第4話 野球部期待の⭐優男エースを救え③

家に帰ると俺はおじさんと会議をした。

「アイツがヤろうとしてる事って…。」

「恐らくあれだろうね…。」

俺とおじさんは顔を見合わせる。 田辺がヤろうとしていることは、 火野が田辺を偶発的にケガをさせ(仕組まれているが)その彼女にケガをさせた責任を取ってもらうという、当たり屋の様な行為だった。

「でも仮に途中まで上手くいったとしても、そんな流れになるんですかね? 別に不祥事を起こしたわけでも無いのに。」

「普通はあまりならないだろう。ただNTR達から発される特殊な成分の効果で、普通はあり得ないような流れになってしまうんだよ…。」

恐ろしい…自分だけでなく周りを、終いには世界も変えてしまえるとは…。早くどうにかして田辺を救ってやらないと取り返しがつかなくなりそうだ。


ヤろうとしている事は分かったがその事への対策、またウイルスへの対処もどうすれば良いか悩んでいるとおじさんが話し出した。

「yrtn-ウイルスに感染した者がターゲットとするのは、最近一番思っていた人→やりやすそうな相手→友達→難しそうな相手の順番だ。彼は感染してからまだ日も経ってない様だし火野君達と直前に何かあったのかね….?」

「単純に同じ野球部で頭に残ってたからなんですかね…?」

確かに、何故初っぱなが火野カップルなのだろう。 奴は確か好きな人がいるとか言っていた気もする。 それなのに何故顔もあまり分からない火野の彼女に最初に行くだろうか…?

「まぁ取り敢えずは彼の行動を監視して、何故火野君達なのかを突き止めて、彼が感染する前に悩んでいた事等を解明するしかないね。」

「なにか悩みとかが関係するんですか?」

「あぁ。言ってなかったっけ? 感染者達が行為に及ぼうとする理由の一つは、ストレス解消・悩みの種からの現実逃避とかもあるんだよ。」

初耳だった。周りからのプレッシャーが激しい優等生が万引きをしてしまうとかそんな感じなんだろうか。 でも田辺が何かに悩んでいたなんて気がつきもしなかったな…。 俺は少し反省した。 親友ほどではないが数少ない友だちと言える人間の悩みに気がつけないだなんて、これじゃ今まで周りに言っていた「俺友達は量より質なんだよね」を撤回せねばならなくなってしまう…。

そんなことを考えているといつの間にか俺は部屋に戻っていた。 まずは田辺の悩みが一体何なのかを俺は探る事にした。

明日からの方針を決め、俺は次の日をベッドの中で待った。


翌朝、俺は普段と同じ時間に起きると、学校に向かった。 普段通りに学校に着くと、普段と同じでやはり田辺は既に学校にいた。

挨拶を交わすと俺は今日はいつものような雑談をせずに席についた。 作戦を決行するためだった。

俺は田辺が何に悩んでいるか探る為、奴の他の友達に聞き込みをすることにした。名前も知らない奴等に話しかけるのは正直気が引けるがこれも田辺の為だ。そう俺は思い自分を奮い立たせクラスを出た。朝の会まで残り9分と言ったところか、なら2人位からなら聞けるかな。




完全に失敗だった。顔は分かるんだが肝心の名前が分からない。そして極めつけはクラスも分からない。廊下で唸りながら悩んでいると階段の方に見たことのある人間が登ってきた。 そう、あれは確か田辺と同じ野球部で前廊下で話しているのを見かけたことがある奴!

