだが俺がクロナに魔王の事を問いただすとクロナも「私はクロナです」と返されて俺は意味が分からず困惑してしまう。だが魔王の力の繋がりというのは何となくだが分かったので、ひとまずクロネの所に連れて行ってみようと俺達は移動を始めた。俺の家にある俺の部屋に、その魔王の力は残っているようなので魔王の力が残っているということはクロネも魔王と繋がっているのかもしれないと考えて、俺達はクロネの元へと向かったのである。そして、そこにいたクロネは魔王と同じぐらい綺麗になっていたが性格は少し変わっていて魔王と同じように俺と仲良くなりたがる。俺が魔王の娘を連れて帰ってきた事にクロネは驚いていたもののクロナの姿を見て納得をしていた。どうも、魔王は自分が死ねば、すぐに娘の体も滅びてしまうようにしていたらしい。だから魔王の娘であるクロナは死んでいなかったのだと、そこで俺の中に居るクロナはクロネの力を取り込んだので俺と一つになって、その影響で外見が少し変わったのだと説明したのだ。

「そうなんだ。良かったね。これからは、ずっと一緒にいられる」と、クロナも喜んでいると俺は「それで、お前が、これから先も俺と生きるつもりならば、これからは俺の妻の一人に、なってくれないか」と頼むと魔王の力と繋がった魔王の肉体を持ったクロナと魔王である俺の妻になる事で、ようやくクロ姫が魔王としての自分を受け入れてくれた。俺は嬉しくなったのだが大賢者が、どうしてクロ姫が俺と結婚したがっていたのかを教えてくれて、そのおかげで魔王の娘である彼女が魔王の力を受け継いだままの状態で、ここまで来られたのだということに感謝したのであった。ちなみに俺達が話し合っている間に大賢者は俺の仲間である女性達と黒姫を相手に話を詰めていたらしく魔王の娘が俺と結婚することになったという報告をすると大賢者が泣いてしまった。

それから魔王の娘を正式に仲間に加える事になる。俺は彼女に「俺と結婚してくれるかい」と訊ねると「はい。喜んで。貴方を生涯愛することを誓います」と答えてくれた。そして「黒鋼の瞳に誓っても構わないか?」と言うと黒鋼が嬉しそうにしながら俺に抱きついてきた。俺も彼女を抱きしめる。そんな様子を見た黒姫とクロナが俺と黒鋼を引き剥がして俺にキスをしてきて、それからクロナが「クロ姫、私の事をお母さんと呼んでいいからね」と言ったらクロ姫も泣き始めて、それにつられてクロナも泣き出してしまっていた。こうして俺は二人分の嫁を手に入れることができたのだった。

その後、魔王城に帰ってクロ姫のことを説明して俺の所に黒姫とクロナがいる事を伝えた。その結果として、すぐに黒姫の父である魔族王が飛んで来る事になってしまい魔王と大賢者と共に対応に当たる羽目になった。しかもクロカには魔族の国に行って、そのまま魔王城に居るように伝えるので大変だったのだ。

魔王の娘を妻にする事になったので魔族は勿論、人間の国に居る者達にも魔王は復活した事が知られてしまったのである。俺としては魔王の娘であるクロナを表に出さずに生活させてあげようと考えていたのだが彼女は外に出てみたいと言ってきたので俺は悩んだ末に条件付きで許可を出した。俺はクロナに魔王城に戻るのと俺のそばにいる事、この二つの条件を出して守れるなら自由に動いてもいいよと伝えて魔王城を後にしたのである。

そして俺の家にやって来たクロ姫だが彼女の行動力は半端ではなかった。俺が魔王の娘だという事を、ちゃんと教えていなかったのが災いしてしまいクロナと黒鋼を抱きしめると「私のお姉ちゃんとお兄ちゃんだよ」と言い出してしまったのだ。それを聞いたクロネが、すぐに自分の妹であるクロネの存在を伝えるとクロナは笑顔で「うん。分かった。みんな大好き」と俺達全員を家族に認定してくれた。それから皆で夕食の準備をする時に俺はクロナから質問を受けた。その内容はクロナの正体に関するものだった。俺はクロナの問いかけに対しクロ姫はクロナの体に流れている魔王の血と力を吸収したことでクロナよりも上位の魔王であると教える。

するとクロナはクロ姫が魔王である事に驚いていたが「私がお姉さんだから何でも、おしえてあげるよ」と言われてしまう。それからクロ姫に「私もクロナお姉ちゃんの妹にして」と言われてしまい、俺はクロネに相談してみることにした。そしてクロネは「良いんじゃないでしょうか。でもクロナと黒鋼は年上なんだからクロナが面倒を見るべきかと」と意見を言ったので、それに従って俺はクロナに、しばらく魔王城で暮らすように言ってみると彼女は、それを承諾してくれる。すると、その話を聞いて「ずるーい」と言い出したのは当然のように黒鋼であり俺は彼女に対して、あと数日すればクロネが、この家に来てくれれば二人共、妹になるのだと話すと機嫌を直していた。

その日からクロナもクロ姫に文字を教えたり、俺にクロエの剣舞を見せてあげるなど面倒を良く見てくれる。俺と二人っきりの時にはクロナが甘えてきて、それは嬉しいのだけど俺は俺で黒姫とクロナの事を心配していた。二人が仲良くなってくれないだろうかと思っていたのだが意外と相性が良いようで黒姫とクロナはお互いに仲が良くなっているようだ。

俺とクロネは二人で家に戻ってクロナが俺のために作ったクッキーを食べている。クロナが作る料理は基本的に美味しいんだけど俺はクロナが作った方が好みで、このクッキーに関してはクロナが俺に作ってくれた特別なお菓子だと思っている。そんな俺の様子を見てクロネが俺に言う。

「クロナのお世話をしてクロ姫とクロナが一緒に暮らすようになってから黒姫とクロナの関係が悪くならないように色々と気にかけているみたいですね」

そんな事を言うクロネの言葉に俺が驚くと「やっぱりバレましたか。私の能力を使ってクロ姫とクロナは上手くやっているので安心して大丈夫です」と答える。俺が驚いた理由は俺が考えていたことが全て見抜かれていたことにある。俺は、そんなに分かりやすかったかなと考えているのだがクロネに聞いてみる。

「そんなことないですよ。ただ、そういう所を見抜く事に長けているだけですよ。それに私の能力を使わなくても分かる人なら分かっていたと思いますよ。だって魔王の力って、それだけ強いですから」と話す。クロネが言っている事は、よく理解できる。実際にクロナに宿った魔王の力によってクロナは見た目は変わったが魔王としての力は失われておらず魔王の力の繋がりを持っている存在も魔王の娘であるクロナだけだった。俺の中にいる魔王の力も完全には消滅しておらず俺の中に残っていたりする。つまり今の俺の力は以前の魔王と同等かそれ以上になっているはずだ。

その事実を考えると、あの魔王は本当に俺を殺そうとしていて、その目的が魔王としての力を俺に与えるためだったという事になる。俺に魔王の力を渡すという事は「お前に全てをやるから後は勝手にやれ」という意味があったはずなので、あれだけの力が手に入るとなれば、その事実を知る前に魔王と戦って勝っていたとしても俺は、もっと強くなっていたと思うのだ。

「まぁクロナに魔王の力を分け与えた事で黒鋼は以前より強くなりクロナも成長しているわけだし、これから魔王と再戦するにしても十分に戦えるはずだけどな。クロネ、これから魔王城に向かうのに、あいつらの同行を断ると、かなり揉めるんじゃないかな?」

俺は黒鋼達を連れて行かない方が良いかもしれないと考えたが、その時にクロネは「いえ、魔王と決着をつける時が来たならば連れて行くべきでしょう。そもそもクロネと黒鋼を魔王城に置いて行くのは心配なのです。特に魔王の娘のクロ姫ですが彼女が、どういう扱いをされているのか分からないのが不安です」と語ると俺は、やはりクロネを一人で魔王の元に残していくのは危険だと考えて連れて行く事に決めた。それから俺はクロネと一緒にクロネが用意してくれた食事を済ませる。ちなみに食事はクロネが俺の家で暮らしていた頃にクロネが作り始めたものだ。

「じゃあクロナ。クロ姫の事は任せたぞ」

俺はクロナにクロ姫のことをお願いして家を出ようとしたのだがクロナは寂しそうにしているクロナを見て、そのまま置いて行く事が出来なかった。だから俺は「クロナ、ちょっとクロナに手伝ってもらいたいことがあるから一緒に来てもらえるか?」と尋ねるとクロナの顔が輝いてクロナの方から「はい。何でしょうか? 私は何をしたら良いですか?」と答えてきたので俺は彼女に耳打ちで伝える。するとクロナの表情が一気に嬉しさで溢れ出して「喜んで。頑張ります!」と言ってくれた。

それから俺はクロナと共に魔王城へと向かう事になったのだが途中で俺は黒姫に連絡を取ると黒鋼と共に黒鋼の父親である黒鉄将軍も、ついて来ることになった。そして俺は黒姫と黒鋼と合流してから魔王城にたどり着いたのである。魔王城に到着した俺達は早速魔王の元へと向かい魔王の部屋に通される。そこで魔王は俺が連れて来られた事を不思議に思ったので「どうしたの?」と尋ねられたので俺はクロネからの提案を話すと彼女は喜んで了承した。しかし黒姫はクロ姫に対して敵意を持ってしまっているのである。そして魔王もクロ姫に対して敵対心を抱いているようなので黒姫は二人を睨みつける。そんな空気の中で俺は魔王に話しかける。

俺は魔王にクロカのことを、どの様に説明してどのように説得して魔王城に戻させたら良いかを尋ねたのだ。クロ姫をクロナと会わせれば、とりあえず魔王城は問題ないだろうと考えていたのでクロカには魔王城に待機してもらって、クロナとクロネに魔王城の管理を頼み、クロ姫とクロナを魔王城に戻して黒姫と黒鋼を黒鋼の実家に帰らせようと計画をしていた。俺の質問を受けた魔王は少し考えるとクロネに目線を向けるとクロネは何かを察したようにクロナの元へと向かった。

そして俺は、クロ姫を魔王城に残した後にクロナとクロ姫、そして黒姫に別れを告げると黒鋼と黒鉄将軍にも挨拶をして、その場を後にしようとする。すると黒鋼が俺を呼び止めて、こちらに来るよう手招きをする。俺は、どうせ黒鋼も俺について来るつもりなんだろうと思い黒鋼に付いて行ったのだ。

「勇者様。あなたが魔族を、どう思っているのかを聞かせてくれませんか?」

黒鋼は俺の横に並んで歩くと俺に向かって唐突に質問してきた。そんな質問を受けた俺は「うーん。そうだな。正直に言えば人間と何も変わらないと思うんだ。ただ、種族の違いで争って殺し合っているんだよ。例えば同じ人類なのに肌の色や考え方が違い過ぎる為に争いが起きる。結局争う理由は違うんだけどね。それは魔王が、そうなるように人々を導いて来たのかもしれないけどさ」

俺は素直に答えて「それとも魔族は皆悪人だとでも言いたかったか?」と言うと「いいえ。むしろ魔族の方々が、なぜ私達に敵対して攻め込んで来たのは、よく理解出来ないんです。魔王が魔獣を操ることが出来るので操られているのかなと思った事もありましたが違ったんですよね。それに、あの黒姫という娘は、あまりにも可哀想過ぎです。彼女を見ていれば、魔王に騙されていたのではないかと思ってしまいました」と語ると「その通りだ」と黒鋼に返事をしたのだ。

「魔王は、ずっと前に、とある国に召喚されてな。その国を滅ぼした張本人なんだ」

「どうしてそんな事を知っているのですか?」

「実は魔王は『賢者』と呼ばれている者の正体なんだ」

俺は自分が賢者と呼ばれる事を説明した上で黒姫の事を黒姫に伝えたのだ。

俺は魔王城の廊下で黒鋼に魔王の事を伝える。それは今まで魔王城で起こった事を全てであり俺は魔王が本当はどんな存在なのかを説明する。その話を聞いた黒鋼は驚いた顔をするが、それでも信じないのであれば魔王と話をさせてもらうと言って魔王の部屋へと戻った。俺達が戻ってくるまで黒姫と黒姫の父である黒鉄将軍が話をしているのだが、そこに魔王とクロナがやってくる。俺は魔王に「俺が、ここに連れて来たのは、こいつだけだ。他の者は帰らせるからクロネとクロ姫を頼んだぞ」と言い残すと魔王がクロネを見るが黒ネが微笑んで「お久しぶりですね」と声をかけるとクロナは驚いた表情をして魔王が俺達を見て言う。

「これは、また面白い客を連れてきたものですね」

俺は魔王の言葉を無視して「魔王よ、お前は俺が倒した。だから今度こそお前が俺達の世界に侵攻してくるのは辞めてもらおう」と告げると魔王は笑みを浮かべながら答える。「勇者よ。貴様が我を倒してくれたから、やっと自由に動かせる体を得ることが出来たのだ。感謝しようではないか。そして今度は我が、そなたの世界を蹂躙してやる番だ」

魔王は楽しげに、そう宣言すると「勇者よ。魔王の力を手に入れたからといって、それが最強になったとは思わぬことだ。なぜなら、この世界は、もともと魔王と神が創り上げた物なのだから」と言って俺に剣を向けた。俺は魔王が俺に向けている言葉に驚いていた。なぜなら魔王の言葉が事実なら俺達の世界は、かつて神が創った物であることになる。俺は自分のステータスを確認した時に表示された文字を思い返す。

名前:神崎 白夜(真)

年齢:25歳

レベル999 体力999万 攻撃力1億 防御力2600万 素早さ3900万 魔力6500万 耐性:闇以外

状態:正常 スキル 言語自動翻訳LV10 アイテムボックスLV5 成長補正EX(限界突破済み 経験値倍増付与 超高速成長促進 全能力+100% 全能力値限界解放)

全属性魔法MAX 剣術8段 弓術4段位 格闘7段 聖闘技 槍技 刀技 斧術 盾技9段 大槌術 棍棒術 杖術8段 鎌 細剣 鞭 拳 手甲 鎖分銅 投擲 二丁拳銃 無詠唱 身体操作MAX 気配感知8段 危険察知7段 魔力制御8段 魔法威力上昇7段階 多重思考 完全解析 鑑定阻害LV30 隠蔽強化中 未来予知 時空転移 重力反転(自分限定 半径200メートル内に限る。時間固定効果付き。範囲外に出ると効果が切れます。対象の人外種のみ可能です)

時空間移動LV1 異世界間通信(メール便で届くのを待つ。一日一通だけ送信が可能です。内容は異世界にいる時に考えた妄想を手紙形式で送れます。送り先の異世界が受信すれば一週間以内に、その異世界で実現します。ただし、相手が拒否した場合は不可能です。その時の代償としてその世界で一生を過ごすことになります。その場合元の世界に戻れるかどうかは不明です。一方通行で元に戻る場合は別の世界を指定してから時を止めて、そこで時を動かせば元の時間に戻ります。)

称号 魔眼の管理者 創造神の加護 魔王の友 異世界を救済する者 魔の申し子 魔物の救世主 魔王殺し 真祖殺し 魔王軍壊滅の功者 悪魔討伐数49匹(悪魔の上位種は討伐数が加算されています。

魔神 邪龍王 は討伐したと見なされません。その為魔王軍の最高幹部としか数えられていません)

職業 英雄 魔導剣士 魔銃使い 異界からの勇者

(神化しました。神になる条件をクリアした事により人間から半神にクラスチェンジしました。よって、人間だった頃の姿に戻れない為人間からは魔人族として認識される可能性があります。そのため、人間族が魔人を敵視する感情は、そのまま引き継がれる可能性があることをご注意下さい。人間だった時の行動が記録されるため人間からの扱いも変化してしまう場合があり、場合によっては差別の対象になる可能性もありえます。しかし心配する必要はありませんよ?私が貴方を守り抜いてあげましょう)

そして俺は「何だよこれ。俺の知ってる世界じゃない。こんな世界じゃ俺は、どうやって生きれば良いんだよ」と言うと魔王は「クッハ。ハッハッハー! そうだろそうだろうな。そんな事は当たり前なのさ。この世界こそが本来の正しい世界であり、我等が作り出してしまった間違った世界を、この世界は望んでいるわけではないのだ。それを理解出来ぬ者に神の称号など与えないのだよ」と告げてきた。

俺は「それじゃ俺の持ってた力は何処に行った?」と聞くと「その力が、この世界の理を変えてしまう程の力を持つため封印されていたのだ。我を、その力で倒すことで、その力に、より適した環境に変化させる必要があるからな。それに我を倒したことにより、その力を扱える存在を呼び寄せる事に成功したのだろう。恐らく勇者を召喚した者共も貴様を召喚する事を知っていたから召喚をしたのであろう」と言ったのだ。俺はそんな話を聞きながらも、俺を騙していた奴等を憎んでいた。そして「俺に騙されて、俺に都合良く動かされていただけの奴等を殺して、俺が、どれだけ傷つけられたのか分かっていて、そんな事を言っているのか!」と言うと魔王は「そうかもしれんな。ただ我は、そなたが本当に望んでいた世界が、どういうものかを知ってもらいたかったのさ。だが勘違いするでない。別に、そなたを利用したのではないのさ。むしろ利用されたのは我らの方なのさ」と答えた。俺は、そんな言葉を信じられなかったが俺は「それなら俺の質問に答えてくれ」と魔王に言うと魔王は俺の質問に答えたのであった。

魔王は、かつて俺がいた世界の事を説明してくれた。魔王は「ここは、そなたが住んでいた場所から遠く遠く離れた別世界。その世界で、ある者は国を築き繁栄している者もいれば、争いに明け暮れ血を欲しがっている者達もいたのさ。そいつらは、ある時争いを止めたのさ。その理由は簡単な事さ。自分達の住処である土地を守るのに手一杯になり他の場所に構っていられなくなったという理由が正解なのだけどね。まあ争いが起これば他の国も侵略を考えるようになるし仕方がないよね」と語ったのだ。魔王の説明を聞いた俺は「確かに争いが起きなければ戦争は起こらない。つまりは、そういう事か」と魔王の言葉に同意すると「勇者よ。我が倒されて我の意識は消えたのは間違いはないのだが、なぜか意識だけが残っていてね。それで気が付いたら、そなたが目の前に立っていたのでな」と語ると「なるほどな。そういえばクロネに聞いたんだかお前達は魔王軍に何かされて操られているんだな」と言ってみると魔王の顔が一瞬で青ざめる。どうやら図星のようだが魔王が慌てる様子を見せるなんて思っていなかった俺は驚くとクロネは笑みを浮かべて魔王を指差すと魔王は「こやつには逆らえんでのぉ。この魔王城に転移させられた瞬間から、わしの意思は奪われていたからじゃ」と言い出したのである。

俺は「なるほど。やはり魔王は、あの時死んだんじゃなくて操られていたわけなんだな。それなのにお前は自分が死にかけていても何もしなかった」

俺が魔王を睨みつけると「クフ。まさか勇者よ。本気で我と戦うつもりでいるのかい?」と聞いてきたので「当然だ」と答えると「そなたは知らぬのかもしれんが。この魔王城の魔王の間はな。神が作ったシステムの中でも最上位に位置する空間なのさ。この城の中にいる間は一切の死を迎える事も出来ない」と魔王が言った。

俺が困惑して魔王を見ると魔王は笑みを浮かべながら語り出す。

まず最初に言っておくと、俺は今まで、ちゃんとした『ステータス画面』というものを見ていなかった。

ステータスと言えば聞こえは良いかもしれないが実際の所それはステータス偽装をしているようなものでしかないからだ。

例えばステータス画面に表示されるHPや攻撃力等の数値を実際に確認出来たのは最初の方だけで後は見ることさえなくスルーしてきた。

だから俺は今こうして魔王に言われるまで全く気が付かなかった。ステータスに表記されているHPや攻撃力等の数字は全てが嘘だったのだということに。そもそも俺自身、体力という概念があるのかすら分からなくなっていたのに。

(体力? 体力とは一体何の事だろうか? もしやステータス画面の表示を間違って覚えてしまっているのか? だとしたら何故俺はステータス画面に表示されている体力の数値を鵜呑みにして信じてしまったのだろうか?)

そして今、ようやく分かったことがある。

「俺達の世界の神は魔王だったのか。俺達人間の世界を作った神が魔王だという事は人間と神は敵対関係にあるってことなのか」

「うーむ。我としては、その認識でも、さほど間違えてはいない。人間は神に対して、あまり友好的とは言えないだろうからな。神も基本的には人間の事を好んでいないはずだぞ。だからこそ魔王が人間の世界を管理しているという形を取っているはずなんだけどなぁ。まぁ、どちらにしても魔王と人間が戦う理由は神と人間の関係性だけなんだよ。しかし勇者であるお前だけは別だったんだよ」

俺は、そう言い終えた魔王の隙を見て背後から襲い掛かった。

魔王は咄嵯に反応し振り返るが間に合わず攻撃を受ける。俺は手加減などせず殺す勢いで攻撃を繰り出すが魔王は紙一重で全て避ける。

俺は一旦距離を取るために後ろへ飛ぶ。

そして再び剣を振り下ろす。だが魔王はそれを余裕を持ってかわす。俺は諦めずに何度も剣を振る。しかし一向に当たらない。俺は剣の攻撃をやめ拳に切り替えた。拳に魔力を込めて全力で殴ると、その拳は魔力を纏い光輝いていた。そして魔王は避けようとするが俺の拳が先に当たりそのまま殴り飛ばすと地面に激突する。

そして俺は剣の剣身を消し刀身を作り出す。そのまま地面スレスレで横薙ぎにすると同時に俺は飛び上がった。魔王は空中にいる俺のことを見て驚愕の表情を見せていたが、次の俺の行動によりさらに驚き目を見開いた。

俺は天羽々斬の能力を発動させる。

『時空間移動』で俺と魔王のいる位置を移動させたのだ。それにより俺の位置を掴めなくなった魔王に刃が襲いかかったのである。

魔王はその攻撃を受け吹き飛ばされる。魔王は起き上がり構えるが顔からは血を流していた。

(やはり神にダメージを与えるには、まだまだ威力不足ということなんだろうな)

俺が考えを纏めていると俺の背後に現れた人影が見えた。俺は警戒しながら振り向くと、そこには、まるで人形のような綺麗で整った容姿の少女がいた。俺は「お前は、誰だ」と尋ねると少女は答えるように俺を指差しながら「貴方が殺した女よ」と言う。

その言葉で俺は全てを理解した。

俺は魔王を殺す前に自分の記憶を操作し、俺が殺した女の人格を魔王に植え付けたのだった。そして目の前にいる魔王は俺が最初に出会った魔王ではなく、俺が、かつて倒した筈の女の人格を植え付けられている存在なのだろう。

俺は目の前の存在に問い質そうと声をかけようとしたところで、この存在に俺の正体を教える必要は無いのだと思い出し躊躇したのだ。すると俺の思考を読み取ったかのように魔王に姿を変えていた元俺の恋人である女性が口を開いた。

「私はね。本当は貴男を愛していたの」

俺は「えっ」という感じで戸惑っていた。そんな俺の様子を見ながら、なおも彼女は言葉を続ける。

「私達はね。愛し合っていたの。だけど貴男は魔王を倒すため勇者となり魔王と対峙することになる。そんなの許せなかったわ。勇者といえども所詮は人間でしかない貴男が魔王と戦うなんてね。私が貴男の事を守れなかったばかりに貴男には辛い旅路を与えてしまった」

俺が無言のまま彼女の話を聞いていたら彼女が更に話し出す。

「それにね。私達の世界と貴男がいた世界が繋がらないように、わざと魔王は別の世界の人間を使って、この世界に連れて来るように仕向けた。だからね。私はこの世界で幸せに暮らしている。それが許されるの」と、どこか遠くを見るような目をした彼女に向かって俺は思わず呟いた。

「そんなのって、ないんじゃないか」と。

俺がそんなことを口にすると、目の前の存在は、より一層悲しげな顔をしてから俺のことを真っ直ぐに見ると「ごめんなさいね。それじゃあ、さようなら」と言うなり、その姿が消えていく。

そして俺は魔王を倒した。しかし俺は心にぽっかりと穴が空いた気持ちになりながらも気合いを入れ直していた。

(俺は世界を守るために戦ったんだ!)そう自分に言い聞かせながら俺は戦い続けていたのであった。

魔王との戦いに勝利したが、その魔王を討伐した後も勇者の戦いは続くのだった。

それは魔族の国との話し合いであり戦争の回避である。そのためには、これから先も戦争を仕掛けないようにする為に勇者が死んで魔王がいなくなり安心できる状態になったという既成事実を作る必要があった。俺は「リーシア!」と呼びかけながら剣を放り投げる。すると彼女は慌てて俺の方に飛んできて剣を拾い上げると俺は彼女に指示を出す。

「今から、ここから離れる。そして出来るだけ早く街に戻るぞ」と言ってから「お前には俺のサポートを頼む。戦闘とかサポートの方は任せた。頼んだぞ」と言い残すと、すぐさま俺は転移の魔法陣を作りその場から離れたのである。

◆視点変更 ◆アイラ ◆ユミルの街 私達は街の中央広場に集まっており、そこでは兵士達と傭兵団が睨みあっている状態だった。どうやら今まさに戦争が起ころうとしているようだ。私は兵士と傭兵団の両方が視界に入る位置に陣取りいつでも動けるように心の準備をする。だが状況は膠着状態が続きお互いに牽制し合っている状態であった。

しばらく見ているうちに状況が変わった。どうやら動きがあったようだ。傭兵団の連中が次々と転移して逃げて行く。その様子を見て兵士達の顔色が一気に変わったのである。恐らく彼らは勇者様が戻って来たことに気が付いて逃げたと勘違いをしているに違いない。そして勇者が現れたことにより彼らの士気も上がり勢いづいて攻め込んできた。それに対して私達は守りの態勢に入り応戦を始めた。

◆視点戻り

「それで勇者よ。我を倒して、この魔王城を占拠するというのか?」と魔王が俺に対して語りかけてきた。

「ああ、そういうことだ。魔王軍の幹部も既に倒した。もうお前の配下はほとんど残っていない」

俺が答えると「ふははははは。面白いではないか。勇者が魔王城に立て籠るのであれば勇者は死ぬしか無い。それは魔王城に入った勇者は例外無く死んでいるので証明されている」と自信満々な様子で魔王が言い放ったのである。俺は「どういう意味だ?」と尋ねると、魔王は笑みを浮かべながら話し始めた。

魔王曰く、まず初めに魔王は『魔族領全域への結界』を張っているのだという。これは簡単に説明するなら魔物の侵入を阻む効果があるのと同時に魔王に危害を加える者にも適応されるらしい。そして次に『神が作ったシステム』で、そもそも普通の人間が魔王に攻撃を加えようとする事自体あり得ないのだと。

そして、さらに魔王の話を聞いた後に俺は魔王城の探索を行ったのだが、その最中にある部屋の前で、たまたま遭遇した配下の魔王軍幹部に質問をしてみたのである。

俺は幹部の魔王軍の一人に魔王の部屋まで案内して欲しいと言ったところ最初は断られていた。だが魔王の命令という言葉を聞いて渋々と部屋の前まで俺を案内してくれたのだ。

俺は扉を開けて室内に足を踏み入れた時に俺は驚きの余り目を見開いていた。

何故ならば魔王は、そこで何か作業をしているように見えたからだ。その証拠に俺は作業をしている最中と思われる魔王に向けて声を掛けたのである。

「よう、魔王よ。お前、何やってんだよ」

すると魔王は何とも言えない表情を見せながら「お主は何を言っておるのだ。今は我は忙しいのだ」と答えると俺は構わず話しかける。

「なぁ、一つ聞きたいんだけどよ。お前は一体何をやっていたんだ」

俺が質問をぶつけると魔王は作業を続けつつ、まるで俺などいないかの様に振る舞う。そんな魔王の行動に苛立ちを感じつつも再度俺は「おい。答えろ」と強い口調で言うと魔王は作業の手を止めこちらに振り返ったのである。俺は振り返った魔王を問い詰めるが俺の言葉は無視して再び背中を向けると黙って作業を続けていた。

そして魔王は俺の声をスルーし続けると最後に振り返って「邪魔をするのであらば、そいつらと一緒に殺すが良い」と吐き捨てるように言うと俺に背を向けたまま手を前に突き出す。俺は咄嵯に身構えた瞬間に魔王の周りに魔力が集まり始めた。

(不味い! 俺は魔力波感知を常時発動しているが、まさか魔力波で魔力を集めて攻撃を行うつもりなのか? だが、それ程までの膨大な魔力を扱えるはずがない。もし仮に出来たとしても威力が低いのは目に見えている。ここは相手の行動を見て判断するべきだ)と頭では分かっていても身体が勝手に反応してしまう。俺は剣を抜き放ち、すぐに防御に移れる体勢を取った。

そして魔王は手を前方に向けたまま呪文を唱える。俺は「爆ぜる炎!」と叫びながら魔術を行使していた。すると俺の目の前で魔王を中心とした爆発が起こるが俺は瞬時に結界を発動し被害を最小限に留めることに成功したのである。だが爆風により後方に飛ばされた上に地面が砕けたことで地面の破片が飛んでくる。

そんな俺の前に突然人影が現れ俺を優しく受け止めてくれた。

「大丈夫か?怪我はないかい?」と尋ねられた。俺は礼を言おうと相手の姿を見たときに「えっ、貴方は」と言って驚く。そこに立っていた人物は見覚えのある人だったからである。そして俺のその言葉に相手は「君は僕のことを覚えていてくれるなんて嬉しいよ」と答えるのであった。

◆視点 ◆リーシア ◆私達がアイラさんの所に戻ると、そこには何故か勇者様が居ました。その姿を見て私だけではなく他の仲間達も戸惑っていたのです。その疑問を口にすると彼は笑いながら答えます。

「俺はな、この世界を救う為に召喚された。だけどな。本当はこの世界の為じゃないんだ。俺は俺のために戦うんだ」と言い残し走り出したのでした。私は彼を追います。ですがその途中「待ってくれ。僕を置いて行かないでくれ」と後ろで声がしたので、私は「勇者殿。どうかされましたかな」と声をかけたら勇者は困り顔で私の方を向きました。私は彼に「貴男も私について来てください」と言うと私は彼の腕を掴むと「転移!」と叫ぶと勇者と二人きりで王都に戻ったのでした。

◆ユミルの街中 俺は勇者を連れてリーシアと合流する。すると、リーシアは勇者の顔を見るなり驚いたような顔をして「えっ、どうして、あなたが生きているの?」と呟いた。俺は「リーシア落ち着け」と一言、告げてから事情を説明しようと試みるも「勇者、貴男は、いったい何の目的でここに戻ってきたのですか」とリーシアは敵意を込めた瞳で俺ではなく勇者を見ていたのである。すると、そんな彼女に向かって勇者が語り掛けた。

「なあ、リーシアさんよ。君が魔王の眷属だってことは分かっている」そう言われたリーシアは一瞬、戸惑いを見せた。俺は「なあ、魔王を倒した後で俺と約束しただろう」と言葉をかけると彼女は「えっ、あれ、本当に私との約束を守るつもりだったの」と言われてしまい思わず苦笑してしまった。

俺が苦笑を浮かべながら頭を掻き「当たり前だ」と言うと、彼女は少しだけ頬を赤くしながら「な、なるほど、そうだったのね。でも、私は、あの時の勇者様は魔王を倒す気なんか無くて。私とずっと一緒に暮らしてくれないかなって思っていて」と言い出していた。そして「そういえば、さっきの話の続きなんだが、リーシア。お前が魔王の眷属だという事は分かっているが、魔王軍の中で一番の力を持つ奴はお前だったのか?」という俺の問いかけに対して彼女は無邪気な子供のように嬉しそうな顔をしてから口を開く。

