第5話 野球部期待の☆、優男エースを救え。④

田辺はあまり部活には力をいれていないと思っていた。昼休みに練習なんてせずよくスマホを弄っていたし、部活をよく面倒がっていたしテスト期間になると喜んでいたし。

しかし朝の田辺の練習を見ているとそれは俺の誤解だったらしい。それかツンデレの様なものなのだろうか。「や、野球のことなんて別に好きじゃないんだからね! 部活だから仕方なくやってるんだからね!勘違いしないでよね!?」みたいな。


とにかくこれでやっと方針が決まった。野球の事で悩んでいるという事は判明したので、そっから更に掘り下げていく事にした。田辺の監視を終えた後俺は家でおじさんともう何度目になるかも分からない会議を行った。

「田辺は野球のなにに悩んでたんだろ?」

「単純にもっと上手くなりたい!とかじゃないのかな?」

「でもそれだと火野に関係しているっていうのが分からないしな…。」

そうなのだ、確かに火野はエースではあるのだが一番上手いかと言われたらそうではない。昨日話した若林もそれなりに上手かったと思うし、俺はあまりよく知らないが他のクラスの佐野とかいうやつは性格等に難があるらしいが単純な技術力で言ったら火野より上手いらしい。 ならなんで田辺は火野の事を考えていたんだろう。


この時出た結論としては結局[田辺は火野より上手くなりたい?]というものだった。

しかしこれは解決するのは難題だった。なんせ俺は効率の良い練習方法なんてものも知らないし、田辺が練習してる間火野も練習している為二人の差はそんなに簡単に近づく訳でもないし、ましてや俺は一日に30時間の練習等という矛盾する練習方法も知らない。 現実的な方法としては火野に事情を話して勝負をしてもらいわざと負けてもらう、なんてものが手っ取り早いがこれはダメだ。田辺の恥を晒すことになるしもしわざと負けたことが田辺に感づかれでもしたら田辺はもっと悩むことになってしまう。 


俺は良い案が思いつかず結局殆ど眠れぬまま朝をベッドの中で迎えた。なし崩し的にいつもより早く家を出た俺は(まぁ昨日の方が早くはあったのだが)通学路の途中で走り込みをしている火野と会った。いつもより余裕があったので俺は休憩中の火野と少し話をすることにし、火野の元へ向かった。

「朝から精が出るな。」

「まぁね。 ちょっとでも練習しないと体が鈍っちゃうしね。」

「よくそんな出来るな…。 やっぱエースとか言われてるからその期待には応えないといけない感じなのか?」

「ははは…。まあそういうのもあるけどさ…。 やっぱり単純に負けたくないからさ。」

「次当たる相手ってそんなに強いのか?」

「いや、敵じゃないよ。」

「? じゃあ誰? もしかして自分とか?」

「田辺だよ。 アイツとは中学から争ってるからね。」

「え、同中なの?」

全然知らなかった。田辺とは二年になってから知り合ったからそこまで相手の事を知っている訳でも無いから、知らない事の10個位はあると思っていたがまさかこんな事すら知らなかったとは…。

「あぁ。アイツとはずっと部長の座を争っていたからね。まぁ中学では他の奴になっちゃったけど。 だから今度は高校でどっちが上手くなれるか勝負してたんだ。」

そうだったのか…。俺の前だと野球の話なんてしないしアニメとかの話ばっかだったから形だけ野球部なのかと最近まで思ってたけどまさかそこまでやる気に満ちた漢だったとは思いもしなかった…。俺が感慨深い気持ちになっていたら火野が話を続けた。

「なのに最近のアイツは分からない…。俺と顔を合わせるのを避けてるように見えるし、練習もちゃんとやってる時もあればなんかコソコソやってる時もあるし…。」

「顔を合わせなくなったのはいつ頃から?」

「二年になりかけとかそん位だったかな。 俺がエースとか呼ばれ始めたところ。」


結局その後火野のカノジョが彼氏を迎えに来た為おれはいたたまれなくなりその場を後にした。

やっと分かってきた気がする。田辺は火野に劣等感を抱いているのだ。元は同じ位、もしかしたら自分より下手だったかもしれない。そんな奴が急に野球は自分より上手くなり、また彼女も出来て陽の者の様になったら嫉妬心を抱いてもおかしくないのかもしれない。しかしその嫉妬心を慰める為にNTRをするのは間違っているし、なによりアイツの為にならない。素面の状態でするならまだしもウイルスのせいでそんなことをしたとして、本人はウイルスのせいというのも分からないし周りの人もそんなこと知る由もないので全部アイツのせいになってしまう。俺は気持ちを入れ替えると、このまま歩くと遅刻することが確定してしまう為学校に向けて走り出した。


