第8話 ギャルと化学部と堅物男子。③

前回のあらすじ; ギャルはオタクに優しいギャルだった。


おじさんは「コホン」と咳払いをすると、語りだした。

「今回彼がやろうとしている事は…恐らく媚薬、もとい催眠薬の様なものを使ったNTRだろう。」

「それならあんな親密度アップなんて小賢しいことしないで、先手必勝で飲ませてるんじゃないですか?」

俺が答えるとおじさんは大きく首を振って「それは違うよ。」答えた。

「なんでですか?飲ませたらもう勝ちが決まるのに?」

「当たり前の理由だよ、アキラ君。 あんま仲良く無い人間か持ってきた開封済みの飲み物とか、口に入れたいと思う?」

「あぁ…。」

ホントに当たり前だった。確かに見ず知らず、それもイケメンではない(個人的感想)人間からの正体不明の物なんか、欲しくないよな…。


「で、でもそれなら最近だと催眠アプリとかそっちの方がコスパいいんじゃないですか? 見せるだけだし。」

「アキラ君、催眠アプリはね、殆どが偽物なんだよ。しかも彼は工学とか、そっち方面の人間じゃないだろう? 専門の人間でも作るのが困難なんだ。初心者が作るのは厳しいと思うよ。」

ほんの少しは本物があるのか…。 しかし俺はあることが気になったので、聞いてみる事にした。

「じゃあ、催眠薬とか媚薬っていうのはそんな簡単に作れるんですか?」

「簡単じゃない、しかし彼なら作れる、あるいはもう作っているのではないかな?」

「モリピー先輩はそんな凄い人だったんですか?」

「いや、別に彼が特別凄いという訳では無いよ。しかし彼には今yrtn-ウイルスが感染している。奴らの性で本来できないような物も作れてしまうんだよ。」

やばいウイルスである事は理解しているつもりだったが、まさかここまでとは…。

俺の認識は甘かったことを痛感した。


「なら、今回俺のすることはクスリの発見及び廃棄が第一ですね。」

「そうだね…、あとはまぁ、彼らの監視かな。まぁ、これは今回のというか毎回するべきことなんだけどね。」

そうだった。モリピーはクスリでの犯行を狙っていると仮定したはいいが、もしかしたら別の事を狙っているかもしれない。これからは一層気を引き締めて監視に当たらないと俺は再認識した。


会議が終わり、俺は明日の為に早く寝る事を決め、歯を磨くとさっさとベッドに潜って寝る事にした。

夢にはギャル子先輩が出てきてあまり快眠出来なかった。


学校に着くとまずは早速化学室を監視しに行くことにした。しかし残念なことに化学室にモリピーは居ず、代わりに佐藤がしかめっ面をして今日の授業の準備らしき事をしていた。

見つかったら事なので俺は気づかれない様にそっとドアを閉めて去る事にした。ドアが閉まる直前、佐藤がこっちを見ていた気がしたが、きっと気のせいだったのだろう。俺は音を立てる事もなく、化学室を後にすることに成功した。


監視そのものは簡単だが、行動を防ぐとなるとその瞬間に手の届く範囲に居なければならない。どうしたものかと席で悩んでいると、後ろから「よっ!」という声を掛けられた。 振り返ってみると、つい最近まで体調不良で学校を欠席していた。林純愛が居た。因みに純愛と書いて『ピュア』と呼ぶらしい。キラキラネームの被害者である。しかしそんな事は問題にせず堂々とした凄いやつである。


「どうしたの?なんかすごい悩んでたみたいに見えたけど?」

「いや、ちょっとね…。ある人と近づく為には如何すればいいのかなって考えてた。」

「? その人とはどんな感じで出会ったの?」

「勉強教えてもらったんだけど…。あんまり同じ理由で近づくのも不自然かなって。」

「そんなことないんじゃない?他の理由ならともかく勉強でしょ? 多分大丈夫だよ。それに人は他人に必要とされると気分良くなるからね。アキラも覚えがあるんじゃない?」

確かにそうだ。俺も隣の女子などに「これなんて解くの。」とか「ちょっと荷物が重くて…、運んでくれない?」等と頼まれたりしたら120%の勢いでやっていた気がする。

「確かに…。」俺がそう答えると、純愛は笑顔で返してきた。

「でしょ? だからそういう理由で接近してきな。 そっからどうなるかは君の頑張り次第だけどね。」

そう言うと、林は自分の席に戻っていった。奴のお陰で方針が固まった。心の中で礼を言うと一時間目の準備をする為カバンを空けた。


少しでもモリピーの行動パターンを確認するべく、俺は昼休みにいつもより早く飯を食べ終わらせ化学室へと向かった。

着くと中から話声が聞こえる。 モリピーの声は確認できた。部屋の中を確認すると、そこにギャル子先輩の姿は無く、佐藤とモリピーが何やら試験管を使って実験をしていた。見てみると何やらこの世の物とは思えない色のした物体がまさに生誕しようとしている瞬間だった。 これが例のヤクか?と思ったがどうやら失敗らしい。廃棄物容れに捨てていた。 しかし昼休みも実験をしているなんて、割と化学部は活動的な部活なんだな。そんな事を想っていると、授業五分前の鐘が鳴ったのでクラスに戻る事にした。 また今回も佐藤はこちらに気が付いてそうな雰囲気をしていたが、特に声を掛けてくることも無かったのでその場を後にした。


昼休み終了後に待っているのは当然、午後の授業である。しかし今日は嬉しいお知らせが合った。古典を教える岡村が出張で居ないらしい。他の教師が監視に来るらしいが、そんな事は大きな問題ではない。俺がウキウキで教師の到着を待っていると、我がクラスの扉が開き教師が入ってきた。 個人的にはあまり起こらない事で有名な豊田が来てくれると嬉しいな、なんて思っていたが来たのは佐藤だった。 俺同様皆もさっきまでの軽いお祭り状態から一転、進学校のような雰囲気になった。 


授業開始から5分程経過したのだろうか、佐藤が教室内を歩きだした。嫌だな、なんて思ってると、佐藤が俺の所に来て囁いてきた。


「ちょっと廊下に出てもらっても良いか?」と。


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絶対NTRブレイカー畑山 理系メガネザル @Saru-Yama

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