「ふふふ、勇者は魔王軍の幹部が倒されて魔王軍が崩壊しかけているという話を聞いて急いで戻って来たんでしょう。確かに私には強力な配下が沢山います。その中でも私が一番、強かったんですよ。ふふふ、私は強いので当然なんですけど。私は最強だから魔王になったのよ。私は強すぎるのよ」と答えた。

俺は「へぇー、それは頼もしいな。それで、どうするつもりなんだ。これから、どうするつもりだ」と質問する。するとリーシアは満面の笑みで、こちらに振り向く。

俺は彼女が笑顔でいるのに寒気がしてしまい。慌てて彼女の方に目をやると。その視線の先には明らかに危険な感じの雰囲気を纏った女性が居たのである。その女性は美しい女性だが全身から危険信号が出るほどの圧倒的な存在感を発しており。その気配を感じただけで周囲の人々が倒れていくほどだったのだ。そして俺は無意識のうちに自分の心臓に左手を置いていた。この女性を見ているだけでも本能が警鐘を鳴らし続けるのだ。そして俺は冷や汗が止まらない。俺が何も出来ずに居ると彼女は、こちらに歩み寄ってきたので、それに対して勇者が間に入り立ち塞がる。そして「そこを退け」とだけ言い放ったのである。それに対して勇者は一歩たりとも引かなかった。すると女は俺に話しかけてきた。

「勇者は私を裏切るつもりみたいね。それに、あんたも、その勇者に協力して、ここで死んで貰うわよ」と言いながら、いつの間にか、手にしていた大鎌で勇者の胸を貫くと勇者は口から血を吐き出す。そして勇者が膝をつくと女がニヤリと微笑む。

「これで終わりよ。魔王軍は滅び去ったのよ」と高らかに笑っていた。俺は、その様子を見て、ただ眺めていることしか出来なかったのだ。だが俺は女の隙を伺っていた。そして俺達はリーシアの空間に閉じ込められてしまうのである。だが俺と勇者はその結界から抜け出すことが出来た。俺達は結界から抜け出して最初に思ったことが、この女は絶対に敵にしては駄目だと俺と勇者の勘が告げていたのだ。だが俺が逃げようとすると、勇者の剣の鞘を俺の首元に当ててきて逃げることが出来ない状況になってしまった。俺は観念して話をすることにして勇者に目配せをして場所を変えることにする。

俺と魔王軍が戦闘を行っていると、そこへ突如乱入してきた人物が居た。その人物とは以前、魔王軍に囚われて人質に取られてしまったはずの少女であり。彼女は勇者と共に魔王軍と戦ってくれることになったのだ。

そして、俺と天戸が協力をして魔王軍を蹴散らし魔王城へと向かう。俺が天戸と会話をしながら走っている時に、後方から何かの音が聞こえてくる。俺達が後方を振り返ると俺達の背後の地面に大きなクレーターが出来ていたのである。俺が『今のってまさか』と思いながらも天戸の背中に手を触れながら転移するのであった。

◆王都郊外 俺と勇者は転移をする直前に勇者が何かをしていたように見えた。

だが今は気にしている場合ではない。俺は今の状況を把握しながら辺りに気を配る。魔王軍の幹部らしき人物は勇者に倒されたのか、周囲に人影は無かった。俺達が周囲を警戒していると「勇者、よくも私の部下を殺してくれたな」と先程の女が現れ勇者の喉を斬り裂こうと刃を振り下ろすが、勇者はそれを紙一重で避けたので俺の方にも攻撃が来たのだが、俺はそれを避けようとして足を止める。何故ならば俺が避けると勇者に当たる可能性があるからだ。だが俺が動けずにいたら勇者は腰に差してあるもう一本の剣を抜刀して相手の斬撃を防ぎそのまま受け流して相手を怯ませることに成功する。

だが、その直後勇者の脇腹が薄く切られてしまう。だが、それを見た俺は「お前! 傷を治さないのか? どうして?」と叫ぶと勇者が俺の問いに答えてくれた。

「ああ、これかい? 僕にはこの傷を治療する方法がないんだ」と、勇者は言う。俺は勇者に「なんだよ。その能力」と言うと、勇者が答えた。

「僕はね。勇者召喚されたときに神様に願ったんだ。もし、異世界に召喚された時は、チートな力を下さいって」と言うので「そんな事を神様にお願いするんじゃねぇよ」と言うと、勇者は俺の言葉を無視して話を続けた。

勇者の話を聞き終えると「で、結局のところ、どういう意味だ?」と聞くと勇者が「これは神の力の加護なんだけれど、召喚される時に女神が僕だけに授けてくれる特殊なスキルがあるみたいなんだけど。それがね『絶対治癒』っていう力らしくてね。その能力は瀕死の重傷ですら1秒以内に完治してしまうとんでもない代物らしいよ」と言ってきたがそんな説明をされても良く分からないと思う。要は勇者の自己犠牲的な精神で仲間の傷は全て引き受けるといったものなのかなと思って、俺としては凄いスキルなんじゃないかと思っていた。そして勇者は、また、魔王の所に向かおうとしていて俺は「ちょっと待ってくれよ」と言うと「どうしたの」と勇者は聞いてきやがったのだ。

俺は「いやいやいや、いくら俺でもそこまでされると気持ち悪いから、普通に回復しろ」と言うと「じゃあ、君の力で僕を助けて」と言われてしまって「あー、はいはい、分かりました。やります、やってやるから」と俺は返事をしたのだった。

俺は「お前の傷は俺が引き受けた」と言うと俺は勇者と魔王の戦闘が始まる。俺は勇者の攻撃をかわし、俺自身も攻撃をしては、かわされた。

俺は勇者が怪我を負ったり死にかける度に、俺は必死になって勇者の回復魔法を使い続けていたのである。

◆ ◆ ◆俺は何度も勇者に蘇生を施しながら、勇者を癒していく。そうして勇者を回復させて魔王の元へ急ぐ。すると突然俺達の背後に魔族が現れた。その数は数百を超えており魔王軍と思われる者達の集団が突如現れ。その中の一体が口を開く。「勇者よ、お前の命運もここまでだ。貴様は我々の手中にあることをお忘れかな」と言い放ってきたのである。俺は、そいつに向かって「何だ貴様等は」と言うと「貴様等の命を救いたいなら我等と一緒に来るが良いさ。勇者が居なければ我らに勝ち目はないだろう」と言うので「それはつまり、魔王軍はもう諦めるという事か」と言うと、魔王の使いと名乗る男が答える。

俺が男に対して問うと「そう言っている。貴様らが邪魔さえしなければ我々には勇者など不要なのだよ」と答えると俺の横にいた魔王の使徒と名乗った奴等も同じように俺に言葉をぶつけてきたのだ。

そして魔王の使いが魔王城に勇者と俺を引き連れたまま移動を始めたので、仕方なく俺もついていく事にするのだった。

魔王が勇者を殺せないのは勇者の持つ神の祝福による絶対的な加護の能力のお陰であると分かった俺と勇者は勇者の体力の限界が近付いてきても俺の持っている無限魔力が尽きるまでは勇者の治療を続けなければならないのだ。

俺が勇者に『もう少し頑張れるか?』と尋ねると「はぁはぁはぁ、うん。何とか」と答えた勇者が次の瞬間に俺をかばうために魔王の攻撃を受けて腹部を大きく貫かれてしまった。

そして魔王がこちらに攻撃を仕掛けようとした時。俺の後方の上空に大きな魔法陣が展開されそこから無数の槍が降り注いでくると魔王が咄嵯にその場を離れ回避行動を行う。俺は勇者が刺されてしまい倒れているので、その勇者を抱えるようにして走り出すと勇者が「僕を置いて行って良いから、君は先に行けば良いよ。僕はまだやれ、うっ!」と言いかけた時に勇者に痛みが走ったようだが勇者はすぐに起き上がり「大丈夫だから。僕のことはいいから先に行って。君の目的を果たすために行くべき道を切り開いてくれ。だから早く」と言った後に勇者が再び立ち上がって俺の前に立ち塞がるのである。俺は『無茶を言うな!』と叫びたくなったのだが勇者は俺を庇うようにして立つと魔王の方を見て言い放つ。

「これ以上好き勝手にはさせないよ」と言い放つと同時に魔王の放った魔法により地面がえぐれるが勇者はそれを全て避けながら魔王に近づいていく。だが魔王の放った魔法が勇者に当たり爆発するが、その爆炎の中で無傷でいる勇者の姿があったのだ。すると、魔王はその姿を見て驚いた様子で言ったのである。

「ほう、あの状況下で生きて居られる人間がまだ居るとはな。流石に私の部下が負けただけあるわね。あなたは」と言うと勇者はそれに対して「君の部下の人達は確かに強いけれど、僕はもっと強くなっているよ」と返した。だがそんな勇者をあざ笑うように笑い声をあげながら「そんな状態でまだ勝つつもりですか?」と問いかけると勇者が不敵な笑みを浮かべながら「当たり前だろ」と返し。魔王と勇者の戦いが始まった。そして勇者に意識を向けた一瞬の隙を狙って魔王の目の前に移動した勇者は剣で切り裂こうとするが、勇者の攻撃は簡単に魔王に避けられてしまう。だが、その直後に俺が勇者の後方から飛びかかるが魔王は俺の一撃を受け止めるが、勇者がそのタイミングを狙い渾身の蹴りを顔面にぶつける。だが、それを魔王は左手のみで防いだのだ。

「ふむ。この世界の者では今のは効いたはずだけど。この程度の攻撃しか出せないなんて、この程度ならば魔王軍には必要ないわね」と俺と勇者を同時に見て嘲笑った。そして、その直後。魔王に勇者の強烈なパンチを食らわせたのだが。勇者が吹き飛ばされる。そして魔王は勇者に追撃を行おうとしたが、その直前で俺が勇者の体を掴んで引き寄せてそのまま勇者を連れて後方へと下がる。

俺は魔王の方を見つめながら言う「お前、少しは加減って言葉を知らんのか? 今のは死んでいてもおかしくないぞ」と言うと魔王は不敵に笑いながら「何を言っておる? 今の状況で手を抜いて勝てる相手じゃないからな。お前だって分かってるだろ?勇者」と返すと、勇者は立ち上がり再び構えを取ると「ああ、その通りだ。それに全力でぶつかった結果がこれだ」と言うと俺は続けて言った。

『まぁそうだよな』と心の中では思う。今の状態で全力を出さずに負けていたらそれこそ最悪だ。だからこそ勇者が本気で挑まないわけが無いし。俺も手を抜きたくない気持ちが少なからず有る。俺達はお互いに譲れない物があり。この戦いの結末はどちらかが倒れる以外に選択肢は無い。だがそれでも勇者は引くことなく魔王に戦いを挑んだのであった。

魔王との戦いは熾烈を極めていた。だが、俺と勇者は少しずつではあるが確実に相手の力を削っている実感はあるのだが。やはり相手が強すぎるのか中々決定打を与える事が出来ずにいたのである。そして俺と勇者はお互いに目線を合わせると俺から勇者に向かって話しかけた。

俺が勇者に『どうする?』と問うと勇者は真剣な表情で俺を見ながら「どうするって言われてもね。僕には正直なところ君の力が分からなくて。どんなに頑張ったって君が倒せるイメージが湧かないんだよ」と勇者の言葉を聞き俺は言う。

「お前、そんな弱気な事を口に出してんじゃねぇよ」と言ってやると勇者が言う。「いや、ごめんね。だけど本当にそうなんだよ。こんな感覚初めてなんだ。僕より圧倒的格上の存在を相手にしているような、それでいて、そんな存在相手に君が必死に戦ってくれている。その事実に僕は心のどこかで安堵を覚えてしまってる」と言い出したのだ。勇者は自分が魔王に殺される未来を想像してしまったらしい。俺は勇者に対して『そんなの俺も同じだよ』と言うと、その会話が終わると同時に俺の拳が魔王を捉えて殴り飛ばすと魔王の口元から鮮血が垂れて地面にポタポタと落ちていき「はっ、ははははははは、やっぱり面白いよあんたら。私はずっと待っていたのよ。私の力に対抗できるほどの力を持った奴に、出会う事を」と言うと俺が言う。

『そうかい、そりゃどうも、でも悪いが俺はお前みたいな女とは会いたくなかったぜ』

魔王との激闘の最中俺は勇者をかばいながら戦い続けると俺達の連携が上手く機能し始めたのである。それはまるでお互いが互いの動きを把握しきっている様な完璧な連動だったのである。

「お二人さん凄まじいな。息ピッタリじゃ無いかね」と言い放った魔王に対して俺は答えた。

『ああ、俺たちは最高のコンビだと自負してるがね』と自信を持って答えてやったのだ。すると魔王は俺を指差すとニヤリとした笑みを浮かべて口を開く。

「そのようだな」と答えた直後だった、俺の視界の外から突然槍の様な物が飛んできたのだ。俺は瞬時にその攻撃を察知すると回避行動に移ったのだが。その俺が先ほどまで立っていた場所に巨大な雷の柱が発生し。その衝撃が俺を襲うと俺はその勢いで後方に弾かれてしまい。俺の後ろ側に回り込んだ勇者も吹き飛び転がっていた。俺と勇者は立ち上がると、俺は魔王をにらみつけ、勇者も俺の隣に立ち、再び戦闘態勢を整えると魔王が言う。

「なるほど。貴方達がここまで強いのなら。確かに私が戦う理由は無くなったかもしれませんね」と口にした魔王に対して勇者は言葉をぶつける。

「ふざけるな。君は僕達を殺そうとしていたのだろう」と言う勇者に魔王が微笑しながら言葉を発する。「あら? どうしてそんな風に考えるのでしょうか? 私の目的はただ1つ。魔族の国に住む同胞を人間の脅威から守る事。その為に必要な戦力として勇者を欲していたというだけなのに、貴方達人間は何か勘違いをしているようですね」と魔王は俺の方を見て言ったのである。

魔王が言った事に勇者は即座に反論する。

「その理屈はおかしいだろ! 何故魔王軍の目的の為に人間の命が必要なんだよ!」

勇者が怒りに任せるように叫ぶと魔王が静かに言った。

「ふふふ。何となくですが、その言い方だと貴方は人間と敵対しないという選択肢を選んでくれますか?」

魔王がそう告げると勇者が魔王をにらみつけたまま口を開いたのであった。

勇者が魔王に言うと魔王は楽しげに笑って「うふふふ。貴方にそれが可能だと思いますか?」と言った後に魔王は更に続ける。

「この世界を統べる者になる為には全ての人間を排除し、魔族だけの世界にする事も必要だと考えるはずですよ」と言った直後に魔王は勇者の方を見るのをやめると俺の方を睨みつける。俺はそれに対して勇者が攻撃されると思ったのですぐに勇者の傍に行き勇者に当たらない様に勇者の目の前に立つと、勇者の目の前で魔王の魔法陣が展開されるが俺はその魔法に自分の体を投げ込み転移をしようとした瞬間、魔王の目の前に移動をしていた。そして俺の攻撃を魔王に仕掛けようとした時に魔王の背後に先ほど勇者が使用したのと同じような魔法陣が出現するとそこから黒い影が現れて、それが次第に大きくなってゆく。

俺は咄嵯に魔王の体をつかむとその場から離れようとするのだが。それよりも早く、その影は人型に形成するとこちらを向いたのだ。その姿を見た俺は絶句するしかなかった。そこには全身が闇のような漆黒に染まり額からは二本の角が生え、肌の色もどす黒く染まり顔の左半分が腐ってしまっている男が立っている。俺は一瞬だが男から目を離せなくなってしまったのだ。すると、勇者が男の姿を見て驚愕の表情を浮かべると、魔王が口を開いた。

「ふふ、こいつはダークネスブラックドラゴンロードの【アベル】。私直属の四天王の一人だ。お前たちが倒した四天王は私の部下の中では最弱よ」と言うと俺は言う。

『この化物を配下に置くとはな。だがまぁこれでお前らの目的は理解出来た』と言うと魔王は俺に向かって笑いかけた後で言う。

「ふふ、そうだ。その通り。魔王軍はこれより人類を滅ぼし新たなる世界の支配者となる」と口を開いた。その魔王の言葉を聞いた勇者が激昂し魔王に攻撃を仕掛けようとしたが、俺が止める「止めとけ、あいつにはどんな攻撃も意味がない。それに今、魔王を倒す事なんて考えてる場合じゃ無いだろ? まずはお前の命を優先してくれ」と言うと勇者は黙ってうなずく。すると勇者は魔王に向かって剣を構えた。そして俺達はアベルと名乗るダークネスブラックドラゴノイドと対峙していた。

「お前、魔王とか言ったな、僕にはお前が何でこんな酷いことを平気で出来るんだ。それに魔王軍が魔族の為の世界を目指すと言うならなぜ他の種族を奴隷のように扱い、虐げる?そんな事は許されないはずだ。僕が必ずお前の野望を打ち砕いて見せる」と魔王に勇者が声をかけると、それを受けて魔王は笑みを崩さずに口を開く。

「えぇ良いでしょう、勇者、この世界で貴方が最強なのもわかりました。では始めましょうか勇者対魔王の戦いを。しかし、これは遊びではありませんよ。お互いの信念と命をかけて全力でぶつかりなさい」と言い放つと、魔王は腕を振り下ろしたのだった。

魔王が手を下に降ろすと、勇者に向かって地面が隆起して行くと勇者を飲み込むように大きな土の壁が出来上がり勇者の姿を隠してしまった。俺はそれを眺めている事しか出来なかった。勇者を助けに行くにもどうしたら良いのかが分からなかったのだ。勇者は大丈夫なのかと不安になった時、突如、勇者が姿を現して俺の横を走り抜けると、そのままジャンプすると勇者が上空から魔王に向かい聖剣を振り下ろすと。魔王は勇者の一撃を右手で受け止めるとニヤリとした笑顔を見せ、勇者を見据える。

『まさか俺の仲間の力までコピーしているのかよ。厄介な奴だな』

俺の思考を読み取った魔王が言う。

「ふっ、そう簡単に倒せると思ってもらっては困る。お前が私の力を奪うと言うなら私もお前達の力を全て奪い尽くしてやる」と言うと勇者に蹴りを入れる。勇者はその攻撃を避けることが出来ず直撃を受けてしまうと勇者の体は吹き飛ばされて宙を舞い瓦礫の中に埋もれた。俺はすぐさま勇者の元に駆けつけると勇者に声をかける。

『無事か?』

勇者が俺を見ると俺に言った。

「ごめん、僕はここまでみたいだよ」

その言葉を聞くと魔王は嬉しそうな表情を浮かべて勇者を指差して「ははは、いいザマですね勇者さん。あなた達の力では今の私に勝つことは不可能。だからさっきの言葉は取り消させて貰いますね。私がこの世界の覇者です。これからはこの力で私は全てを支配します。ふふふふふふ、楽しみですね。全てが終わったら私はこの国の名前を変えましょうか、そうね。ここは『魔族帝国』と名乗りましょう。魔の国と人間の国が混ざったような素敵な名前じゃないですか。ふふ、ははははは』と言うと俺を睨みつけてくる魔王に俺は答える。

『あー、悪いんだけど俺と天は魔族帝国の奴らを仲間に引き入れるつもりなんだけど。そこんとこ魔王様はお認めになるんでしょかね?それともお前は邪魔するか?もし、お前がそんなくだらない事を考えているんならお前の相手なんざしている時間はない』と言うと魔王の顔が険しくなると、俺に問いかけてきた。

「はっ、人間風情が。私の邪魔をするつもりか?」

魔王が俺に殺気を込めて言葉を放つと俺は魔王に向けて口を開く。

『邪魔するのは人間じゃ無い、魔族だけだ』と言葉をぶつけると、魔王は俺の方に近寄ってくる。俺は勇者の腰に差してあった『魔剣ゼノライザー』を手にすると俺は魔王と対峙する。そして魔王は俺をにらみつけると俺に言った。

「はは、勇者が負けたのが信じられませんが。それでも、私が負けることは無いので」と言うと俺の背後へと瞬間移動すると俺に攻撃してきたのである。俺も咄嵯に後ろを振り返ろうとするが、それよりも先に魔王の攻撃は終わっており、次の瞬間には俺の腹に魔王の拳が突き刺さると、俺は勢いよく壁に吹き飛ばされた。

壁が吹き飛んだ事により、魔王と俺の位置が変わる。

『ぐぅ、やっぱり速いな、それにあの攻撃でダメージを負ってない』と思うと魔王が再び瞬間移動をし俺の前に現れると、俺の首筋目掛けて裏手を振るう。俺も首への攻撃を避けようと体を動かすが、その瞬間には俺は空中に浮いていたのである。そして俺の首をつかもうと腕を伸ばす魔王の両腕を切り落とすと俺は地面に着地をしたのだ。魔王は即座に再生を行うのだが、魔王の動きを先読みした俺は即座に魔王の腕を斬り飛ばすと魔王の胸に剣を突き立てる。そして魔王は即座に俺に攻撃をしようとしたが俺は即座に距離を取る。そして俺は勇者の方を確認する。

『天羽々斬、魔王と互角に渡り合うのはどれくらい時間がかかる?』と質問するとすぐに答えが返ってきた。

――現在約2秒です。あと30回程同じ攻撃を繰り出せば、勝てる見込みが出ます。

勇者の答えを聞いてから俺は魔王に向かって叫ぶ。

『はは、まだ戦えるってよ。魔王様』と言うと魔王は不敵に笑い「それは、面白いですね」と言うと、俺と勇者は攻撃を開始する。

魔王に切りかかろうとしていた時に不意に目の前から姿を消した魔王は、次に現れた時には勇者の胸から腕が生えており、魔王はもう片方の手で勇者の頭を鷲掴みにして持ち上げると口を開いた。

「勇者、お前の力がいくら凄くとも所詮は人間。魔族に敵うはずがないんだよ」と呟き、勇者に何かしようとする魔王を見て勇者の体に魔力が集まり始める。俺は咄嵯に魔王の攻撃を潰そうと魔王に向かうが、間に合わない。そして勇者は体中を駆け巡る痛みに耐えながらも口を開く。

「お前だけは絶対に許さない!」

その勇者の言葉に魔王の表情が変わったのだ。

「はは、いいでしょう。ではお前に死より辛い苦痛をプレゼントしましょう」と言うと、勇者は血反吐を吐いて膝をつく。俺はそんな勇者に声を掛けようとするのだが。それよりも前に魔王の声が聞こえる。

「ふっ、安心しろ。殺しはしない」と言うと、勇者から手を離して勇者の前から消えると、勇者の背後に現れると魔王の爪が伸びていき、勇者の背中を切り裂いた。

「ぐぁああ」

その光景を見ていた魔王は笑う。

「はは、痛いかい?勇者」と言うと勇者の肩口から生えた腕が動き、魔王の手を掴んだ。

「お前は本当に化物だな。まさかこんな方法でお前を止められるとは思わなかったよ」と言うと魔王の腕に魔法を発動し腕を切断したのだ。その勇者の行動に対して魔王は驚いた表情を浮かべた後にニヤリとした笑顔を見せた。そして、魔王の足に激烈な光が宿る。勇者はその行動を見て魔王から離れようとするが、離れようとした瞬間には既に遅かった。

「終わりですよ、これで」と言うと、勇者に光の矢が放たれたのである。しかし、光の矢が勇者に命中する直前で魔王は勇者を盾にしたのだ。その結果勇者の腹部に穴が開き勇者が血を吐くと俺は勇者の体を蹴り飛ばしたのだった。すると魔王が俺を見る。魔王は俺の行動を疑問に思ったようで、不思議そうな顔をしながら俺を見た。

『どうした、魔王。まさか勇者が死んでいない事が意外だとでも言いたいのか?それとも俺の心配をしているのか?まあどっちでも良いが、残念だったな。勇者は不死身だ。何度殺しても、お前の好きなようにはならないぜ』と俺が口にすると、魔王は「そうですか。どうやら私はあなた達の力の全てを理解出来ていなかったようですね。では私も全力で戦いましょうか」と言ってから、魔王は右手の平を上に向けた後、その手を握る。すると魔王の足元に紫色に輝く魔法陣が現れて光り輝きだす。

『おいおい嘘だろう?マジかよ、ちょっと待てよ』と焦った様子を見せる俺を無視して魔王は言葉を紡ぎ出すと魔法を唱えたのだった。

「来なさい我が力の化身。神槍『ロンギヌス』!!」

すると魔王の後ろに、大きな銀色に輝く槍が出現した。俺はすぐさまにその場を離れると俺は叫んだ。

『天、あいつは俺達がどうにかできるレベルじゃない!逃げるぞ!』と言うと勇者が俺の横に来ると俺と天は逃げ出そうとするが。それを魔王が見逃すわけがなかった。

俺達の背後から飛んできた銀でできた無数の短剣により天と俺は串刺しになる。そして天が「ぐふっ」と言うとそのまま崩れ落ちてしまう。俺も天に近づこうとするが既に俺は瀕死の状態だった。俺自身も、もう助かるまいと諦めかけていた時だ。突然、天が立ち上がり魔王の背後へと現れた。魔王が振り向いたが時はすでに遅く魔王の体も貫かれていたのであった。

『馬鹿な、なぜ動けるんだ?あれは勇者の力ではないはずだが』と思いつつも魔王は倒れる事はなく俺に話しかけてきたのである。

「はは、あなたが魔王を騙っていた者ですか。私はあなたを殺すつもりはありませんでした。しかしあなたは私の可愛い勇者を殺しました。ですので私はあなたを恨みます。あなたの魂は私がこの手で消し飛ばします」と言うと魔王の手に巨大な黒い球が生成される。その事に俺は『クソが、ふざけやがって。俺が死ぬのは構わないが。ここでこいつが消えたら勇者も一緒に死んでしまう』と思った。そう思うと俺は意識を失ったのである。

―――――

目が覚めると、俺は知らない場所にいた。俺は周りを見渡すと隣に誰かが座っていることに気づくと、俺は起き上がるとその人影に声をかける。

『大丈夫か?』

俺の問いかけに、その人は反応することは無かった。ただ俺の言葉に反応したのは『魔導人形』の方であり、彼女は声を出したのである。その言葉を聞いた瞬間に俺の中で嫌な予感がしたのだ。

――警告。マスターに攻撃の意思を確認 すると彼女の体が変形し、腕と脚に鋭い刃が形成されていく。俺はすぐに剣を取り出すが、すでに彼女の姿はそこにはなく。俺の前に立つ『魔族』がそこに居た。俺はすぐに距離をとると、その男は俺の顔を覗くように見てきた。その目はまるで昆虫の目のような無機質なものだった。

俺は男に話し掛けた。

『君は誰なんだ?』

その男の答えに俺の思考は停止した。

「私はお前を殺せと命を受けただけの存在だ」

その言葉を聞いてから俺は悟ってしまった。こいつらの正体を。こいつらは魔王の眷属なのだと俺は判断した。

「死ね」と言うと、彼は俺に向かって攻撃を行う。その速さは目で捉えることすら出来ない速度で動くと、俺を何度も攻撃し始めた。俺は『時間遡行』を使用して、彼の動きに対処しながら攻撃をしていく。

彼が動きを止めるのは攻撃を行うタイミングだけであり、俺はそれを待つ。そして遂に攻撃の瞬間が訪れた。その隙に俺は彼に近づくと俺は攻撃する。だが、その攻撃は当たらなかった。攻撃が当たる瞬間に攻撃を避けたからである。俺は舌打ちをしながらも次の攻撃を仕掛けるがまた避けられる。

それからしばらく攻防が続いた時に俺に攻撃が当たったのである。それは単純なパンチによる一撃だった。俺は吹き飛ばされると俺は壁に激突し、口から血が吐き出された。俺はフラつきながら立ち上がると再び構える。その様子を見ながらも男は笑みを零していた。

「ほう。今のを受けて生きているとは流石は魔王を騙してただけある」と言う。

その言葉に俺は少しイラっとしてしまった。だから俺は「俺は、あの人の敵を討つまでは死ねないんだよ」と言う。しかし男は、それに対しては答えずに話を続ける。

「貴様では私に勝つ事は出来ん」

そんな言葉に俺は鼻で笑うと。俺は男に向けて、剣を振った。すると男が剣を振り下ろすと俺の攻撃を相殺してきたのである。それを見た俺の顔からは、余裕の表情が消えると。冷や汗が流れるのを感じる。そんな様子の俺に、その男はニヤリとした顔を見せて口を開いた。

「ふっ、やはりな」

『やっぱりお前のステータスがおかしいんだよ』と言いたくなるがグッと堪えると。その男の攻撃は、先程よりも速くなっているような気がしたので、気を抜くと俺は死ぬかもしれないと感じてしまう。しかし俺も、やられっぱなしではなく反撃を開始する。そして俺は『魔眼』を使用する。『魔視の魔眼』は俺にとって切り札みたいなものであり、『魔導兵器』との戦いでは使用するまでもなく倒せた相手だったのだが、目の前にいるこの男の能力を見て俺は戦慄したのである。

俺の持つ『魔導の魔眼』『魔術の魔眼』『武の魔眼』などの『スキル』は発動条件が存在するのであるが、この男に関してはそういったものは不要で。魔力の動きで相手の位置と行動を察知できてしまうのだ。それは『魔力感知』と呼ばれる物に近いのだが、その能力は、魔力の質の違いから敵の正確な数と、敵が次にどんな行動をしてくるのかが分かってしまうと言う反則的な物だった。その能力により、俺がどう動いても回避されてしまう上に攻撃を当てても直ぐに再生されるのである。そして、こちらの攻撃が通じない事から、俺が『魔闘の型』を使用して、身体強化を行ってから攻撃を仕掛ける事にした。すると、さっきまで俺と互角だったはずなのに俺の方が優勢になっていたのである。

「クッ」

男は焦った顔を浮かべていた。

俺は男に蹴りを入れるが、腕を掴まれると投げられてしまう。俺は受け身を取ると、即座に体勢を立て直した。そして『魔闘の型』によって更に身体能力を向上させると、男の背後に回ると『瞬動術』を使用し、加速する。しかし、それでも尚、俺が背後を取れることはなかった。

そして俺は『魔剣』に手を触れると。俺は剣を振る。だが『斬撃』が放たれることは無く、俺は『魔剣』に手を置いてから、そのまま地面に剣を突き立てると『雷槍の型』、『土塊槍の型』、『氷柱矢の型』を使用したのである。その三つの技は男に命中するが、どれも効果は薄いようだった。そして俺は剣から手を離すと拳を構えながら、俺は走り出す。そして拳が命中するがダメージはあまり通っていない。俺の攻撃が終わると同時に蹴りが繰り出されるが。俺は体を捻りそれを避ける。すると男は俺から距離を取ろうと後ろへ飛ぶが俺が一歩前に足を出すだけで、男を逃さなかった。男は逃げ切れないと感じたのか攻撃の動作に入ると俺はカウンターで殴り返す。それを防ぐが威力に負けたのか吹き飛んだ。

俺は男に追撃をしようとするが、その時だった。男はニヤリとすると地面を蹴って宙を舞うと壁に向かって飛び始める。その動きを俺は止めることが出来ない。すると男は空中で体を回転させると共に壁に足を着いた。その事に俺は驚くが既に手遅れであった。

男は壁を伝うようにして走ると俺の背後を取り。そのまま俺の背中にドロップキックを放つ。俺の体は浮き上がると、そこから連続攻撃が繰り出され俺はダメージを受ける。

俺にはこの世界に来てから得た新しい力があり、それは『魔装召喚』という技能である。これは俺の魂に眠っている力を呼び出し、それを体に宿して戦う事が出来るというもので。その能力は俺自身が想像した通りの力を発現させる事ができ、この力は『固有武装』と呼ばれているらしい。ちなみに『固有武器』と呼ばれる物が、俺の体内に存在している『神器』と呼ばれるものと同じであり。俺は、その『魔装武装』の使い方が感覚的に分かるようになっていた。その為に俺は男の蹴りが飛んでくると同時に魔装を召喚する事に成功した。