遅刻3分前に自分の椅子に座るとおれはハンカチで自分の顔を拭いた。

一息ついていると田辺に声を掛けられた。

「よぉ、今日は随分遅いな? 途中トイレでも寄ってた?」

「いや…、ちょっとな。…すごいのが出た。」

まさか火野とお前の事について話をしていたなんて言える筈もないので俺は相手の話に合わせることにした。

「ほんとかよ…。ちゃんと手洗ったか?」

「当たり前だろ。俺は清潔感溢れる男だからな。」

「いやそんなの清潔感じゃないし…。」

今日もくだらない、いつもと同じような会話をして俺達は席に着いた。俺が遅れた以外全ていつもと同じだった。しかし黒板を見る為メガネをかけそのレンズ越しに田辺を見てみると、相変わらず金髪で180㎝でムキムキだった。そしてなんかムカつく顔をしていた。


授業中、俺は考えこんでいた。どうやって田辺の嫉妬心を取り除けば良い。どうすればアイツの心を傷つけずに解決できる…。 どんなに考えても俺のこの平凡な頭でrは妙案は思いつかなかった。そこで俺は田辺が自分と同じ様な人間である事を祈り、休み時間田辺がトイレにいない隙に火野に話かけた。

「あのさ…」





俺は田辺に学校終了後ある場所に来てほしいと言い、6限が終わるとすぐ教室を出た。田辺より先に指定の場所に着いておくためだった。因みに火野は6時間目の途中から早退していた。

当たり前だが俺の方が先についていた。俺は荷物を置くと田辺を待った。

「おーい、畑山? もういんのか?」

田辺が来た。俺は所定の場所に着くと田辺が中に入るのを待った。因みに建物は最近あまり使われていない体育倉庫であった。 田辺がドアを開けて中に入るのも確認すると俺は建付けの悪いドアを閉めて外から鍵を掛けた。

「おい!? 誰だよ!? 畑山か? なんでこんなことすんだ? あれか、この前話した体育倉庫に閉じ込められたら匂いとか気にならないであんなとこでデキるのか?みたいなやつの検証か?一人だったら検証の意味がないだろ?」

俺が何も言わないと田辺は続けた。

「まじで何なんだよ…。 ふざけてんなら帰るぞ。今日は早く帰りたいんだから。」

その時倉庫の奥の方から声が聞こえてきた。

「おいおい、部活はどうした?今日は出ないのか? 今日は休みの予定じゃなかったんだけどな。」

「え…。」

田辺が驚くのも無理はない。倉庫に一人きりと思っていたら奥にもう一人いたし、何よりそれが早退した筈の火野だったなら。

「なんでこんなとこに…。」

「そんなことはどうでも良い。それより田辺。なんでお前最近俺と顔を合わせようとしないんだ。 俺なんかしたか?」

「いや…、そんなことは…。」

「ならなんでだ。」

「それはちょっと…。」


俺が思いついた作戦はシンプルなものだった。逃げられない状況で二人で話し合わせる。というものだった。変に策を練って事態を悪化させても嫌なのでこれしか残っていなかった。しかし効果はテキメンだったようだ。中から田辺と火野の話声が聞こえてくる。しかしここから先の話にはきっと田辺の他の人には聞いてほしくないようなことも出てくるだろう。なので俺は他の人間が近づかない様に辺りを巡回することにした。

10分程経っただろうか。俺は話し合いがどうなったかを見に行った。見てみるとドアが開き火野が出てくるところだった。目線を交わし作戦の成功を知ると中にいる田辺を見た。するとそこにはレンズ越しの田辺の姿がメガネを掛けてないのに見えていた。 な、なんでだ…。 俺が困惑しているとおじさんの声が耳に響いた。

