第7話 ギャルと化学部と堅物男子。②
前回のあらすじ ;化学室に授業の内容を聞きに行ったら先生の代わりにゴブリンが立っていた。
俺は驚きのあまり叫びそうになった。が、何とか堪えた。 見た目はこんなホブゴブリンだが多分この人は学校の関係者だろう。そして目の前の人間がこんな化け物に見えてしまっているのは、恐らく今掛けているメガネのせいだろう。流石に顔を見た瞬間に叫び声をあげるのは失礼すぎる。しかし、頭で分かっていても体は正直で、今すぐにでも叫びだして逃げ出したかった。 俺は長男だから耐えられているけど、きっと次男だったら耐えれていなかった。
俺がゴブリン男の巨体に圧倒されていると、田辺が挨拶をし始めた。今だけは田辺が勇者に見えた。
「改めて、ありがとうございます。 俺は田辺って言います。それでこの隣のピンクの派手なメガネを掛けてんのが、同じクラスの畑山って言います。」
「よろしくお願いします…。」
俺達が挨拶をすると、ホブゴブリンも名前を名乗ってきた。
「あ、ご丁寧にどうも。 僕は森山。 三年で、ここ化学部で部長を務めてるんだ。まぁ、部長って言っても僕一人しか部員はいないんだけどね。」
どうやらこのゴブリンの名前は森山と言うらしい。
このゴブリンは見た目は兎も角教え方はかなり上手かった。お陰で俺達の化学に対する知識は始める前とは雲泥の差と成程蓄積されていった。何より聞いてて面白いのだ。
初対面の時と比べたら森山先輩とも親交を築けたので、休憩がてら雑談に興じる事にした。
「そういえば化学部部長って言ってましたけど、普段は佐藤先生とタイマンで活動してるんですか?」
「うん、そうだよ。 あんまあの人愛想は良くないけど結構面倒見は良いんだ。」
意外だった。てっきり佐藤先生に対しての愚痴の一つでも出てくるかと思っていたら、お褒めの言葉が出てきた。普段の授業と部活中は態度が違うのだろうか。
「へぇ、そうなんですか…。 化学部って言う位だから、実験とかやったりしてるんですか?」
「まぁ頻繁にって訳じゃないんだけどね。先生の機嫌がいいときなんかに授業じゃ取り扱わないようなヤツをやったりするよ。」
「機嫌がいいときですか…あんまり想像つかないですけどね…。」
確かに想像がつかない。いつもムスっとした顔をしているイメージしかないからな。
「あはは、まぁ普通は分からないだろうね。僕も二年目からやっと感情の機微が読み取れるようになったからね。」
3年間もあの人と一緒に居ることが出来るなんて、森山先輩は人が良いんだろな。と思った。
「あれ、じゃあなんで今日はここに居るんですか? 顧問が居ないなら部活は休みなんじゃ…。」
「部長権限でたまに用が無くても使わせてもらってるんだよ。自習とかしたいときに結構使えるからね。」
「確かに、ここら辺生徒とかもあんまり通らないし、集中するならもってこいなのかもしれませんね。」
「じゃあ今日も自習でここを? なら悪い事しちゃいましたね…。今年受験なのに。」
「別に構わないよ。人に教えるのは自分の良い復習になるしね。」
自分の勉強の邪魔をこんな見ず知らずのクソガキ二人組にされたのに、快く対応してくれて、迷惑そうな顔一つしないなんてやっぱり森山先輩は良い人だな、と改めて思った。
結局これ以上邪魔をしても良くないという結論に田辺と至って、俺達は化学室を後にすることにした。
「じゃあ、お邪魔しました。勉強頑張ってください。」
「うん。ありがとう。君たちも気を付けて帰ってね。」
俺達は化学室の扉を開けた。 すると扉の向こうに人間が立っていた。
その人間は金髪で、メイクが結構濃かった。なんかついさっきもこんな人を見かけたな~、なんて思っていると。その人間が話だした。
「あれ、キミさっきの子じゃ~ん! モリピーと友達だったんだ~!!」
似たような人どころではなく、さっき会ったギャル子先輩だった。てか森山先輩モリピーとか呼ばれてたんだ。それにしてもなんでここにギャル子先輩が来るのか、皆目検討もつかなかった。
「やっと来たんだ。 じゃあ、始めようか。」