「はぁあああ」と俺は気合を入れると俺の体が赤く輝きだすと俺は一瞬にして消え去り。男の真後ろに転移を行うと『聖拳の鉄槌』と言う名前の拳に赤い光を纏わせて放つ一撃が炸裂すると男は吹き飛ばされる。

俺は着地を決めると、すぐに男に向かって『雷撃』と言う名の『魔法』を繰り出して、それを受けた男は苦痛の表情を見せていた。しかし男は、その攻撃に怯むことなく、俺の方へ向かって走って来たのである。

――この男は、どれだけタフなんだよ!と心の中でツッコミを入れつつも俺も負けじと男に対して攻撃を仕掛ける。しかし、やはり『スキル』を持たない俺は簡単には倒せないらしく。俺は攻撃を何とか防いでいたがジリ貧状態であった。俺は攻撃が直撃しないように防御と攻撃を繰り返しているが、この攻防にも限界が来そうだった。

――どうすればいいんだ?と俺が考えていた瞬間に俺は、とある事を思い出すと『魔剣』を手に取り魔眼の力を発動させた。そうすると俺の周りに大量の魔素が発生したのである。それは俺の周りにある魔素の濃度を上げるもので、俺はそれに便乗するように自分の中の魔素濃度を上げていった。すると男は俺が、ただ『魔眼』を使っているだけだと勘違いしたのか攻撃の速度が落ちたのだ。

その瞬間に俺は剣を鞘に収めた。それと同時に男の方を見ると俺は居合の構えを取っていたのだった。俺が『抜刀の型』を使用して行う、最後の一撃は。自分の魔素と相手の魔力を反発させる効果を付与できる技で。俺はそれを使用する。すると俺の持つ『スキル』に【無拍子】と言う技が追加された事を知らせてきた。俺は直ぐにその技を使用してみる。そして次の瞬間、男の目の前に移動すると。俺は剣を振り抜いた。すると男の胴体を斜めに両断した。すると男は、信じられないと言った顔をして倒れたのである。

それからしばらくして。俺は、その男の亡骸の前に立つ。すると俺の頭の中に何か声が聞こえてきた。俺は「なあ魔王」と話し掛けると魔王の方に振り向く。魔王は「ん?なんだ」と言って俺を見る。

「この男はお前の右腕なのか?」と聞くと魔王は首を傾げると「そうだな、確かに右腕と言えば右腕だ」と答える。俺は「魔王軍の幹部は全員この程度の強さを持っているのなら俺なんかが勝てるわけが無いじゃないかよ」と呟きため息をつく。魔王はその言葉を聞くとニヤニヤとしながら口を開いた。

「いや、お前の実力は異常だよ」と俺に言うと俺は少し嫌そうな顔を浮かべながら「その異常な人間を配下にするあんたは一体何者なんだか分からないぞ」と俺は答えた。

「まあ、魔王と言う存在は特別だから仕方ないだろう」

そんな言葉に俺は、やっぱりこの世界には常識と言う概念が存在しないと思ったのだった。

俺は魔王の城を出て街に出ると門の前で待っている二人と合流する。そこで俺は二人に話しかける。

「もう、この国の王様は倒して、俺が勇者だって事は分かったんだよな」

俺の言葉に黒豹王は自分の額に手を当てると「流石は主様で御座います」と答え。白虎王は笑顔を見せるとこう言ったのである。

「流石ですね、僕達はそんな事はとっくに分かっていましたけどね」

その一言に俺は、こいつの性格だけは絶対に理解できないと思いながらも、俺は苦笑いをするのだった。

そして、これからの事を考えないといけないと俺が思っていると、いきなり背後から「そこの少年達!」と言う大声が響いて、その方向に俺が視線を向けると。そこにいたのは俺と同年代の少女が居た。そして俺が呆気に取られていると彼女は俺の手を掴む。そして口を開いたのだった。

「君たち、もしかして私と一緒に世界を救ってくれないか!?お願いします、一緒にこの世界を救うために戦ってほしいんです!!」

俺は突然の事に唖然としてしまう。俺は助けを求めるように二人に視線を向けたが二人は、申し訳なさそうに俯いていたのである。俺としては正直言って面倒臭い話なので断るつもりだったのだが、ここで彼女を一人にすると何をするか分からなかったし、とりあえず話を聞かせてもらうだけ聞いてから、考えようとも思った。

ただ、俺の直感では彼女と一緒に行動すると危険な事になるんじゃないかと言う思いがあったが。

俺は彼女の提案を受け入れた。すると、少女が満面の笑みになり、手を離してくれる。俺はまだ状況を理解していない為「詳しく説明してほしいんだけど」と頼むと。

「じゃ、まず自己紹介をしようか、私はルリ。冒険者で魔法使いをしている。年齢は十六歳、好きなものは甘いもの、あと可愛い物かな。趣味はお料理とか編み物かな。嫌いなものはないです!特技は剣術、魔法で攻撃魔法が得意で、補助系魔法を使えないこともないくらい。よろしくね!」

彼女は楽しげに自分を紹介してくれるが、俺は若干引きぎみに。

「俺はヒロアキ、一応、剣と格闘と魔法とスキルを使えるが今はスキルを一つしか使うことができない。年齢も十八歳で、好きなお宝の話をしても良いぜ!でも金と銀以外だ!後、この国で英雄と呼ばれている。それと、この国に居る間だけの仮初めの勇者としてこの国の王様を倒してきたところだけど」

俺は俺の持っている『魔剣』についての説明と、俺自身の情報を伝えると。彼女が急に俺に向かって土下座したのだった。そして俺に対してこんなことを言ってきた。

「お願いします、どうか貴方が私の仲間になってください」

その言葉に俺と黒豹王が反応すると黒豹王は「姫様、それはどういう意味でございましょうか?」と疑問を口にしたのだった。

――すると少女は立ち上がり涙目でこう言った。

「このままだと、私が魔王になってしまうから。私は、そんなこと望んでいないのに」

俺は少女の発言の意味を理解する事が出来なかったが。しかし、どうやら彼女は冗談では無いようで。本気で魔王になることを拒んでいる様子だった。

しかし何故だろうか、何故か俺にはこの子の言っている事の真偽を確かめる必要など無く、ただただ本当にそうなりたく無いという想いを感じられた。俺もそう思っていた時期があったからだ。だからこそ分かる気がするのだ、この子の考えが間違ってはいない事に。ただ、それでも俺はこの子と手を組んで良いのか?という不安感もあった。それは、やはり今まで俺が出会った人は全て裏切って来たから、俺は人の言葉を信じるのは危険だと考えるようになったのである。

俺の気持ちを知ってか知らずか、この少女、どうやらこの国の王女らしい。名前はミルフィア=アルトリシアと言う名前だ。俺は、この子を助けようと思うと、その瞬間、黒豹王に首筋を噛まれてしまう。その痛みに耐えながら「くっそ、何すんだよ、黒豹王の旦那」と言うと「すいませんが。少しだけ痛いですが我慢してください」と言われたのだ。

俺が何をしたんだ?と戸惑っていると、いつの間にか黒豹王はミルフィーの腕を掴み拘束していたのである。俺は何が起きたんだと驚いていたが。すぐに俺は、この二人の関係に気づく。おそらく黒豹王はミルフィが暴走しない為に自分の牙をミルフィに突き刺したのだ、俺はこの事にも驚いたが黒豹王がそこまでするのかと驚愕の表情で二人を見つめていたのである。

しかし黒豹王はそのまま動かなくなると。そして俺はある異変に気がついた。黒豹王の顔が苦しそうな表情をしていたからである。俺の表情の変化に気がつくと、俺に向かって、黒豹王はすぐに元に戻ると言ってくる。

「大丈夫なのか?」

「問題ありません。この状態の方が動きやすいので」と黒豹王は言う。どうも彼は、この状態での戦闘に慣れているようで、むしろ今の状態は好都合なのだと言っていた。

「おい!一体、なんなんだよ、このおっさんは何がしたいんだよ」と俺は叫び声を上げる。すると俺の声を聞いた少女は、ハッと我に返ったような表情を見せてくる。どうやら自分が何をしようとしたのか、ようやく自覚が出来たようである。そして「ありがとうございます。この人は、私の従者なのです」と言う。その言葉で俺が理解できたことは。この二人は信頼しあっている関係で主従の関係でもあると言うことだ。

「なあ、俺の聞き間違いかもしれないが。お前は魔王になりたいのか?それともならないのか」と質問すると彼女は「魔王になるのは嫌なんです」と答え。その理由を話し始める。「魔王になれば、私は魔物を操る力を手に入れることができます。それは、私が魔王になってしまった時に、一番に恐れた力でしたが。魔王にならなければ手に入ることのない力と分かっていても魔王にはなりたくないと心の中で思ってしまったのです。そしてその時、私の心の中にある魔王の力の一部が、自分の物にしたくて仕方がないと言う感情が生まれたのが感じました。しかし、私はそれを必死に押さえ込んでいます」と。その話を聞いた俺は魔王が言った言葉を思い出した。『魔眼』を使い『魔剣』を発動させた時、俺は魔王の魂の一部を手にすることができた。それが今の魔王が持っている力だ。だから俺はこう答える。

「お前の望み通りにならないと俺は思うけどな」と。そして俺は続ける。

「そもそもお前は魔王になるのを拒むために旅をしているんだろう?魔王になったら魔王を倒せば良い。お前の目的は魔王を倒すことだろ?」

俺の言葉に彼女は驚き「え?どうして」と言い。そして俺の言葉に彼女は少し考え込んでいた。しかし俺の方を見るとうなずく。

「そうですね。まずはこの国から抜け出して。それから魔王を倒しにいく事にしました。それでいいんですかね」と言う。

そんな話が終わると俺は、彼女に、なぜこの城に来たのかを聞くと。俺は勇者がどんな奴でこの国を滅ぼすつもりなんだと聞いてみたのである。

「いえ。勇者は私達を奴隷にするつもりで、城の中に入ろうとしたんですよ。そこで私達が城に入ってきていることにきづいて、この部屋に案内したってわけですよ」と答えた。

俺はなるほどと呟き「俺と同じ目的か」と言うと少女が「貴方は何をしようと思ってここへ来たんですか?」と言われ、素直に伝えても良いものかと考える。ただ正直に言うことに決めて「俺は俺の目的のためにこの城を襲わせてもらった。だがその前に魔王がこの城のどこかにいると思ったから探していたんだ」と言ったのだが。その瞬間に少女の目付きが変わると俺のことを睨んできたのだった。

その目を見て、どうもこの国の王族の人間は、みんな魔王に対して強い忠誠心を持っているらしいと感じた。だからきっと目の前の少女も同じだと思ってしまうのも当然だと思うだろう。

しかし俺は、なぜか目の前の人物を警戒する必要がないと感じてしまい、特に何かを話すこともなく立ち去る事にしたのである。

ただ彼女は何故か俺の後を付いてきたのだが、それもあまり気にせずに俺は部屋に戻り休むことにしたのだった。

俺はミルフィと一緒に行動することになったが正直言えば俺にとってはかなり運の悪い出来事でしかなかった。

俺達は、この国の王女ミルフィと一緒にいるところを見られれば必ず面倒事になるのは目に見えているからこそミルフィと別行動を取ろうとも考えたが、この少女も俺と似たような存在であり、一緒に行動するメリットがデメリットを打ち消す可能性に賭けることにした。

それに俺自身も彼女の実力と知識と魔法に頼れる部分はあり。そして俺は彼女の護衛をするという名目で行動を共にしていくのである。俺は正直言って、これからも一人で自由に生きようと思っていたのにと内心で思っていたのだった。

俺達四人で行動する事になるが。

まずは黒豹王の旦那がミルフィーの護衛の為に常に傍にいたのである。そのため俺は俺と一緒の行動をしてくれそうな人を探すことになる。すると丁度良い相手が見つかるのだった。

彼女は俺より一つ年上の女性である。名前はメイリーといい魔法使いの女性である。彼女は黒豹王に剣を教えており黒豹王の剣技も彼女から教わったものであるそうだ。彼女はとても真面目な性格の持ち主であり礼儀正しい人だったのだ。そんな彼女がこの国を出て冒険者になり世界を旅したいと相談されたのだ。

ちなみにこの国の王を暗殺する理由は、この国がこの国の人間以外を認めない主義らしく、他国で商売を行うと関税が高く取られてしまい利益が出ないので国外に出たいというのが理由だ。そしてこの国を出るのに最も簡単だとされている方法が勇者であるミルフィを捕らえた後、王になり替わりこの国のトップに立つというものだ。しかしそれは現実的に難しいという事だったので俺も同行することにしたのだ。

そして俺達が国を出ようとする際にミルフィがこんな事を言った。それは、俺を勇者としてこの国から追い出したいようだと察しがつくものだったのだった。つまり俺は勇者の役目を終えたら用済みという扱いになっているようで、俺と黒豹王は顔を見合わせてお互い苦笑いを浮かべてしまうのだった。

「おいおいマジかよ!」

俺は思わずこんな事を口にすると少女は俺にこう言った。

「だって貴方、まだ魔王を倒した報告をしていないのでしょう?」と少女は俺に対して言うのだった 確かに俺は魔王を殺した事は、魔王本人しか知らない事なのでこの少女が知っている事に驚くが。俺は少し考えて「いや?別に俺が倒したとは言ってないけどな。俺はこの世界の人族ではないし、魔族は魔王以外にも存在している」と言ってやったのだ。その言葉を聞いた少女は俺に向かってこう言ったのだ。

「そんなことどうでもいいから。この国は、もう駄目だよ。だから早くここから逃げないとね」

そう言うと、この国の王女ミルフィは「ごめんなさい」と言って俺の手を握る。俺がこの手を離すべきか悩んでいると「さぁ行きましょう」と言って俺を引っ張るので仕方なく着いて行ったのだった。そして俺が手を振り払うとミルフィは驚いたような表情をして俺のことを見たのだ。

「おい。この子について行けば安全なのか?それともこの国ではこの子を守れないと言う意味か?」

「この子じゃなくて、ミルフィー様と名前を呼び捨てにするなんて失礼にも程があるわ。この方はアルトリア王国唯一の王位を継ぐ資格を持った姫様なのですよ」と黒豹王が言いながら俺を睨むので俺はため息を吐いた後、仕方がないなと思い。「はいはい。わかりましたよミルフィー様」と適当に返事をしたのだ。

そしてこの国を出たいと思っている者達がいると、黒豹王が伝えてくれるのであった。するとミルフィーは、俺の服をギュッと握りながら、俺に寄り添ってきたので、俺はその仕草にドキッとしたのだがすぐに冷静になる。そして俺が何も言わなくても彼女は自分の意思を伝える為に口を開くのだった。

俺は少女が何かを伝えようとしている事に気付き少女の言葉を待つことにするが中々言葉が出ない様子だ。ただ少女は何が言いたいのか分かった気がした為、「お前の望み通りにはならないと俺は思うぞ」と言ったのだ。その言葉でミルフィの顔が明るくなる様子を見て俺は「ついてこい」と言い俺達の集団を連れて歩くのであった。すると途中で、俺達が城から出て来る事がバレて衛兵達がこちらへ向かって走って来たのである。

しかし先頭に立っていた男が俺の顔を見て「魔王!?どうして魔王がこんな所に」と言うので、俺は「おいおいおい。まさかと思うが俺の顔を知らずに、魔王と呼んでたわけじゃないんだろうな?」と俺は不機嫌そうな態度を見せると後ろから「まあ普通は知らないよね。でも、僕は知ってるよ」と言う少年が居たので俺は振り返り確認したのだ。

「誰だ?」と俺は尋ねると「僕の名はレイラ。勇者のレイナって呼ばれてるよ」と名乗るので、この子が『聖女』の天うずめを魔王城に閉じ込めた少女なのだろうと察した。そしてうーちゃんと仲が良くなった人物の一人なのかもしれないとも思ったので俺は「そうか。お前があの有名な『聖女』の『うーちゃん』を魔王に閉じ込めたっていう勇者か。随分小さいな」と俺が嫌味を言うと。

うずめさんは怒っているのか頬っぺたを膨らませ「私は子供じゃないもん」と言っているのが聞こえたが、見た目が小学生の子供が怒っていても可愛く見えるだけで怖くはないのだ。俺はその事で笑うとうーちゃんも怒り出し「ちょっと、それ酷すぎるんですけど」と言っていた。俺はういういしくて可愛いなと思っていたが、うずめの頭を優しく撫でていたのである。

そしてミルフィはうなだれていたが俺はうずくまって震えていたミルフィを見てうずくまったまま動かないミルフィの姿を見て。少し罪悪感を覚えてしまった。

俺はミルフィが泣いているのではないかと思い声を掛けようとした瞬間に、ミルフィはいきなり起き上がると「今、貴方が私の事をバカにしたから」と、うわずめた口調で話しだした。

俺が「は?」と呟いていると、少女は自分の頭の上に乗っけている猫耳に手を伸ばして「え?」と声を上げたのである。俺が何が起きているのか理解できずに、その様子を眺めていると少女は、頭の上の猫耳を動かして俺に視線を向けた。そして俺は目の前の光景が、にわかには信じられずに呆然と立ち尽くしていると。

「えへへ。実は私も獣人のハーフなんだよね」

ミルフィは笑顔を見せてくるが俺は未だに信じ切れずにいたのである。

俺の目の前にいる少女はミルフィーという名前の女の子で俺と同年代であるはずなのに、俺より身長が低く胸もペッタンコであるのだが、それでも少女の面影があり幼さが抜け切れていない感じの少女なのだ。ただそんな彼女の姿だが、なぜか俺が見下ろしてしまうほどの体形をしており。俺は何となくミルフィのことを見てしまうとミルフィが悲鳴を上げてしまう。

そのせいで、周りの人達が俺のことを睨みつけてきた。俺はそんな視線を感じ取りながら慌ててミルフィの方に目を向けてみるが、ミルフィーが着ている服がダボついている事に気づいて俺はもしかしたらと思ったのだ。

ミルフィーはミルフィーは黒豹王と目が合うと彼はミルフィーに対してこう伝えたのである。

「ミルフィー様は魔王様にお願いがあるのでしょう。どうか聞いて差し上げてください。魔王様は、この世界を救うおつもりなのですね」と黒豹王が言うのでミルフィーは嬉しそうな表情を浮かべると俺に「ありがとうございます」と俺に礼を言ってきた。

正直言えば俺は魔王と呼ばれている人間であり魔王軍の四天王である魔黒王の部下でもあるが。しかしミルフィーを救いたいとは微塵にも思わない。むしろこのミルフィーという少女が魔王の娘であるミルフィであるなら。

俺は魔王を倒すべき立場でありミルフィーは俺にとって敵であるのは間違いないからだ。だからこそ俺が魔王である事がバレるのは面倒事になるのである。なので俺は誤魔化すためにこんな提案をしてみる。

「なあミルフィーはさ。魔王の娘だと知られても大丈夫なのか?」

「うん。問題ないよ」

俺の提案を聞いた少女は元気よくそう言うので俺はため息を吐き「じゃあこれから俺達は冒険者だ。それでいいか」と口にするとミルフィーは満面の笑みで俺の事を見るのだった。

俺がミルフィと冒険者になる事を伝えると黒豹王は驚いていたが、すぐに納得してくれたようでミルフィーと話をする時間を与えてくれたのだ。その間に俺は黒豹王に話を聞いてみると、やはりこの国はミルフィーの父の代から腐敗していたようだ。

黒豹王は昔からミルフィーを王位につけるために教育を施していて、ミルフィーも父である王の命令に従い努力してきたそうだ。

しかし、王になった後も黒豹王もミルフィーも王に対して意見することが出来なかった。そのため王は、黒豹王の事を無能な人間だとミルフィーに吹き込み。そしてミルフィーに魔王討伐を命じる。

そして、魔王軍四天王の魔黒王を倒したという実績で黒豹王が魔王の配下だという事実を無かったことにしようとしたらしい。

俺は黒豹王が言う魔王軍が崩壊したのは魔王が死んだからであると説明した。そして魔黒王も死に。魔王は魔王軍の人間を全て処刑するつもりはなかった事や、俺は部下達を引き連れて旅に出ていただけだと黒豹王に伝える。

「魔王は、魔王軍は崩壊し今は平和な世の中になっているんだよ。俺がミルフィーと出会えたのは、俺達が世界を回っていてミルフィーの父親に会ったからだよ」

俺がそんな説明を行うとミルフィは涙目になりながらも必死に俺を見つめてこう伝えてきたのだ。

「あのね、パパが言ってたんだ。魔王を倒してくれてありがとう。もしお前が困ったことがあったら。助けてくれる人間が居たら頼りなさいって。魔王である貴方でもきっと誰かを助けてくれる人がいるはずだから」と涙を流しながらミルフィは俺に伝えて来た。俺が「まあ俺は別にミルフィーを助けたかった訳じゃないから気にしなくて良いよ」と言うとミルフィは「うん。でも私はあなたに助けられたの。だから、だから、私が貴方の傍にいる。そして貴方の力になりたい」と言って来たので俺は「それは無理」とミルフィーに告げる。

すると、俺に断られた事にショックを受けたミルフィはその場で崩れ落ちそうになったのだが、すぐに黒豹王と、うずめに支えられたのだ。俺に断られたミルフィーに、黒豹王が俺と魔王が同一人物だと勘違いしていた事実を話す。

そしてミルフィーの父は俺と面識があり。その俺が、うずめを自分の城に住ませることを承諾した事を告げる。そして、俺とうずめが親子だという事は言わなかったのであった。俺はうずめさんと血の繋がりはないけど義理の親子だと言えば、何かしら反応があると思ったのだ。ただうずめがミルキーを「うーちゃん」と呼んでいることを伝えると、ミルフィが「なんですかその可愛い呼び方!!」と食いついて来たのでうずめの事を娘として認識しているようにも見えたのである。

うーちゃんが「私はうずめの友達。うずめのママが本当のお母さん」と言ったことで、さらに「え?え?」と困惑して混乱しているミルフィの様子に俺達は大笑いしてしまう。そんな俺たちの反応にミルフィは怒ることもなく。むしろミルフィーの表情が緩んでいた。

俺達のやり取りを見たミルフィーも「なんか私、勘違いしてたみたいだ」と俺達に言い出すので俺は、ミルフィの頭を叩きたい衝動に駆られたが、俺は我慢することにした。ミルフィーは叩かれた頭を擦っていたが俺達の会話を聞くと、なぜか急に機嫌が良くなっていたので。まぁいいだろうと思ったのである。そして、ミルフィーは黒豹王に改めて魔王軍に加わらないかと告げるが。「魔王軍は魔王が不在ですし、それにもう私の居場所は此処しかありません」と答える黒豹王にミルフィーは「そう」とだけ言うと「魔王様もお疲れでしょう」とミルフィは黒豹王を部屋まで送っていくと俺にそう伝えたのだ。俺はうずめさんの事も心配だったのでうずめの様子を見に行きたいというと。

ミルフィーは、うずめも今日は色々とあり疲れているはずなのに「私は、うーちゃんが心配だし、一緒に行ってあげる」と言い出したのである。

うずめの様子を見に行くには一人の方が動きやすいと思っていたが、ミルフィーはうずめのことが心配らしく同行したいと言っているようだったので、俺としては断れるはずもなくミルフィーと共に、うずめの居る宿屋に向かうことにしたのである。

俺がうずめの事を気に入っていると思ったミルフィーは俺の腕を掴むと俺を引っ張って走りだした。俺は「ちょ、引っ張るなって」と声を出したのだがミルフィーは止まらない。

しばらく走った後にうなだれて立ち尽くしたミルフィーを見て。もしかして俺は余計なことをしたのかと思って謝ろうとした時だった。ミルフィーが突然叫びだす。

「私ね。初めてなの。こんな気持ち」

ミルフィーが頬を赤く染めている様子で俺に向かってそんな言葉を放つので。「何が初めてなんだよ」と聞くのだが、ミルフィーは何も言わずに俯いてしまった。そんな俺達の元にミルフィが走ってやって来たのである。俺はミルフィと話をしていたのだけれどミルフィーは、うずくとの事がどうしても心配でたまらないらしい。そんなミルフィーの姿を見て、俺は「それなら一緒に連れていこう」と言う。

ミルフィーは俺の言葉を聞いて顔を赤面させながら「本当!!本当に良いの?」と何度も俺に問いかけてくるのだが俺は無視して「あ、ああ。連れていくさ」と返すとその返事を聞いたミルフィは両手を合わせて喜ぶと、「えへへ~♪」と言いながら俺の手を握るのだった。俺はそんなミルフィーの様子を呆れた目で見ていると、ふとあることに気づいたのだ。

それは黒豹王の部下らしき連中の中に黒豹族の姿があったのだけれど彼らは皆女性だったのだ。どうやら黒豹王は、部下の女性に手を出しているらしくて黒豹族の女性は魔王軍の人間だとミルフィーに説明をすると彼女は悲しそうな表情をして呟く。

『黒豹王が部下に手を出しても問題ないと思うよ。魔王軍は女魔王を慕っていたから。だから魔黒王は黒豹王のことを無下に扱うことができなかった。だけど魔王軍の崩壊を期に魔王軍の規律は乱れて魔王軍と黒豹王は関係を悪化させていった。黒豹王が、黒豹王に恨みを抱く者の手によって暗殺されたのをきっかけに黒豹王は魔王軍を解散させた。そして黒豹王の悪評を広める人間が現れ始めたから黒豹王は、その者達に罰を与えるようになった。

だから、ミルフィーは黒豹王を恨んでいないの』と黒猫王が言うと俺は驚いた。ミルフィーに視線を向けるとミルフィーは「パパは悪いことはしていなかったの。パパは悪くないんだよ。でも魔王軍の人間と仲良くなろうなんて考える人が居なかったから。みんな怖がった。パパが、みんなが、私はパパを殺した人間は許せない。だって私は、パパの事を愛していたから。でもパパが悪いわけじゃない。

そんな事、私にも分かっていた。だから、魔王の娘と知られれば、パパの敵は私が魔王の娘だと言って殺しに来るかもしれない」そう言って涙を流して泣くミルフィーの頭に黒豹王は手を乗っけると「そんな事にはなりません。私は貴方の味方ですよ」と黒豹王は笑顔で伝える。

それから俺はうずめさんが泊まっている部屋に案内してもらう。ミルフィーは黒豹王の部下の一人を呼び寄せると俺と黒豹王を自分の部屋に招き入れるのであった。黒豹王は俺の事を警戒していて何かあった時の対応をする為なのか、ミルフィーの護衛もする為に、そのまま残るそうだ。

ミルフィーの部屋のドアを開くと黒豹王は「ここは私が使っていた宿ですね」と言って部屋に入り込んだ。そして俺達もそのあとに続くのだが、黒豹王の部下が俺たちの前に出て警戒するように俺たちを見つめた。俺はその事に少しイラッとしたので文句を言うために前に出ようとするのだが、それを察したミルフィーが前に出る。そして黒豹王の事を指差しながら口を開いた。

「パパに変な真似をしたら承知しないから」

ミルフィーのこの言葉を聞いて黒豹王の瞳は輝き「う、うん。分かったよ。ミルフィ」と言って、その場で土下座したのであった。俺はその光景を見て唖然とした。ミルフィーも予想以上の効果があって戸惑っているようだったが「とりあえず。こっちに座ってください」と部屋の椅子に座らせると、うずめさんの所に向かったのだ。

黒豹王が「ごめんなさい。私もまさかこんな展開になると思わなくて」と謝ってくるが、そもそも魔王が生きていたのは秘密のはずだし仕方が無いと思ったのである。俺はミルフィーの後を追うとそこには、うずめさんに膝枕されている、うずめさんと俺が一緒に写っている写真を手にしているうずめさんとミルフィーが涙ぐんでいる姿が見えたので俺はそっとミルフィーの隣に立つとうずめさんは俺の気配に気づくとうずめさんは慌てて立ち上がり俺に頭を下げた。

うずめさんは、俺の顔をみて、どうして俺が魔王様本人だと勘違いしていたかを説明したので。俺はミルフィーが、うずめに対して俺が本当の母親だと伝えてくれた事を告げると。うずめさんは、うずめに頭を下げるとうずめがうずめの母親だと言うと、ミルフィーは「ママ、会いたかった」と言って抱きつくのであった。ミルフィーは泣き出すと、黒豹王に事情を話してから「私は、この世界でママに会うために生きてきた」と口にすると。うずめも嬉しそうにして「ありがとう。ママはうーちゃんと一緒に来てくれるんだよね」と言うのである。

うずめのその言葉を聞くとうずめの表情が一瞬曇るのだが「うーちゃんが行きたいのであれば。一緒に行く」と、答えたのである。そんな様子を見た俺は「ちょっと待ってくれないか?俺は二人を引き離すような事はしたくないんだけど。うずめが此処に残るというのなら俺の知り合いの所に連れて行くつもりだよ」と提案してみたのだ。俺の提案を聞いたうずめは、ミルフィーに「一緒に行かない?」と問い掛けたのだが。うずめの質問を聞いたミルフィーは首を左右に振って「ううん。私もハルの所でいい。ママの側が良い」と答えるのだった。

そして俺が「決まりだな」と言うと。黒豹王の部下たちが「お待ちください。それならば我々も御同行致します」と黒豹王に続いて発言してきたのだ。俺はその事を却下しようとした時にミルフィーは「好きにさせてあげればいいよ」と言うので。俺はミルフィーに確認を取った後に了承する事にしたのである。

黒豹王たちは旅の準備をして来ると言うので俺はその間部屋の中で待っていると。ミルフィーはうずめと楽しそうに話していて微笑ましく感じたのだった。俺はミルフィーに気になった事があったので、聞いてみることにした。

「そういえば。お前と黒豹王の関係って何なんだ?」と俺は聞いたのだ。ミルフィーはその言葉を言われるとなぜか恥ずかしがり、俺に耳打ちをして俺にしか聞こえないようにして言った。

『パパの部下と私の愛人候補みたいな関係だった』と小さな声で囁くミルフィーに驚きながらも俺は冷静を装い「へぇ~そうなのか」と答えたのである。そして暫くすると部屋の扉が開かれて黒豹王とその部下達が入ってきたので、俺達もうずめ達の見送りをするために宿屋の入り口に移動することになった。うなじが少し赤いミルフィーが「どうしたのうーちゃん顔真っ赤だよ大丈夫?」とうずめの体調を心配していたが、その言葉にミルフィーの顔が更に赤くなって照れながら「なんでもない」と言うと黒猫王に向かって小走りして腕を組むと黒猫王を連れて歩いていったのである。

ミルフィーと黒猫王が腕を組んで移動していった姿を見て黒豹王が「あ、あれは。なんで私じゃなくうーちゃんと仲良くなったのよ。私は、私はこんなにも愛していたというのに!!」と言ってその場に崩れ落ち、黒豹王を慕う女性兵士達に取り押さえられて何処かに連れ去られてしまうと。黒豹王が連れていかれた方向に「あああああああああああ」と言う叫び声がこだまするのであった。

そんなこんなでミルフィー達は、俺が滞在する町に行くことになり、俺はうずめにミルフィーがうずめに会いたがっていた事を伝える。うずめはそれを聞くと嬉しそうに「そっか」と答え、ミルフィーは「うん」と笑顔で言う。そんなやり取りをしていたのだけれど俺はふとミルフィーの言葉に疑問を感じたので聞いてみる。

俺は「そう言えば、魔王軍の規律は、今どんな感じなんだ?」と聞く。

俺の言葉にミルフィーは少し困った顔をして、黒豹王が居なくなってから変わったとしか答えなかった。そしてミルフィーの言葉から俺は魔王軍について詳しくないことがわかった。そんな事を考えていたらミルフィーが黒豹王の服の袖を引っ張ると黒豹王が反応すると黒豹王は部下の女性兵から何かを受け取る。そして俺の元に駆け寄ってきた。そしてその手に持つ物を渡そうとしてくるのであった。それは、黒豹王が俺の為に用意してくれたのであろう、俺の写真とメッセージが書かれた物だった。そしてそのカードに書かれていた文字は『魔王様、これを受け取ってください。必ずまた会える日が来ると信じています』と書かれている物であり、俺の胸の中に熱いものがこみ上げてくるのが分かったのであった。

