もくれんと踊子草 🪗

上月くるを

もくれんと踊子草 🪗




 野山も里も街も、いまや春が真っ盛り。🌞

 大地に育まれた花ばなが咲いています。🌼


 とある住宅街の、とある庭に、白い木蓮と紫色の木蓮が1本ずつ。

 白木蓮はくもくれん紫木蓮しもくれんと呼ばれ、それぞれの美を競い合っていました。



 ⚪ねえ、あなたのその過剰な艶っぽさ、同種の花として恥ずかしいんですけど。


 🟣んまあ、あなたこそ清楚っぽいけど、本当はけっこうアレなんじゃなくて?



 たしかに白木蓮はピュアな乙女、紫木蓮は相当な大年増感(笑)が否めませんが、たまたまそう生まれついただけ、本人(木)たちの責任ではないのですけれど……。



      *



 その2本の木蓮の幹のしたに、淡い紅色の踊子草が小さな花を咲かせていました。

 ある日、また白と紫の言い合いが始まったので、踊子草は堪りかねて頼みました。



 💃 あの……わたしたちの頭上でのいさかい、やめていただけませんか。

 🕺 わたしたち踊子草は、木蓮さんたちがうらやましくてならないのに。



 白木蓮と紫木蓮は、はっと驚いて地面を見ました。👀

 いままで気にもしていなかった大地の小さな花を。🌳



 💃 木蓮さんは大きく華やかな花だから、みんなに褒めてもらうでしょう。

 🕺 それにわたしたちより空に近いから、太陽や月、星と仲よしでしょう。



 まあ、そう言われてみれば、たしかにねえ……。🤔

 それは指摘されてみて初めて気づく真実でした。🤢



 💃 わたしたちは名前が名前だから、年中、踊っていなければならないの。

 🕺 おまけに花言葉が「陽気」だから、ポジティブシンキング圧が、ねえ。



 そんなことを言われても困りますが、踊子草の置かれた立場は、なんとなく了解。

 一方の木蓮の花言葉は「恩恵」なので、偉そうな感じ、やや居心地わるし。(笑)



 ⚪むかし、ある女性作家が「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」と言ったそうだけど、このビミョウな湿り気、なんだかわたしたち木蓮にぴったりな感じね。


 🟣たしかに……。でも、最近では後半が「苦しきことのみ多かれど」に変わって来たそうよ。そうなると、明るくて前向きな感じが、踊子草さんにぴったりかもね。



 白木蓮と紫木蓮は、いつになく葉っぱと花を寄せ合って、ひそひそ話をしました。

 本人(木)たちは小声のつもりでも、踊子草には筒抜けでしたけれど……。(笑)



      ****



 すっかり仲直りした白木蓮と紫木蓮はそれぞれの花を精いっぱい咲かせましたが、この季節特有の青嵐あおあらしが吹いた日に、大柄な花びらは呆気なく散ってしまいました。


 白と紫の美しい花びらが、大地の踊子草のうえに、ほろほろと降り積もりました。

 そこへブサカワ系の縞猫がやって来て、胴長の身体を投げ出しました。(笑)😸



      *



 やがて春が深まれば踊子草の花も散りましょう。

 でも、夏が来て秋が来て冬が去りまた春が……。



 ――神、天にしろしめす。

   すべて世は事もなし。



 当たり前の循環が当たり前でありますように。🌺

 


 

 


  


 

 


 








 




 


 

 

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もくれんと踊子草 🪗 上月くるを @kurutan

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