モリピー先輩の方を見てみるとさっきまでも十分おぞましい顔をしていたが、ギャル子先輩という獲物を見つけたからなのか、さっきよりも人には見せられないような顔をしていた。さながら薄い本に出てくる竿役ゴブリンの様な。
薄々感づいていたが、やはりこのゴブリン野郎が狙っているカップルはこの牛尾×ギャル子カップルだった。しかし、この仲の良さは何だというのか。もしかしたらもうNTRは済んでしまっているのだろうか…。そしたら俺はモリピー先輩をやりたくは無いが手荒な真似をしてでも止めないといけない。
俺が物騒な考えをしていると、ギャル子先輩に話しかけられた。
「へぇ、じゃあキミたちは畑山君と田辺君っていうのか~。よろしくね。 ウチの事は気軽にギャル子先輩って呼んでくれていいよ!」
「「う、うす…。」」
二人とも柔道部の様な返事をしてしまった。なんてフレンドリーなんだ、これは校内で有名なのも頷ける。話していて全然バカにされているような感じがしないもの。
俺たちが感動していると、突然ギャル子先輩にメガネを触られた。というか今思ったが、本人が自分の事をギャル子先輩と呼ぶように誘導しているのか…。
「さっきも思ったけどさ…、このメガネ。いいじゃん。センスあるね!」
オタクが言われてうれしい言葉ランキング2022年堂々の第二位のワード「センスある。」を簡単に言われて俺はすっかり照れてしまった。なんならちょっと好きになりかかってた。これがオタクに優しいギャル…。空想上の産物だとばかり思っていたが、まさか実在するとは…。
その後俺達は化学室を後にした。扉が閉まる直前に振り向くと、彼らは机に向かって何かしていた。
教室への帰路の最中、俺達は特に何かを話すわけではなかった。しかし思っている事はお互い一緒だと思った。
「あれ…これからなにするんだろうな…。」
「そうだな…、何だろうな…。」
田辺が突然切り出した。確かにあの場面を見たら誰でもそんな事を想うだろう。男女が密室で二人きり。そして極めつけは女の方には彼氏がいる、ということだ。もしこれが〇〇天に掲載されている話だったら確実にOUTだ。
しかし俺はまだあのゴブリンが任務完了していない事を知っていた。何故ならNTRされてしまった場合、その人の姿も変わって見えるらしいのだ。しかし時は一時を争う。 何とかしてこのNTRを阻止しないと…。俺が決意を新たにしている隣で田辺が具合の悪そうな顔をしていた。
「どうした? 腹でも痛いのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど…、なんかあの二人の事を考えてたら頭が痛くなってきて…。」
これも後遺症の一つなのだろうか。田辺は感染前よりも確実にNTRへの共感度が高まってしまい、これまでは軽傷で済んでいた作品でも、脳に深いダメージを与える事が起こるようになっていたのだ。田辺もNTRの気配を感じ取っているのだ。
俺達は暗い顔をしながら教室にやっとたどり着いた。
結局雑念を振り払う為に部活をやっていく事にした田辺と玄関で別れ、俺は家路についた。途中の本屋で見かけたゴブリン〇〇〇〇ーの表紙を見て、モリピーの事を思い出して俺も少し気分が悪くなっていた。
家に着くと俺は傷ついた心を癒す為お気に入りのアニメを見る事にした。
熱中して見ていると、気が付いたら、またあの部屋に来ていた。もう驚きも薄れ、実家の様な安心感を覚える始末だ。
やはり居たおじさんと俺、は今回の事を議論し始めた。
「今回のターゲットはオタクに優しいギャルなんだってね?」
「うん。そうなんだ。 だから絶対守らないと…。」
「そうだね…、そういえばアキラ君は今回の感染者、森山君とか言ったかな? 彼がどんな方法でNTRにイくと思う?」
「え…、そりゃなんか悩みとか聞いて相手のいう事は全部肯定して、それでもし足りなかったら最後は力ずく…。とかですかね?」
「そういう方法も中にはあるだろう。しかし今回は僕は別の方法を使ってくると思うんだ。」
「別の方法?」
俺が聞くとおじさんは「あぁ。」と言って、その別の方法について話し始めた。
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