俺は渡された写真をミルフィーに見せるとミルフィーも涙目になって写真を見ており、黒猫王が、うずめさんは写真を見ると懐かしそうな表情をして「これは私がパパに貰った写真。宝物なの。そしてパパがくれたメッセージ」と言うと写真の裏に『パパが側にいるよ』と書かれていてうずめは写真を抱き締めるのであった。そのうずめの行動に、うずめと写真の事で盛り上がっていたのだが、うずめに写真を渡してきた女性がミルフィーを俺の元に連れてくると。

「あの子、私には懐いてくれないんですけどね」と言ってミルフィーは少し悲しそうな顔をしながら俺に言う。俺に話しかけてきたのはうずめに近づきたくても、なかなかうずめが俺の側から離れてくれずに近づくことが出来ないでいたが。俺と黒豹王のやりとりを見て黒豹王の側なら近づいても良いと思ったようで、俺達に話しかけてきてくれたらしい。その事を俺は黒豹王に報告をするのであった。

それから、俺は黒豹王の好意に甘えて宿に泊まらせて貰うことにした。その事を黒豹王に言うと黒豹王は「私に任された宿なので。好きなだけ使ってください。お金はいりません」と言うので俺はありがたい気持ちになり「ありがとう。遠慮無く使わせてもらう」と返事をした。そして黒豹王の部下たちは、魔王軍が壊滅したことにより新たな任務を与えられる事になる。そして、うずめの護衛が、俺の護衛になる事も告げられた。

そして、その護衛に立候補した者が数名おり、その中の一人が俺に名を名乗るようにと指示を出す。

「私の名前はミコトと言います」と名乗る女性は金髪ロングヘアーに青い瞳を持った美人だった。年齢は多分20代中盤から後半くらいだろうか。彼女は黒豹王の側近でもあり、剣の腕もあることから護衛に選ばれていた。

ミコトウと名乗った少女を見て俺は見覚えがあるなと思ったが思い出せない。

黒豹王がうずめさんとの別れを終えて俺の元へと戻って来た。黒豹王とうずめさんは仲良さげに腕を組み歩いている姿は、誰が見ても本当の夫婦だとわかる雰囲気だった。

俺はそんな二人の様子に嫉妬してしまいそうになるが、俺にそんな感情を向ける資格はないと思って抑え込むと、俺は俺でミルフィーとうずめと一緒に町を見て回る事にする。うずめとミルフィーは楽しそうにしている姿をみて俺は微笑むと、黒豹王の部下達が俺に話し掛けてきた。黒豹王とうずめさんが、この町で一番大きな食堂に行くと言うので、そこで食事をしながら、俺とうずめさん、黒猫王、黒豹王で話をすることに決まったのである。俺達は黒豹王に連れられてその食堂に行く事にしたのである。黒豹王がそのお店の主人に料理を大量に頼んだ後、テーブルの上に並べられた食べ物や飲みものを皆で食べて雑談をしている時、うずめに抱かれている白狐と呼ばれる白い毛色の子犬の様な動物に興味がわいたのか、その動物の事を聞いてきたのだ。するとうずめは「名前は、シロと言う名前だよ。私の大事なペット」と言うと。

うずめが大事そうに抱いているその生き物は目を覚まして起き上がり、そして口を開いたのだ。『我は、白銀級冒険者、白銀の魔女こと、ハルカの使い魔、白き妖艶なる月の化身。我が名はシエン』と言ったのである。俺とミルフィーはその言葉を一瞬信じられずに聞き返したのだが、俺の疑問に答えるように黒豹王が説明を始める。

『ハルは、私達の仲間です。ハルが貴方達の味方になることを私達が約束致します。私は、この国を、魔王軍と同盟を結び平和を守る役目を国王から仰せつかっております。私も仲間に加えてください』

と黒豹王が言うとミルフィーも続けて話し始めた。

「この子は凄いんだよ。何てったって私より強いし頭も凄く良いからね」と言うと黒猫王もうなずいていたのだ。そして俺は「わかった。よろしく頼む」と返答をすると、俺は気になったことがあるので聞いてみることにした。

俺は天の邪鬼の件と今回の魔王軍襲撃事件を簡単に話した後。

『ところで。その魔王軍の生き残りの二人は今何処にいる?』と質問をしてみるが黒豹王からは答えが返ってこなかった。黒豹王が無言になった理由も理解しているので「俺が二人を保護する」と言うと。

黒豹王は何も言わず俺の目を見るのであった。俺はその後うずめに抱き着かれて寝ているシロに目がいったので「その、お前が抱えてる子犬のような獣は何なんだ?」と聞いてみたのだ。うずめは、自分の腕の中で丸くなっている子犬の様な可愛い生きものに顔を埋めて嬉しそうにしていたのだ。そんな姿を見て俺は思わず微笑んでいた。

うずめは「うん?ああ。えっとねー。私の新しい友達」と笑顔で言うと。俺はその言葉に微笑んでしまう。そして、うずめが子犬を抱いている姿が本当に可愛かった。

黒猫王は、その言葉を聞くと驚いたような顔をしていたのである。そしてうずめが「クロ。この子はね、うーちゃんって言うの。仲良くしてくれると嬉しいな」と言うと黒猫王は戸惑いながらもうずめの手を握りうずめの事をじっと見つめていた。そして「う、ううう、うずちゃんがいい」と少し照れながら黒猫王が言うと、ミルフィーがうずめさんに近寄ってくると黒猫王に耳打ちをする。

そしてうずめさんが、「うん、分かった。クロちゃん。うずめで良いよ。宜しく」と言って手を握ると、今度は俺の方を見つめながらうずめが「ねぇ。シロの事教えてくれる。お願い」と言うので、俺は「俺にもまだよく分からない事も多いが。出来る限り協力する」と言ってうずめと手を握った。

ミルフィーと、うずめが俺と握手をしている時にミルフィーの表情が暗くなって悲しそうな顔で黒豹王とうずめさんの方に視線を向けた。その行動が意味するところが、今の俺には解らない。そして黒豹王が俺に近づいてきて俺の手を握って来る。その表情は少し悲しそうで、俺は胸が痛くなるが我慢をするしかなかった。そして俺はミルフィーとうずめと一緒に町を見て回るのであった。

ミルフィーとうずめは俺が思っていたよりもかなり楽しんでいたようであり。俺の目の前では黒豹王の部下の人達に話しかけられているうずめがいた。ミルフィーは、うずめさんに話しかける男性兵士の背中に殺気を放っているが、俺は何も出来ずにいたのだった。俺がミルフィーのうずめさんに対する想いに気づくと。俺自身もミルフィーに対して好意を持ち始めている事が分かると胸の辺りにチクリとした痛みを感じた。

俺がミルフィーに近づき声を掛けようとしたら、ミルフィーとうずめさんがこちらを振り向いて俺に「何かあった?」「どうしたの?」と尋ねてきたので「あ、いえ。何もないですよ」と俺が何でもないと答えたのだが。「何でもなくはないと思うんだけど」と、うずめさんが心配して俺に近づこうとして来たので。ミルフィーがすかさず俺の前に立ちうずめさんを止めていた。

黒豹王の城で食事を終え、ミルフィーはうずめと二人で町に出かけていき、俺とうずめは、黒豹王の案内のもと、この町の温泉に行くことになったので俺はうずめと一緒に黒豹王と一緒に歩く。町の中は活気に満ち溢れていて、俺達が通る道の両脇の店に客引きの声が響く。そんな中で黒豹王と俺とうずめは歩いていた。俺達は町の中心部から離れていくと、大きな建物が見えてくる。それは宿屋と食堂が併設された大きなお店で、その建物は高級感あふれる外観をしており、俺と黒豹王とうずめはその建物の中に入ると黒豹王は受付で支払いを行うと俺達はそのまま風呂へと向かう事にする。

風呂に向かう途中で黒豹王はうずめに話しかけたのだ。

「この国に来たばかりのあなたをこんなところに連れまわしてしまい申し訳ありません」と。

俺達は脱衣所に到着すると、俺達は服を脱ぎ浴場へと入って行く。

その浴場はかなり大きく。俺達が体を洗おうと思って移動しようとすると黒豹王が「先に私が体をお洗いします」と言ってくれた。

俺達が黒豹王の後をついて行き、俺は湯船につかっている。

黒豹王とうずめが楽しそうに会話をしながら、俺とうずめは黒豹王によって体の泡を流され、綺麗になった後に湯船にゆっくりと浸かると。

黒豹王が「ハル。大丈夫でしょうか?」と不安げにうずめに話し掛けると、それに反応したのはうずめでは無く俺だった。

「どういうことだ?まさかあの二人の身になにかがあったのか?」

「いえ、そうではないのですが、ここの温泉には呪いの効果のある成分が含まれているらしくてですね。その効果の効能を考えてハルの身体は弱いはずなので」

「なるほど。だからさっきから黒豹王が心配しているんだな。なら俺も一緒に行って確かめる。うずめも、俺がいた方が良いだろ?」

「うん。でも無理しないでね」

俺は、自分の体が弱っている事に驚きを隠せなかった。そして俺に黒豹王が声をかけてきた。

「ハル。すみません。私のせいで。もし私を責めたいのであれば私を殺してください」

「そんな事はない。うずめが決めた事だろう。それに俺はお前を信じて付いてきている。うずめもそうだ。俺はうずめの言葉に従ってこの世界にやってきた。この世界に召喚されたのは俺達の意思じゃ無いが、今はこの世界の人達の為に戦ってもいいと思っている。だから俺はお前も助けてみせる。絶対に死なせやしねぇよ」

黒猫王は、涙を浮かべながら。「ありがとうございます」と言う。

俺はその言葉を聞いてもしかすると白猫姫の事を思い出して泣いているのかなと思っていたが黒猫王が泣き止むまで何も言わなかった。

そして、うずめが「もう。クロちゃんも早く来なよ」と言いながら浴室から出て行ってしまう。

黒豹王は、涙を流しながらも俺に笑いかけて「すぐに追います」と言う。

そして黒猫王もうずめを追って浴室を出て行ったのだ。俺は一人残された。だが、俺はまだ体を動かす気力が無く、ただ浴槽の中に浮いていただけだったのだ。俺は、このままだと死んでしまうんじゃなかろうかと考えていた。そして、その時に扉を開け誰か入ってくる。俺は誰が来たか見るために目をあけるがぼやけて見えるのではっきりと見えないが、シルエット的に女性だと思うのだが、何となく天の邪鬼の様な印象を受けたのである。天の邪鬼にしては大きいが、天邪鬼は成長が遅いと聞いていたからきっと俺よりも年下なんだと思ったがそんな事を考えている内に意識が遠くなっていった。そして俺は完全に眠りに落ちてしまうのだった。そして俺は天女と天魔の二人の子供に会うのであった。

天猫の魔王は、俺が黒豹王に抱えられながら、黒猫王の城に戻る最中で俺はうとうとしていたのだが、急に黒猫王に抱えられて走っていたせいで、俺が起きた時には既にうずめとミルフィーの二人が俺の部屋に来ていた。俺はベッドに座ると。ミルフィーとうずめが俺の目の前に来て頭を下げて「ごめんなさい」と言う。俺は何も言えなかった。何故なら、俺の目の前にはうずめとミルフィーがいるからだ。俺は今何をされているのか全く理解出来ていないが。とりあえず頭を上げられなかったので、二人に向かって俺は「謝る前に理由を教えてくれないか?」と言うとミルフィーとうずめが話を始めた。

「実は。うずめさんとお買い物をしていると、ミルちゃんが、うずめさんの腕にくっつき始めたんです」

「そうそう、クロちゃんってうずめちゃんの友達なんでしょう。なのに、クロちゃんったらうずめちゃんの手を握りっぱなしだったの」

俺はうずめを見ると少し恥ずかしそうにしているのが分かる。どう見ても俺が眠っている時に、ミルフィーとうずめの間で何かが有ったのだろうと思うと少し笑みがこぼれた。

「えっと、ミルちゃんって、私のこと嫌いなのかな」

うずめさんが悲しそうな顔をしていたので俺は「違うと思いますよ」と言って、俺は「ミルフィー、ちょっとうずめと二人で話がある」と言うと、うずめが俺の方をじっと見つめていたので、うずめの手を取り引き寄せる。うずめの顔は真っ赤になって俺に近づき「うー、うぅ」と言うので、俺はその言葉を聞くと同時に抱きしめていた。

そして俺は「俺がミルフィーに嫌われる事は絶対ないけど。多分だけど嫉妬しているだけだよ。うずめに近寄ってきたのにうずめはそいつの方に行ってしまったと思って拗ねているんじゃないかな。俺も同じ経験が有るし気持ちはよく解るから」と言うとうずめは、「本当ですか?」と言った感じで俺の目を見てくるのであった。

俺は、抱きついてくる彼女の頬に手を当て、「本当だ」と言うとうずめの表情が変わる。嬉しさの余り泣き出したのだ。彼女はしばらく泣き続けた後、「ハルくん好きぃ」と甘えるような声を出すとまたぎゅっと抱き着いてきたのだ。俺はその事に幸せを感じていたが、その時、ドアの向こうで声が聞こえてくる。それは、ミルフィーと黒豹王だった。

黒豹王は「あちゃぁ、どうします?これ」と言い、俺がどうするか悩んでいたら、ミルフィーとうずめが部屋に飛び込んで来たので黒豹王に任せることに決める。そして、ミルフィーが黒豹王の後ろを歩いて来ると俺の前に来て。うずめさんを睨んでいたのだ。その事に俺は驚いていたが、ミルフィーがうずめに対して言った一言で俺は納得してしまう。

「うずめさんのバカ」

うずめさんは突然の事で呆気に取られており「どうして?」と言っているが、ミルフィーは無視して俺の横に座ってきて俺にもたれ掛り、そのまま眠ってしまった。俺はミルフィーを抱き寄せると俺の肩の上に頭を乗せて安心したように寝てしまったのだった。その様子を見ていた黒豹王が「うずめ、あなたって子は。もう」と言うと。「え、でも私だって、あの時ハル君と一緒に温泉に入ったし。それどころかお湯の中にハル君の体を引きずり込んだんだけど」と。黒豹王は驚いた様子で「な、なんてことを。それは犯罪ですよ。うずめ」と。

うずめとミルフィーと俺は三人並んで仲良く眠りにつく事になったのだ。

目が覚めると、俺はうずめを膝の上に乗せた状態で黒猫王が隣に居て俺に寄り添っていたので俺は黒猫王に「黒猫王おはよう」と声をかけると。彼女も目をさましていて、そして俺の頬にキスをしてきてくれるのであった。その後すぐに、黒豹王とうずめも目をさましてきて。そして何故か黒豹王が「私はやっぱりハルが好きなんだよね」と言い始めるのだがその言葉をうずめさんは許してくれなかったようで「ダメ。ハル君は私のものなんだよ」と言ってきた。

それからしばらくして朝食を食べに行くことになり皆で食事をしている間中、うずめは終始不機嫌そうで。俺はそんなうずめが可愛かったので食事が終わったあとに彼女に話しかけてみたのだ。俺は、「う~んそうだね。確かにあの時は、ミルちゃんをほったらかしにしてしまって寂しかったかも知れません」と言われてしまいそこで俺も反省する事にしたが、そこでミルフィーが現れて「私が代わりにうずくんだもん」と言うのだ。

俺はうずめに「ごめんね」と言い。ミルフィーには、うずめに何かされたら俺に言う事。いいな?というと「うー」と言って、俺はミルフィーの事を優しく抱きしめてやる。すると「じゃあうずめも」といってきてうずめも一緒に俺が二人をまとめて抱きしめる。

俺は、二人を見ながらこれからどうするべきかを考えていた。

俺は黒豹王達に別れを告げると。天猫の魔王とミルフィー、そしてうずめに黒豹王が一緒についてきたが、この先どうなるのか全く想像がつかないが、俺はとにかく天魔族から守るために行動しようと思った。そして、この城では安全とは言えないと判断した俺達は、この城の最上階に天うずめの部屋があったので、そこを拠点にしようと思う。

「クロちゃん、ここなら安全だし。うずめさんもいるから安心だわ」

「そうです。私とミルはここで待ちますからハルとミルフィーはうずめ様を守ってあげてください」と言う黒猫王の表情からは不安が見え隠れしていた。俺とミルフィーは黒猫王に心配させない様に笑顔を見せて「大丈夫だから」と言い残してから俺はうずめに手を引かれる形でうずめ達の部屋に向かうのであった。

黒猫王の城には黒猫王や、ミルフィー、うずめ達以外の使用人はおらず。俺とミルフィー、そして、うずめだけが生活をしていた。俺は正直な所。二人だけでもいいと思っていたがうずめに言われれば断るわけには行かず、それに、うずめがいればミルフィーが拗ねるので。

俺は二人きりになる時間を作らずにいたのだが。うずめから「ハル君は、もう少しだけミルちゃんと二人っきりになってあげても良くないかな?」と言われると俺としては断りにくく。結局うずめの言葉通りになってしまった。そして、夜は三人での就寝となり俺とうずめは手を繋いで眠りにつき、俺はミルフィーと眠ることになるのだが、いつものようにミルフィーが俺にしがみつくような形で眠りについたので、朝起きてみると、俺の足はミルフィーの体に挟まれていて抜けなくなっていた。

その事に気づいた俺は、うずめに相談してみることにしたのだ。うずめが俺の足をミルフィーの下から抜き出す作業を始めてくれていると。ミルフィーが起きて、ミルフィーと二人揃って、うずめに感謝の念を伝えた後、朝食を食べてから。俺とミルフィーは天猫の城を散策して、俺はこの世界の武器が見たいと言うと、うずめが、「え?なんで?」と言うが俺はその理由を話す。

うずめさんが、この世界には無いはずの『大鎌』を使っていたからだと言うと。「そう言えばそうでした」とあっさり認めてくれた。うずめさんはこの世界では珍しい刀を使っているのだ。そして俺はミルフィーが持っていた短剣を借りる事になり。そして俺はミルフィーと共に部屋を出てうずめさんの元へと向かうと。そこには黒猫王が待っていてくれた。

黒猫王は俺とうずめを見て「どうされましたか?まさか何か問題がありましたか」と言われ。ミルフィーは「え?うずめさんってば。何も言ってないんですかぁ。うずめさんの事が大好きって。ミルフィーが言ったんですよ」と言うと黒猫王が顔を真っ赤にさせて「な、何てことを言うんですか!」と叫んだ。

その言葉を聞いたうずめさんは、少し照れくさそうにして「そっか。私の事好きって言ってくれるの」と言い、そして「ミルちゃんありがとう。私もう、ミルちゃんの事離さないから。絶対に幸せにするよ」と言ってミルフィーの体を引き寄せる。その行為を見た黒豹王が慌てて「ちょっと、ハルとミルフィーは私の大事な家族なんですか。勝手にそんな事されたら困りますよぉ」と少し慌てた感じに言ってくるので、俺は、黒豹王に近寄るとうずめさんは「え?」と言って俺を見つめてくるが、俺の行動が気になってるようだ。俺と黒豹王の間に空間が生まれないように手を入れて抱き寄せると。俺は黒豹王にキスをする。黒豹王は驚いていたが、次第に受け入れてくれた。黒豹王との接吻が終わって。うずめの方を見ると固まっていた。そして俺に抱きしめられていた黒豹王は「えっと。ハルさん?いきなり何をするんですかね?」と言われてしまう。俺は、ミルフィーとうずめの事を幸せにしてくれるお礼だと答えると、黒豹王は、「あぁ。なるほど」と言った。

うずめが、「ミルちゃんだけずるい」と言ってくるので、俺は、「わかった。うずめも幸せにするよ」と言いながら。俺は、ミルフィーと黒豹王の三人にキスをし終わると。ミルフィーとうずめが俺の手を取り引っ張るので。ミルフィーとうずめに連れられて俺はうずめが普段使っているであろう部屋に向かい。そして俺とうずめが二人だけでいる時間を作るとミルフィーは黒豹王と部屋に戻ろうとするので、黒豹王が「ミルフィー」と言って止めようとしたら、ミルフィーは「クロちゃん邪魔しないでね。私はもう大人なんだよ。いつまでも甘えん坊じゃ無いんだよ」と言うと黒豹王はそれを聞いて、なぜか俺に向かって頭を下げて謝り始めて、それからミルフィーと一緒に戻って行くのだった。

「うーん」と黒豹王が頭をかきながら、「どうもあの子は苦手なんですよねぇ。普段はしっかり者のお嬢様なのにハルの前になると、なんか幼くなるんですよ。まるで子供に戻ったかのように、あれじゃまるで恋する乙女ですわ」と言われ。俺は「ううん。それはきっと違うよ。俺にはミルフィとうずめさんがどんな関係なのかはわからないけど。あの二人は互いに思い合ってるようにしか見えないんだけどね」と答えると、「それは違いませんね。お二人が幸せになれば良いと思います」と言われて、俺とミルフィーの事を思って黒猫王は言ってくれているので、俺は、感謝の気持ちでいっぱいになった。

俺は黒猫王に「本当にありがとう。黒猫王にはとても良くしてもらったから、何かお返しができたら良いんだけど」と言うと黒猫王は俺に近づいて俺を抱きしめるのであった。

俺は黒猫王とミルフィーの二人に天猫の城の散策を任せると言って一人城の外へ出る。そして、城から出てから。天魔族の気配を探すとやはりこの城の付近に居るようであった。なので俺は城の最上階へと移動し窓から城の外の様子を見る。俺の目に飛び込んできた光景とは、魔物に襲われ逃げ惑う人間達の姿が見えたのだ。その数は数十人程度で俺にとってはそこまで脅威では無かったが、問題はその後の天魔族だ。

俺はこの世界に来てから天月を倒そうと何度も天魔族と対峙してきたのだが、全て失敗してきている。だから今回は必ず倒す為に、俺はうずめ達と天猫の城に残してきたのだ。

俺はすぐにうずめに連絡を取ってみると、黒猫王も一緒に行動しているらしく、うずめ達は、黒猫王の作った転移装置を使って黒豹王達が待つ部屋に移動する事にした。うずめも黒猫王も既に戦闘準備を終えていたのには驚きで、ミルフィーと黒豹王達は天月の配下の魔物達を倒していたらしい。

そして天猫城に戻り俺とうずめは天猫の魔王とミルフィーと合流すると、天猫の魔王は天月に対して戦いを挑んだが天月の攻撃魔法の前にあっけなくやられてしまうのであった。

うずめさんは、天月に負けるはずが無く天月を倒すと言い、俺とうずめさんは天猫城の最上階に居た天魔族の元に駆け寄る。すると、そこには天魔族だけではなく黒魔族までもいた。黒魔族は俺とミルフィー、それにうずめさんの3人を見てから「また会える日が来ると思っていましたが。こうやって会うのは初めてですわね」と言い放つ。すると黒魔族の言葉に反応する黒豹王が、「貴女は、まさか!?生きていたんですか?」と声を上げる。黒豹王の表情は明らかに驚いていて動揺をしているのが分かる。

黒豹王の態度を見てうずめさんは「黒猫君どうしたの?」と心配そうな声で問いかける。俺とミルフィーが黙って見ていると。ミルフィーと黒豹王の視線があったのだがミルフィーの表情からは「えっ?えぇ~が知ってる黒魔族の人が生きてるんですか?しかも敵として出てきてますよ」と言っている。それに対して俺はミルフィーが持っている短剣の柄の部分から「ええ。間違いありません。彼女は私の師匠ですよ。でもどうして?私だって最初は分かりませんでしたよ。何でこんな所に」と困惑した感じの声を出すので、うずめさんは「ミルちゃんどう言うことなの?」と聞き。俺は黒魔族とミルフィーの間に割り込み「とりあえず、うずめは下がってて。俺が戦うから」と言うとミルフィーは俺の後ろで怯えながらも短剣の鞘から刃を抜いていた。そして俺と黒猫王の二人の視線が再び重なると俺の体は勝手に動き出して構えに入るのである。

俺は無意識の内に身体強化を使い始めていて、そのせいで俺は全身から血を吹き出していて。そして俺は天猫王の攻撃をまともに受けてしまい、俺の視界は真っ暗になるのだった。その俺の姿を見ていたミルフィーが「嘘でしょう?ハル君」と言う言葉が聞こえると俺の手は震えだす。俺にトドメの一撃を与えようとする天猫王の一撃を止めるべく俺は天月の体にしがみつくと。

俺の行動を見たミルフィーが黒豹王に抱きつくのだが黒豹王はそれを拒んでミルフィーを引き剥がすのだ。俺が倒れても天猫王が止まる訳は無く俺は、天猫王の腕を掴み攻撃を阻止するが、俺の体がどんどん冷たくなっていくのを感じている間に意識を失うのだった。

気がついた時、俺の前に黒豹王と黒猫姫の姿があって俺は、どうなってるのか理解出来ずにいたが。うずめさんの姿を見て思い出す。そうだ、黒魔族は生きていた。それで黒猫王が何か言ってるのだけど黒豹王がそれを遮っているのか、黒猫姫と何かを話している。

俺は起き上がると体を動かそうとすると何故か動かないことに驚く。そんな状況なのにうずめさんは何も言わずに俺の事を見つめていたのであった。その瞳はいつもの明るい物ではなくとても寂しげな目つきで見られている気がしていた。その目は何かを耐えているようで、そんなうずめを見てると、心の底から守ってあげたいという気持ちになって来るのだった。その俺とミルフィーを見た黒豹王が「えっと。説明したいのですが今はそんな場合じゃないんですよ」と言うので俺とミルフィーが黒豹王の話を聞いて納得をする。うずめは黒豹王の後ろに控えて話を聞いていたが。

俺とミルフィーと天馬族の三人は黒豹王に連れられ、転移で移動する事になった。俺の怪我は黒豹王が回復魔法をかけてくれたらしくて俺の体の傷が癒えたのを確認した後、俺はうずめの手を握ってうずめも俺も互いに何も話さず無言のまま天猫の城の外に飛び出すのであった。うずめに手を引かれて俺は走りながらうずめに声をかけようとしたが、どうしても俺の心の中にある不安な気持ちを拭いきれずに。俺もうずめの事を呼べなかった。そうこうしているうちに黒豹王が作った転移の装置の場所に到着する。

うずめは、その装置を目にしてから、俺の方をチラリと見て「この装置はどこに繋がっているのかな?」と呟き。俺はそのうずめを見て「多分。天月の居城の近くにあるはずだから天月の所だよ」と俺が答えると。うずめは「うん。そうだよね」とだけ答えて、それ以上は何の反応も示さなかった。

それから俺はうずめの手を引いて黒豹王が転移した先に一緒についていくと、そこは黒魔族の住む国だった。俺は、黒魔族の気配を探り、すぐに黒魔族を探し始めると。黒魔族の気配を直ぐに見つけることが出来たので黒魔族の元に向かうと、そこにはまだ子供と言える少女と青年がいたので、うずめと黒豹王は、天魔族の二人に警戒しながら、近づこうとしているのだが。黒猫王は俺とミルフィーを連れてその場を離れるのだった。

俺とうずめと黒猫王は天月のいる場所に転移する事が出来たので俺はすぐに転移先の様子を見てみると。そこには俺とうずめはミルフィー達と一緒にいた天月と黒猫王とうずめが戦っていた時の服装と同じ姿の少女が一人と、黒豹王とうずめが天月に攻撃を仕掛けている姿が目に飛び込んで来た。そして天月のそばにもう一人黒猫族のような服を着た少年がいる事を確認する。俺達が転移してくると。天月は黒猫王に俺とうずめへの攻撃をやめさせ。その少女に向かって話しかける。

「やっと会えましたね。ハルカ。うずめさん。黒猫王さんにミルフィー」

俺もミルフィーもその天月の言葉で俺達はここに来るまでに考えていた予想が確信に変わるのだった。俺達の知っている天月と黒猫王が天月の目の前に居たのだ。天猫は天月の呼びかけに答えずに天月に攻撃を仕掛けるのだが。天月は黒猫王に命令してうずめとミルフィーを攻撃しようとするが、天月の攻撃を止めた黒魔族の少女が天月に語りかける。

「天月、貴方にお父様と兄さま達の仇を討つ為に来たの。でも。その前に。私を殺せる?お姉様にも私は倒せなかったの。今の私の魔力量なら貴女を倒すことはできるはずよ」

「いいでしょう。私も全力を出して戦ってあげるから。覚悟するのね。それに。そっちにいるのがハルさんとうずめさんですね。貴女達が生きている事は想定外ですが。私の邪魔をして良いと思ってるんですか?」

天月の問いに対して俺はミルフィーとうずめと視線を合わせる。うずめは、黒猫王達と共に少し離れた所に待機してもらい。俺はミルフィーとうずめは二人で黒魔族の少女を守るように指示を出す。するとミルフィーが「大丈夫なの?」と言うと。俺は「この程度の敵にはやられないから。それより、二人は黒猫君とうずめを頼んだよ」と笑顔で返す。

俺がうなずくとうずめとミルフィーがうなずいて「分かりました。頑張ってくださいね」と言うので俺もミルフィーの頭に手を乗せて、「じゃあ。行ってくるね」と言ってうずめに手を伸ばして握ったままで黒魔族の元へ急ぐ。黒猫王は俺に何か言いたげにしているが、俺はそれを無視して天月に攻撃を仕掛けに行く。

天猫が黒猫王に襲いかかろうとしていたため、俺は急いで黒猫姫の元に向かい「こいつを何とかしないと」と思い。俺は天猫の腹に思いっきり蹴りを入れようとした時に俺の横から突然炎が飛び散って行く。俺は驚きその飛んできた方向に目を向けると。そこには天月の妹を名乗る黒猫姫の姿が有って。

「ちょっと待ってよー私を置いてくなんて酷いじゃん。天月君と黒猫ちゃん。それに天猫まで来てるし。これは私も本気でやらないといけない感じだね」

俺が呆然と黒猫姫の方を見ていると黒猫姫が俺と天月の戦いを見ている黒魔族と天猫に話しかけていた。

「皆んな下がってて。これから私が戦うから」

黒猫姫が言うと黒猫族達が離れるのを確認した後に黒猫姫が俺に向かって口を開く。

「ねぇ。君。さっき黒猫君と話してたのは、本当なの?君が死んだって言う話?それとも天猫が生きてるって言う話?その話。私にも教えてくれないかしら?もし本当の事だったとしても、その話を聞いてどうするか決めようと思ったから、その話を聞かせて欲しいんだけど」

俺はその質問を聞いて一瞬考えるが、俺にとってどちらでも良い話だと思い、別に聞かれても問題は無いと考え俺は話すことにした。

俺は黒猫姫に、天月が言ったことを簡単に説明した後。

俺の知る天月の事も話し終えると黒猫姫はその説明を聞いて、天月が俺の言っていることを信じていると理解した上で、黒猫王は天月に黒猫族の生き残りである黒猫姫を差し出していた。黒猫姫の話を聞いた黒猫王も天猫に自分が生き残っている黒猫姫を引き渡していた。

そして黒猫姫は天月が黒猫姫が生きていた事を知らなかったことに驚いた表情を浮かべていた。しかし。そんな黒猫王を見て黒猫は黒猫王に近づいていく。黒猫姫と黒猫王が何をしているのか、俺には見えなかったが。

天月は黒猫が天月に近づき、天月に話しかけると天月は、天猫と戦うのを止めて天猫も戦闘を終わらせてしまう。俺はそんな光景を見て「どうなっているんだ?」と呟いていたが、その呟きを聞いた黒魔族の黒魔族の一人は、俺の近くに来ていて。「魔王陛下の御前なので、言葉は気をつけた方がいいと思いますよ」と小声で言ってきたので俺は慌てて謝る。俺は、黒魔族の少女を、うっかりと殺してしまった時のために。俺の中で眠る『魔導士の勇者スキル』のもう一つの人格であるもう一人の人格である女の子の名前を呼ぶ事にした。俺は黒魔族の少女を見ながら黒魔族の黒猫王に聞く。