『今だ! 今田辺君の悩みが解決してウイルス達が田辺君の体の表層に浮かんできてるんだ!』

『え、そうなの!? でもこいつらどうすれば対処すんの?』

『んー、今回なら多分背中を叩くだけで消えると思うよ』

そんな適当な…。 しかしおじさんのいう事を今回は信じるしかないのでその通りにすることにした。

俺は田辺の背中に回り込むと田辺の背中を思い切り叩いた

「破ぁ!!」

なんだかtemple生まれのTさんの様な掛け声が出てしまったが無事に叩けた。

すると田辺の体から胞子のようなものが飛び散ったかと思うと田辺の体は普通に見えた。念のためメガネを通して見たが普段の田辺と同じ姿で安心した。

「あれ、畑山? 俺なんでこんなとこにいるんだ…。」

どうやらここ最近の記憶は朧気にしかないらしい。安心していると田辺が急に叫びだした。 

「ど、どうした?」

「ああああ、頭の中に〇〇〇ざかりが浮かんでくる。なんで俺はNTR物なんか買ってしまったんだ…。」

かわいそうに…。 朧気とはいっても記憶にはばっちり刻まれてしまっているんだな…。2週間ぐらいは頭から離れないだろうに。 俺が田辺に哀悼の意を送っているとおじさんからまた話しかけられた。

『これが感染者の末路さ…。今回はすぐ対処したからこの程度で済んでいるけど放置しておくともっとエグイNTR物を知らない間に買ってたりするんだ。』

なんて恐ろしいんだ…。yrtn-ウイルス。


俺は田辺に肩を貸すと家路についた。さすがに今日の精神状況では部活どころでは無いからな。帰路の途中、俺たちはまたいつも通りな会話をした。

駅で別れる時俺は田辺にここ数日思っていた事をぶつけた。

「田辺さ…、なんか悩んだりしたことがあったらさ、俺に相談してくれても良いんだぜ?」

田辺は何の事かあまり分かっていない様子だったが笑顔になると

「あぁ、そうだな! 」

といってホームに向かった。


今回俺は何が出来たんだろう。家に着くと俺はベッドで悩んでいた。今回俺がしたことと言えば体育倉庫に二人を閉じ込めた位だった。

『最初にしてはやったほうだと思うよ。』

急に話しかけてくるとびっくりするからやめてほしい。

『でも俺今回ほんとに役立ってないし…。今回偶々うまくいったけど次回上手くいくか分からないし…。』

『まぁ今回ダメだったとしてもそれは反省して次に生かせばいいんだよ。』


反省か…、俺は今回の事を思い出しながらベッドで横になっていた。生かすって言ったってな…。 それが出来れば苦労しないわけで。しかしいつまでも悩んでいても仕方ないので俺は寝ることにした。


次の日学校に着くと朝練の帰りだろうか、火野と田辺が一緒にグラウンドから帰ってくるのが見えた。この光景を見ると俺はちゃんとやれたんだな、という気持ちになってようやく自分をほめる気持ちになれた。



3時間目は理科室での移動教室の為田辺と俺は廊下を早足で歩いていた。

曲がり角に差し掛かった時俺は一人の女性とぶつかってしまった。

「いて…。あ、すいません!」

「いや、いいよ。ウチも前見てなかったしね。」

三年生だろうか。この人は俺の落ちた荷物を拾ってくれていた。メガネも落てしまっていたのが、ケースに戻すのもめんどいのでもうかけてそのままいく事にした。

ギャルっぽそうな見た目をしていたが以外に良い人だった。

俺はお礼を言うと去っていくギャルの背中を眺めていた。すると妙なものが見える事に気が付いた。手形だ。 まあギャルだし俺には理解できないおしゃれなんだろうな…。と思い特に気にしなかった。 しかし一応見ておこうと思いメガネを外して背中を見てみた。


手形が無かった。


え…。俺は混乱した。どういうことだってばよ。一応田辺にも聞いてみたが見えないという答えが返ってきた。ここから導き出される答えはただ一つしかなかった。

それは、あのギャル子先輩はヤリチーンに狙われている。という事だった。



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