俺はやっとお目当ての対象を見つけるとその元へ駆け寄っていった。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…。」

「へ ? 誰? お前?」

そうだった、俺はコイツの顔を知っているが名前は知らないのに対して、コイツは俺の名前も顔も知らないんだった。

どうするか悩んだが取りあえず名乗ることにした。

「あ、俺は畑山。よろしく。」

「そうなんか、俺は若林。よろしく。」

見た目の割に若林は結構礼儀正しかった。

「それで?聞きたい事って何よ? 俺の座右の銘?」

「いや、そんなことじゃなくてだな、 えっと…田辺って知ってるよな?野球部の。ソイツが最近なにかに悩んでた…とかなんかそんなこと知ってたりする?」

「うーん…、分からねぇな…。」

使えなかった。 その後も最近の部活中の田辺の行動等を聞いたが特に手掛かりになることはなかった。 若林に別れを告げると俺は他の奴が廊下を通るのを待っていた。

その後も3人程に聞き込み調査をしたが進展は無かった。 てか野球部の奴等来んの遅そいな。朝練か?


結局何も得られないまま教室に戻った。教室にはもう先生が来ていて朝の会が始まるところだった。 会が始まって4分程経った時、ドアが突然開き火野が遅刻してきた。 やはりエースは朝練も一番遅くまでやっているのか。 だがそこで俺はあることに気がついた。 何故田辺は早くから教室に居たのだろう。最後まで残れば仕掛けるチャンスも増えるのではないか? それとも朝は仕掛けられないのだろうか? 俺は色んな事を考えたが、結局良い案は出ず朝の会は終わった。


昼休み、俺はやりたくなかったが火野に聞きに行くことにした。 火野の方を向くと火野は俺の方を向いていた。いや、正確には俺の近くにいる田辺を見ていた。しかし田辺はそれに気づくと廊下に出ていってしまった。

俺は火野の彼女が迎えに来る前に火野から話を聞くべく素早く向かった。

「火野、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いか?」

「? ああ、別に構わないよ。」

俺が話しかけると火野は少しビックリしたような顔をしていたが、すぐに元に戻り返答してきた。

「最近田辺と何かあった?」

「いや…特には無いけど…。」

予想外だった。さっきも見てたし何か有ったと思っていたが…

「最近田辺に話しかけたいのに田辺いつの間にか居ないんだよね…そっちはなんか知らない?」逆に聞かれた。

「それはわかんねーな…。」

色々な事を合わせていくとこうなっていった。

つまり田辺は何かトラブルが合ったわけではなく一人で悩みを抱えていて、その悩みは火野に関係することなのか。なんとなく分かったような分からないような気持ちになった。


空気が少しあれだったので雑談してから離れることにした。

「てかあれだな、野球部って朝練厳しいのか? 結構遅刻してない?」

「いや、あれは自主練だよ。ウチは朝練は特別な時とかじゃないとしないな。」

意外だった。 グラウンドにも朝来るとき結構道具がおいてあったりするので練習してると思ったのだがどうやら違ったらしい。

「ならなんで他の野球部はあんな来るの遅いんだ?」

「あれは普通にギリギリに来たいからだよ。」

「そうなのか…。」

その時ふと思った。 何故田辺は毎回朝早いのだろうか。 いや別に早いわけではないが他の野球部よりは早い。それにおれ自身が来てないから分からないだけで、もしかしたら俺の2分前とかに来てるかもしれない。

しかし俺はある考えが頭に浮かんできて、離れなかった。

今日は火野は調子が少し悪いので練習はしないようだった。見張る必要が無いので俺も今日は家に直帰した。



翌日俺はいつもより1時間ほど早起きをした。昨日浮かんだ考えが合っているかどうか確かめるためだった。 下駄箱に着くと田辺の所を開けた。 やはり田辺はもう来ていた。 俺はグラウンドの方に向かった。 遠くから見てみると、一人の人間が投球の練習をしていた。


田辺だった。


他に人は見えないが一人で黙々と球を投げていた。そしてしばらくすると球を投げるのを辞め、素振りをしていた。黙々と。普段のアイツからは考え付かないほど真面目に。誰に見張られているわけでもないのに。


そこで今回俺は何故田辺が火野カップル、もとい火野に最初に向かったか、そして何に悩んでいるかが分かった様な気がした。






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