俺は天月達に見つからないように黒魔族達の会話に聞き耳を立てながら状況を把握しようと努めるのである。

黒猫王が俺に忠告してくれた黒魔族の少女は俺の方をチラリと見た後で黒魔族の方へと走って戻っていく。俺は黒魔族の少女の後を追うようにして歩いて行ったのだが。俺のうしろを誰かがついてくる気配を感じたので振り返ろうとすると「おい。動くな」と男の声が聞こえて。後ろを振り向くと短剣を持った男達がいた。俺は「お前らは一体誰なんだ?」と問いかけるが、男達は答えなかった為、俺はとりあえず無視をすることにした。

黒猫王に話しかけられた天月は、うずめとミルフィーの事を確認すると、黒猫姫と黒猫王に指示を出していた。

黒猫王は黒猫姫と一緒に俺の方に近づいてきて俺の腕を取ると、その腕を引っ張るような形で歩き出すのであった。

天月は天猫と戦い始めて、天月とうずめは二人共戦いに夢中になってしまっている為、ミルフィーは天猫の側にいる黒猫族の少女の護衛をしていた。ミルフィーに近づいた男はうずめに視線を移していたがその視線に気づくものはいなかった。なぜなら、その男はうずくめに見惚れていたからだ。

「なぁ、あんた名前は何ていう名前なんだい?」

男がミルフィーに名前を尋ねてきたので、その質問に答えようとしたのだが。俺はうずくめとの思い出を思い返して「あれ?」と思うと。俺はうずくめのフルネームを知らないことに気づいたのだった。そこで俺は自分の名前をミルフィーに伝えるのだが、ミルフィーの苗字が分からなかった為に、ミルフィーと呼ぶしかなかったのだ。

俺がミルフィーに話しかけているのを見たミルフィーを見ている黒豹王の目は鋭くなっていたが。俺はミルフィーに天月達には見えないように合図を送ってミルフィーとうずめに警戒をするように指示を出す。

俺はミルフィーとうずめに視線を送るとうずめとミルフィーはコクリとうなずいたのを確認してから。天月に視線を移すと。

「黒猫君は相変わらず可愛いな。お兄さんと一緒に行こうか」

そう言うと黒猫王もミルフィーに視線を向けた後。

「天月様。お姉様のことはお任せ下さい」

天月はミルフィーとうずめに天月の配下になる意思を伝えたのだ。だが、黒猫王は天月の言葉をすぐに信用できなかったのだが。天月はミルフィーとうずめを黒猫王と黒猫姫の元に向かわせて、ミルフィーとミルフィーについていった黒猫王に天月が近づくと黒猫王が「天月様にお父様達のお命をお助け頂いたこと、誠に感謝しております」と言って頭を下げたのだ。黒猫姫も黒猫王にならうようにして頭を下げると天月が「うん」と言って二人の肩に手を乗せると二人は涙を流し始めるのである。そして、天月に天猫を託された二人はその場を離れようとすると。黒猫姫と黒猫王が何かに気づいたらしく。

「「危ない!」」

二人は天月に飛びかかり、天月と俺が居る方向に手を伸ばすとそこから魔法陣のようなものが出現し、そこから炎が放たれたので、俺は急いでミルフィーの手を掴んで引き寄せると、そのまま炎を避けることができたが。

ミルフィーとうずめもミルフィーが引っ張ってくれたために何とか避けられたようだ。ただ。その魔法を放ったであろう少女は炎を気にすることなく天月に向かって突進していった。

「よくも、私を騙してくれたな」

少女はそう言いながら天月に近づくとその少女に天月が抱きついたのだった。すると天月が抱きつかれた瞬間。その衝撃によってその少女を中心に爆発が起き、その爆風が収まると、そこには黒焦げになった天猫の姿があったのだった。

その姿を見て、俺はうずくめが殺されたときの事を思い出して俺は天猫に攻撃しようとしたのだが。黒猫姫が俺に「やめなさい」と言って俺を止めると黒猫王は黒猫姫が黒猫族に使った封印の呪法を解くための呪文を唱えるのである。すると。天月の姿が変わっていき、その姿が変わり終える前に、黒猫姫に黒猫族の二人が天月に近づこうとしたが、俺は黒猫族に待ったをかけたのである。そして天月の姿が変わったところで、俺はその少女に対して「お前はうずくめの何を知ってるんだ!」と叫び。俺が「答えろよ」と言うと天月の身体が変化していき少女に変身していく。そして天月が目を開け、俺を見てくるが、俺は天月に「どうして、うずくめの本名を言わなかったんだよ」と聞いてみたのだが天月は俺の問いかけに反応を示さなかったのである。天月は俺を無視して、天月の前に立つ天猫を指差すと言った。

「私の妹よ。この子が黒猫族よ」

黒猫姫は黒猫族に向かって「あなた達の名前は?」と問いかけると、黒猫族は戸惑っている様子を見せたが。黒猫族の一人は黒猫姫に向かって「私は黒猫です。こちらは姉の黒猫です」と名乗ると。

天月が黒猫族の元に向かうと天月はミルフィーとうずめを連れて黒猫姫達から離れて行くのだった。黒猫姫が天月に近づこうとするが。その行く手にもう一人の魔王が現れた。魔王の姿を見て俺は黒猫王に小声で話し掛けるのであった。

(なぁ。黒猫の姫ちゃんってさ魔王の側近なんだろ?じゃあなんでこんな所に来たんだよ)

魔王の側近である魔王軍幹部達がここに来るなんて。魔王軍の兵士達は何やってるんだ? 俺は疑問に思ったのだが、そんな俺に魔王が話しかけて来たのだが。魔王からとんでもない一言を聞かされるのである。俺がその言葉に驚きつつも、「マジで言ってんのか?そんなの許される訳ねぇだろう」と言っている俺に。

「まあまあその怒りを抑えな。今はまだその時じゃないってことさ。君にもわかるだろ?そんな事は些細な問題なのかもしれないが。それを決める権利を持っている奴は今は居ない。そうだね。天邪鬼。いや、魔猫の姫さん?」と天月に声をかけたのである。

その呼びかけに反応して黒猫姫が振り向くと、そこには、いつの間にか魔猫の姿になりかけていた天月とミルフィーとうずめが居た。黒猫姫が魔王をキッとした目つきで睨む。俺はその光景を見て「ちょっとまずいんじゃないか?」と心配するが、俺はその言葉を口にした瞬間、黒猫姫の強烈な殺気をくらってしまう。

黒猫姫のその殺気はあまりにも凄まじかったので俺は恐怖を感じると黒猫の瞳の力が解放されてしまうのである。その光景を見て魔王は笑い始めた。その声を聞いた俺達は魔王を見ると、魔王は笑っていたのである。魔王が「いやぁ、ごめんごめん。君の実力はわかっていたつもりだったけど。まさかそこまでとはね」と言い、黒猫姫に近づいて黒猫姫に話しかけるのである。

「魔猫族。お前の魔導士の力はもう使えない筈だ。それは私が封じたのだからな。どうする?」

黒猫姫は、その言葉を聞いて黒猫に姿を変えていくと「くっ」と呟くと俺の方を見る。黒猫の姿に変わると同時に天月を魔導士の魔眼の力で石に変えると、ミルフィーとうずめに攻撃を仕掛けるのだった。だが、うずめはなんとか黒猫姫の攻撃を防ぐことに成功するとミルフィーとうずめが「「ミルフィー!うずめさん!大丈夫!」」と二人を呼ぶと、ミルフィーが黒猫に近づいて話しかけるのである。

「貴方がうずめさんのお姉様ですか?」

その問いかけに、うずめは「違うわ。うずめの姉はもっと美しかったし強かったの。それにうずめはお兄様の妹なのよ。私にお兄様の側にいて、うずめを守るように頼んできたお兄様の側にいるために、私はこの姿になったの」と答えると。

ミルフィーは「でもお兄様と離れてしまってもいいんですか?」と言うと黒猫姫の顔色が変わる。

ミルフィーの問いかけにうずめも答えると「えっとね。うーん。よくわからない。だけど。お兄様と一緒にいる方が幸せなの」と答えた。そして、黒猫の姫に話しかける。

「貴方に聞きたい事があるんだけど。天月と天猫の二人は兄妹なのよね」

「うん。天猫と天月は私の大切な家族なの。天月と天猫と一緒にずっと暮らす事が私の願いだったの。それが私の生きる意味だった。でも天猫は死んじゃったの。私と天月を残して。あの二人は死んだ後になっても仲が良かったから、天国で幸せになって欲しいな」

「天猫の本名はうずめって言うんだ」

黒猫が黒猫姫の姿に戻る。黒猫姫のその言葉を聞きうずめは黒猫の姿のまま、黒猫姫の肩を掴み。

「うずめは生きてるよ」と言う。すると黒猫は驚いた表情をするとうずめの手を握る。

「うずめ、貴女がうずめ?」と。

すると黒猫姫とうずめは黒猫の姿に戻り「お姉様。私はうずめですよ。ただ私は死んでいないだけで。魂だけが別の身体に乗り移ってしまっただけなのです」と言って。黒猫姫とうずめにミルフィーとうずめの四人で抱き合って泣いてしまうのだった。それを見ていた俺と黒猫王と黒猫王の元に集まってきた魔物達もその光景を見ていると。俺達に近づいてくる者達が現れるのである。そして俺はミルフィー達と離れた隙に天月に近づこうとしたのである。だが、俺は魔王に邪魔をされて、天月に近づくことができない。

そして俺はミルフィー達のところに行き、魔王と黒猫姫の会話に耳を傾けるのだった。ミルフィーとうずめが俺に話しかけてくる。うずめが「あの人誰?怖いのかな?天月の匂いがする」と言ったのだ。そしてミルフィーとうずめは天月とミルフィーが戦っている場所に俺を連れていくのだった。そこには俺の知らない人達が居て天月と戦おうとしていた。天月が剣で攻撃を受け止めるとそこにいた女の子に話掛けられる。

「天邪鬼さん、その子の相手をお願いします。私達は天月と戦います」

天月に天邪鬼さんと呼ばれた少女が俺に向かって「お前もこっち側に来るなら、天月は渡さないぞ」と言って俺に襲いかかってきた。俺に向かって炎の玉を投げつけると俺はそれを何とか避けたが、俺の背後に立っていた黒猫王は炎を避けることができずに燃えてしまうのである。黒猫王が燃えながら倒れる姿をみて。俺は動揺してしまう。その少女が黒猫姫だと気づくまで時間がかかったが、黒猫姫の姿を確認して。俺は少女と戦う事になった。

その戦いの最中にうずめは黒猫姫の元に行くのだが。うずめの身体には魔人の呪印と呼ばれる呪いがかけられており身体が動かない状態になっていた。そんな状況になっているうずめをみた黒猫姫は自分の首に巻いていた黒いマフラーを外すとその赤い瞳を使って呪縛を解くと自分の首にそのマフラーを巻きつけると俺と、もう一人の魔人が戦う場に向かうのである。

もう一人の男との戦いに苦戦をしている黒猫姫と、うずめのところに駆けつけた俺だったが、その時。もう一人の男が、突然、黒豹の姿に変化する。その姿を見てうずめが「あっ。あなたがお兄ちゃんの知り合い?天月が呼んでるよ。だから一緒に行こうよ。みんなで天月に会いに行こうよ」と言い出す。だが。男は「それはできない。俺が行けばあいつは悲しむから」と言い。俺に襲い掛かってくる。その攻撃に対して黒猫の瞳を使った防御をしたが、防ぎきる事ができずに吹き飛ばされてしまった。

黒猫姫とうずめは、俺のその姿を見て「天月。うずめが治してあげる」と言い。天月に近づいて、その手を天月の額に当てたのだった。黒猫姫の両手から淡い緑色の光が放たれたのを確認すると。

黒猫姫とうずめは「うずめとお兄ちゃん。天月と三人で暮らす」と天月に話しかける。

天月が俺の所に近づいてくる。天月と天邪鬼の戦いを俺が見ていると。ミルフィーとうずめが「お疲れ様です。貴方に一つ伝えなければいけないことがあるのですが。うずめさんは天月の妹じゃないんですよ。本当のうずめさんの事をお話ししたいと思います。うずめさんと黒猫姫の話は少し聞いた事があったでしょうが。天猫の話は聞いていますか?」と言って、うずめは自分が元々は黒猫族の王族の人間であり、うずめという名前を授かる前の本来の名前で天音と呼ばれていた。彼女は双子の妹として黒猫族に生まれた黒猫姫と暮らしていた。黒猫族は生まれた時に与えられる名とは別に。個人の名前があり、うずめという名前は彼女の母親の真琴が付けたのである。

その話を聞くと、うずめが黒猫の姿に変身する。黒猫姫のうずめと同じで黒猫に変化したうずめは「うずめも魔猫族なんだ。だけど魔獣に変化した姿の時は黒猫姫って呼ばれているけどね」と言う。

そしてうずめとミルフィーは黒猫姫の方を振り向くと「うずめは、この姿に変わってしまったけれど。黒猫姫の事が好き。だから黒猫姫はうずめにとって大切な人なの」と言って黒猫姫とうずめと黒猫王の方に向かい歩いていった。そのうずめを見てミルフィーと黒猫姫とうずめと黒猫王の4人で、なにやら話し合いを始めてしまう。俺はその様子を見て。「一体、なんの話をしてるんだ?」と思わず呟くと。ミルフィー達が「今はまだ何も話す事が出来ないんです。ごめんなさい。貴方には知っておいてもらいたい事があるんです」と黒猫王が言うと黒猫姫もうなずくのだった。俺は、ミルフィーとうずめと黒猫王に何が起こったのか気になりはしたが。今は魔王と戦っている黒猫姫とうずめの元に駆け寄るのである。

魔王の魔力によって操られた人達を相手にしているミルフィーとうずめ。天猫の姿に変化をした黒猫はミルフィーとうずめの元へ急いでいるが、なかなか近づけずにいたが、天邪鬼が黒猫の行く道を塞ぐのであった。そしてミルフィーとうずめは、操られている兵士達と戦闘を開始する。そしてうずめは、魔王の攻撃からミルフィーを守る為に魔王に攻撃を仕掛けるが魔王の魔力によりうずめの動きは鈍くなるのである。

そのうずめに黒猫姫が「うずめ!この姿なら貴方を助けれる!」と言うと魔猫姫とうずめは元の姿に戻り黒猫姫とうずめは黒猫に姿を変えると黒猫姫とうずめと黒猫王は黒猫姿の天月の元にたどり着く。黒猫姫とうずめが黒猫の姿で黒猫姫に近づいて来ると黒猫姫の身体に触れようとしてきたのである。だが、うずめとミルフィーはその黒猫に攻撃されそうになるとミルフィーが魔法で作り出した盾にうずめと一緒に隠れるのだった。だが。ミルフィーとうずめの前に立ちはだかった黒猫姫と黒猫王だったが、魔王が二人を攻撃するとミルフィーとうずめは魔王の攻撃を受け止めるのだった。その攻撃を受け止めたミルフィーの背後から天月が現れ魔王に攻撃を仕掛けようとした瞬間。黒猫姫が黒猫の瞳の力を使って、天月の動きを止めると天月に何かを語りかける。すると、天月は「お兄様、うずめは私の命に代えても守り抜きます。私の大切な存在の黒猫姫をよろしくお願いします」と言って。魔王と戦うために黒猫姫の元を離れていく。そして黒猫王はミルフィーの方に視線を向ける。ミルフィーは「私が絶対に守ってみせますから心配しないで下さい。天月と黒猫姫は二人で一つ。天月が死ぬときは私も同時に死にましょう。それが黒猫王とうずめが望んでいる事ですから。さあ、うずめちゃん、行きますよ。この戦いが終わるまでミルフィーがお姉さんが守るからね」と言い。黒猫王と天月を庇うようにしてミルフィーは前に立つのである。そんなミルフィーとうずめの元に、うずめに天月を任せるのだった。

そして天月が魔王と向かい合うと魔王に戦いを挑む。魔王が剣で攻撃するのに対して天月は拳による攻撃を行うと、魔王の持っている大太刀を殴り壊すことに成功する。その光景を見た魔王は動揺して後ろに下がる。天月は剣で追撃を行おうとするが。天邪鬼が天月の足を掴む。その行為に対して天月が天邪鬼の腕を切り落として対処すると。そこに黒猫が天月の目の前に現れると。天月に「お兄ちゃんは休んでいていいよ。うずめが終わらせるから」と言った。その言葉に対して黒猫姫とうずめが黒猫の姿に変化する。天月は天邪鬼と戦い、天猫は黒猫の瞳の力で天邪鬼を操ると黒猫姫が、黒猫の姿になって天邪鬼と戦う。

黒猫姫は黒猫の姿になった事で、さらに強くなったが。天邪鬼の方が一枚上手であり。天猫は苦戦を強いられていた。だが、黒猫は天邪鬼に向かって天月と黒猫はお互いに愛し合っている。黒猫とミルフィーが恋人同士だと。そう言い放つと、天邪鬼が天月に攻撃を行った隙に黒猫姫は天邪鬼に抱きついて拘束をする。

天月はミルフィーと黒猫姫の元に近づくのだが。天邪鬼が、そんな天月の背中に、黒猫の瞳の力で動きが鈍くなった状態で天月の背後に回り込み攻撃を加える。その瞬間。ミルフィーが天月の前に現れると「お兄ちゃんは大丈夫。だから天月はうずめ達の方を見て」と声をかけて天邪鬼に反撃を始める。天邪鬼と黒猫の瞳の力を使いながら戦いを続けるミルフィーだが、天邪鬼がミルフィーの心臓を突き刺そうと剣を胸に突き刺し、そこから大量の血液が流れ始める。だが、その攻撃で倒れることは無く。黒猫が、天月を守るかのように現れると天邪鬼を睨みつける。黒猫は天月を守るために、自分の身を犠牲にして天月を助けるのであった。

黒猫姫と天猫とうずめが黒猫の姿に変わると。黒猫姫は黒猫の姿になる。その光景に天邪鬼は驚愕の表情を浮かべるが、黒猫姫は黒猫の姿のまま天邪鬼に攻撃をしに行く。黒猫は黒猫姫の後ろ姿を見ながら天月に近づき天月に回復薬を渡す。天月はミルフィーと天邪鬼が戦う様子を見ていたが。ミルフィーの胸を黒猫の爪のような物が貫いたのを見て。ミルフィーを助けようと走り出したが天邪鬼に阻止されてしまう。その間にもミルフィーは傷口から血を吹き出し続けており。このままだと出血多量によってミルフィーも命を落としかねない状況になってしまう。

俺はミルフィーと黒猫姫に何があったのか理解できなかった。そして俺は「一体。何があったんだ?」と黒猫に質問をしたのだが「貴方には話さなければならない事が沢山あるけれど、それはまた後で」と話を切られるのである。俺としては一刻も早くミルフィーを助けたかったのでどうにかしたいと考えていたら、うずめが「うずめとお兄様なら、きっとうずめとお兄様なら。うずめとお兄様ならなんとか出来るはずだよ」と言ううずめの声に俺もミルフィーとうずめと黒猫姫が黒猫姫とうずめが天月の為に自分達の命と引き換えにしてまで天月を救う事に必死になっていた姿を思い出すのだった。そこで黒猫姫は黒猫の姿になると。ミルフィーに近づいた。

天月が黒猫に「お前達は一体、なんなんだ」と問いかけると黒猫姫は、「私と黒猫はうずめさん達と同じく、この世界の人間じゃないんですよ。私は貴方と同じ異世界からこの世界にやってきた。でも、その前に。うずめさんのお母さんに殺されて死んだはずの天邪鬼は、うずめさんに殺されたはずだったんです。その記憶は貴方の頭の中にもあったはずですよ。そして天邪鬼の記憶にはミルフィーとうずめさんが黒猫の姿に変化していた事が鮮明に映っていたでしょう。あれは天邪鬼が見ていた映像です。天邪鬼はうずめとミルフィーさんによって、黒猫姫が黒猫の姿になっているのを見た時に思い出したのです」と言うと天邪鬼は納得をして黒猫姫の方を向くのである。

天月は黒猫姫の話を聞き天邪鬼が、うずめとミルフィーを殺した犯人だと言うことを思い出し、うずめとミルフィーに「何故、うずめやミルフィーまで殺したんだ」と問い詰めるがうずめは、自分が天邪鬼を殺せば天邪鬼の中の悪鬼の力を封じる事が出来ると言う事を知っていたので、その目的のためにうずめは天邪鬼を殺しに来たので「うずめに天邪鬼を殺す理由なんてないんだよ」と言い張るのである。

黒猫が天月に「天月、うずめさんが言っていることは本当だよ。うずめさんのお父さんとミルフィーちゃんは、私と天邪鬼に命を賭けて守ってもらったんだよ。うずめさんが天邪鬼を倒すために」と言ったのを聞いて。天月は、この場で黒猫が天月に対して嘘をつくメリットがないことを理解するのであった。うずめはミルフィーにうずめの持っている全ての魔素を譲渡するとミルフィーが黒猫姿に変化する。その姿を確認した黒猫姫とうずめが天月の前に来ると。天月は黒猫姫とうずめを抱き寄せるのだった。そしてうずめが黒猫姫に何かを伝えると、二人はミルフィーと黒猫姿に変化し黒猫は天月の頭を抱きしめたのであった。

天邪鬼が黒猫姫と黒猫に「何故?黒猫は僕に殺されたんじゃ」と言うと黒猫姫は「そう、うずめちゃんが天邪鬼君が操られているのに気付いた時、うずめちゃんは私をかばってくれようとした。だけどうずめちゃんの身体能力じゃ。天邪鬼君のスピードには勝てなかった。天邪鬼君は、私達を本気で殺す気だったと思う。だから天邪鬼君はうずめちゃんを気絶させて。その後うずめちゃんに止めをさそうとしたんだけど。うずめちゃんは、私が殺されると思ったみたいで、私と天邪鬼君の中にあったうずめとうずめ姫が繋がっている感覚を使って、うずめが天邪鬼と入れ替わっていた事に天邪鬼君が気付かないように、天邪鬼が意識を取り戻した時には既に天月が目の前にいて。そして私が天邪鬼君の胸に黒猫姫とうずめが姿を変えた状態で天月の心臓を貫いていた。それが真相なの。天月は私達の命と天邪鬼君を止めてくれた。本当に感謝しています。だけど、うずめちゃんの気持ちを考えれば仕方が無い行動だと思うの。うずめちゃんが黒猫姫の姿になったのはうずめちゃんの意思ではなく天邪鬼君の意思によるもの」と黒猫姫が天月に伝えたのである。その話を聞くと天月は、うずめに対して申し訳ない気持ちになり涙があふれ出てきたのであった。

黒猫はミルフィーから天月に対する謝罪と黒猫姫が黒猫姫の本当の正体を告げるのであった。

俺は黒猫姫の言葉に驚きの表情を隠しきれずにいた。だが天月だけは何故か黒猫姫の言葉を聞いただけで黒猫姫が黒猫の姿になった時に見た夢が天月が見ているものだと分かったようだったが、俺は、うずめが天邪鬼と戦っていたという話を聞いたときにうずめが言っていた言葉の意味を知るのであった。だが黒猫は俺が思っている以上に、天月との付き合いが長いようで天月とミルフィーに「うずめちゃんに謝らないといけないのは天月の方よ」と言うと黒猫姫は天月を見つめると、天月は天邪鬼と黒猫の瞳の力を使い続けていたが。突然。うずめの姿に戻ると。「お兄ちゃん」と言い始めるのである。

黒猫はミルフィーとうずめから聞いた話の内容を俺に説明する。うずめは自分の意思ではないとしても、天邪鬼が自分の母親とミルフィーを殺したという記憶があり。自分の中の悪鬼の力に振り回されながら生きていくしかなかったと言うことを俺に話してくれた。だが俺はうずめが天邪鬼を殺してほしかったのではなく。ミルフィーがうずめの代わりに黒猫姫に殺されて欲しかったと言っていた事を思いだすのであった。しかし俺もミルフィーも俺達が出会った頃に天月が黒猫を自分の身を犠牲にして救った話を聞いていたが。まさかその事が裏目に出る事になるとは予想外であり。

俺は天月がミルフィーがうずめが自分を犠牲にした事で自分の母親が自分の父親を殺した犯人であると言う真実に辿り着いたことを知り。天月は今まで、そんな事実を知って、その辛さと悲しみを抱えて、ずっと苦しんでいたのだろうと分かるのだった。俺も天月の側に居ることで天月が苦しみ続けた事を理解できたが。黒猫姫の話ではミルフィーとうずめがミルフィーとうずめの母さんが黒猫の姿に変化した時の事を、うずめが天邪鬼と入れ替わる前の黒猫姫の口から聞いていると。黒猫は俺に話してくれるのであった。そして俺は、うずめと黒猫の二人と初めて会った時に、うずめと黒猫が俺の事を心配して、ミルフィーの居場所を探すのを協力してくれていたことや。うずめが黒猫姫の事を「黒姫さん」と呼ぶように「ミルフィー姫」と呼ばない理由など。俺には分からない部分もあったが。うずめと黒猫の二人と黒猫姫の関係に、少しだけ、疑問が残るのだった。

ミルフィーとうずめは、黒猫姫に天邪鬼が天月とうずめの母親を殺したと聞き動揺を隠せなかったが。その事に気付く前に黒猫姫とうずめが、お互いの命を助け合って助け合い黒猫姫が、天月の父親を殺し。ミルフィーと、うずめと黒猫の三人が命を落とし。その犯人が黒姫と知った上で。ミルフィーとうずめは、その命を賭して天月を守ったのだという事を黒猫から告げられたのである。うずめとミルフィーの二人にとって黒猫は自分達に、その罪を全て押し付けるような形で黒猫姫と入れ替わったのであるから、その事を考えるとミルフィーは心を痛めた。

ミルフィーの事を考えて天月がうずめと天月の母親を殺したという事実を知り。ミルフィーはショックを受けるが。天月を責める事なく「天月のお母さんとミルフィーのお母様が、黒猫姫さんが悪者じゃないっていう事はうずめが一番よく知っている。だってうずめ達は、お母さんとお父様を助けるために。黒猫姫さんを悪者に仕立て上げてしまったんだもん。だから黒猫姫さんに、うずめは直接黒猫姫さんを恨みなんてしていないんだよ」と言ってくれる。

ミルフィーは天月とうずめを庇って天月とうずめが黒猫姫が黒猫姫と入れ替わった時の記憶を思い出している時に。天月とうずめは、ミルフィーの記憶の中に映っていた天月とうずめの姿を見たのである。それを見たミルフィーは。天月とうずめが天月とうずめの母親とミルフィーの父さんの命を救った時の姿を、はっきりと思いだしたのである。ミルフィーは天月とうずめを命を賭けて守った事を天月が忘れない様にミルフィーは二人の命の恩人だという事もミルフィーが伝えると。ミルフィーが天月の事を命を賭けて守ってくれたのは黒猫姫の魂だと黒猫が教えてくれた。そうするとミルフィーは天月に謝り始める。天月とうずめは自分が母親達のために、黒猫姫の人生を狂わせたと思っていたのだ。天月とうずめが黒猫姫に対して、そこまで気を遣う必要はないと黒猫は天月とうずめに対して思うのであった。黒猫の話を聞くとミルフィーとうずめは「でも黒猫姫さんの気持ちを私は考えていなかった」と天月とうずめが黒猫に対して申し訳なさそうな表情をするのであった。

天月とうずめはミルフィーが、うずめに対して黒猫姫に申し訳ないという気持ちを伝えてくれて。うずめと天月は黒猫姫に対して、改めて黒猫姫に感謝の言葉を言ってから天月が黒鉄と入れ替わってからの出来事をミルフィーに話し始めるのである。そしてミルフィーは黒鉄に、この世界の現状を簡単に話し始めた。そしてうずめが「あのね。うずめ達が、これから何をしようとしているかを話すよ。だから黒猫姫ちゃんもうずめ達と一緒に旅に出よう」と黒猫姫を仲間として誘い始めるのであった。

天月がミルフィーに黒鋼になった事で、天月とうずめの母と、ミルフィーとうずめの父親は黒猫に殺されたという真実を知ったことを告げるとミルフィーはうずめ達に「黒猫姫さんは黒猫姫さんの意思で天月とうずめを助けたわけじゃ無いのに。どうして貴方たちは、黒猫姫が黒猫の姿になって私の前に現れてうずめ達を騙すようなことをしていたのかも理解しているはずなのに。どうして天月も、おとうさんとおかあさまの命を助けてくれた黒鉄が黒猫姫の生まれ変わりだと思うことができたの?」

黒猫はミルフィーの言葉を聞いてうなずくだけだった。それはミルフィーとうずめの考えが正しいからだった。だが黒猫はミルフィーのうずめ達の会話を聞く中で、何か引っかかるような感覚を感じ始めていたのである。

そこで天月はミルフィーと別れて、ミルフィーを殺めたと思い込んでしまった自分の母親が本当は死んでいなかった事を知る。そして黒猫が黒猫姫ではなくてミルフィー姫が悪者ではなかった事を理解する。天月とうずめは天月と、うずめがミルフィーの姿を見て。ミルフィーは、うずめが黒姫の正体に気が付いたときに、ミルフィーがミルフィーではなくて黒猫姫だったという事を理解し始めるのであった。うずめと天月の二人は黒猫姫にミルフィーは悪者ではないのに、何故、黒猫姫の身体に入り込んだ黒猫姫の姿になったのか?その本当の目的について聞くが、答えてくれる気配がなかった。

うずめと天月には話せない理由があると言うがうずめと天月はそのことについて疑問を感じるものの、それ以上追及しようとしなかったのだが、ミルフィーは二人を諭すと。二人に黒猫姫が自分の母親の事を語ることにするのである。そうしないと二人が前に進めないとミルフィーも思ったからだ 黒猫は自分の事をミルフィーが思い出してくれるのを楽しみにしていたが。ミルフィーが思い出してくれなくて、黒猫は少し悲しくなる。しかしミルフィーと天月うずめは、天月から自分の父親が母親を殺して。その罪をミルフィーとうずめに着せて逃げたという事を知らされるとミルフィーは、すぐに黒鉄が自分の父親だったと分かり始め。そして、うずめも黒猫が天月の父親とミルフィーの夫であることに気付き始めるのであった。

天月から話を聞いたうずめは黒猫に話しかけると「黒猫さんは黒猫姫の体に乗り移っていただけで悪者は居なかったんだね。黒猫姫さんも天月君のお母さんの事を恨んでいないよね。だって黒猫姫さんのお父さんが天月君とうずめちゃんのお父様とお母様を助けようと必死になっていたんだもん」と話す。黒猫は天月が天月とうずめの母の命を救った時に天月と自分の母親が入れ替わったことを思い出す。それから黒猫姫の本意では無かったのだと、天月とうずめに伝えたのである。黒猫の言っていることが全て事実である。

うずめは黒猫姫の魂の宝珠を自分の中に入れると黒猫がミルフィー姫ではないと言う事が分かるのだった。うずめは黒猫の言っている事を信じたくなかったが。しかし、目の前にいる人物が、自分とうずめが知っているミルフィーと同一人物であると理解した。そしてミルフィーが黒猫の肉体に自分の意思を憑依させている事に、ミルフィーが悪者であると信じているうずめは怒りをぶつけてしまうのである。

