第6話 ギャルと化学部と堅物男子。①
授業が終わり、教室に帰ってきた後俺はおじさんと交信する為にトイレの個室に入った。 端から見たら陰の者が一人でブツクサ言ってるだけの痛い光景になってしまうからな。 トイレについた俺はおじさんと少しの間だけではあるが交信することが出来た。
おじさんが言うにはやはり先程会ったギャル子先輩はヤリチーンに狙われているということで間違いない、という事だった。また今回の感染者は感染してから約2週間程経っているだろう、ということも言っていた。
休み時間が終わってしまうので俺はトイレから教室に戻り自分の席に着いた。
4時間目の授業は英語だった。英語はどうにも苦手だ。正しい発音が良く分からないし、正しかったとしても声が小さいので教師がちゃんと聞こえていなくて何度もトライを求めてきてなんだか居た堪れない気持ちになるのだ。 そんな事はどうでもよくて、俺は英語の授業を聞いていても頭の片隅に先ほどのギャル子先輩の事が浮かんできてあまり集中できずにいた。 その時だった。
「畑山君?聞いてる?」
となりから声が聞こえてきた。 声の方を向いてみると、隣の席の樋口さんが俺に声をかけていた。
「あ、あぁ、聞こえてるよ。それで、なんだったっけ?」
「先生の話聞いてないんかい。 隣の人と線が引かれた部分の意味を話し合えだってさ。 めんどいね。」
「うん、そうだね、めんどいね…。」
確かに面倒くさいがやっていないのが先生にばれて当てられた時の方が面倒くさいので、俺達は例文の意味について話し合った。
意味を大体理解し、話合いも済み少し時間も余っているので俺はさっきから頭にちらついている事について樋口さんに聞いてみる事にした。
「そういえばさ…、多分三年生なんだろうけど髪が金髪で、メイクが結構濃くて、一人称がウチの人の事って知ってたりする?」
「ん? ギャル子先輩のこと? なんで畑山君が知りたがってんの?」
一発目に当たりを引き当ててしまった。というか俺の脳内で勝手につけていた渾名だと思っていたら、一般生徒にも浸透していたとは…。自分の感性があまりズレていなくて少し安堵した。しかし理由については本当の事が言えないのでテキトーな事を言って誤魔化す事にした。
「いやぁ、さっき偶々目撃してさ。 ちょっと気になったから聞いてみようかなって思っただけだよ。ホントそれだけ。」
「嘘だね。」
玉が縮み上がるかと思った。なぜばれたんだろう。割とありそうな理由だと思ったのに。
「…なんでそう思うの?」
「だってそんな偶々会っただけなら細かく覚えてないだろうし、なによりすぐに忘れちゃうでしょ? もしかして畑山君って…」
素晴らしい洞察力だった。ここからなんと誤魔化せば良いのか、もう本当の事を言えばいいのか悩みながら、彼女の続きの言葉を俺は待った。
「俺って?」
「ギャル子先輩のこと…、好きなの!?」
「え?」
只の恋愛脳だった。しかしそれを否定しても今度はさらにじゃあなんで聞いてきたの?となるからそのままでいく事にした。
「あー、、、まあそうなのか…な?」
「成程…畑山君はあんな感じが良いのか。でもそれって…叶わない恋じゃん?」
「え、なんで?」
「えーっ、畑山君知らないの? ギャル子先輩3年の牛尾先輩とずっとラブラブじゃん!?」
「俗世に疎いもので…。」
「なにそれw。まぁそういうことだから、あまり…落ち込まないでね?」
「いや別に落ち込みはしないけど…。」
その後も他の所の話し合いが終わるまで雑談を続けた。
結局今回の会話で得られたデータは以下の三つだった
・ギャル子先輩は3年生で結構な人気者。
・そして彼氏持ちであるという事。
・またその彼氏とはずっとラブラブだが最近はどうやら少し影がちらついているという事。
であった。結構な情報を得ることが出来た。しかしそのほかに聞きたかったギャル子先輩の苗字やクラス、そして彼氏のクラスも聞きたかったが聞けずに終わってしまった。何故なら話している事が先生にばれて二人とも当てられてしまったからだ。
樋口さんの発表は滞りなく進んだが、俺の発表はいつものごとくもたついてしまい変な空気になってしまった。 俺はギャル子先輩と彼氏とこのカップルを狙っている輩に対して恨みの感情をぶつけたかった。
昼休み、田辺と飯を食いながら今後の行動について考えていたが、全く良いアイデアが思いつかなかった。前回とはわけが違うのだ。前回は最初に感染者が分かっていたし、関係者がほぼクラスにいたのですぐ解決できたが今回はなにもかもがバラバラである。 俺が物思いに耽ってると田辺が話かけてきた。
「なぁ畑山? お前今日の化学分かった?俺マジでわかんないんだけど。molってなに?? 起きたら6.02×10^²³とか書いてあったし。まじでやべえよ…。」
「いや俺もそんな化学詳しい訳じゃないしな…、そんなに気になるなら放課後にでも先生の所に聞きに行けば?」
「なら、お前も一緒な?」
「なんでだよ…、一人で行けよ…。」
「教師とタイマンなんて無理だよ! なぁ頼むよ…、友達だろ? 困ったことがあったら気楽に相談していいんだろ?」
クソッ…それを言われると弱い…。確かに事件解決後に若干ハイになってかっこつけて言ってしまったが…。 過去の俺を恨みつつ結局俺は放課後先生の元へ行くことを決めた。
教師という人間は職員室に行けば会えると思っていた。しかし現実は違った。どうやら奴は化学室を根城にしているらしい。 教えてくれた他の教師に礼を言い、俺たちは化学室へと向かった。 化学室の前は異様な緊張感に包まれていた。そして俺たちはどちらが扉を開けるかで揉めていた。醜い争いを制したのは田辺だった。敗者である俺に拒否権は無いので、重苦しい扉を開けて俺は大きな声で先生を呼んだ。
「すいません! 佐藤先生はいらっしゃいますか!?」
俺は身構えた。佐藤先生は教え方はまぁ問題は無いのだが生徒に対する接し方が全然フレンドリーでは無いのだ。また小言を言われるんだろうなと緊張していると、聞こえてきたのは想像していたおじいさんの声ではなく、若い男の人の声だった。
「ごめんね、佐藤先生は今日はもう帰っちゃったんだ。なにか大事な用だったのかな?」
「あ、いえいえ。少し授業内容で分からない事があったので聞こうと思ってきただけです。 居ないならまた後日来ます。」
「そうなのかい? ならもし僕で良かったら相談に乗ろうか?」
ありがたいお告げが聞こえてきた。俺たちはこの人に教わろうと決め、化学室の中に進んでいった。
「いらっしゃい。それでどこが分からないんだい?」
優しい声だった。こんな声の先生いたかなと思いつつ声のする方を見てみると、
まるまると太ったゴブリンが立っていた。
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