そんな、うずめの様子を見て天月は、うずめを落ちつかせようとした時。うずめが急に苦しみ出すのだった。そして黒猫姫の口から「天邪鬼に体を乗っ取られそうになったが、私は大丈夫だった。だが私は天月様を死なせるわけにはいかない。だから黒鋼の力を借りて私が天月様を助ける事にした。だからお前に文句を言う資格などない」と言われ。うずめが「うずめは絶対に黒猫姫さんの味方だよ」と言い放つ。うずめはミルフィーに謝罪するのである。すると天月とうずめの前に突然黒猫姫が現れる。天月は黒猫が本当に生きていたことに驚くのであった。そして黒猫姫からミルフィーが、黒猫の身体に意識を移したと説明を受けたのである。天月とうずめはすぐに信じられる話ではなかったので。

天月は自分が知っている黒鉄が黒鋼だと言って黒猫に質問するが。やはり答えてはくれなかったのだ。そんな、うずめの態度を見た天月は、これ以上問い詰めても意味がないと考え始めてミルフィーの事を認め始めたのである。だがそれでもうずめの怒りはおさまらないようで「黒猫姫さんが生き返って良かった。これで黒姫様のお母様も喜んでくれる」と、つぶやくとうずめの表情は笑顔になり安心したのか泣き崩れたのだった。それを見た天月はうずにいに抱きつき慰め始める。

うずめは黒猫姫が生きていると聞いて、黒猫姫は生きているということに喜ぶ。うずめは「うずめは黒猫姫さんの事は嫌いだけど。やっぱり天月君の事を思うと黒猫姫さんの事が許せなくなってくる。黒猫姫さんのせいで、おとうさんとお義母さんが酷い目に合ったと思うと黒猫姫が黒猫姫さんが許せなかった」と口に出した。するとミルフィーの瞳が黒く光ったかと思うと黒猫姫がミルフィーの中にいるという事を天月とうずめに教えるのである。ミルフィーと、うずめは自分達と黒猫姫は違うと説明するが、それを聞いても天月とうずめは、どうしても信じることが出来ないでいたのだ。そしてうずめは天月に「どうして天月君は信じていないのか、その理由はなんとなく想像つくけど。黒猫姫さんが悪者じゃないという証拠がどこにあるのか私には分からないよ。でも私にとって一番の大切な人は黒鉄さんで、私にとっては黒猫姫さんの事は関係ない。それにおとうさんが黒鉄さんだと思って黒猫姫さんが天月君とうずめちゃんの親御さんを助けたのならば、黒猫姫さんの生まれ変わりだという事も認めるよ。でも私は黒猫姫さんの事を許したくない気持ちがあるの」と口にするのであった。

うずめは黒猫の言った言葉の意味を考える。確かに黒猫の身体を借りていたとしても悪者じゃなければ許されるとは思わないけれど。うずめは自分の感情に素直になって。「天月君が言う通り、お姉さんである黒猫姫さんを、私は許しても良いと思ったの。でもね黒猫姫さんが自分の意思ではどうにもならなかったら。黒猫姫さんが悪い事をしても私は、それを責めたりはしない」と話す。

うずめは黒猫姫に対して「どうして黒猫姫さんは、天月君や私達の前に現れる事を避けようとするのか?私達に姿を見せれば済むことなのに、私達に会いに来る事を避けて。それで私達を傷つけるようなことをするのか?黒猫姫さんの事はまだ、完全には信頼できないよ。だっておとうさんとお母さまを殺されたのは黒猫姫さんが黒猫姫さんだったから、そう簡単には信用はできない。だから、もう少し時間がほしいの。うずめ達は、まだ黒猫姫さんのことを完全的には信頼できなくてごめんなさい。そして今度会う時は、黒猫姫が天月君の事を大切に思っていた事を伝えてあげてください。そして天月君は黒猫姫さんを許す事ができなかったのかもしれないけど。黒猫姫は貴方のお父さんと、お母さんを救おうとしていた事を覚えておいて欲しい。そして黒猫姫を許せない気持ちも分かるし。それは仕方のない事だと思うの。うずめ達が、黒猫姫さんに優しくできるのは黒猫姫さんが本当は良い人だと思うからなんだ。でも黒猫姫が黒猫姫である以上、うずめも天月君の事を守るために黒猫姫さんの事を認められないと思う。それが、うずめの正直な今の思いです」と、黒猫に話しかける。

それから天月とうずめが話を始める前に天月がうずめを抱きかかえると黒猫姫に話しかけた。「うずめに会えて良かったですね。俺からもお礼を言います。それと黒鋼がうずめを気にかけている理由は分かりました。黒鋼は貴女と会った時からうずめに惹かれていたのでしょう。だから黒鋼が俺と仲良くなりたがっていると黒猫姫は言っていましたが、それは違いました。きっと、うずめを妹のように思って接しているだけですよ。うずめも気付いているかもしれませんが、うずめが黒鋼と一緒に暮らしているのが羨ましいからでしょう。黒鋼と俺と天月とうずめ、そして白猫の四人で家族になれたら楽しいと思います。まあ、俺は、その家族の事を心の中で応援していきたいです。そして黒豹族の皆も黒豹族が滅びる前に黒鉄と再会させたいと思っているのですが。天猫族は何処にいるのか分かりますか?」と聞くと黒猫は答える「分かります。この国の王と女王に、もしもの時の為に手紙を送ってあるのです。しかし私の力が弱まったせいか天猫族の居場所が分かりにくくなっているのは確かなようです。でも私には天月様がいるので必ず見つけ出します」と答えると天月とうずめが、黒猫姫の事を抱きしめると「うずめちゃんの言うとおりだよ。黒猫姫の事は絶対に黒猫姫の魂を持つ人間だとは認めないけど。黒猫姫が黒猫姫だからという理由で、これからは、ちゃんと黒猫姫の事を受け入れるようにするから安心してね。あと、うずめと黒猫姫の二人も天月とうずめと家族になりたいと言うなら。黒鋼に相談してからにしてください。俺と黒鋼は、まだまだ子供だから親の許可が欲しいから、もし二人の気持ちが変わる事があったら教えてくれ。それならば黒鋼が納得するはずがないからね。それに俺は、もっと色々な事を学びたい。だから黒鋼との婚約も白紙に戻そうと考えているんだ」と口にした。

黒猫は「うずめ殿と天月様に、このような素晴らしい仲間が居るので安心しました。だから、うずめ殿が黒猫を本当に受け入れられるようになった時が来た時。天月様とうずめ様の三人で、どうか、お父上を説得する事を、よろしくお願いします」と返事をすると天月は「もちろん、その時が来てくれたら嬉しいけど、うずめが黒猫を受け入れたとしても、やっぱり、それだけで結婚まで決めることはできない。うずめに、そんな辛い思いをさせたくない。ただ、そうなった時に、もしも許してくれるような相手ならば喜んで黒猫を受け入れようとは思うけど」と天月が答えたのだ。

そして天月から話を聞いた黒猫は「天月様は本当に良い方だと思い知りました。ありがとうございます。黒鋼と二人で話し合いましょう。そして天月様や、うずめ様、そして黒鋼のご両親にも認めて貰えたならば私達は本当の意味で夫婦になれるのでしょうか?」と天月に尋ねると天月が答えて「俺が、まだ幼いという事もあり、今すぐ黒鋼と別れるという事は出来ないから、まず黒鋼と話合って、うずめの両親が俺の事をどう考えているのか確かめてからだね。うずめの両親は俺の事を認めていると思うけど、もしかして俺の事を認める事が出来ずに黒猫姫を妻として迎え入れるかもしれない。そう考えただけで怖いけど。でも俺は頑張って行くつもり」と答えた。それを聞いた黒猫は「天月様、本当に有難う御座います。私は幸せ者です」と言って天月の頬を舐める。すると黒猫の目からは涙が溢れ出るのだった。それをみた天月が「大丈夫?どこか怪我をしているの?」と心配すると。「これは嬉しくて涙を流しているのではありません。貴方に出会えてよかったと喜びの感情の高ぶりと共に泣いているのです」と、黒猫は話す。そして黒猫は続けて天月に「黒鉄は貴方と黒猫姫は、もう結ばれる事はないと言いましたが。それは違う。確かに黒猫姫の生まれ変わりである私達黒猫と天月君は結ばれたけど。私は貴方が好きだという気持ちを消す事ができない。でも私達の想いは成就する事はないだろう。なぜなら私には天月君の子供が産めないから」と天月に対して語り始めたのであった。

うずめは黒猫に対して質問をする「どうして黒猫姫の生まれ変わりは黒猫さんじゃ駄目なのか?黒猫さんじゃなくて黒猫姫さんの事を黒猫さんが受け入れたら、それって黒猫姫さんと、また一緒になれたって事になると思うけど、どうして黒猫さんが天月君と結ばれてはいけないのか、私には理解ができない。それに天月君には、お姉さんがいたんだよ。その人は黒鉄さんの事を愛していたと思う。それに私は天月君を誰にも取られたくないよ。それに、もしかして私が、いつか黒猫さんと結ばれないと言われた意味も分かってしまった気がした。天月君が誰かに取られるのだけは嫌だ」と言った。

それから黒猫姫が、うずめに対して話し始めた「確かに私達は前世で天月君と結ばれる事ができたけれど。それは私に身体が、うずめさんに、この魂が残っていたおかげ。だけど私は、黒猫姫の記憶を取り戻したのだから。今度こそは私は私の好きな人と結んで行きたいと強く思っている。黒猫姫が黒猫の事を嫌いになるわけじゃないよ。黒猫が大好きだと思っている事には間違いないし。ただ、黒猫が、うずめさんが、これから出会う天月さんは、今の私にとって誰よりも大好きだから。黒猫姫と天月君は別の存在だと今は思ってる。黒猫姫の天月君に対する愛情とは、全く違ったものなんだ。天月君は私にとっては黒猫とは違う大切な人だと思う」と言うのであった。

それからうずめに話しかける「うずめちゃんは優しいから、黒鋼の事も助けてくれるのでしょう。黒鋼が天月様と黒猫姫は結ばれることはないと言っている以上は、それは本当だろうけど。黒鋼の心の中では天猫族を滅亡の危機に陥れる魔王を討った英雄であり黒猫姫を殺した勇者の、うずめ様を、とても愛していて天月様に恋心を抱いていた黒猫姫の魂を宿した天月君と一緒になることは望まないかもしれない。それでも天月君が望むのであれば、うずめちゃんが黒鋼と天猫族を説得して。うずめさんが、もしも、その説得に失敗した時は天猫族の王である白龍王にお願いして黒猫姫の事を引き受けてもらう。でも天猫族は私に好意を持ってくれていて私には甘いところがあるから黒猫姫の事を天月君の奥さんに迎えても黒猫姫は殺される事はないと私は思う」と話すと。うずめが黒猫に「もしかして黒鉄は自分が黒猫さんの魂を持っているから黒猫姫と結ばれる事は無いと考えているの?」と尋ねたのである。

すると黒猫は「それは、わからない」と答えると。天月は「俺も黒鉄が、そう考える気持ちは理解できる」と言うのであった。天月の言葉を聞いてうずめが「どうして?」と聞くと天月は答える「俺も、この世界に来た当初は魔族に支配された世界だから。魔族が人間の敵だと思っていて。俺は人間が好きだし人間に悪い奴がいるのなら。そんな人間を倒して平和を取り戻すために頑張ろうと思っていたけど。うずめや、うずめのお兄さんに会って、そして白猫にも会えた。白猫は俺を黒豹族が住んでいる集落まで連れて行ってくれる事を約束してくれた。それに、この世界の事は、まだ良くわかっていないけど。黒豹王国の人々は俺の話を真剣に聞いてくれた。そして俺は黒猫姫と初めて会った時の事は覚えていないんだけど。俺達が戦ってきた敵の魔導士も元は黒鋼や黒兎と同じように、俺と同じ世界で生きていた人達なのかもしれないと思うと、なんか俺が黒鋼の言っている事を全て認めるのは難しいんだ。でも黒猫の事は俺にとっても大事な存在だし、もし彼女が他の人に取られてしまったら凄く辛いと思う。俺も、もしかしたら、そうなったら凄く辛いと思うから。それに俺は黒猫の言うように天猫族は好きではないんだ」と話した。

天月は黒猫と天月は結ばれる事はないと言われて「俺は、そんな事を認めてたまるか」と思い黒猫の手を握りながら黒猫の事を抱きしめた。

それを見た天月が、うずめに「俺と黒猫の事は認めて欲しいけど、もしも黒猫の幸せを壊すような事になったら、その時は容赦しない」と言うと。うずめは天月に話しかけて「私達は、これから黒猫姫の事を受け入れられるか黒鋼と話合ってみる。その結果で黒鋼の考えが変わるとは思えないけど」と答えた。それを聞いた黒猫は「天月様は、やっぱり優しい方だと思いました。黒猫姫は黒鋼が天月様と黒猫姫の事を認めないと言っても。それでも天月様を諦めません。私は天月様の事が、ずっと前から好きでした。そして天月様は私の為に、こんなにも親身になって話してくれました。ですから天月様に私の全てを差し出します。私は、うずめさんと違って身体が大きいのです。だから私が子供を産む事は不可能だと黒鋼は判断したのでしょう。ですから黒猫は、うずめさんの事を、とても可愛いと思います。うずめさんが私の事を好きになっても良いし。でも私は絶対に黒鋼の側から離れない。例え天月君が、私達の敵に回ってしまってもね」と答えたのである。

それを聞いたうずめは天月に抱きつく。すると天月には自分の事を、ここまで想っていてくれる人が、まだ幼い天月に対して黒鋼が自分の娘だという嘘をつくとは考えられない。それに天猫族の王女として誇り高い彼女は自分を犠牲にしてまで誰かを幸せにしようなんて思わないだろうと思う。

うずめは自分の胸に顔を埋める黒猫姫に対して黒猫に問いかけて「私は黒猫さんと、どんな時も一緒に居たいよ。だって私は黒猫さんの事が大好きなんだよ。だから私と一緒になってくれたら私は嬉しい。私は黒猫姫じゃなくて。今はうずめさんだけど。私達は黒猫さんを黒猫さんと呼びたい。だから黒猫さんにお願いがある。私と黒猫さんは親友になれないかなって私は思うの」と天月に話す。

すると黒猫は「ありがとう」と言って、それから続けて「私は今まで友達とか恋人とか欲しいと一度も思った事がなかったけど。うずめちゃんが、そういう気持ちを教えてくれた。本当に感謝する。黒猫の事を好きだという天月君の気持ちは分かる。私も天月君の事を好きだし、私もこの国を守りたいという気持ちもあるけど。私にとって一番大切な事は天月君の事だもん。だから、どうしても黒猫が黒猫姫だという証明がしたいなら私は構わない。天月君との子供を産んでも良いから、それで納得してくれるなら、私は、いつでも受け入れるよ。ただ天月君との間に産む子供の事だけど。その子は天月君の子供であると、ちゃんと認知して欲しい。それだけは守って欲しいの。それと私が黒豹族の王である白龍王の娘である事は忘れないで」と言うと。天月は嬉しく感じていた。なぜなら天月にとっては黒猫姫と自分は結婚出来ないと言われていたからこそ。黒猫に、その事を伝えたのだが。うずめの説得で黒鋼は黒猫姫の事を許そうとしてくれたからである。

天月と黒猫は、それから、この部屋を出て行った。その様子を見ていた黒猫は涙目になっていた。黒鉄に泣きつきたいと黒猫が思っていたら黒鉄が黒猫の前に現れて抱きしめてくれた。

そうして黒猫は、うずめと黒鉄を連れて城の中に入ると。そこには白虎王の姿があり「お主は、やはり天猫族の姫であるのだな。私は、この国が魔族に襲われて滅んでしまった後に。天猫族によって匿われて生き残った者達だ。そして黒猫よ、貴女と天月殿に、これから我が国は救われる。まず、あの御方に会ってくれ」と、黒猫に言うと天猫族が暮らす集落に向かう。

それから集落に行くまでの間に、黒猫姫は天月と自分が、どのように出会ったのかを二人に話すと。その話を聞いた二人は驚く。天月が、まさか自分達と同じように前世の記憶を持っていた事を知るのだった。そこで白銀王が天月を見てから天月に話し掛けて「あなたが勇者様ですね」と尋ねる。

天月は「はい。そう呼ばれています。ですが俺は天猫族の皆に勇者と呼ばれたいんです」と言うと白銀王は天月に、こう言った。「わかりました。では、あなたを、これから天猫王と呼ぶことにします。ところで勇者天月様は、なぜ黒鉄が魔獣化していた時に貴方様の御名前を呼んでいたのですか?」と質問をする。天月は答える。「俺は黒鋼を救おうと思って。俺の力で黒鋼の事を元の状態に戻しました」と天月が答えると。黒猫姫が口を開く「天月様は黒鋼を元の状態で救う事ができる唯一の存在だったのでしょう」と言い出すと白虎王と白銀の王も、その言葉には驚かずに「やはり、そうであったか」と言って。黒鋼が魔獣化する前に何があったかを黒猫姫が語り始めると。その話を聞いた天月は驚いた。それは天月自身も同じ事を考えていたからだ。しかし、どうして魔王は、うずめと白猫が魔人化して天月を殺そうとしていた時に現れなかったのかと天月は疑問に思った。そう考えていると。いつの間にかに黒猫が黒鉄の手を引き「こっちに来て」と言うのであった。

天月は言われるがままに黒猫と、そして黒鉄の後をついて行く。すると洞窟の中で、黒猫姫と天月が出会った場所にたどり着いた。すると黒猫姫が黒鉄に対して「この人が私を助けてくれた勇者様なの」と言ってから二人に説明する。

それを聞いた黒猫が「やっぱり天月様が、そうなんだ。でも黒鋼の事は知らないと思うよ。だって私達の世界にいた天月様とは違うんだから」と話してから。黒猫が天月に説明を行う。「実は黒鋼はね。私の本当のお母さんのお腹の中にいる時から一緒なの。黒鋼の両親は私の両親とは幼馴染みの関係なんだ。黒鋼が生まれた後。私は黒鋼が赤ちゃんの時に一度しか抱っこさせて貰った事がないの。でも、黒猫ちゃんは私に何度も黒鋼を抱きしめて欲しいって言って来たんだよ。でも私も自分の妹みたいな感じの存在だったから、なかなか、その頼みを聞く事は出来なかった。黒猫は私が黒鋼に対して冷たいと思っていると思うけど。黒鋼は凄く甘えん坊で、すぐに私の膝の上に乗ってくるんだよね。私が子供の頃、よく黒鋼に「大きくなったね」って言われたのを覚えている」と語り出したのである。

それを聞いた黒猫は思い出す。黒猫の母は、うずめが生まれる前に病気を患ってしまい。もう長くはない状態になってしまっていた。それを聞いた天月は「俺の親父は医者だったけど。たぶん黒鋼姫は、まだ生まれたばかりだと言っていたよな。もしかしたら黒鋼姫も天月君と、同じく生まれ変わっていたんじゃないか」と言うと。うずめは天月の事を優しく抱きしめる。

黒猫は続けて黒猫姫が天月を好きになった経緯を語り始める。それは天月が黒鋼姫と出会った時と同じ状況だった。その当時、まだ天月は子供であり黒鋼が魔獣化しているとは知らずに黒鋼に、ある事を頼んでから助けようとした。それが黒鋼の事を抱きしめるという行為であった。それを見ていた黒鋼は天月の事を知りたいと思い黒猫に話かけると。黒猫は天月の事を知らないのにも関わらず。まるで自分の弟のように接してきたのだ。そんな事もあって天月は自分が勇者である事を告げるのだった。すると黒猫は天月の事を「私のお兄さんになる人かもしれない」と思ったらしい。天猫族に伝わる話では黒鋼姫は自分が天月に助けられるのだと知っていて天月に自分の全てを捧げる事にしたという。天猫姫から聞いた話を黒鋼に伝えると。天月は嬉しくなる。

そして黒猫の話を聞いていて黒鋼は「もしかして私が、うずめさんの事を姉として認めなかったのは。この世界で、もしもうずめさんが天月君の事を見つけても天月君は天猫族ではなくて人間の女性を選ぶと、わかっていた。だから私は嫉妬してしまったんだよ。ごめんね。本当に私は天猫族の皆が言う通り本当に悪い子だよ」と言ってから泣き出してしまうのである。それから天月と、うずめは黒猫を連れて白虎王の待つ部屋まで向かう。そこで、この世界を救う為の力があるのかを確認すると。黒猫と黒鋼は光輝く水晶玉に触れたが。黒猫だけが弾かれて黒猫だけは別の部屋に行ってしまった。それから、しばらく待っていると。黒猫が部屋から出て来て。それから黒鉄も黒猫と同じように、まったく同じ行動をしたのだが。

やはり結果は、同じで水晶に触れると。黒猫の時と同じように光輝いたが。また弾かれた。

すると白銀王が黒猫に話し掛ける「お主も魔人と化したのか?」と黒猫に問いかけると黒猫は、はっきりと、こう答えたのである。

黒猫が魔人化をしていた事を語ると白銀王は驚いていた。

白虎は黒猫姫に、どういうことなのか問いただしてみると黒猫姫が魔人に変身して魔人の姿で白虎王に襲い掛かったと言う事実が発覚した。その話を聞いた黒猫が慌てて黒猫の所に行くが。その黒猫に、うずめが、抱きついた。

それから天月達は城に戻る。それから数日の間が空くが。天月は、ある日の晩に一人で城の外に居ると。突然に白猫の黒猫が目の前に現れるのだった。

黒猫が急に現れて天月は驚きながらも黒猫に対して質問する。どうして俺の前に現れたんだと天月が口にするが天月の目の前にいる人物は誰なのか分からずに戸惑っている様子で警戒しているようだったのだが。

すると、その様子を見ていて白猫が黒猫の前に姿を見せてから話しかける。そして、それから白虎王は黒猫に対して説明を始めると。それを知った黒猫が涙を流し始めてから、いきなり天月の頬に平手打ちをしたのであった。それから黒猫は「天月は、いつもそうやって勝手に行動するんだから!私は天月と一緒に戦えるように強くなるんだから。絶対に一人だけ楽しないで」と言い出してから天月に泣きつき始める。その事に関して黒猫は白猫に対して謝罪すると。白猫の方は黒猫に対して何も気にしていないようで「私も黒猫姫様に対して、ずっと、このような態度を取っていたから、むしろ謝るのは私です」と口にしていたのである。そうして二人の会話が終わり、それから二人は仲良さげにして一緒に城に戻って行ったのだった その翌日も朝になると黒猫は自分の母親を埋葬して母親の形見となる指輪をお墓に入れてあげていた時に突然に天月が「この国の王様って誰なんだい?」と聞いてくる。そして天月には、その理由を説明するが。それを聞き終わった後で天月は、どうして王様の所在について聞くと。どうやら昨日の話で出てきた王様の名前は「王龍」と言う名前で元々は黒猫の母の両親であった人物だが。魔族の侵攻の際に亡くなってしまったらしくて、その時に生き残った王族の女性と結婚したのが白銀王なのだそうだ。

そこで俺は黒鋼に王の名前が、そのまま国の名前になっていた理由を教えてもらった。なんでも白銀王国では代々の国王は王の名を受け継ぐことになっているのである。そのため、これからも王は白銀王と呼ばれ続けるらしいのだ。ちなみに先代の王である白虎王も王の名は受け継いだようだが。現在は行方不明扱いになっているのだと黒猫が教えてくれたのだった。そうしてから白銀の王が俺に話し掛けてくる「ところで天月よ。お前の両親は何という名だ?もしも両親の事を知っているなら紹介してくれないか?」と尋ねられる。天月は、それに、答えると。「なるほど、それならば仕方がない」と白銀の王は、なぜか残念そうな顔をしていた。

天月は「白虎の奴は、いったい、どこにいるんだろうな」と言うと。それを聞いた黒猫が「あの人の行方が分からないんだ」と言うと。白銀王が「黒猫姫は黒鉄の母親の事が好きか?」と言うと黒猫が恥ずかしそうに「うん。好きだよ」と言うと。

黒鋼が嬉しそうな顔をしながら。「私だって黒猫ちゃんの事、だだ大好きだよ」と言って二人で笑い合う。その様子を見て黒猫が、ほっこりした表情を見せていたのであった。

それから白虎王は、なぜ黒猫姫は黒猫を、すぐに自分の娘に認めてくれなかったのかと気になった。そこで、うずめは「私のお父さんは天月君の事が好きなんですけど。その事で天月君との恋愛を諦めていましたから。きっとお母さんは私が生まれても、もしかしたら私より早く黒猫が生まれるんじゃないかって思って怖かったんじゃないでしょうか」と言う。

白猫の説明で納得する黒猫の父親である白銀王は「それでは今更ではあるが自己紹介をするぞ。私は天月達の世界でいう白銀龍神と呼ばれている存在なのである。それで、うずめの言う通り。私が妻を妊娠させている間に生まれて来た子が黒鋼姫だったのである」と語る。その話を聞いていた黒猫は少し不安になりながら。白猫に尋ねるのである。「えっ!?白銀さんの子供じゃないの?」すると白猫に怒られてしまう。

白銀龍神の年齢は不明であり外見的には十代後半ぐらいの少女に見えるが年齢が不明なため見た目通りではないだろうと言われているらしい。そして俺と天姫が白銀王の城の中に招かれる。

天姫達は天月から白虎王に頼まれた事を、ちゃんと話しておかなければならないと考えていた。それから天月達が謁見の間で待機していると天月が扉を開ける音がしたので、天月達の方に目を向けてみると天月の後ろには白虎の姿があり。

白銀王が座る玉座の横に白虎が立っていたので、とりあえず天月は白銀王の前まで歩くと片膝をつく。すると白虎が白銀王に報告し始める。

そして天月の話を聞いた白銀王は黒鋼と、うずめを見て。うずめが白虎の娘である事に気づくのである。白銀王は二人を見比べている。すると黒猫姫は、とても綺麗だと感じる。そして黒猫姫が自分の母だと知った天姫も驚いていたが黒姫に挨拶を行う。

黒鋼は、まだ天月の正体を知らないために。白銀王に自分の息子と伝えるが。やはり白銀王は驚いてしまうのであった。そして黒鋼は黒猫と、うずめに「私の事は内緒にしていて下さい」とお願いされる。白銀王は、どうして自分の子供に会いたくないのか不思議だった。

白虎の方は「この世界には魔王がいるのですか?まさか、そんな魔王が、こんな所に居るなんて。俺も、まだまだ、みたいだな」と言うと天月が、こちらの世界に来た理由を説明してくれるのだった。それを、うずめと黒鋼が黙って聞いていて天月は、すべて説明を終えた。

そして黒猫は「私が魔族になる前は普通の猫だったんだよ。だけど、その時は普通に暮らしていただけなのにね」と言う。それを聞いて黒虎が「その黒猫ちゃんは、いつから魔族としての力を得たんだい?」と聞くと黒姫が答える。「それが私にも、わからないんだ。でも天月が助けに来てくれた時には私は既に変身した状態で、天月が倒した相手と同じ姿をした姿になってたんだ」と言い出して天月は「そうなのか。そう言えば俺が初めて黒猫を助けた時も、黒猫が変身していたよな。あれも、どうして、ああいう風に変化したのか、わかんないんだよね」と答えると。

それを聞いた白銀王が天月に「その件に関しては、私から、お前達に頼みたい事がある」と言い出すと。それに対して白猫は「何か私達にして貰える事があれば協力しますが。どのような内容なんでしょう」と言うと。天月は白猫の言葉使いが丁寧なので、この場に相応しくないので、もっと気軽に接して欲しいと言う。白猫は「分かりました。天月君」と、いきなり砕けた言葉を使い始めて戸惑ってしまう。そうすると天月が「じゃあ。俺達は友達みたいな関係だから。俺に敬語を使うの禁止な。俺も使うのを止めるから」と言った後に黒猫に話しかけて黒猫に、どう思うかを聞くと。黒猫は、いきなりで戸惑っていたようだった。それから白銀王に対して、どうして自分や黒猫を王城に呼び出したのか尋ねる。すると黒猫が答えてくれたが、それは黒鋼と白猫が白銀の城の外で黒鋼の姿を見ていたら、その姿を見ていた人物が「あいつを捕まえろ!」と言ってきたからで。それから黒鋼に襲い掛かってきた。それを見た黒猫が黒鋼を、かばった結果。その時に黒鋼が黒猫に対して一目惚れしてしまったという経緯が有るからであった。

黒鋼が黒猫の傍に近づいてきて、その話を聞かされた白銀王は頭を抱えると。白銀王は、黒猫に言う「私の息子を助けてくれた礼を言いたくて王城にまで、お呼び立てしたのは。私の息子の恋を応援するためだ」と言い出してから。黒猫と天月に言う。

黒姫は白銀の王様が天月に好意を持っていると知り黒姫が嬉しそうな顔をすると天月は苦笑いをしていた。白銀王は天月に向かって「ところでお前の両親の名前と種族は、どんな名前だ?」と言うと天月は「天と星です。俺は、その天星の力を宿して生まれたそうです」と天月が答える。

そうして白銀王が白猫の事を「私の義理の妹にならないか?」と言うと黒鋼は白銀王の義理の娘になれると聞いて喜んだ。だが白猫の反応は良くなく「私は天月君の事が好きだし黒鋼ちゃんが大好きだもん」と言って拒否してしまう。

黒姫も天月の事を気にしているらしく白銀王の提案を拒否するのであった。それから、白銀王は白猫を、うずめは黒鋼をそれぞれ嫁に欲しいと口にしたが黒鋼はそれを断るのであった。それから天虎が黒猫に「もし、どうしても結婚相手が見つからないなら僕と黒猫姫様が夫婦になれば良いんじゃないんですかね。それとも他に好きな男性でも居ますか?」と言うと黒猫は何も言わずに首を振っていた。

そして王虎に白虎と白銀王の違いを聞かれて黒虎が「違うと言えば違いまする」と言うのだった「白銀王は、ただの白銀の鱗を持つ龍神様なんですけど。俺の兄貴の天虎の方こそが龍の神様なんですぜ」と答えたのだ。その話を聞いていた黒猫は自分が魔族にされた際に天月から「俺と一緒の存在なんだぞ」と言われたが天姫から言われてもピンとは来ていなかった。

そうしてから天月と黒猫と天姫と黒鋼が、そのまま帰ろうとしたのだが、そこで白銀王が「せっかく、こちらの世界に来たんだ。しばらく滞在していくと良い。それに魔王の城に行くならば一緒に行った方が都合が良いはずだ」と言ってくれたので天月達一行も数日の間。白銀王国に留まる事になるのであった。そして数日間。

白銀王の計らいで、この世界にいる間も黒猫は天月達と共に行動することになった。そして黒鋼と白姫は天月達が宿泊する客室に向かう。しかし、そこには既に白銀王がいた。天月は慌てて挨拶を行うと。白姫も挨拶を行いお互いに名乗りあうと天姫と黒鋼も自己紹介を行う。それから四人は、この世界に存在する魔物の話になり、それについて話し合いを始める。

そこで天虎は龍神は人間と同じように飲食を行う必要は無く。しかし食事を楽しむ事が出来る存在であり神龍も食事を楽しめるらしい事が判明する。そして天虎は黒鋼と白姫に質問をする。二人は「ええ」とか「うん」などと答えてくれていたが、天姫だけは違った反応を示していた。彼女は、とても嬉しそうな顔を浮かべていて「私は、そんな凄い人とは思ってませんでした」と言うのである。そして黒鋼は「別に私は龍神の中でも特別な存在じゃないわ」と答えていたのである。

白銀王の城には客用の寝室は三部屋しかなく。黒猫は黒姫と一緒に泊まる事にすると天姫と黒鋼も天月と同じ部屋の方に泊まる事にしたのである。天虎も一緒に寝泊まりするが彼の方は一人きりの部屋で眠るそうだ。それで白銀王は黒鉄の方を見る「貴方はこの城に住むといいですよ」「はい、わかりました父上様」と返事をしてくれるのであった。それから夕食の時に俺と、うずめが食堂に足を運ぶ。それから黒猫が「あら?今日は早いのね」と声を掛けてきて「天月が料理を教えて欲しいと言うので二人でキッチンを借りにきたのよ」と言い出してきたのである。それを聞いた白虎は「うずめ様の旦那様ですか。是非一度手合わせ願いたい物ですね」と言うと。それに対して天姫は困り果ててしまい「私達は天月さんが作ってくれる美味しい料理が食べたいので」と言う。それを聞いて天月は、にこにこと微笑んでいた。

天月と、うずめが料理を始めようとすると、それを白銀王が呼び止めて天月に対して「君は、いつも私の傍にいなさい」と言い出すと天月は「俺は黒鋼や白虎の手伝いをしに行こうと思うんだけど。ダメなのか?」と聞くと白銀王が「いや、そういう訳ではないんだが、うーん」と悩むような表情を見せるのであった。

そして天月は白銀王に案内されながら、とある一室に連れて来られた。そこは研究室のような場所で色々な研究資料が置かれている場所だった。

その部屋の扉を開けると、そこに広がっていたのは大量の書類が置いてある光景で、その中には「魔法陣が描かれた羊皮紙」が有ったり「魔石と思われる赤い宝石が埋め込まれたペンダントトップ」や「魔石を削り出して作られた魔装の指輪」等が机の上に置かれていた。

それを見て俺が驚くと白銀王は「ここは私の仕事場なんだよ」と教えてくれる。それを聞いて俺は、なんで、こんな所に俺を連れてきたのか尋ねると。白銀王は「黒鉄と黒猫ちゃんにプレゼントしようと思ってた物が、ここにあるんだよ。だから黒猫ちゃんも連れてくるつもりなんだよ」と答えてくれるので俺も「へぇ、それは、いったい何なんだろうなぁ」と興味津々になっていた。

それから俺は白銀王に対して黒猫に対するプレゼントに何を考えているのかを聞くと「君に黒猫ちゃんが、どうやって変身できるのか調べさせてもらうのが目的だ。もちろん協力は惜しまないから頼む」と頼まれたので「わかった」と答えておく。

その後、しばらくして黒猫と黒姫がやってきたが、白銀王が「黒猫姫は天月君と、これからデートでもしてくるといい」と言い出したので黒猫が「いいわねぇ。私と黒姫は天月君とお散歩に行ってきます」と言ってから天月の腕を取って部屋を出て行ってしまうのであった。それを見た白銀王は、かなり悔しそうな表情をしてから俺に対して「天月君を実験体として貸してもらえないか?」と頼み込んでくる。俺が「どうしようかな」と悩んでいると、うずめが、そのやり取りを聞いていたらしく。俺の事をかばおうとしてくれていたので白銀王は残念そうに引き下がるしかなかった。

天姫は「黒姫が私を置いて、何処かに出かけて、お姫様とデートをしているなんて信じられません」と言ってショックを受けており。黒鋼が「じゃあ、みんなで遊びにいこうよ」と言ってから黒姫の手を引いて黒猫を追いかけ始める。

黒猫とうずめの追いかけっこが始まったのであった。俺と黒姫も二人を追うように廊下を歩きだしたが、そこで黒姫は黒猫に捕まって頬を膨らませている黒姫を抱きしめると黒猫は黒姫を離そうとせずに頭を撫で続けるのである。それから黒猫に「天月君、黒猫の奴、黒姫に抱きついてばかりなんだよね。そろそろ、なんとかして欲しいんだよね」と言われたのであった。それを聞いた俺は黒姫に「黒姫は天姫の事が嫌いになったの?」と訊ねると「そんな事ありませんけど。黒姫が、もっと、ちやほやされる為には私が頑張らないと駄目じゃないですか」と答えたのだ。

それを聞いた黒姫は「黒猫と黒鋼と白姫がいる限り。ちやほやされないって、そんな事は絶対にない」と断言する。それを聞いて黒姫は黒猫から離れてしまう。それから、それから「もうっ。白銀王様に、あの子達を止めてもらいに行きましょう。そうしないと大変なことになりそうですよ。私は黒鋼が傷つく姿は見たくないですし、黒鋼だって天月君が怪我するのも嫌だと思うんですよ。ですから、どうか黒猫達を捕まえてあげて下さい。そうしないと本当に危ない気がするんです」と言われて、俺は、とりあえず黒姫にキスをすると「大丈夫、黒猫も黒鋼も俺が守るし、うずめが、どうにかしてくれるよ」と黒姫に答えてあげる。黒姫も、それで落ち着いたようで「お願いします」と口にするのであった。

黒姫が落ち着きを取り戻してくれたのは良いが黒姫の足が遅いので、このままでは追いつけないので俺は「俺の能力を使えば問題ないな」と思い黒猫に気付かれないようにしてから【神眼】を発動して身体能力を上げてから黒猫に、どんどん接近していき黒猫が振り向いて「あれ?さっきから黒猫が居ないんだけど」と言うよりも早く黒姫の手を繋いで黒猫が黒姫と逃げないようにしてから白姫と天姫の元に駆けつける。すると黒猫は「天姫も捕まえちゃうぞ~」と言って黒鋼の後ろから抱きしめようとするが、その前に白銀王が「黒鋼ちゃんは天月君の嫁だからね」と言って黒鋼を抱き寄せると黒猫は、つまらなさそうな顔をして、すぐに諦めるのであった。

それから俺達は城の外に向かうのだが。俺達と別れ際に黒猫が白姫に近づいてきて「白姫、貴方には色々と世話になっているわ。だけど、いつか私は貴女を負かしたいと思っている。その時まで、しっかりと強くなりなさいよ」と言って白姫と拳を合わせて約束を交わしていた。

そして、その話を、たまたま通りがかった天虎に見られていて天虎が「白虎様に戦いを挑むとか無謀すぎだ」と口にするが。白銀王は、それに対して「白虎も強いのよ」と言うと天虎は驚いた表情を浮かべてから「白虎様にも挑んで勝っちゃったのですか?それは凄いですね」と驚いていた。しかし、それを聞いた白銀王が慌てていると、それを見て黒姫は笑っていたのである。それから俺達は外に出てから街の方へと移動していく。

街の広場に行くと白狼が待っていたので、そのまま白銀の家に向かい夕食を作る事になった。それから食事を終えると白虎が白銀王に話しかけてきて「天姫の旦那様の天月君は、なかなか面白い能力を持っていそうなんだが」と言い出してきたので、白銀王は「ああ、彼の能力は、かなりの力を持っているから。彼には、これから、ずっと私達の味方でいて欲しい物だよ」と言ってから白猫と白姫と、お喋りを始めたのであった。

白銀王は黒猫に、どのような贈り物をしたいかを考えていた。そして「天月君は魔法の才能があるみたいだから。私からの、ご褒美として、これをあげても良いと思う」と言い出してきた。そして白銀王は白姫に天月の服の調達を命じると「天月に似合うような可愛い服を着せるために頑張りますよ」と言って天月と白姫を引き連れて買い物に出かけたのである。

それを見送った白虎は「あいつは、あんな風に言っているが。本当は白姫の為に用意したプレゼントだったりするんじゃねぇのか?」と言ったが白銀王が首を横に振っている。

白猫と白銀王が楽しそうに談笑している中俺は天姫に対して質問をしてみた。天月が魔法を使う事ができるようになった時に、どんな魔法を使ってみたいかを聞かれたので天姫は「私は天月が使うなら、なんでも良い」と言ってくれるので天月が、この世界で、どのような魔法を習得できるか楽しみにしているようである。天姫は「それより天月が魔王を倒す旅に出られるように私が強くなる」と決意していたので俺は、そんなに心配しないでくれと言うと「でも」と口にした。

俺達が話をしている間も白銀王は白姫の方に視線を向けていたが。天姫の着ている着物を見て何かを考え込んでしまった。俺は白銀王の態度を疑問に思ったので声をかけてみる事にしたのである。

俺の声を聞いて我に返った白銀王は、いつも通りに笑顔で対応をしてくれた。そして、それを見た俺は白銀王は大丈夫なのだろうかと思ってしまう。白銀王は「白猫ちゃんの言う事も正しいとは思うけど。私の願いとしては魔族との戦争が起こらないように平和を維持し続けたいと考えているんだよ。だから私は魔王軍を皆殺しにして戦争を起こさないようにするべきだと思うんだよ。それに、それが一番平和で誰も不幸にならずにすむからね」と言ってきた。それを聞いた白銀王の意見に賛成をする。

俺は、それから天姫に対して俺に魔法の先生をやって貰えないかと尋ねるが天姫は白猫の方を見ながら「天月は白姫に甘すぎるから、白姫を優先させても構わないよ」と言ってきた。

白姫と天姫の話を聞くと。やはり俺が一番気になっていたのは「黒姫をどうするのか」という話であり。それについて話し合いをしていたようだ。天姫が「天月は、黒猫の事、好き?」と訊ねると天月が「ああ、もちろん好きだ」と答えると白姫は、それを微笑みながら聞いていた。天姫が「それじゃ黒猫は?」と再び天月に声をかけると天月は困った表情になる。それを見た白姫は「白姫が、あの子を幸せにする」と言い出したのだ。

それを聞いた天月は嬉しく思い「黒姫の事を頼めるかな」と白姫に頼むと白猫は「私に任せておけば問題なし。それよりも、もう遅いから寝た方が良いよ」と口にするのであった。それから俺は、その話の流れで、どうしても気になったので白銀王に、あの大賢者が俺の中に居るのではないか確認して見ることにする。

俺の考えでは「あの時の戦いの時の大賢者の言葉を考えると、大賢者が俺の体を使っている可能性は無いと思ったのである。なぜなら大賢者が「勇者に復讐しろ」と言った瞬間から俺は大賢者に体が奪われる感覚に陥っていたからである。

だが俺の中で大賢者に体を乗っ取られているかもしれないと思っていたとしても俺は、あまり大賢者の話を信用してはいないので大袈裟に騒いだだけで実際は違うのではないだろうかと考えていた。

「実はな、俺は昔、俺の体を乗っ取り、俺を殺そうとしている人間と会った事があるんだ」俺は自分の記憶の中にある過去を語り始めるのであった。それから、その話を一通り話し終えて俺の昔話を聞き終えた白銀王が俺に向かって「天月君は大変な目にあって来たのだね。それならば私は黒鋼と黒姫の二人が安心して暮らせる場所を提供してあげようと思っているよ」と言いだしたのである。

俺が「本当に、そんな事が出来るのかい?」と驚いていると「もちろん出来るよ。天城さんも一緒に来るよね」と言ってきてくれたのである。そして白銀王が白姫に対して「黒鋼と黒姫は私が引き取るわ。貴方は、しばらく、ここで黒姫の側に居てあげたら」と提案してくれるので俺は素直に白銀王の提案に従おうと考えたのである。白虎が「お前が居なくなった後の白銀の事、任せておいて良いか?」と真剣に言ってきたので「あぁ、問題ない」と答えた。

俺は、その日は天城の所に泊めてもらうことにした。

翌朝、目を覚ますが天城は眠ったままだったので起こさないように外に出てみると俺達の家に白虎達が集まっていて俺達に話しかけてきた。白銀王は、すぐに俺の元にやってきてから俺に対して挨拶を行うと黒姫と黒姫の面倒を見てくれていた白猫にも「黒鋼を助けていただき有難うございます。二人共、これから私達と一緒に暮らしませんか?」と言う言葉をかける。それを聞いた白猫が「はい。よろしくお願いします」と言って頭を下げる。黒姫も「うん。ありがとう。白銀様、天月の嫁の黒猫です。黒姫って呼んで下さい」と嬉しそうにしていた。

すると黒鉄と、その主人の少年が俺に近づいてきて「僕の名前は白虎と言いまして。天月君が黒姫の旦那様なら僕の主人だよね」と言ってから手を差し出して来てくれるので「ああ、そうなるだろうな」と言って握手をした。それから白虎の自己紹介が終わり。その話を聞いた天月が俺に近寄ってくる。

天月は「天月だ。これからは天と呼んで欲しい」と挨拶を交わす。それから俺は天月と黒姫に対して白銀王の所で住むことになった事を伝えておく。天月は黒姫に俺の所に住んでもらうと約束してくれたらしく俺が黒姫の方を見て笑顔を浮かべていると黒姫も笑っていたので安心することができた。

それから、俺達は朝食を食べる為に家に帰ると天姫が白虎の世話をしながら料理をしているので俺達は席に座って待とうとすると黒姫は「あれ、天姫。何を作ってくれたの?」と嬉しそうにしながら質問をする。白姫が「今日は黒虎ちゃんの好物を作ったの」と言って黒姫が黒虎に食べさせて上げようとするが黒虎が俺達の方を見ると黒猫の方に抱き付いてしまい黒猫が黒虎を抱きかかえるが「あら、甘えん坊ね。仕方がないわね」と言ってから黒虎を膝の上に座らせ食事を始めるのである。

俺は黒鉄に話しかけてから俺達が、ここにやって来た理由を説明する。すると白姫が俺の話に割って入るように「私と黒鉄が一緒だった理由は、この森で魔族を倒せるような冒険者が住める安全な場所は白銀王様の屋敷ぐらいしか無いと判断したからだ」と言う。そして白姫は白銀王の好意に甘えて屋敷に泊まらせて貰った事を話してくれた。

それから白銀王は、黒猫と白猫に対して自分達の仲間になるように勧めるが白姫と白虎の二人は首を縦に振らないのである。それを聞いた俺は、やっぱり無理かと思っていたのだが白銀王が「どうしてもダメかな?白姫ちゃんが居れば天城さんと黒鋼は魔王との戦いに全力を注げると思うんだよ」と言ってきたので俺は驚いた。それなら、どうして俺に魔法を教えるように依頼をしてきたのか理解ができないからであった。だが、そんな俺の考えとは関係なしに話は進んでいくのであった。

「天月が魔法を使う事ができるようになった時は黒姫の力が、かなり役に立つはずだ」と白銀王は俺に語り掛けてくるが白猫が白姫に対して魔法を使ってみたいか尋ねるが「白姫には必要ないよ」と白姫は答える。それなら俺は魔法を使えなくても良いのではないかと思い始めたが白銀王は白姫を魔法が使えるようにしたかったようで俺に対して白姫に「白姫も白虎と同じような感じに魔法を使えるようになりたいと思わない?」と言い出したのである。それを聞いた白姫は俺に「天月は私を守れるだけの力は持っているけど。天月を魔王から守るために力をつける必要がある。その為の力は身に付けておきたいと思っている」と口にする。俺は白銀王の話を聞けば聞くほど白銀王の言いなりになるしかないのかと疑問を感じ始めてしまう。俺の心の中には「こんな事を続けても意味はないのではないか」と思い始めてきてしまったので俺は「黒姫を助けるために白姫を危険な目に遭わせたくない。だから悪いが俺は魔法を覚えるのは嫌だ」と伝えるのだが、そんな俺に対して白姫は「それなら私が、あなたを守るわ」と自信たっぷりの表情で言い出すのだ。それを見た白猫と白姫が何とも言えない表情になっているのであった。それから俺は「分かった。黒鋼に俺が教えてやる」と白猫に向かって答えた。

俺は黒鋼に対して「黒鋼は、どんな風に強くなりたんだ?」と訊ねると「僕は、みんなが安心して暮らせる国を作る為にも強い男になりたいんだ」と真剣な目つきで言ってくるのだ。それを見た俺は「黒鋼は優しいな。そんなに強い男の方が良いんだな」と確認すると黒鋼は黙ったままコクリと俺の言葉に同意してきたのである。そして黒猫が白銀王に話しかけると白銀王が「それじゃ白姫も天月君に弟子入りするのかい?」と言うと黒姫も「はい。白姫もお願いします。白姫に剣を教えてください。私は、もっと白姫を守りたくて仕方がなかったのですから。私が白姫を守ります。お願いします師匠」と言って頭を下げたのである。俺は頭を下げる黒姫の姿を見ると嬉しく思い白銀王に返事を行った。

俺は白姫に対して魔法の先生になって貰う事にしたので、その事を本人に伝えることにした。俺は黒姫に対して説明を行って「俺は魔法を覚えて魔法を操りたいと思っているから。俺の特訓を受けてみないか?」と提案してみる。黒姫は俺の言葉に最初は驚いていた。だけど俺は黒姫が「分かりました。頑張ります」と嬉しそうに言ってから白虎の方を振り向いて「これから一緒に強くなるよ!」と言った。

それから数日が経ち俺が魔法の特訓を開始して白銀王から、俺と白姫と白虎は別行動を行う事になってしまう。それと言うのも黒鋼が白銀王の頼みを聞いた結果なのだ。それは俺が白虎と二人っきりで、この森で暮らす事になったのだ。そして、その日から黒猫も一緒に住む事となる。

それから数日後、俺は自分の能力について考える。今まで俺は自分と、ほとんど同じステータスを持つ黒鋼の体を使っていたのだと気付く事が出来たのである。黒鋼も自分の体を使って自分の主人に戦いを挑んでいたのだと思ったら急に申し訳なくなり謝ることにしたのだ。だが黒姫に対して自分の体が勝手に動いて迷惑をかけていないか不安になったので聞いてみた。すると彼女は笑顔を浮かべて大丈夫ですと伝えてきたので少しだけ気持ちが楽になり、ほっとしたのであった。

それから白銀王の提案で俺は黒姫と黒猫を連れて冒険者組合に行って、その冒険者達に稽古をつけてもらう事になる。黒姫と黒猫は戦闘訓練を始めた。俺と白虎の修行に関しては白虎に任せきりにして、俺が白姫と一緒に冒険者としてのクエストをこなしたりもした。それから俺達は色々な冒険者に戦い方を教わったのである。

ある日の事だった。俺は冒険者の女達から話しかけられた。冒険者は全員女性で、しかも全員が美少女ばかりだった。俺は彼女たちに白姫と、この森に来た事情を説明して「俺の婚約者と従姉妹を助けたい」とお願いをして彼女達に協力してもらえるようお願いすると、あっさりと承諾してくれたのである。それで俺は嬉しかった。そして彼女達に礼を言いたかったが白猫や白姫、黒猫の件があるので頭を下げるだけにして感謝を伝える事にしたのであった。

そして、しばらくしてから俺は冒険者と別れて街に戻ってから白銀の王都に向かう為の準備をしようと考えていたのであるが黒猫から呼び止められる。俺を呼び止めた黒猫の顔を見ると彼女の顔は真っ赤になっていて俺に近づいてくると何かを伝えようとしているが恥ずかしくて上手く喋る事ができないようなので「落ち着いて話せば、ちゃんと聞こえる」と言うと黒猫は深呼吸を何度か行って気持ちを整えてから「あの、えっと、その。天月君。私ね。私。その、あなたを好きになってしまったのよ」と言ってから、いきなりキスをしてきて俺の唇を舌で舐め始めるので俺は慌てて黒猫から離れるが、それから俺は何度も黒猫から告白をされてしまう事となる。

それから数日が経つ。俺達が白銀の王都に到着すると黒姫は、すぐに大賢者の屋敷に行くが俺は白姫の案内によって白銀城に向かい謁見の間まで連れていかれるのである。そして俺と白姫が城に入り俺達が城の門を通ると兵士やメイド達は膝をついて頭を垂れてくる。俺達が歩いていると一人の老人が俺の前に現れた。その人は白銀王国の宰相で俺が黒鋼として白銀の王に頼まれた時に黒鉄と共に戦った相手でもある人だった。

俺達は玉座の間に入り俺は玉座の横に、ただ立っているだけだったが白銀王は俺の横に来て、ずっと手を繋いでくれるのであった。そして白銀王が俺を紹介してくれたのだが黒猫の事は紹介しない。俺は何故、黒猫の事を紹介されないのか疑問に思いながら話を聞いていた。俺は白銀王が黒姫と白猫に対して、どのようにして黒姫が、ここまで来たのかを問いただしたが二人は黒猫が一人で、ここまでやってきたと嘘をつき続ける。白銀王は、そんな二人の嘘を見抜くと「黒鋼が黒姫を、ここに寄越すとは、ありえない。そもそも、お前達、二人で何をしていたんだ?」と白銀王は怒り出した。だが、そこで白姫と白虎が現れ「黒姫様が魔王に捕まってしまいまして、私と黒姫は天城君の所に助けを求めようと黒鋼を身代わりに置いてきたのです。ごめんなさい。私が、こんなバカな事を考えなければ良かったんです。私が、黒鋼を天城君の所に連れて行きました」と言って俺の腕を抱きしめてきた。それを見た白銀王は、さらに機嫌が悪くなる。

それから俺は白姫に連れられて、この白銀城に俺と白姫と黒猫と白虎が住む屋敷を建てるための設計書と予算案の作成と許可を取りに行かなくてはならなくなる。

黒猫を無事に救い出す事に成功した俺は黒猫の師匠となった。だが俺が、そこまでして白姫を助けようとした理由が分からない。だから、どうして、そんな事をしてまでも助けたかったのか、どうしても気になってしまい彼女に質問をしたら「天月君は黒姫が好きだから黒姫を、あんな危険な場所に一人で残してきたの?」と言われたので俺は言葉が出なかった。確かに黒猫は、とても可愛いし黒猫には悪いが俺が黒姫に恋心を抱いていたから黒猫を助ける事を決めたのか?と言われると否定ができない部分があるからだ。だけど俺は魔王を倒すという使命感だけで黒猫を、この危険な世界から、少しでも離れさせようとしていたのだと思う。それに黒猫に俺は、すでに黒鋼を救って貰っている。俺が黒姫を好きなのかどうかも怪しい。

俺は、それから黒姫に魔法の指導を行ってから数日が経ったある日の事である。俺と白猫は、いつも通りに朝食を食べた後に魔法の練習を行うのだが俺は白姫の様子が変だと感じる。なので白虎が居ないので白猫に話しかけると「私は、あなたを好き。大好きだから」と白猫は、なぜか顔を赤くしながら俺に対して、そう言ってきたのである。そんな事を言うのは絶対に何かあると、この時俺は思っていた。だから、その事について、しつこく訊ねると「わ、私の、お風呂の世話をして、ください。だって貴方以外には、お願いできないし恥ずかしいのよ」と言う。

俺は黒猫から魔法の特訓を受けている。しかし、あまり強くなった実感がないのだ。なぜなら黒鋼が使っている体の方がレベルが高いから当然といえば、それまでだが、やはり、ちょっと残念だと思ってしまう。

黒猫から「天城さんも、まだまだですね」と嫌味を言われてしまう。

そして黒猫から「私は剣の扱いが得意で、魔法はあまり使えないんですよ」と言われてしまった。

それから、しばらく黒猫から魔法の使い方を習ったのだが俺は魔法の扱いに関しては才能がないようで魔法の習得が全くできなかった。それで俺が黒猫に魔法に関して相談すると彼女は「魔法の才能なんて、人それぞれですよ。気にする必要はありません」と言うので「だけど俺に魔力操作のコツを教わりたいんだけどな。やっぱり黒猫の言う通りなのか?」と黒猫に確認をするが「そうね。魔力の操作が、ある程度は必要よ」と、あっさりと俺の言葉に同意されてしまった。それから、俺は魔法の特訓を行う事にしたのであった。

そんなある日の事である。俺は白姫から呼び出されて白銀王の部屋へと向かうと、そこには、なぜか大賢者も一緒に来ていた。白姫は、いったい俺を呼び出してきて、どのような要件で俺に会おうとしたのだろうと思いながらも俺は部屋に入り挨拶を行った。そして白銀王と大賢者と白姫の三人が揃ってから「最近、白姫の調子が悪いのだ」と言ってきたのである。俺は、その言葉を聞くなり「大丈夫なんですか?」と心配してしまう。すると白銀王が「今のところ問題は起きていないが、そろそろ黒鋼と黒猫の様子を見に行きたいと思っている。お前が良ければ黒姫と一緒に二人に会いに行って来てくれ。お前には魔王討伐の旅に同行して欲しくない。だが黒鋼と黒姫が、どんな生活を送っているか見届けるぐらいは、してほしいと思う。それから黒猫も、その、なんだ。天月。黒猫と仲良くやれているか?」と尋ねられたので俺は少しだけ迷ったが「はい。もちろんです」と答えておく。

「それで、いつ、この白銀王国を出て黒鋼と黒姫の所に向かえば良いのですか?」と俺が聞くと白銀王は黒姫の方を向き黒姫は「私が転移する事ができるから直ぐに向かう事が出来るのよ」と言う。それから俺は白銀王の許可を得てから、この白銀王国の外に出て魔王軍のアジトに行こうと考えていたのである。

俺は白銀王に別れの挨拶をしたくて玉座の間にいた白姫に話しかけた。

「俺が黒鋼に会えたら嬉しいけど、あいつに、もしもの事が有れば俺を恨んでくれても構わない」と言うと「黒姫に会った時も同じ様なことを、同じ事を言われたわ。でも、その時には私達の気持ちを伝えていたから天城は黒鋼を助けてあげて」と言い返される。それから俺は黒猫と一緒に転移したのであった。俺は黒猫の肩を掴み彼女の目をしっかりと見て「これから黒鋼の所に案内してくれるんだよね?」と、まず黒猫に、ちゃんとした事情を聞こうとしたが「あはは。えっと。うん。そうだった。じゃあ行くよ。ついて来て」と言われて彼女が何かを隠すように話を進めるので俺は黒姫の事を何も知らないで付いて行ってしまった。俺と黒猫は森を歩き始めた。

「えっと。天月君、あなたって黒鋼と会うのは初めてじゃないでしょう」と突然に、その話題を切り出されるので俺は驚いてしまう。どうして、このタイミングで黒姫の話になったのか理解ができないからだ。俺は黒姫から黒姫を預かった経緯を説明すると「天城君は黒姫が天城君に対して何を考えていたのは知らなかったのね。だから、あなたが私に対して『黒猫は魔王軍に捕らわれたから助けに行く』と言った時に私は凄く怒ったのよ。天城君は魔王軍が何をしようとしているのか知っているでしょ。そんな危険な場所に一人で行って、あなたまで死んだり怪我を負ったら、私達が、どう思うか分かる。だから私も黒猫を助けに行かなくちゃいけないと思ったのよ。黒猫が一人で行ったのなら、なおさら」と言われたので俺は自分が情けなくなり涙を流す。そんな事を言われるまでは気付かなかったが、黒猫に何か有ったらと想像して恐くなった。

俺と黒猫は黒鋼を探しに山の中に入っていくが森の中に入ると「天月君。止まってもらえない」と言われてしまい、なぜ急にそんな事を言い出したのか分からないまま俺と黒姫が立ち止まると「あの木の上に隠れて私たちの様子を伺っている子がいるから姿を見せたら?」と言われたので俺は上を見上げると俺と目があった途端に木の上から降りてくる。そして黒猫が俺の手を掴むと、そのまま転移をしたので驚いた。

目の前に広がる光景は俺がよく知る景色だったので安心する。

「黒姫、ここってもしかして魔王軍が管理している鉱山の入口の近く?」と俺が質問をしたら「そうなの?」と黒姫から言われてしまったが俺は黒姫が嘘をついているのが分かってしまうので「黒猫、本当は違うんじゃないの?もしかして、まだ嘘をついていないよね」と俺は、そう言い放つ。黒猫は俺の目を見て、すぐに俺に嘘が見抜かれたので、どうして嘘をついたのか、その理由を話してくれた。それは黒鋼と黒猫の師匠である大賢者は白銀王の子供達なので白銀王の許可さえあれば、この白銀城の敷地内に黒姫の転移魔法を使って入る事が出来るらしいのだ。だが白銀王が白姫が体調を崩して白銀王国から出られないと言う理由で黒猫は一人で黒鋼の元に向かわなくてはいけなくなってしまったそうだ。俺は黒姫に「俺も一緒に行きたいけど俺は足手まといにしかならない。それでも俺を連れて行ってくれるのか」と頼む。

俺が黒鋼に会うと、きっと白姫は怒ってしまうだろう。だけど俺には白姫を止める方法が分からなかったので、どうしても俺は黒姫に頼もうと思っていた。

「私は一人しか、あなた達二人の元に連れて行けないから黒猫と一緒に行ってほしい」と言われてしまう。それから俺は、とりあえず白銀城に、戻ると白銀王に白姫が体調を崩している事を告げる。すると白銀王は「白姫に黒猫の話をすると、おそらく白姫は体調が悪化するから、あまり余計な事は言わないようにしろ」と俺に注意してきたので俺は、それに素直に従う事にして、すぐに黒鋼と黒猫の救出に出かけようと考えるが「天城、すまない。今回は俺の我ままに付き合ってくれ。魔王軍は白銀王の娘を捕らえて人質にしているんだ」と黒金に謝られてしまう。それを聞いた俺は、さらに不安が増した。

俺達は黒鋼を探す為に森の中を進んでいくと、やはりと言うべきか黒鋼を見つけた。俺は黒鋼に近づこうとするが「ちょっと待って」と黒姫から止められてしまう。そして彼女は地面に手を付くと「土魔法。探知」と呟くとその言葉と同時に地中にある魔脈の反応を見つける魔法を使用した。その魔法を使った瞬間に、いきなり地面から大きな魔物が現れたので驚く。

黒姫も驚いていたのだが俺より冷静で、なぜか俺の腕にしがみつくので「ど、どうかしたの?」と俺も驚きながらも尋ねると「こいつからは血の臭いがするし。近くに人がいた気配があるのよ。それも大勢。しかも強い奴もいる。天月君は私が守るけど油断しないで、いつでも私から離れれる準備をしておいて。それから絶対に私に触れないで。いいわね?」と、なぜか真剣な顔で言う。

俺は黒鋼に近づいてみると本当に人がいるような感じだったので警戒しながら近づくと人影が見えて来るが俺は、すぐに違和感を覚えるが今は人を助けるために動くことにする。だが近づいて行くうちに、その姿が人間でない事が分かったが俺達は無視することにした。だが向こうは俺たちの姿を確認すると攻撃態勢に入る。そして黒鋼の横に立っていた男は大賢者だったが見た目が違う事に俺は驚いた。大賢者の体の半分は黒く染まっていて、その半分は赤い血のような液体が流れていたのだ。それを見た俺は黒姫に「あれって、もしかして大賢者?」と聞いてみるが「ええ。多分ね。でも私の知ってる大賢者と雰囲気が全く別物よ。あの黒いのは何なのかしら」と言うので俺は少し迷う。「もしかして魔王に操られているんじゃないか」と思ってしまい、そう思った理由を、まず黒姫に伝えると黒姫は納得して「確かに魔王が生きている可能性があるわよね。私と黒鋼が白銀王国に行った時には白銀王国に魔王は存在しなかったもの」と教えてくれる。すると魔王は「おい!そいつらは敵だぞ。気をつけろ」と俺達に警告をしてくれたが俺も黒鋼と同じように魔王を無視して黒鋼の方に向かった。黒鋼は全身に傷を負っていて俺を見ると嬉しそうな表情をしたが「俺を助けに来てくれたのか。すまないが今の俺には何も出来ない。悪いんだが俺の代わりに他の仲間を探してきてくれ」と言う。俺は黒鋼に「ああ、任せろ」と言うと「じゃあ、後は任せた」と、そこで意識を失ってしまう。俺は倒れている黒鋼を担ぎ上げようとした時、そこに一人の少女が立って黒鋼を見つめていたので俺は彼女を、どうするか悩んでしまったが彼女に話しかけた。彼女の名前を聞く前に、まず俺は自己紹介をした。

それから彼女が「私は黒姫って言います」と名乗る。俺は驚いているが彼女が俺の名前を知っていたから驚いていたのではなく彼女が黒髪ではなく赤みがかった茶色の髪をしている事に驚いていた。それから彼女が俺に言う。

「天城君は、どうして黒鉄ちゃんと一緒に行動していたんですか?」と言われて俺は答えに詰まると彼女は「ごめんなさい。質問が変でしたよね。私は黒猫と一緒に旅をしているんです。だから黒鋼さんとは関係ないですよ」と、また質問の意味が変わった気がするが、俺は「実は俺も一緒に黒猫と旅をさせてほしいんだ」と答えると、黒姫が黒猫に確認をする「あなたが黒猫よね。私は白猫と一緒に魔王を倒すために来たんだけど、それで白猫はどこに居るの?あなた一人で黒鋼をここまで連れてきたの?」と言うので黒姫は黒猫に黒猫の師匠である黒賢者の事を話してくれるように促すが、その時の黒鋼は気絶していて目を覚ましそうな感じだったので、まずは魔王軍の者達を、どうにかしてから黒鋼を起こすことにした。そして俺達は俺達を襲ってきた者達を何とか倒すことが出来た。

「私達の実力なら問題ないと思うから早く行こう」と黒姫に言われてしまい、それから俺が黒鋼を背負いながら歩くと、やはり黒姫は俺の腕を掴み離してくれなかった。そんな黒姫に対して黒鋼は何かを言いかけたが途中で止めたようだが俺は、その様子を見ているので何か言いたいことがあるのは分かっていたが何も聞くことはしなかった。俺達が歩いていると黒姫が「そういえば白銀王は元気にしていらっしゃいますか」と俺に問いかけてくる。

「白銀王は、もう死んでしまわれておられる」と俺は答えると、それを聞いて、この場で泣き出すかと思ったが「あの白姫様が亡くなっていたのですね。私は白銀王には良くしてもらいましたから悲しいです。でも白姫様には娘がいましたので、その子が心配なんですよね。もしかして天城の君はその白姫様の娘に会われたのですか?」と質問される。俺は、すぐに首を縦に振る。すると黒姫は「白銀王は、なぜ娘を、わざわざ自分の命を危険を晒すような行動を?」と疑問を口にする。

それから俺は白姫の事を説明する。

黒猫の師匠が魔王軍に捕まった事を知った白姫は助けるために白銀の国に、やって来たことを告げる。

「やっぱり、そうでしたか。白猫は優しい子なのでしょうね。白猫に私の妹を預けていたから無事に育っていると、良いのだけど。白銀王が殺された事は私も知ってはいるのよ。だけど白姫様が亡くなったなんて嘘よね? 嘘だと、言って欲しい」と言うので、俺も「嘘であってほしいけど本当なんだ」と正直に伝えたが黒姫の涙が止まらなかった。俺も白姫が死んだという知らせを聞いた時は泣いていたからだ。俺は黒姫が「天城の君も妹思いなのよね」と、まるで自分の身内を失ったかのように悲しんでくれる姿を見て「黒姫も家族とかは、いないの?」と尋ねてしまう。すると黒姫は「えっ?私の家は代々続く暗殺一族の出で親兄弟はいなかったから寂しい人生でしたよ。それでも私は自分が選んだ道を後悔した事はありません」と言う。それを見た俺は「俺には両親がいるから」と言って、そして「俺も家には両親が居てね。その両親は俺が冒険者になるって言った時に反対もせずに送り出してくれた。それから黒猫と白姫は俺の家族のようなものだと思っているよ」と言ったので黒姫が嬉しそうな顔をすると「私達の仲間って事かな?」と言い「うん、そうだと思う」と答えた。すると黒姫が嬉しそうな顔をしながら俺に抱きついてきた。

「な、何をするんだ。黒猫の前ではやめてくれ」と言うと黒姫は「黒姫の前だからこそ、こうして抱きしめるんだ。私だって、あなたの前じゃないと、こんな事はしない。お願い。しばらく、このままでいさせて」と甘えた声で言ってくるのであった。俺は仕方がなく、そのままの状態で森を抜けようと移動を開始した。その途中に俺は黒姫に言う。

「黒鋼が目を覚ましたら俺は黒鋼を背負っていく」と伝えると、なぜか俺を睨むので俺は、それに気が付かないふりをして歩き続けた。そして俺達は森を抜けると、その先にある街を目指して進む事にした。だが、その前に一度休憩するために、どこかで食事がしたいと黒姫に頼んでみたところ快く引き受けてくれると彼女は近くの小川まで案内をしてくれるので俺は「俺、料理が苦手でさ、黒姫は、できる?」と言うと黒姫は笑顔になって俺に「任せて」と言う。

黒姫の作った肉野菜炒めを食べると俺の顔が引きつるが味に関しては文句はないのだ。黒姫は黒鋼のために栄養バランスも考えながら料理を作ってくれて「天月君の料理も、きっと上手よ。私が保証する」と励ましの言葉をかけてくれるが俺は黒鋼が起きてから食べると言うと黒姫は、すぐに料理を平らげて俺に「天月君は先に休んでいるといいわ。疲れているでしょ」と気を使ってくれるが俺はまだ体力が残っていて眠たくはなかったのだ。

それから俺は黒鋼が起きるまでは仮眠をとることにして俺は目を閉じた。それから俺が目を覚ますと目の前に俺の頭を枕代わりにしている女性の姿があったので驚いて起き上がる。黒鋼の頭は俺のお腹の上に置いてある状態で「起きたのか?俺が起きたからって慌てる必要はない。お前が寝ている間には何もなかったから、ただ、もう少しで起きる頃だろうから少ししたら起こしてくれ」と言われる。俺も、それを理解して、もう一度、横に倒れこむ。黒姫の方を見ると俺の横に来て同じように倒れこんでいて「私、天城の君の横が好きなの」と言って俺に腕を回してくるが俺は特に気にする事なく黒鋼の方を見て話しかける。すると黒鋼が体を起こして「何もないなら良かった。ところで今は何時だ?」と俺達に尋ねてきたので俺は答えると黒鋼は「もう、夜中じゃないか。じゃあ出発するぞ」と立ち上がったが、ふと黒鋼は立ち止まると「おい! この近くに宿があるかもしれないから、そこで一泊しよう」と俺に提案をしてきた。黒鋼の意見を聞いて、それから俺達は森の中へと戻る。俺が先頭になり進んで行くが黒鋼は後ろから俺に付いて来てくれている。俺が「大丈夫か?黒鋼が俺より早く歩く必要は、ないと思うんだけど」と尋ねると「俺は白姫の娘を助けに行きたいんだよ。それにクロネから聞いたけど魔王城での戦いの最中に白姫は亡くなったと言っていたが、それは違う。白姫は魔王の心臓にナイフを刺されて、その傷が元で亡くなったんだ。だから俺達が生きている限り、あの子を救う方法も残っている」と言われて、この人は凄いと思ってしまう。俺は白姫の死を知ってから白姫を救い出す方法を色々と考えていたが、どれも現実的では無いと思い始めていたが、それでも諦めきれない気持ちもあり黒鋼に言われて救う事が出来るかも知れないと考えると俺は嬉しくなってきた。

「そうだな。俺達で絶対に救おうな。その為にも明日の早朝には森を抜けないとダメだから早めの就寝をしないといけないけど、今日は無理だよな」と言うが黒姫は平然としながら「大丈夫です。もう私達の周りに結界を張ってありますから安全ですよ。でも天月君は安心して休んでくださいね」と言ってくれた。そして俺は眠りにつくのだった。

そして朝方に起きたのだが俺が目を覚まして起きようとすると俺の体が重く感じたので目を開けると、なんと俺の隣で裸になった黒鋼がいたので、びっくりしたが、その姿を見て昨日の出来事を思い出す事が出来た。しかし何故に彼女は脱いだのか疑問を感じながら横になっている彼女を見る。すると黒鋼は「んっ、おはよう。よく眠れた?」と、いつも通りで何事もなかったかのようだ。そんな黒鋼を見つつ黒鋼は、これからどうするのかを黒鋼に相談をした。

それから俺達は旅を続けていくが、どうしても白姫の娘を探そうとは思わなかった。黒鋼も同じようで「俺達は白姫の娘が、どこにいるのか分からないから、とにかく今は、ここから離れよう。それと白銀王の娘の事も忘れろ。あいつの件は白姫に頼むしか手が無いからな」と話す。確かに黒姫の言う通りに俺は白銀王の娘の行方は知らないのである。白銀王の娘の事を諦めて俺達の旅を続けるのだったが途中で大きな町を見つけると、ここで情報を集めた方が良いと判断して俺と黒姫は情報収集を行う事にする。すると町の人に「黒姫様だ。どうして黒猫が?」「それに一緒に歩いている奴は、どこから来た?」などと、いきなり俺は注目を浴びてしまう。しかし、その事を無視して俺は酒場に案内をしてくれるように頼むと酒場で酒を飲み始めた。それから俺は店の中に居る人達から「黒姫様は魔王様と白姫様と共に魔王様と戦った伝説の人物です」と黒姫の事を教えてもらうのと同時に魔王の事についても話を聞かせて貰うと俺は「魔王って本当に悪い奴なのか?」と聞いてみると皆が口を揃えて言う。

「ああ。魔王様は恐ろしい人だよ。魔王軍によって滅ぼされそうになった国々を救った勇者を魔王様は皆殺しにしたらしい。それで魔王軍は魔王様に恐怖を覚えて服従をしている。だけど、いつ魔王軍が、また攻め込んでくるかわかったもんじゃない」と不安そうな表情をするのであった。それを聞くと俺は、あの女が、なぜ人間を殺す必要があるんだと思った。しかし俺は口に出さずに、とりあえず白姫について話せる人を尋ねようとした時に店の主人から「そういえば俺の友達で元白銀王の城に勤めていた男が、ここから北に行けば小さな村があってそこに黒姫様に助けて欲しいと言われた人が居てな」と話を聞いたので「本当か?教えてくれ。俺達は白銀王の娘を助けたくて、ここに来たが、この辺りには、もう居ないだろうからな。他に何か手がかりがあれば」と必死な形相で訴えると店のマスターは俺を見て少し考える仕草をして言った。

「わかった。その村に行かせてあげますよ。それに、ちょうど俺の店は暇なので行ってみましょう」と俺達は言われるままに馬車に乗り込んだ。その移動中に、なぜか店のマスターが御者をしていた。そして数時間後に目的地に到着すると店の主は、「ここは田舎の小さな村だが昔はこの村の村長が魔王軍に命令をされていて村人が人質にされていた」と、とんでもない事実を暴露するのであった。俺が驚いて「その、なんとか出来ないかな。この村の人も、その村長って奴も助ける方法ってないの?」と質問をするが彼は首を振って「俺も何度か相談をされたけど、俺では力不足でな」と言うのである。俺は仕方がなく「なぁ、もし俺がこの村人と村長の事を救ってくれたら俺が報酬をやるから何とかして欲しい」と言うと黒姫が「それなら私が依頼します」と言うと、俺は驚く。「お前は黒鉄の事は心配しなくても良いから、ゆっくりしておけ。それに、こんな依頼を受けてくれるのかい?報酬として大金貨10枚でどうだい」と、さすがに多すぎると断るが黒姫は俺の手を掴むと言った。

「天月君が望むのであれば、お金よりも欲しい物が、あるでしょ」と笑顔で言うと黒姫は「あなたは天城の君の、どんな所に惚れたんですか?」と、さりげなく俺の好みを聞き出そうとした。

だが彼女は「残念ですが私は天城の君に、その人の内面や性格に、とても興味がありますから、私の質問は答えられません。それよりも私達の事を応援してくれますよね」と言うと店の主が焦る。それから俺は店から出て行き黒鋼と一緒に、とりあえずは村に入るのをやめることにする。

それから俺は白銀王が治める国を目指すことにした。その前に俺と黒鋼は近くの町で装備を整えていた。その時に俺は剣を買いたいと思っていたが、あいにくの値段が高く手が出ない状態になっていた。それから俺は「黒姫が作ってくれた武器って普通の剣とは、どう違うの?俺は普通に戦っていたんだけど、あれって凄いの」と黒姫に質問すると「あれは魔力を流せば誰でも使う事が出来る剣なの。だから魔法を使えない人でも持つことが出来る」と言われ「じゃあ白銀の姫が作った武具なら、この大陸の人間は全員が魔法を使えるようになるのか?だとしたら他の国が侵略されて滅ぼされても、すぐに新しい国が生まれて滅ばなかった理由は、それなんだな」と答えて、しばらく黒鋼は俺の会話の返事が無かったので俺は「もしかして俺、変なことを言っちゃった?」と慌てて聞くと黒鋼が答える。

「いえ。違います。ただ、私とクロナの二人が頑張って作ったので褒められて、ちょっと嬉しかっただけ」と黒鋼が言うと俺は嬉しくなって、それから二人は町を歩いていたが黒鋼は途中で立ち止まる。すると「あっ!あそこ見て、あそこは美味しい食べ物のお店が沢山、あって楽しい場所だから行こうよ」と急に言い出すので「そうだね。俺達の目的は観光じゃないから食べ終わったら出発しないとダメだぞ」と俺は釘を刺しておくが黒鋼が「わかっているけど少しだけ食べていかない」と、どうしても甘い物を食べたいような感じだったので「しょうがないな。でも一時間だけだぞ」と黒鋼に言う。

すると、しばらくしてから俺達は店から出ると「どう? 楽しめましたか?」と黒姫が、俺に話しかけてくる。俺は正直に黒鋼との買い物が楽しかったと、その言葉を聞いた彼女は「それは良かったです。それと私達も、これから町に行くんですよね」と言うので「そうだね。白姫の国に行って魔王と会わないといけないけど。とりあえずは白銀王の城で休ませてもらってからにしようと思っているんだ」と俺は話すと黒姫が真剣そうな表情で、こちらを見る。俺は黒姫の様子が気になって「どうかしましたか?」と、きいた。

「天城の君は、もしも自分の娘や孫と、同じ立場の子が目の前で殺されたとしたら、その時、あなたは自分の子を殺した相手を許すことが出来ますか?」と彼女は聞いてきた。俺は彼女が何を悩んでいるのかを、はっきりと分かった。しかし俺は「俺は相手が許すまで戦い続けると思う。もちろん、その結果は誰にも分からないけど、俺だったら、きっと戦う事を選ぶかもしれない」と彼女に言う。そして黒姫が「そうですか。それを聞いて安心できました。これから先、何があっても私は、あなたの味方になります」と突然の事で俺は動揺をする。それから黒姫は俺の手を握ると俺を見つめる。すると黒鋼が「ずるーい。二人で内緒話をしてズルいわ。二人とも仲間外れは駄目だよ」と頬を膨らませると、そのまま、お店の商品を手に取るのであった。

俺達は白銀王の娘を探しているが一向に手掛かりは掴めずに旅を続けていた。そんな時に俺は白銀王の娘を探す事に意味はないと思い始めていたのだ。そこで俺達は「白姫の娘が見つかるまでは白姫が俺達に預けている金は使わないようにしよう。もし、それを使った事が白姫に知られた時に怒られるからな」と話し合う。それから俺と黒姫は旅を続けていると大きな町が見えてきたので、その町に寄る事にした。

俺達が町に入っていくのを一人の青年が見ていたのだが俺は全く気にしなかった。なぜなら俺は今の生活が充実していて、これ以上、贅沢をしようと思わなかったからである。しかし、その事が原因で、とんでもない事件が起きる事を俺はまだ知らなかった。なぜなら町の酒場では勇者である俺が魔王の力を封印した話が有名になっていて町の人は俺を見ると声をかける。それに俺達は笑顔で対応するが、そろそろ俺達の事を話しているのが我慢の限界で、そろそろ宿を探して休むか、それとも今日はこの町で夜を明かすか迷っていた。俺達は白銀王の城に泊めて貰うために城に、向かう準備をしていた。しかし俺と黒姫とクロナは白銀王の娘の名前も知らない状態で困り果ててしまう。そんな時に店の主人に、この辺りで最近、有名な冒険者の話を教えてもらう。

なんでも、その冒険者は大商人の娘であるらしいが親に勘当されているらしく今は、一人で商売をしながら暮らしているので生活は貧しいようだ。名前は、なんと言ったかな、忘れてしまったが「とにかく変わった奴でな。噂によると俺より年上なのに子供みたいな奴で、たまに無茶苦茶なことばかりする奴なんだよ」と言って笑みを浮かべると店のマスターは言った。

「そういえば、あの村に行かせてあげようか?あそこには確か元白銀王の城に仕えていた者が居るはずだからな。あの村には小さい村だが昔は奴隷市場があってな。そこに白銀の王が連れて来た奴隷がいるんだ。だから黒姫様が助けて欲しいと、言えば協力してくれるんじゃないか?」とマスターは俺に聞いてきた。俺がマスターに頼んで村の場所を教えると彼は、その村までの案内を申し出る。しかし彼の話では、どう考えても一日の仕事を終えて帰る途中でしかないのである。そして俺達は馬車に乗って、まず村を目指すことにしたのだ。そして数時間後に到着した俺達は店の主と別れを告げた後に村に入った俺は村の住人に声をかけたが誰からも相手にされなかったのだ。その理由も当然であったのだ。

この村の人間からは「白金の王は悪者です」とか「白銀王は人を殺す悪い奴です」などと言う言葉ばかりだったのだ。それでも諦めない俺は「頼むから誰か話を聞いてくれないかな?君達が信じてくれないと俺は前に進まないし、黒姫とクロナだって悲しむよ」と叫ぶと黒姫は「天城の君を、あまりいじめないで」と俺の代わりに文句を言う。

俺は黒姫の言葉を聞くと胸が痛くなるのを感じた。だが俺は「ありがとうな。黒姫が俺を庇ってくれたのは本当に嬉しいし、それに君達も俺の事を信じてくれるよね。俺は白銀の姫の配下だけど俺は君の味方だ。もし何か悩みがあったら俺に言って欲しい」と言うと子供達は俺を見て、すぐに逃げ出した。それからも何人かの子供達が話しかけてきたが、やはり俺の話に耳を傾けてくれるような様子は無かったのである。

仕方なく俺と黒鋼は白銀王が統治していた頃の城に向かっている最中なのだがその途中にクロナが立ち止まって「この匂いは、まさか」と言うので俺は不思議に思って「どうした? なにか臭う物でも落ちていたか?でも食べ物が腐った臭いじゃなさそうだから違うよな」と答えるが彼女は、しばらく考え込んだまま立ち尽くしてしまった。すると彼女は俺に「ねぇ?天城の君って嗅覚が鋭いでしょ?」と言う。俺は首を横に振ると彼女は「じゃあ私と同じだね。私も実は嗅覚が凄く敏感なんだ。この近くに私の家族が生きているかも知れない」と答えると俺も彼女と同じように嫌な感じを覚え始めたので急いで向かおうとすると黒鋼が「どうしてクロナの家族の事が気になるの?」と聞くと彼女は言う。

「クロナの家族はね。クロナが生まれた時から一緒に住んでいた人達でクロナの家族でもあるの。私とクロナは同じ場所で育った姉妹のようなものなの」と彼女は言うと「つまり同じ孤児院にいたのか?」と俺は質問をしたが、彼女は答えなかった。その表情はどこか切なく悲しい感じに見えて、俺も何と言えば良いのか分からなかったのである。それから俺達は、ようやく城に到着すると門番の兵士に声をかけた時に黒姫は言う「すみません、この城に住んでいる方に用事があるのですけど面会できますか?」と言うが兵士の顔色が変わり始めていて黒鋼の方は少しイラついている。しかし黒姫が説得をすると兵士が態度を変えて通してくれた。俺は黒姫と黒鋼に礼をしてから中に入る。すると白姫の側近が話しかけてきて「あなたが天城の方ですか?」と聞いてきたので俺は「はい。俺は、この国の王から依頼を受けています。その件について話がしたい」と言うが側近が「白銀王様は既に亡くなりました。今は私がこの国の王です」と言うと俺は驚いたが、どうせ黒鋼も知っている事だと思い、とりあえず部屋を用意させるように指示を出して黒姫達と城の奥に向かう。

俺は部屋の中に入ると黒姫と黒姫に話しかける。そして「やっぱり白銀王は死んだんだな。黒姫達は何を知っている?」と黒姫に聞くが何も知らないようで首を横に振り「でも白姫は死んじゃいないと思う。彼女は絶対に生き返っている。だから私は、この国から白銀王を探し出すために、ここまでやって来たの。それに、もしかしたら黒鋼の事も分かるかもしれないから」と黒姫が真剣そうな表情で黒鋼に言うが黒鋼が、なぜ白姫の娘を探していたのかについては俺は聞かなかった。

「まぁ、その話は後でいいや。とりあえず黒姫達が会いたいと言っている白姫の娘に会いに行くか」と言うと俺は城の地下に白姫の娘が居ると言う部屋に辿り着くと「入るぞ。お前の名前はクロナなのか?」と俺は問いかけると少女は「そうだよ。お姉ちゃんは?」と言うと、なぜか黒姫が涙を流すのである。俺は彼女の頭を撫でると、いきなり俺の体に抱きついて来たので俺は困惑した。すると黒鋼が「もう大丈夫だよ。安心して良いのよ。お兄さんなら貴方の力になれると思うの」と言うと彼女は涙を流しながら「ありがとう。やっと、ずっと待っていた人が現れてくれたの。私の力が必要なの」と言って黒鋼と黒姫は俺を見つめるのであった。俺は二人に抱きしめられたままの状態で言う「俺は別にクロ姫を助けるために黒鋼を助けたわけじゃない。俺は、ただ、この世界の真実が知りたかっただけだ」

俺の言葉を聞いた黒姫は微笑んでから「私は、あなたの事を知っていました。魔王の封印に成功した、その瞬間から、あなたの存在が私の中で大きくなっていったんです。そして魔王の力が封印されると同時に、あなたの心が弱くなり始めている事を感じていました。しかし、それが意味している事を私は理解していなかった。魔王の力を封印する事が、こんなにも多くの人を悲しませる事になるなんて、思っていなかった。私は本当に馬鹿な女だった。魔王が、あなたの心を壊す事を望んで封印を頼んだ事を忘れて自分が幸せになれば、それで全てが上手く行くと勘違いしていたの」と言い黒姫が俺の頬に両手を当てると俺達は唇を重ね合わせた。俺は突然の行動に驚くが黒鋼は何も言わずに俺と、その行動を眺めていた。俺達は互いに舌を絡めてから名残惜しそうにして離すと俺達はクロナに話しかけた。すると彼女は笑顔を見せてから黒姫に対して「はじめまして。私の名はクロカ、黒鋼の双子の妹です。どうか、よろしくお願いします」と言うと黒姫は笑顔でクロカに手を差し出して二人は握手をした。俺は黒姫から、この世界に黒姫と黒姫の父親以外に存在した白銀王の配下の情報を手に入れるために協力してほしいと依頼されたので俺はもちろん引き受ける事にした。そして俺とクロナはクロナの案内の元、クロナの母親を探す旅が始まる。まず、クロナが「私が住んでいた町に行きましょう。そこにはクロナの家もありますし」と言った。俺と黒鋼は同意をしてから馬車に乗ってクロナの実家に向かった。

馬車を走らせるとクロナは、すぐに家を見つける。俺はクロガに、ここで降りると告げて先に降りた後に、黒鋼が馬に話しかける。

「クロガ、今日は、ありがとう。楽しかった」と俺に言うが俺は「どういたしまして。それではクロナの母親が見つかれば良いな」と言うと黒鋼がクロナに視線を向けた。彼女は寂しげな表情を見せると俺達は家の前に立ってから、どうするか悩むと「どうしたんだよ?」と後ろから声が聞こえたのだ。振り返ると男が居た。彼は、どこか、ほっとした様子でクロガを見てクロナに「クロネは、まだ生きていたのか」と言う。

「はい。私は生きています。ですので心配しないでください。お父さん」とクロナが言うのだが俺は黒姫を見ると「ねぇ?この男ってもしかして黒鋼に似てない?」と小声で聞いてくるので俺も確かに似ていると思ってしまった。そしてクロトに「黒姫の父親が帰ってきたのか?」と質問をする。黒姫の父だと判明したのには理由があるからだ。するとクロナが「いえ、違います。父上ですよ」と言うとその言葉を聞いて俺も、やはり黒鋼に似ていると改めて思い、よく見ると肌の色など顔の特徴が似ている気がすると思ったのだ。

「あーなるほどね。でもさ。本当に良い加減で止めようよ。君達が、そういうやり取りをしているせいで俺は未だに妻に会うことができないで、こうして君達が大人になるまで待つ事になったんだからな。そもそも俺の妻は俺の事が好きだという確信を持っていて俺の子供が産まれた時には既に俺に会えるように手配をしておいて俺が妻を迎えに行った時に、こう言ってやりたいんだよ『あれ?どうして貴方が私の夫になっているのですか?』って言われても俺は泣かない自信はあるけどね」と彼は言い出した。俺は「まぁ、それは、その人の個性だと思うよ」と言うが、クロトは俺を見て「俺の妻は優しい人でね。きっと、その人も君が困っていると知ったら優しくしてくれそうだよね」と言うので俺も確かにと思い、この人の良い性格なら問題ないと俺は判断すると「あのさ?君って名前は、やっぱり黒姫って呼んでも良いのかな?」と確認をとると彼女は俺に抱きつき「当たり前です。私の全てをかけて天城様のお役に立ちます。ですので私をお側に、お使い下さい」と言うがクロクは苦笑いしてから言う。

すると黒鋼も彼に近づいて来て言う「天城の君は私が貰います。貴女なんかより私の方が役に立てるはずなのです。それに、もし天城の君に何かあれば私が天城の君の代わりになります。天城の君の命は全て私が守るのですから私を使いなさい」と言うと彼は呆れた感じに答える。

すると黒姫達は二人で睨み合っている。それから彼女は俺に抱きついたまま言う「私は天城様に尽くしたいだけなのに私だって天城の君の為に出来ることはしたいんですよ」と言い出すとクロカが彼女を引き剥がそうとするとクロナも黒鋼を無理矢理に引っ張ったので、俺も流石に不味いと感じたので、その手を引っ込めると、この場から逃げ出したいと思うと黒鋼は、さらに俺の腕を引き寄せてきた。その行為を見た黒姫が「ちょっと、私の邪魔を、しないで欲しいですわ。この方は私の大切な人になる人なので」と、やや強気に出る。すると、そこでクロクが現れてから黒鋼に言う。

「はい。そこまで、そこまで。黒鋼が黒姫と争う必要なんて無いよ。俺に迷惑をかけない限り、俺は誰の事も拒まないし好きなようにすれば良いよ。俺は俺の意思を尊重するつもりだから」と、いつもの口調で黒鋼に言う。黒鋼はクロガの言葉で、おとなしく引き下がったので俺は黒鋼が素直に引き下がる事に驚いているとクロガが「じゃあ俺は、もう帰るから、お前達三人が仲良く暮らせる事を祈っているぞ」と言い出すと黒鋼が彼の後を追い始めると黒姫はクロナを連れて家に戻ろうとするので俺は二人に声をかける。

クロガと別れたクロガは家に帰ると妻は俺が帰って来るのを待っており「貴方が帰らないから夕食が作れなくて、これから作るところでした」と言ってくれる。するとクロナは申し訳なさそうな顔をして頭を下げるとクロカにクロナを託してから彼女は言う。

「お母さんごめんなさい。私は、どうしてもクロネにもう一度会いたかったの。だからクロナと入れ替わったの」と話す。それを聞いた黒鋼が彼女に詰め寄ろうしたのだが、クロナの母は笑顔で言う。

「クロナが決めた事なんでしょう。私は何も言わないから安心して」と言ってクロナは俺の手を握って「行きましょう。天城様」と俺を強引に連れて行く。クロナが家に戻るなり俺は彼女に抱きしめられて、そのまま口付けをされた。クロナの行動にクロナの母が怒るのではないかと思っているとクロガが俺に言う。

「大丈夫。クロナの母親も俺と同じ考えだよ。むしろクロガは俺の妻の行動を喜んでいると思う。自分の意思を押し殺してまでクロガの事を愛してくれる人は少ないからね」とクロガはクロナの肩を抱き寄せて言った。

「ねぇ。クロカ、私も一緒に付いて行って良い?」と黒姫がクロナとクロナの母親に向かって話しているとクロナとクロナの母親は二人とも首を縦に振ってくれたので、黒姫は俺の仲間となった。俺は仲間が増えるとクロガに言うとクロタに、ある事を伝える。それはクロガと黒姫とクロカの母親が結婚をしても、構わないと言う事だ。俺がクロタにそう伝えた時、クロタは泣き出してしまった。そんな彼女をクロガが慰めていた。するとクロタは俺の胸に顔を埋める。俺は彼女の背中をさすりながらクロガに話しかける。

「黒姫は俺と一緒に行くか?」と聞くと彼女は俺に、しっかりと視線を合わせてから言う。

「私は、この世界で生きていきます。そして天城様に恩返しをする為に努力します」と言うとクロナの方に視線を向けた。すると彼女は微笑んでから答えた。「はい。私は今まで通りです。ただクロカちゃんが天城君の事を本当に大切に想っているみたいだから少し寂しいですね」と答えてくれた。

それから数日が経つのだが、その間は特に大きな出来事はなく平和だったのだが、ある日の事である。クロダの屋敷に一通の手紙が届くとその手紙を読んだ途端、屋敷の使用人達が集まって来てから俺に対して土下座をして頼み込んできたのだ。その内容はクロガの息子達の面倒を見てくれというものだったのだ。俺は断ろうとしたが俺が断ると困ってしまうと言われたのだ。それから、しばらくしてから、なぜか俺は王宮に行く事になったのだ。その前に大賢者に相談しようと思って彼に電話をした。

俺が連絡を入れたのには、もちろん理由があって彼から教えてもらった『スキル』という能力について話をするつもりだった。彼は「ふむ。確かに面白い。勇者よ、その能力は使えるようになる為の条件は分かるのか?」と言われて俺は分からないと答えたら「ならワシは教えられんな。そもそも教える事は出来ない」と言うので俺は「どういう意味だ?」と訊ねると「お前が習得しようとしている能力は、いわゆる禁術と呼ばれるものなのだ。この世界の秩序を大きく崩してしまう可能性があるものだ。そのリスクを負うだけの覚悟はあるのか?」と言われる。俺は「あぁ?何言ってんだ?当たり前だろう。魔王の娘と結婚する時点で今更だろう」と言った後に俺の考えを話すと彼は、やはり「そうだと思ったわい。仕方が無いので教えよう。お主はレベルを上げるのが好きであろう。その経験値を得る方法が二つあるのだが一つは戦闘によるダメージによって得られる。もう一つはこの世界に生きている者達の魂を食らうことで、それが可能だ」と言われてしまう。それを聞いて「それってさ、俺がクロネにキスをしたり抱いたりするとレベルが上がるの?」と訊ねたところ「あーまぁ、そうなるが」と言われて「それさ。経験値を得るためにクロネとキスするだけで経験値が入るんじゃないのか?それと、この世界にも俺の知っているゲームのシステムみたいなのが有るんだよな。それで俺って勇者召喚されているから俺って実は凄いチートじゃないのか?」と質問をすると彼は「なぬっ!本当か!」と言うので俺は彼が、なぜ驚いたのかさっぱり分からなかったので彼に説明を求めてみると彼は俺に分かりやすく説明すると彼は、この世界に存在している人間達から得た経験は、ほとんど俺の中に入らない。それは魔物も同じらしい。しかし、俺は異世界の住人であり元々、こちらの世界で暮らしている人間のようには、なっていない。だからこそ、俺はクロナに、この世界を滅ぼそうとした時に俺は彼女を倒した際に経験値を得た。しかも膨大な量だったのだと言う事を教えてもらうと「じゃあ俺が、こっちの世界でもレベルアップしたらとんでもない事になるな」と言うと「そうだのぉ」と言うので俺は彼に言う「でもクロナとクロナの母親を助けたくてもクロナは死んでしまっているのに、どうしてレベルを上げないといけないんだ?」と言うと「あぁ、それなら大丈夫じゃ。魔王は復活する事はないがクロナは生きておる」と衝撃的な事実を口にしてきた。俺はクロナの事が、心配になり慌てて彼女を探しに外に出ると、そこには一人の老人が俺を出迎えるように待っていた。

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魔族との平和共存を望んだ勇者は異世界に転移したが魔王に支配された人類を見て絶望し魔王軍に入った! あずま悠紀 @berute00

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